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作者: 桜 (総ページ数: 28ページ)
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第七章「悲しみの剣」
壱 伝説の繰り返し
子供が、女性が、声を上げて泣いていた。
大人の男の人たちは、悔しそうに顔をゆがめていた。
けれども、蒼路ノ国の者たちは、だれもその顔を見て、心を痛めているものは、誰も居なかった。みな、無表情。何を考えているかわからない、人間じみた感情のない表情。
『そんな・・・・っ!!。』
無力な自分を、今はとても恨む。
立つことしかできない、見ることしかできない罪悪感と心の痛み。
たしかに、これはむごいともいえるだろう。
まさか、自分が、『奴隷』だったなんて心優しいあの領主たちにはいえないはずだ。けれど、もう、心は強くなった。こんなことで、壊れる可能性も、皆を忘れる可能性も皆無だ。
ではなぜ。
なにが、『忘れたいほど、つらい記憶』なのだろう。
空が、紅かった。
季節感が感じられない空の色。今は、いつ?。
「おとうさん、おかあさん―――!。」
過去の私が泣き叫ぶ。
その隣には、母らしきヒトも、父らしきヒトも居なかった。
誰だってわかっていた。
もう、自分を助けてくれるものは誰も居ないと。
だから、彼女は叫び、泣くことしかできなかった。
たすけて
ここからつれてって
だれか
どこでもいいから
ここじゃないどこかへ
みんなが しあわせになれるところに
かなしくて
つらくて
くるしくて
どこにも いけないの・・・・・
小さな密やかな声が聞こえる。
つれてってほしい。
助けてほしい。
ここじゃないどこかへ。
その思いはまるで、ここに居るとらわれているもの全員の思いなのかもしれない。
握り締めたこぶしから血があふれる。
かみ締めた奥歯が金臭い。
雫が頬を伝う感触がする。
そのとき――――――――
「うわぁああああああああぁぁぁぁぁああぁ!!!!!!!。」
叫び声がきこえた。
声のする方に顔を向けると、大きく土ぼこりが立っていた。
その後ろにあるものは―――――――
いびつで、どれが眼だかわからなくて、ただ暴れることしかしない――――――――
「妖怪だぁぁぁぁあああぁ!!!。」
―――――――妖怪、だった。
黒い城ぐらいの高さのものが、何かを捜し求めるみたいに、蒼路ノ国の者を一掃して赤い道をしいていく。
それが境になったのか、とらわれていた彼らの髪が白銀に輝いた。
よくよく見ると、瞳が海のように澄んだ青色をしている。
――聞いたことがある・・・。
一つの伝説。一つだけ信じられていた妖怪――白鬼。
だが、それは何百年も前の作り話。
本当に、白鬼がいたとは。
――じゃあ、これは・・・・?
あの、自分に瓜二つのものは?
泣き叫び声は?
――伝説を繰り返そうと、していたのかーーーー!!!???
雪音は思った。
あの、今は亡き領主――葵なら考えられる。
ヒトを陥れ、泣かし、気に入らぬものは処刑へと。
ここにいるのは、白鬼。
――じゃあ、あの暴れん坊妖怪は?
次の瞬間、雪音の視線は、あの、瓜二つの少女の視線と重なった。
まるで、自分の過去を実際に体験するように。