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作者: 桜 (総ページ数: 28ページ)
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第八章「それぞれの涙」
壱 総司の想い
「きゃぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁああああぁぁぁあああ!!!!。」
奇声に似た悲鳴が、滝の裏の洞窟内を響かせた。
その場に居る全員が、はっと表情をこわばらせ、雪音の体をゆする。
「だめだ、引付を起こしている・・・・!!!。」
肇が、くっと奥歯をかみ締めた。
「おい、なんで雪音だけなったんだ!?。」
大紀が叫んだ。
その場に居る全員は何も言うことができない。
――ただ、一人を除いては。
「それは、この滝の水を、雪音が飲んだからと思います。」
それは、凛としてやまない、強い意志のこもった声だった。
浅倉総司。
それはもう死んだとされる、たった一人の男。
「そう・・・じ・・・・。」
雪音の額をなで、苦しそうにうめく表情に顔を曇らせながら、彼は顔を上げた。
「領主――・・・大紀様。先ほど、誠司は雪音を落ち着かせるために、一杯の滝水を飲ませました。そのあと、俺が駆け寄っていなかったら、このでかい岩に頭を打ち付けて今頃あの世逝きです。」
総司は、左半身に巻かれている包帯をちらりと見た。
雪音の体が倒れる寸前、奥から駆け、その華奢な体を受け止めた際、その岩に引き摺られ、血だらけとなった。
「おれの・・・せい、じゃないか・・・・。」
誠司が、おびえた顔で、雪音の顔を見た。
「いえ。俺のせいです。誠司様。」
それをはっきりと否定する意志の強い声。誠司は、総司を垣間見た。
「おれが無理を言って、これを計画してしまったことから、総てが始まったんです。」
萌が、ゆらりと立ち上がった。瞬間、左手で総司の頬をたたいた。
「っ・・・・。」
総司は、なにも、言わなかった。
「なにが、計画よ・・・。雪音が、どれだけあなたと逢えるのを待っていたか・・・。あの時、どれほど泣いたか、私たちは知らないわ!!。でも、でも・・・・・。それでも、あの子は、泣いたのよ・・・・。」
この前逢ったときに見せた久しぶりの顔。
顔は、しなびれたように生気がうせ、もともと白かった貌には、もっと青みがかかり、目は、赤かった。まるで、さっきまで泣いていたかのように。
「はなしてみよ。これまでの総てを。真実を。」
瞳の奥深くをのぞくように、大紀は、総司を見つめた。
*** *** ***
それは、大紀と総司だけが知っている話。
まだ、雪音が九歳のころ。そう、九歳のころであった。
泣きつかれた少女を担いで帰ってきたとき、総司は、初めて大紀の目の前で泣いた。――何もできなかった自分の無力さ。幼い子供の心さえも守ってやれなかった、自分のそこの浅さ。悔しい気持ちと、切なく、悲しい気持ちで、心が一杯になっていた。
「りょうしゅっ・・・。おれ、もうま、けないですっ・・・!。絶対に、、つよく・・・なってみせる・・・・!!!!。」
そしてこのとき大紀も、初めて総司を慰めた。
そして、一年もの間、雪音はずっと眠っていた。
雪音が目覚めたとき、二人はとても目を輝かせた。
「とぉ、さま・・・・・・・?。」
どこか遠くを見つめるうつろな瞳。さびしげな声音。その言葉にこめられた悲しき真実。
「いやだ・・・・・・・・。みんな・・・・・。そんな目で見ないで!!!!!!!!!!。」
そして、雪音は発狂した。
あのとき、雪音は何を見ていたのだろう、と総司は今でも思っていた。
それが、少しだけわかる気がする。
死んでしまった仲間。父を自らの手で殺したことを責める自分を重ねた姿。
このまま壊れてしまったら、この小さな少女は死んでしまうかもしれない。約束を――桜の約束も、守れないかもしれない。だから――――――――――
そして、二人は、雪音の過去の記憶総てを消すことを決めた。
楽しい重いでも、つらかった記憶も、懐かしいとも感じることもなく、総て、雪音の中から、消えうせた。