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ユキノオト
作者: 桜  (総ページ数: 28ページ)
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10~ 20~

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 第五章 弐 記憶ノ滝

 夜な夜な逃げていた、あの山を、雪音たち一行は歩いていた。
 雪音は、この山の向こうに何があるかは知らなかった。
 知らなかったからこそ、あの時、逃げる道をこの先へと選んだ。
 この先にあるものは―――――――――――
「雪音・・・・。」
「なに?紗枝。」
「・・・・・・・・・・・・・おなか減った。」
 そういって、紗枝がバタンキュウと効果音を鳴らしながら倒れた。それを、雪音は驚いた表情で、萌は笑いをこらえていて、大紀はさげすむように視て、勉と肇は冷たいまなざしで、誠司は無表情で、ク――和樹は、何度も瞬きを繰り返していた。
「おい、いま俺のことクズって言おうとしたやついないか?。」
 その質問は、無視され、皆は紗枝を囲った。
「確かに腹減ったよな。おい、勉。何か食料ないのか?。」
「いるだろう、目の前に食料になりそうな肉が。」
「おい、それはさすがにない。ほら、心なしか紗枝が震えてるぞ。」
「そ、の、ま、え、に。」
 なぜか、低く抑揚のついた声で、雪音は、制した。
「なんで、誰も、食料持ってきてないの―――――――!!??。」
「ほらさ、領主様が。」
 萌が笑いながら領主のほうを見る。
「一回野宿してみたかったんだって。鹿とってみたいんだって。」
「なんで!?。だったらそれを先にいってくださいよ!!。そしたら何とかします!。」
「いや、脱落したものを食っていけば―――――――。」
「誠司様も!。なに考えてんですか!!??。」

 そうして、ひと時を暖かく、一行たちは過ごした。
 まるで、悲劇の惨状を見る前の、楽しき宴のように。

***   ***    ***     ***

 伝説があった。

 それは、昔の話だった。

 この国には妖(アヤカシ)が一種いた。
 
 それは、ヒトの形をしていた。

 この国の果て、未知の領域に、その妖たちは、村を作って静かに暮らしていた。

 彼らは争いが嫌いだった。

 彼らは心が弱かった。

 彼らは、妖となって果てるものが居なかった。

 彼らはヒトが好きだった。

 彼らが受け入れられなくても、どんなことをされても、彼らはヒトが好きだった。

 雪のような白い髪、青く澄んだ瞳、腕に残る謎のあざ。

 だが、いつの日か

 彼らは隣国の奴隷とされ、多くの命が消えた。

 けれど、ひとりはどこかで生き延びて

 ヒトとして、暮らしていた。

 彼らの生きたしるしがある、その未知の村には、大きな滝があるそうだ。

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