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僕は名のない公園で青空を見上げる【完結】
作者: 桜音 琴香  (総ページ数: 40ページ)
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10~ 20~ 30~

*35*

「ねえ、やっぱり付き合えない?」川上凛は
濡れている髪を揺らした。僕は俯き、
珈琲を口に含んだ。僕は、自分の気持ちが誰に
向いているのかが分からなくなっていた。
かをりといると新鮮な気持ちになれるし、
川上凛といると落ち着ける。ふたりといて、
不快感なんてなかった。だが、決して好きではない。
僕は大きく息を吸い、川上凛を見た。
「ごめん。好きではない人となんて付き合えない」
そう答えると、川上凛は顔を両手で覆った。
「じゃあ、かをりちゃんのことが好きなのね」
川上凛の目からは涙が溢れていた。茶色を
帯びたその瞳は潤んで、雫を作る。
答えれなかった。かをりを好きかどうかは、
自分自身もあまり分かっていないのだ。

次の瞬間、川上凛頑張っても部屋を出ていった。僕は
急いで後を追った。彼女の背中を追いかけると、
玄関で止まった。帰るつもりだろう。なにか
引き留める言葉を探したが、出てこなかった。
息を吸ってはすぐに俯き、そしてまた息を吸った。
そのことを何度も繰り返していると、川上凛は
扉を開けた。鍵を閉め忘れていたようで、扉は
軽々と開いた。川上凛の足音が近くから聞こえ、
僕は靴を履いて足音の方へと走った。

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