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ユキノオト
作者: 桜  (総ページ数: 28ページ)
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10~ 20~

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 第六章「白の記憶と紅の記憶」
 壱 記憶をたどる

「誠司様・・・。」
 不安そうに、雪音が聞いてきた。
 記憶が戻るのに、少しもどかしさもあるのだろう。誠司は、そんな弱い雪音を刺激しないように、やさしく微笑んだ。
「なんだ?。雪音。」
「・・・・その、えっと・・・・。記憶のないヒトは、戻れなかったんですよね。誰一人。」
「ああ。そうだが?。」
「・・・・・他の皆は、どうですか?。記憶のある人たちは-----。」
 心配そうに、雪音がきく。それはまるで、幼い子供のようだった。
 ――やさしいんだな。相変わらずに。
 そんな雪音をみて、誠司は頭を優しくなでた。
「大丈夫だ。その人たちは帰ってきたらしい。」
「そ、うですか・・・・。あのーーーー。」
「なんだ?。」
「もし、私が戻れなかったら、どうか、少しでも、記憶の端に、置いといてくれませんか?。」
 ――忘れないでほしい。
 そういっているのだろう。
 別れを告げる兄弟のような。
 あのとき、雪音に『いくのか?』といった。その言葉には『行くのか?』『往くのか?』という意味もあった。だが、最後にもう一つ――『逝くのか?』その意味も含んでいた。
 それを承知で、彼女は命に駆けても大切なヒトに会いに行くのだろう。
 何気なく、悲しくなって、誠司は、雪音を、抱きしめた。
 安心させるために。泣いてほしい、そう願った。
 今は、泣いて、泣いて、泣いてほしい。
「・・・・・っ。」
 それに気づいたのか、急激に雪音の涙腺が緩んで言った。

 泣いて 泣いて ないてほしい

 この世に初めて 生まれてきた日のように

***    ***       ***

 行きは、そんなにも険しい道ではなかった。
 そして、かれらは、大きな滝を目の前にして、まるでその偉大さに驚くように、誰も、何もしゃべらなかった。

「この、うらに、総司さんが?。」
「ああ。-------視るのか?。」
 そこに何があるとしても。
 意味は、こめられている。
 そして彼女は、静かにうなずくと、先頭に立って滝の裏をのぞいた。

 そこには――――――――――――――――・・・・

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