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作者: 桜 (総ページ数: 28ページ)
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第五章 弐 記憶ノ滝
夜な夜な逃げていた、あの山を、雪音たち一行は歩いていた。
雪音は、この山の向こうに何があるかは知らなかった。
知らなかったからこそ、あの時、逃げる道をこの先へと選んだ。
この先にあるものは―――――――――――
「雪音・・・・。」
「なに?紗枝。」
「・・・・・・・・・・・・・おなか減った。」
そういって、紗枝がバタンキュウと効果音を鳴らしながら倒れた。それを、雪音は驚いた表情で、萌は笑いをこらえていて、大紀はさげすむように視て、勉と肇は冷たいまなざしで、誠司は無表情で、ク――和樹は、何度も瞬きを繰り返していた。
「おい、いま俺のことクズって言おうとしたやついないか?。」
その質問は、無視され、皆は紗枝を囲った。
「確かに腹減ったよな。おい、勉。何か食料ないのか?。」
「いるだろう、目の前に食料になりそうな肉が。」
「おい、それはさすがにない。ほら、心なしか紗枝が震えてるぞ。」
「そ、の、ま、え、に。」
なぜか、低く抑揚のついた声で、雪音は、制した。
「なんで、誰も、食料持ってきてないの―――――――!!??。」
「ほらさ、領主様が。」
萌が笑いながら領主のほうを見る。
「一回野宿してみたかったんだって。鹿とってみたいんだって。」
「なんで!?。だったらそれを先にいってくださいよ!!。そしたら何とかします!。」
「いや、脱落したものを食っていけば―――――――。」
「誠司様も!。なに考えてんですか!!??。」
そうして、ひと時を暖かく、一行たちは過ごした。
まるで、悲劇の惨状を見る前の、楽しき宴のように。
*** *** *** ***
伝説があった。
それは、昔の話だった。
この国には妖(アヤカシ)が一種いた。
それは、ヒトの形をしていた。
この国の果て、未知の領域に、その妖たちは、村を作って静かに暮らしていた。
彼らは争いが嫌いだった。
彼らは心が弱かった。
彼らは、妖となって果てるものが居なかった。
彼らはヒトが好きだった。
彼らが受け入れられなくても、どんなことをされても、彼らはヒトが好きだった。
雪のような白い髪、青く澄んだ瞳、腕に残る謎のあざ。
だが、いつの日か
彼らは隣国の奴隷とされ、多くの命が消えた。
けれど、ひとりはどこかで生き延びて
ヒトとして、暮らしていた。
彼らの生きたしるしがある、その未知の村には、大きな滝があるそうだ。