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僕は名のない公園で青空を見上げる【完結】
作者: 桜音 琴香  (総ページ数: 40ページ)
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10~ 20~ 30~

*8*

川上凛は入部希望紙を部長に渡すと、丁寧に頭を下げ
部室を出ていった。「なぁ、水沢」部長がなにやら
にやにやしながら僕を見た。「あの子、水沢のこと
好きなんだってよ」何故 部長が知っているんだ。
そんなに噂になっているのか。「知っています」
知っています、と答えるのはどうかと思ったが、
真顔に近い顔で言った。「マジで。で、水沢は
どうなの」部長は入部希望紙に自分のサインを書いて
机の上に置いた。「どう、って?」ぼくが問うと、
部長は吹き出すように笑った。「だから、水沢は
川上さんのことどう思ってんの」対して
話したことのない女の子を好きになるはずがない。
「別になにも」僕は少し笑って答えた。喜びや
楽しみの笑みとは違い、どちらかというと
気まずさに近い笑いだ。

「ふうん。じゃあ、川上さんのこともらっていい」
部長は美術部の部長なのに、結構な女好きだ。
付き合っている人はいるそうだが、他に
セフレが3人程いるらしい。「でも、彼女さんが
いるじゃないですか」彼女がいるのに。
セフレがいるのに。まだ他の女の子に手を出す
つもりなのか。「まあね。でもさ、男なんだから
浮気くらいするでしょ」僕は唇の内でそっと
溜め息を吐いた。彼女が可哀想に思えた。
「それは、まあ分かりませんがね」下校時刻を
知らせる放送があった。「そろそろ帰ろうか」
部長が鞄を持ったので、僕も鞄を持つと
「かをりもそろそろいらないな」部長が
誰に向けることなく呟いた。

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