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作者: モンブラン博士 (総ページ数: 82ページ)
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*74*
その刹那、イルさんの反撃が始まった。
はずかし固めを解き、敵の腕を掴み放り投げ、ロープに跳ね返ったところをドロップキックでのけ反らせ、ジャンピングヘッドパットで彼の頭部を痛めつける。
しかし、彼の頭にヘッドパットを攻撃できるほどの跳躍力を持っているとは……元軍人という経歴は伊達ではない。
たぶん想像から察するに俺では到底根を上げてしまうような凄まじい肉体の鍛錬をしたのだろう。
きれいに割れた腹筋がそれを物語っている。
よく、テレビの通販番組とかに登場するエクササイズグッズを紹介する人はあんな腹筋をしていることが多いが、生で見るのは初めてで、結構新鮮だった。
それは置いといて、イルさんの反撃は凄まじいの一言に尽きた。
さっきまであんなに優勢だったはずの怒雷氷が反撃を開始されたとたん劣勢になっているのだから。
最近は女の人が強くなっているという話を聞いたことがあるが、まんざら嘘ではないらしい。
女性、恐るべし。
「どうした?お前の力はこんなものなのか?」
「……」
イルさんに挑発されるが、彼は何も言い返さない。
恐らく敵と自分の実力差を悟ったのだろう。
「これで決めるとするか。私の前に跪けェ!『ザ・プレイ・オブ・ザ・クイーン』!」
イルさんの必殺技が炸裂した。
ネッグハンギングツリーのような大勢で高々と持ち上げ、シングルレッグダイブで相手を上空へ放り投げる。
そして落下してきた敵の腹を思い切り踏みつけた。
腰に手を当てて見下す様はまるで女王のようだ。
「フン。こんなもので私は満足しない。更なる高みを目指すのだ」
そう言った後彼女は悠々リングを去ろうとする。だが、敵が立ち上がってきた。
「フハハハハハ……お前の手の内、すべて出させて貰った。やはりお前は私に勝てぬ」
な、なんて野郎だあのじいさん!
あれだけ攻撃を食らっておきながらまだ戦うつもりなのか!?
だが、そのとき、彼が目をクワッと見開き、胸を押さえ、ドライアイスと共に、血を噴き出した。
「バ、バカな……この私が倒されるなどと……」
敵はゆっくりと倒れこみ始める。
「やはり……危険な存在だったか……イル=ブラン〜ッ!!」
最後の断末魔を吐くと、敵はついに轟沈した。
「お、恐ろしい勝利への執念・・・・今のは驚いた・・・・」
彼女も敵が立ち上がってきたことに驚きを隠せなかった様子だ。
それにしても、どうして最後に胸を押さえたんだ?
すると。今まで黙っていた星野が口を開いた。
「心臓ですよ。彼はあまりの巨体のために、体の無理がきかない。
それに年齢のこともあります。
井吹くんとイルさん、2連続で戦ったため、心臓が限界に達し、敗れたのでしょう」
なるほど。それにしても恐ろしい敵だった。
イルさんは俺に奴から取り返したヨハネスの帽子を渡すと、彼に返すように言ってどこへともなく去っていった。