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作者: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (総ページ数: 42ページ)
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「……んだよ、霧」
「……久しぶり」
その場に呼び出されたのは、二人の親友たちだった。
少し前に喧嘩をして顔を合わせ辛かった彼らだが、霧が二人を言葉巧みにこの場に呼び出したのだ。
「なんでも。今日久しぶりに買い物に行ったから、二人にお土産買ってきたんだ」
三波にもそうしたように、紙袋を取り出して差し出す。
「それをいつも肌身離さず持って、大切にして欲しいんだ。そうしたら僕のことを忘れないだろうから」
袋を開けると、小箱に収められた時計が出てきた。
遥香には綺麗な赤いバンド、悠人のものは鮮やかな黄色いバンドが設えてある。
手にしてみると、それ程でもないが手に吸い付くように重みがある。
彼はこれと同じものを三波にも渡していた。
バンドが緑のものを、北都の分と、二つ。
「霧、これ……」
「何も言わずに受け取って。僕は二人が大好きだ。だから、二人が喧嘩してるのを見るのはもう嫌なんだよ」
彼は自分の左腕を突き出して見せた。見ると、彼の腕には同じ造りで、バンドが透き通るような青の時計が嵌っている。
不思議な光景だった。
霧はいつもと変わらずに微笑み、喧嘩していたはずの二人はきょとんと顔を見合わせていた。
「なんで二人が喧嘩してるのか、僕は知らない。でも、やっぱり喧嘩してるより仲が良い方がいいに決まってる。みんな一緒に居て、一週間のうちに何度も顔を合わせるのだから」
ね? と霧が言うと、二人はどちらとも無く吹き出した。
そしてひとしきり笑うと、
「そうだね。みんな、仲が良い方がいいよね」
と、遥香は、少し寂しそうに言った。
「ごめん、ハル。俺……」
「いいの。いいのよ、ユウ。あたしはキリもユウも大好きだよ」
駆け出し、二人の首に腕を回して縋り付く。
「ちょ、ハル……!」
「うわっ!」
衝撃に耐えられず、霧はその場に尻餅を付いた。
それに巻き込まれるように遥香と悠人も川原の芝生の上に座り込む。
そうして三人で顔を見合わせ、大声で笑った。
こんなに笑ったのは久しぶりだった。