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*19*
《ツバサ》
「――よかった、間に合ったみたいだね」
フレドリカに突撃してきた蝶を仕留めたのは、俺ではない。
かといってラクーナでもない。アーサーでもなければサイモンでもない。
――漆黒のフードをかぶった男だった。
声は若い――俺と同じ年だろうか。髪は藍色に近い青。短髪で、瞳は黄色だ。
――あいつに、似てるな――。
それよりも。
……どうして、助けたんだ?
「でも、風の刃によって意識を失ったみたいだね……はい、テリアカβ。これがあれば意識は回復するよ」
「わ、私、テリアカβ持ってるけど――」
ラクーナの声に男は「親切しなきゃね」といった。
ラクーナは不思議そうにうなずく。あの様子だとまだ全部分かってないだろう。
俺も分かってないけど。
「あれぇ……? ツバサ?」
フレドリカが目覚め、男を見やる。訝しそうにして見やっていた。
「誰なの?」
「俺かい?」
男は微笑む。そして、盾を見せた。
ラクーナとは違うものの、正真正銘の聖騎士の盾――パラディンの証を。
「俺は、カイ・セインシスカ。パラディンをやってる。‘バード’とパーティを組んでるんだ」
バード――歌やダンスを使う補助クラスか。
フードと同じ色のローブをひるがえす。
――もしかして、帰る気か?
「人を助けることこそが本望――次は気をつけてね、おちびちゃん」
脱出用アイテム、‘アリアドネの糸’を使い帰っていくパラディンの男を見る。
続いて、フレドリカを見る。うつむく彼女の顔は怒りの顔だった。
顔を上げ、叫ぶ。
「誰か‘おちびちゃん’よっ!!」
「あの……」
フレドリカが顔を赤面に染めながら振り向く。
そこには、金髪碧眼の女性が立っていた。
・ カーシィ ・
髪は長髪で、腰まである。背中の真ん中あたりで自然と二つの束に分かれていた。
瞳はきれいな青。コバルトブルーの色だった。
「どうしたんだ?」
俺が彼女に問うと、彼女は心配そうな顔をしていった。
「私、ルーシィっていうんだけれど……相棒のパラディンが一人、どっかに行っちゃって……。カイって名前なんだけど、知りませんか?」
――カイ? それって。
「漆黒色のフードとローブの?」
「そう! それ! じゃあ、やっぱり樹海にいたのね……」
ルーシィはためいきを吐く。そして、続けて頭を下げた。
「ごきょーりょく、感謝いたしますっ!」
頭を上げ、にっこり笑う。まるで陽だまりのような笑顔を向けられ、俺は少したじろいだ。
……フレドリカに横目で睨まれた。
「私、そのカイって人とパーティやってるんだ。‘カーシィ’っていうギルドなの! ――じゃ!」
ルーシィが足早に去っていく。
その後ろ姿を見て、俺たちは呟いた。
――「カーシィ、ねぇ」と。