完結小説図書館
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*11*
「……変わり映えしない風景ね」
私はためいきを吐いた。
魔物を倒したあと、再び五人で歩いていたのだが――ツバサとアーサーが見つけたとされる穴の先の通路をだ――、見えるのは、伸びゆく草木、陳列された硬い壁、それら含む遺跡の景色――たったそれだけだったのだから。
左隣を歩いていたラクーナが、ためいきを共に言葉をも吐いた。
「これじゃあ、記憶を呼び起こす手かがりなんて見つからないかしら?」
なんだか疑問形の言葉を聞いて、私はそれに素直に肯定する。
「……そう、かも」
しれない――続けてそういおうとしたそのとき。
「いや」
サイモンが否定した。
それは否定といっても嬉しい否定だったから、本当にちょっと嬉しくなった。
「そう悲観する必要もないだろう。見た目だけではなく、空気や雰囲気もきみの頭脳を刺激しているはずだ」
「……そう、かな?」
「ああ」
微笑んで、続ける。
「それによってなにかを思い出せれば幸いだ。僕たちやツバサ、きみにとってもそれは嬉しいことだろうしね」
「……ありがとう」
「…………いや」
「お〜?」
アーサーがにやりと笑う。
――もしかして、サイモンは私を慰めてくれたのだろうか。
そう思って質問した。
「サイモン、もしかして、私を慰めてくれた……の?」
すると。
「いや、違う」
否定。
「ほんと?」
もう一度聞いても。
「ああ。絶対。そうだ」
否定ばかりだった。
……あれ? と不思議に思う。なんとなく、サイモンの口調がロボットぽくなってるような――アーサーが、なんだか震えてる?
「あ……」
青ざめてる?
「……サイモン?」
ラクーナがサイモンに問いかけるが、彼は返答せずに無視。
そして。
「アーサー」
――冷たい声。
そういうのがふさわしかった。というか、もうロボットみたいな声になっていた。
アーサーの青ざめていた顔が、一気に氷みたいに凍りついていく。
「ユウドウ、スルナ、サセルナ」
「は、はいっ!」
「あらっ、敬語口調!」 「すごっ、敬語口調!?」
ラクーナとツバサの声が合わさった。
「ワカッタカ、アヤマレ」 「分かりました! ごめんなさい!」
二人の面白い会話を見ているうちに、機械音がかすかに鳴り響いた。
ラクーナが機械音が聞こえた後ろに振り向く。
「サイモン! 今、あの音が――」
「……オマエモカ」
「――えっ?」
「スワレ」
なんだか、ラクーナも青ざめていくような。
「おお、ラクーナが座った♪」
「ダイダイ、オマエラハ、キンチョウカント、イウモノガ――」
「「はい! ごめんなさい! 緊張感ありませんっ!!」」
「いやはや、面白いなあ〜♪」
「………………」
ツバサが三人の観察をしている様子、ラクーナとアーサーが怒られている様子、サイモンがロボット口調のまま説教する様子――三つの様子を見ながら、私はためいきを吐く……を超えて、もう喋りたくなくなったような気がした。
・ 遺跡―グラズヘイム― ? ・
《ツバサ》
――ああ、こほん。
というサイモンの仕切り直しが終わってから、場の空気が張り詰めたように感じた。
「僕らはこの遺跡を図書館で調査していった。――すると、重要なことが分かったんだ」
遺跡のことで……?
「どういうことだ?」
「遺跡の名前さ」
また一つ咳をした。やはりさっきのことが恥ずかしかったのだろうか。
「文献に残されて遺跡の名。それは――」
三重奏が奏でられたとしたら、まさにこのときだったろう。
執政院から教えられていた遺跡の名前。それを俺は思い出し、サイモンに「いってやる!」といわんばかりにいおうとした。
それと同時に、フレドリカが意思のこもった瞳になった。
サイモンも口を開いて――。
「グラズヘイムだろ?」 「グラズヘイムよ」 「グラズヘイムというらしい」
俺、フレドリカ、サイモン――三人の遺跡の名前をいう言葉が重なった。
「「「…………」」」
長い沈黙のあと、サイモンが驚いたように二人に向けていった。
「フレドリカ、知っているのか? というか、ツバサは知ってるならばいえ!」
「いや〜」
「そこは照れるとこじゃない!」 「そこは照れるところじゃないでしょ」
二人のハモリを無視して、ラクーナがフレドリカに質問した。
「ねえ、貴方、ずいぶんと意思がこもった目をしてるけど……もしかして、記憶が戻ったの?」
フレドリカが、この問いかけに返答した。
「いえ……違うわ。貴方たちの話を聞いてたら、急に言葉が浮かんできて――関係あることだと思って……。それに、ここで誰かと会った気がするの……」
その言葉を境に、彼女の顔色が悪くなる。
だが、フレドリカは言葉を紡いでいく。
「あれは――誰? 男の人……大きい背中……「頑張れ」って……茶色の髪、おんなじ瞳……それに、隣にいるのは……機械? 青白い板状の……「お休み、リッキィ」って……マ、イ――」
フレドリカが、急に座り込む。それは勿論前のように腰を落ち着けるようなものではなかった。
「だ、大丈夫か!?」
アーサーの問いにうなずいて返す。
だが、休まずにフレドリカは続けていく。
「‘大事な約束’の為……パパが……いった……そし、て――っ!!」
すらりと――。ふわりと――。
まるでやわらかい羽のように軽やかに倒れていく少女を見た。
俺は、いつのまにか駆け出していた。