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ユキノオト
作者: 桜  (総ページ数: 28ページ)
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10~ 20~

*26*

 終章 ユキノオト

 長かった髪の毛を、短く切りそろえ、新たな自分に立ち戻る。
 自分が犯した罪を、忘れたわけではない。
 けれども、自分が奪った命を、少しずつでも償えるように、そうして、生きていきたいと思った。
 人は、生まれてくるだけで罪だという。
 ならば、その罪をも償えるように。大切なヒトと一緒に。
 一つ一つの季節を、時間を、しっかりと積もる雪のように、積み重ねて生きたい。
「雪音。」
 大切な人は、まだ見つかったわけじゃないけれど、きっと見つける。大切なヒト。
「総司さん、どうしたんですか?。」
「外見ろ・・・・。雪だ・・・・。」
 ふと障子の向こうにある、白い世界をのぞく。・・・本当だ。
「寒く、なりましたもんね・・・・。」
「そうだな。でも・・・・・・・・あったかいな。」
「はい。」
 寒いこの季節も、隣に居るヒトがいれば、きっと、もう寒くはない。
「外に、出ないか・・・・?。」

 ***       ***    ***

「おーい、和樹。」
「何ですか?。誠司様。」
 手を振られ、いやそうに顔をゆがめながら和樹は振り向く。
「雪だ。」
「そうですね。」
「なぁ。」
「だから、何ですか。」
「どうして、あの時、釈放されたのに、城の牢屋にとどまったんだ?。」
 それに、和樹は答えなかった。
 誠司は答えなくても知っている。だから言わない。
 小さな恋心を。
 あのとき、釈放を言われたとき、一番うれしかったのは、和樹だった。
『うっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!。』
 良かった、本当に、良かった。

 ・・・・本当に?

「いいんですよ。もう。」
「そうか。」

 誠司は、手のひらを天に向けた。
 ひらひらと、花弁のような雪が舞い、手のひらにポツリと落ちる。
 いつかの、涙に似た感触。
 ひとりの、雪のような少女を思い出し、誠司と和樹は目を瞑った。

***   ***     ***

「領主様。」
「なんだ?。紗枝。」
 ほら、と領主を促し、障子の向こうを見させる。
 そこにあるのは白い小さな世界。
 これからも、大紀が守っていかなければならない、小さな世界。
「雪ですよ、領主様。」
「ああ。―――――肇。」
「はい?。」
「あの二人はどこに行った?。」
「ああ、あの二人なら――――――――。」
「外に行きましたよ。総司が連れて行きました、雪音のことを。」
 この、と肇はせりふを採られた悔しさを、萌に向ける。
「なぜ私!?。」
「のり。」
「おい。――――――――でもさぁ。」
 萌がいきなり唐突に話を切り替える。
「雪音、まだ総司さんの気持ちに気づかないのかな?。」
「さあな。まぁ、あいつ鈍感だし?。」
 それに応じて全員うなずく。
 小さな雪が、それを視て笑うように、音を立てて落ちてった。

***    ***        ***

「総司さん・・・・?。」
「いや、さ。これから、どうすればいいんだろうと思って。」
「・・・・。」
 雪音の記憶は戻ったし、自分がここにいる必要もない。
 そんなことを思っていたのか、総司は顔を少しさびしそうにゆがませた。
「・・・桜。」
「え?。」
「約束、しましたよね?。桜、見ようって。」
「・・・・・・・。」
 
『ああ、じゃあ、今度一緒に桜を見ような。有路ノ国の桜は綺麗なんだぞ。』

 雪音の記憶を消したとき、記憶を消すことによって、少女事態の人格もなくなり、新しくやり直すことになる、と術者が言っていた。けれども、変わらない。あのころ、まだ数分しか一緒に居なかったけど、変わらない。

 ―――――――――いつまでも。


「そうじ・・・さん・・・・?。」
 不意に、総司が黙ったので、雪音は心配そうに、総司の正面に立つ。
「俺は、この手でたくさんの者たちを殺してきた。その事実は消えることはないし、俺も、否定するつもりはない。」
「・・・・・・・・・。」
 雪音は何も言わなかった。・・・・私も、同じ。
「お前は、俺が逃げ出したい現実から、いつも、引っ張りあげてくれた。笑ってくれた。」
「総司さん・・・・・。」

「―――――雪音。」

 総司の声色が変わったのに気づいたのか、雪音は、はっとして、総司の目を見た。
 誠を貫く武士の、真摯な瞳。

「―――――雪音。」

 もう一度、呼ばれた。

「俺と、夫婦になってくれないか・・・・?。」

 勝手に、目から涙がこぼれていく。
「総司さん・・・・!!。」
「もう、絶対に離れない。泣かせない。――――だから、一緒に居てくれ。」

 ふわりと舞った雪が、二つだった影が一つになったのを見届けると、そこを避けるように振り出した。
 まるで、そこだけ暖かいかのように。


 ある日、旅人はそこを通った。

 冬の雪が降った日。ほたほたと降る雪を見つめながら遠くを目指す。
 
 そして、紅い傘の下で、おそらく笑っているだろう二人の影を見た。

 幸せそうな笑い声。

 きっとこれからもそうだろう、と旅人は思った。

 悲しいことも、苦しいことも、うれしいことも、幸せなことも、雪がほたほたと音を立てて降るように。

 総てが積もっていく。

 そして、旅人は、そことは違う道を通って旅を続けた。

 あの二人のように、総てを積もらせていくたびを。

 雪が音を立てて、降っていた。

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