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我落多少年とカタストロフ【完結】
作者: 月森和葉 ◆Moon/Z905s  (総ページ数: 42ページ)
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10~ 20~ 30~ 40~

*39*

 数週間が経ち、街の人々が忙しさに先日の出来事を忘れかけた頃。
 遥香と悠人、それに三波と北都は彼を捜していた。
 危険を顧みず、今来た道を駆け戻っていった彼。
 詳しいことは何も分からないが、彼が自分達と、さらに街の人々まで全て掬い上げてしまったのだろうということは想像に難くない。
 文化祭が近付き、放課後だというのに校内はまるで昼休憩の時のようにざわついている。
 今日は教師と生徒による、文化祭のための会議が開かれている。
 主催は生徒会だが、代表である霧が不在なために副会長である北都が代理を務め、その横で三波が書記としてノートにペンを走らせている。
 その会議も今日は終わり、代表が帰ってきたことで各団体はますます盛り上がりつつ準備を進めている。
 文化祭当日に生徒会がすることは来賓や来場客の相手などのほぼ裏方作業なので、そう盛り上がってもいない上に柱である霧が不在なのでは上がるモチベーションも上がらない。
 ホワイトボードに書かれた文字を消し、動かした机と椅子を元の場所に戻す。
 そうして二人が会議室を出ると、遥香と悠人に出くわした。
「うわっ……!」
 危うくぶつかりそうになったところで、悠人が声を上げる。
「……なんだ、お二人でしたか」
 ほっとして北都が言うと、今度は別の方向から悲鳴が聞こえた。
「うわぁあっ!」
 少年の声に、何かが落ちるバサバサという音が重なる。
 途端、四人は一斉にそちらを向いた。
 声の主は廊下を折れた先に居るらしい。
 それに気付くと、誰が先導するでもなく駆け出す。
 先ほどの声には聞き覚えがあった。
 もしやとは思うが、まさか、まさか――!
 ばたばたという音を立て、人の少ない廊下を走る。
 走ったことと緊張で息が上がっている北都の前に、見覚えのある少年が一抱えほどもある大きなダンボールを置き、床に散らばった書類をかき集めている。
 どうやらダンボールの底が抜け書類が滑り落ちてしまったらしい。
「会長!」
 後方の階段から二人分の声がして、振り返ってみるともう一人の生徒会の会計と書記がやってきているところだった。
「大丈夫ですか!」
 生徒会室は階段を上がった直ぐのところにある。
 おそらく先ほどの悲鳴を聞きつけてやってきたのだろう。
「ごめん、大其君、折角揃えてもらったのに混ざっちゃった……」
「いえ、大丈夫です。また揃えます」
「あ、後ね、このプリントまだ提出してないよね? 吉野ちゃん。直す箇所見つけたんだ」
「はい、了解です!」
 四人の前でてきぱきと仕事を捌く姿は相変わらずで、変わったところと言えば肩まで伸びた髪を小さく結んでいることくらいだ。
「あ……」
「き、キリ!」
 悠人が叫んだ。
 それはもう、悲痛と歓喜が混ざったような声で。
「みんな、久しぶり」
 蒼い眼が微笑む。
 彼が、帰ってきた。

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