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僕は名のない公園で青空を見上げる【完結】
作者: 桜音 琴香  (総ページ数: 40ページ)
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10~ 20~ 30~

*13*

「水沢、3組の夏島さんが呼んでるぜ」
2時限目の休み時間中に、クラスの誰かが僕の名を
呼んだ。夏島さん、とは夏島かをりのことだろう。
もう5日程 会話をしていない。学校には
来ているのだろうが、姿も見ない。僕は
クラスメイトが指差した教室の外側のドアへ行った。
そこにいた夏島かをりは唇の色を赤色に染めており、
ポニーテールの毛先を巻いていた。髪を巻くのは
校則違反のはずだが、そんな頭が硬いことを言っても
仕方ない。「水沢くん。久しぶり」かをりは首筋を
片手で触っており、少し恥ずかしそうにしていた。
「久しぶり」僕は義故知ない笑顔で言葉を発した。
恥ずかしそうなかをりを見ていると、僕まで
恥ずかしくなってくる。「最近 美術部に行ってなくて
ごめんね」かをりはあの日以来 美術部に顔を出して
いなかった。恐らくそのせいで姿を
見なかったのだろう。

「いや、謝らなくてもいいよ。大丈夫だった?」
かをりは赤色の唇を閉ざした。その赤色は
赤色の薔薇を連想させ、女性という言葉に
ぴったりと当てはまった。「うん」かをりは
元気そうに笑った。その大人っぽさと元気さを
兼ね備えた笑顔は、少し胸がときめくような
笑顔だった。「でも、どうしたの。クラスに来て」
すると、かをりは寂しそうに眉間に縦皺を寄せた。
しかし、その縦皺はすぐに消え、平静を
装うように笑って見せた。「なんとなく。
水沢くんに会いたいなあって思って」
その言葉に嘘はなさそうだ。だが、一瞬
浮かべたあの縦皺が気になる。彼女はなにか
秘め事を隠している。もしかしたら、川上凛の
ことかもしれない。僕は無理矢理に表情筋を
動かして笑い、かをりの言葉を笑い流した。

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