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作者: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (総ページ数: 42ページ)
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*17*
やがて訪れる始業式。
壇上で述べる生徒会長の言葉にも幾分慣れ、学級活動も終わり、生徒会室に寄って帰ろうと扉を開けると、中から見慣れない少年がとてつもない形相で霧を睨み付けてきた。
体格の良い少年だ。そして如何にも文武両道を貫き通し、自分の見たいことしか見ないという性格を表した顔つきである。
「……どちら様?」
少々怯えつつも、冷静に名前を問う。
「他人に名を問う時はまず自分から名乗り賜え」
面食らいつつ、正直に名乗った。
「北城霧です。生徒会長という肩書きがありますのでご存じとは思いましたが。そちらは?」
相手もこう切り替えされるとは思っていなかったようで、慌てた表情を隠しきる前に言葉を投げかける。
「俺は日和方英(ほうえい)だ。今日は妹のことで話があって、来た」
(妹……? あ)
丁度その時、北都と三波が開け放したままだった扉の前に立った。
「……!」
二人がそこに立ちつくすのと、方英が叫ぶのが同時だった。
「三波! 北都! お前らはもう此処へ行くなと言ったろうが!」
一瞬で空気が凍る。
そこで動いたのが、北都だった。
「兄さん、それは出来ませんと言ったはずです。後期生都会執行部はもう我々に決まっているのです。今更降りることは出来ません」
実の兄に向かって淡々と話す北都は、兄にも何にも揺らがないという意志に満ち溢れている。
「ならば、俺が生徒会長になればよかったのだ。しかし、人を見る目のない生徒諸君は、俺ではなく北城を会長に選んだ。これは我が校始まって以来の大きな欠落だ!」
「欠落しているのは我々ではなく、兄さんの頭ではないのですか? 成績が良いだけでは生徒会長にはなれません。兄さんに無く、会長にあるもの。それは、人望です」
容赦のない弟の台詞に方英は絶句した。
(北都君、それ言っちゃ駄目だって……)
「……北都、あとで家に帰ったら俺の部屋に来い。話すことがある」
「どうぞ」
何でもないように返すと、北都は方英が出たかどうかも確かめずに後ろ手で扉を閉めた。
部屋に静寂が戻ると、北都は鞄を放り出して霧に頭を下げた。
「……北都君?」
「先程は、兄が失礼いたしました」
「うん、それはいいんだけど……ていうか、お兄さん似てないね」
「は。よく言われます」
顔を上げると、三波を呼び寄せ、定位置に着いて話し始めた。
それにならい、霧も席に着く。
「……先程、兄が来た理由は分かりますか?」
黙って首を振ると、北都は溜め息を吐いて三波の方を見た。
「すみません、会長。今のは、……私の所為です」
顔を俯かせ、ぽつりと言葉を洩らした。
「……先日、家族で食事をしていた時のことです……」
その食事の席で、尊敬している人は誰か、という話題が上がった。
北都は軍事関係者の名を挙げて熱っぽく語ったが、三波は霧の名前を挙げたらしい。
「すみません、迷惑かとは思ったのですが……」
頷き、話を続けるように促す。
それで勘違いした方英が、生徒会室に乗り込んできたというのだ。
「なんとまあ……」
「申し訳ありませんでした。軽率でした。……勿論、恋慕というわけではありませんので……」
そう言う三波の声が小さく震える。
霧は、それには気付かずに「大丈夫」と言った。