完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

僕は名のない公園で青空を見上げる【完結】
作者: 桜音 琴香  (総ページ数: 40ページ)
関連タグ:
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~ 30~

*31*

購買のパンが売り切れていて、僕は仕方なく
部室へ向かった。美術部の顧問は泉だ。
しかし、彼はあまり部室に来ない。元々、泉は
数学担当の教師で絵にあまり興味がない。
だからか、美術部は美術部らしく絵を描いていれば
いいと思っているらしい。だから今日も部室に鍵は
かかっていなかった。僕は自席に着き、
珈琲味の飴を口に入れた。珈琲の成分が脳を
刺激し、アイデアを巡らせてくれるのだ。

筆を握ってしばらくすると、部室の扉が開いた。
驚いて扉の方を見ると、かをりが立っていた。
向こうも驚いたらしく、目を見開いていた。
「水沢くん、どうしたの?」僕は筆を置いて
「いや、絵でも描こうかなと思って」と答えた。
すると、かをりは右手を背中に隠した。
「そうなんた」かをりは小さく笑うと、
見開いた瞳孔を下に向けた。僕は
背中に隠された右手を見た。背中からちらっと
紙のような物が見える。そんな僕の視線に
気が付いたのか、かをりは気まずそうに右手を
出した。「退部届け提出しに来たの」

30 < 31 > 32