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この世界を護るコト【完結】
作者: 実上しわす ◆P8WiDJ.XsE  (総ページ数: 44ページ)
関連タグ: 二次創作 
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10~ 20~ 30~ 40~

*16*

 「ふうっ」とラクーナがビールを飲みながら笑みをこぼす。
「生き返るわね〜!」
 もう一息吐いてから、ラクーナは真剣な顔つきになって話を進める。
「さて……それじゃ、一緒に冒険することになったんだし、自己紹介といきましょうか! じゃあ、まずサイモン」
「僕か? ……僕の名前はサイモン・ヨーク。年齢は二十三歳。性別は男……こんなところか?」
 アーサーが、「もっと!」と、不満の声を漏らす。
「……ふむ……あとは、銀髪のパーマセミロング? というのが髪型で、ミズガルズ図書館の多分、優等生……なのかな」
「サイモン、すごいんだぜ! テスト点数全部百点なんだ!」
 アーサーの言葉に、サイモンがためいきを吐く。
「そういうお前は、理科と数学が百点じゃないか」
 「へへっ」とアーサーが照れた。
「それで、誕生日は……火鳥ノ月の十四日」
「ふんふん。じゃあ、次はアーサーね」
「え? 俺?」
 「俺はアーサー!」と元気よく叫び、自己紹介を始めた。
「アーサー・チャールズ。十五歳。皇帝ノ月一日生まれ。んで、理科と数学以外は全部低い点数!」
 「威張っていえることじゃないでしょ……」とラクーナがつっこみと同時にためいきを吐いた。はは、確かに! と俺も心の中で同意する。
「それじゃあ、私ね」
 三杯目のビールに突入したラクーナが、いまだに飲むスピードを遅めないままで自己紹介をする。
「名前はラクーナ・シェルドン。虹竜ノ月の二十日生まれで、年齢はサイモンの二個下の二十一歳よ。ビールが大好き! ……じゃあ、フレドリカ!」
「私?」
 フレドリカの質問に、ラクーナがうなずく。「うん」といっているつもりなのだろう。
「私は……多分、フレドリカ・アーヴィング。みんながいった年とかは分かるわ。十四歳。素兎ノ月の、二十八日生まれ……かな」
「次はツバサね」
「俺は、ツバサ・フェリステナ。年は二十歳ピッタシで、白蛇ノ月五日生まれ。好きな言葉は‘グットラック’!!」
 ラクーナが、俺の発言に「あら」と関心を抱く。
「へえ、いい言葉じゃない」
「‘幸運を’という意味なのだろう?」
「ああ! 分かってんな、サイモン!」
「そりゃそーだって! サイモンはバッギューンってすっごくて、ドッカーン! って敵を倒すんだから!」
 …………。
 ……はいっ?
 一瞬、アーサーの発した言葉に疑問を感じた。
 ――なにを言ってる?
「……え?」
「だから――」
 また説明しようとしたアーサーを、サイモンが止める。そして、そのまま言葉を吐いた。
 ためいきも吐いて。
「……こいつは、説明がど下手なんだよ」
「あ、ああ〜……」
「んな!? なんだよ! いーじゃねえか!」
 「おい、サイモン! ツバサァ〜!!」という少年の叫び声が、酒場中にとどろいた。
 そのとき――。
「ねえ、ちょっといいかしら?」
 酒場の女将――サクヤの声が聞こえた。

・ 世界樹の迷宮へ ・

「はあ〜あ……。‘危険な迷宮’ねえ……」
 アーサーが迷宮に辿り着くなり声を漏らした。
『シリカ商店の店長さん、あ、シリカっていうんだけれど、あの子からのおつかいを頼まれちゃったの。それで……それが、貴方たちに道具を届けるっていうおつかいだったから――』
「『世界樹の迷宮は危険だから気をつけてね』――ってさ、気を使いすぎじゃねえか?」
「油断しないで」
 ラクーナが、重いであろう荷物を担ぎ直しながらいった。
「図書館の人間が、この迷宮に踏み込むのは初めてなのよ」
 「分かってるよ!」というアーサーのつっこみを見たあと、俺は何気なくフレドリカのほうを見やる。
「……」
 やはり、少女は黙っている。キョロキョロと首(こうべ)をめぐらせて、樹海の景色を口を閉ざして見やっていた。
「……ねえ」
 フレドリカがサイモンの歩幅にあわせ、声をかける。同じように景色を堪能していた――フレドリカとは少し意味が違うかもしれないが――サイモンが、彼女のほうに向き「ん?」といった。
「ここに特別な磁場があるのは本当なの?」
 サイモンは少し驚いたような顔を見せたが、またすぐに直し答えを返した。
 いつも思うけど……。サイモンって、平然なボーイだよな。うん。平然。ポーカーフェイスとでもいうのだろうか? 驚くことはあっても、またすぐに平然とするボーイだ。
 ……ん? 二十三歳でボーイはおかしいって? ……まあ、俺から見れば立派なボーイだよん♪
「図書館のデータでは、ね」
「ふうん……」
 フレドリカが突き飛ばすように話を終えた。興味がない瞳をして、そっぽを向く。
 ピチュピチュ……チュンチュン……。小鳥たちのさえずり、木の葉と木の葉がこすれる音――。
 こんなのどかな森に、凶暴な魔物なんているのだろうか。
「……行きましょ。そのデータを確かめるためにも――」
「へいへい……」
 不満顔で呟くアーサーに、フレドリカが注意を向ける。
「早く! アーサー!」
「――ちぇっ」
 注意されたアーサーは、木に手をつきながら唾を吐いた。
「アーサー!」
 不満たれたれの少年に、ラクーナがまたも荷物を担ぎ直しながら、フレドリカに続いて注意した。
 ――担ぎ直すの、多いな。
「……ふむ」
 その様子を見て、サイモンが口に人差し指を立てて添えた。
 なにかを考えているような感じがしたが、それはなにかは分からなかった。
「――ちょっと、遅れないで!」
 フレドリカの叫びに答え、みんなが歩き始める。
 アーサーは、サイモンに説得され渋々と。
 サイモンは、アーサーに付き添いゆっくりと。
 ラクーナは、フレドリカの後ろを歩きながら。
 ――ちょっ、待ってくれ!
 で、俺は――荷物を担ぎ直し、みんなの後ろからついていった。

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