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作者: モンブラン博士 (総ページ数: 198ページ)
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*7*
お店を開店してはや1時間になりますが、まだ誰もお客さんが来ません。
もっとも平日の午前となると、お菓子を食べる余裕のある人などあまりいないとは思いますが、それにしたって少し寂しいです。
レジ係のぼくは少しため息をつきかけ、慌てて息を吸い込みます。
ため息を吐くと幸せが逃げるという昔からの言い伝えがありますので、このお店を繁盛させるためにもいつでも笑顔でいましょう。
そう心の中で決心したぼくは、誰もないお店でひとりでニコニコ笑みを浮かべています。
しばらくそれを続けていると、我ながらなんとなく悲しい気持ちになってきました。
と、そのとき、ドアが開いてひとりのお客さんが入ってきました。
茶色い帽子に長いひげを生やしたおじさんです。
なんだか不思議な雰囲気の漂うお客さんですが、それはともかく、開店してから1時間、ようやくお客さんが来てくれたのです。
ぼくは先ほどの笑顔で彼に微笑みかけました。
『いらっしゃいませ、お客様。どんなお菓子がお望みですか?』
そう訊ねたいのですが、うまく言葉に出せません。
するとお客さんのほうが口を開きました。
「お前さん、女の子のような格好に顔立ちをしていらっしゃるが、男の子ですな?」
穏やかな声ながらも、的を射た指摘にぼくは思わず面食らってしまい、ただただ、うなずくことしかできません。
「隠す必要はないですぞ、わしには見えますわい。
お前さんが男と女、ふたつの性別の板挟みで苦しんでおる姿がな。
それから声が出ない理由も大方察しがつきますぞ」
おじさんは朗らかな声で言った後、商品をひとつひとつ眺めていき、そのたびに「ほう、これはこれは…」などの感嘆譜を口に出します。
1通り商品を見終わったのちに、彼はぼくにウィンクをしながらある商品を指さして、「これください」とぼくに頼みました。
その商品を見たとたん、ぼくは驚きのあまり目を丸くしました。
彼が頼んだ商品、それは…