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作者: 桜 (総ページ数: 28ページ)
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第六章「白の記憶と紅の記憶」
壱 記憶をたどる
「誠司様・・・。」
不安そうに、雪音が聞いてきた。
記憶が戻るのに、少しもどかしさもあるのだろう。誠司は、そんな弱い雪音を刺激しないように、やさしく微笑んだ。
「なんだ?。雪音。」
「・・・・その、えっと・・・・。記憶のないヒトは、戻れなかったんですよね。誰一人。」
「ああ。そうだが?。」
「・・・・・他の皆は、どうですか?。記憶のある人たちは-----。」
心配そうに、雪音がきく。それはまるで、幼い子供のようだった。
――やさしいんだな。相変わらずに。
そんな雪音をみて、誠司は頭を優しくなでた。
「大丈夫だ。その人たちは帰ってきたらしい。」
「そ、うですか・・・・。あのーーーー。」
「なんだ?。」
「もし、私が戻れなかったら、どうか、少しでも、記憶の端に、置いといてくれませんか?。」
――忘れないでほしい。
そういっているのだろう。
別れを告げる兄弟のような。
あのとき、雪音に『いくのか?』といった。その言葉には『行くのか?』『往くのか?』という意味もあった。だが、最後にもう一つ――『逝くのか?』その意味も含んでいた。
それを承知で、彼女は命に駆けても大切なヒトに会いに行くのだろう。
何気なく、悲しくなって、誠司は、雪音を、抱きしめた。
安心させるために。泣いてほしい、そう願った。
今は、泣いて、泣いて、泣いてほしい。
「・・・・・っ。」
それに気づいたのか、急激に雪音の涙腺が緩んで言った。
泣いて 泣いて ないてほしい
この世に初めて 生まれてきた日のように
*** *** ***
行きは、そんなにも険しい道ではなかった。
そして、かれらは、大きな滝を目の前にして、まるでその偉大さに驚くように、誰も、何もしゃべらなかった。
「この、うらに、総司さんが?。」
「ああ。-------視るのか?。」
そこに何があるとしても。
意味は、こめられている。
そして彼女は、静かにうなずくと、先頭に立って滝の裏をのぞいた。
そこには――――――――――――――――・・・・