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作者: 桜 (総ページ数: 28ページ)
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第六章 弐 密やかな声
それは、あのころと何も換わりはしなかった。
眼を瞑っていた。
蝋人形のように、雪のように、顔が真っ白だった、
もう、何もしゃべってくれはしなかった。
あの囁きも 歌声も 幸せそうなこえも
もう、何もない。
幸せだったあのころと変わらない顔。
けれど、もう、あのころの幸せとは程遠かった。
かわらない。かわってしまった。
「こんなところに・・・・。」
――こんなところに、
「ひとりで、いたんですね・・・・・・・?。」
そうじさん。
「大丈夫か?。」
悲しそうな、さびしげな声が、聞いた。
だが誰が聞いたかわからなかった。
ほらよ、とそこの滝の水か、誠司が筒を渡した。
それを、雪音は、飲み干した。
ああ、意識が遠のいていく。
それほど総司さんの死は自分にとっては大きかったのだろうか
――おおきいに、きまってるよ・・・・
自問自答して、たしかな言葉を、確かに今、はっきりと雪音はわかった。
――だって、そうじさんは
――わたしにとって、たったひとりの・・・・
――家族だもの・・・・・。
体がゆっくり傾いでいく。
世界も、皆も、徐々に遠のいてく。
大好きだったあの想い出も 雪での記憶も 幸せだったあの頃も
もうほど遠い。
ゆっくりと意識が薄れる中
無コツで優しい手が、目の前に出され
自分の体をすっぽり包む大きな体。
まっすぐな瞳の
つややかな黒髪
「雪音!。」
あの頃と同じ、声
この人は―――――――――――――・・・・
*** *** ***
記憶が戻ったら、総司さんになんていおうか
そんなことを、昔、よく考えた。
確かな未来の存在を信じていた。
けれど、すべてもう、なくなった
*** *** ***
目の前に広がった景色に、雪音は、首を傾げた。
そして、絶句する。
風が頬をなぶる。
そのなかで、これは―――――――
「だせー!!。」
大きな男が、女子供区別せず、鎖でつなげて引き摺っていた。
その中で、少し小さめの、足取りがおぼつかない子供に眼が行く。
『あれは・・・!。』
昔の自分。
子供の頃にそっくりな少女。
その場を駆けて、すぐさま助け出そうと、雪音は動いた。――否、動こうとした。
とまったのだ。体の動きが。何かの糸で縛られているみたいに。
夕焼けが、血の色みたいに真っ赤に照らし出していた。
掲げられる御旗。それは――――――――
見飽きるほど見た文様。
蒼路ノ国のもの。
私は奴隷だったのか。
けれどもこれくらいのことで、私はもう傷ついたりしない。
それはみなも承知しているはず。
ではなんで-----・・・・・・・?
『何が、むごいのだというの?。』
これから見せられる悲劇に、まだ雪音は気づく余地もない。