完結小説図書館
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*9*
・ 遺跡―グラズヘイム― ? ・
それは、学生証だった。
名前欄には、サイモン・ヨークと書かれていた。
「この学生証を見たことはあるかな?」
首を横に振ると、「まあ、そうか」と俺の返答を予想していたように呟いた。
「僕が持っているこれは、ミズガルズ図書館のものさ。僕の名前は、ここに書かれているとおり、サイモン・ヨークという。――ちなみに、きみはハイランダーだろう?」
え!?
「なんで分かるんだ!?」
「きみが着ている服装は、ハイランダーの民族衣装だ」
沈黙した俺を見て、青年――サイモンが微笑んだ。
「僕らは異変が起きているという情報を聞き、調査隊としてこの地にやってきた――という訳さ」
俺が勢いよくうなずく様子を見て、サイモンがまた微笑んだ。
そして、平然とした顔に戻し、フレドリカへと目線を向ける。
「……きみは、この人のことを知ってるといったね? どうしてそういったんだ?」
「……知ってると思ったからよ」
「…………ふむ」
ためいきを吐き、フレドリカをまた見やり、サイモンは後ろを向いた。
そして、スゥッと息を吸い込む。
「アーサー! 来ていいぞ!」
トタトタトタ……と歩いてくる少年を見やり、また俺たちへと振り向いた。
「記憶喪失というのは本当かい?」
「本当よ。なんだか、頭の中に霧がかかったようで……」
――あれ?
なんだか、フレドリカの顔色が悪くなっているような? と、そう思い、俺はフレドリカに心配の言葉をかけようとした。
――そのとき、急にフレドリカが座り込んだ。これで四回目の頭痛に、フレドリカは顔をしかめる。
「ずいぶんと顔色が悪いな。少し休ませたほうがいいだろう」
そう俺に助言をして、サイモンはフレドリカを休めるような体勢にもっていく。
「少し思ったんだが……一時的な記憶の混乱ならば救いはあるはずだ。縁のあるものや場所を見れば、記憶を思い出すきっかけになるんじゃないか?」
「……縁?」
訝しそうにサイモンを見つめたあと、フレドリカは俺の顔を見つめた。そして、難しい顔をしながら言葉を紡ぐ。
「……縁。分からないけど、でも、私、貴方を知ってる気がするの」
じっと見つめながら、フレドリカは消極的だと思わせるような口調で俺に質問した。
「……ねえ、貴方の名前、教えてくれる……?」
そんなの、簡単だ。
記憶喪失の少女。俺の名前。どちらかをとるといったら、少女のほうしかないだろう。
「俺は、武勇一族ハイランダーの一人、ツバサ・フェリステナ。俺もサイモンみたいに、執政院から頼まれて調査に来たんだ」
「‘ツバサ’……」
記憶を取り戻す引き金にならないか試したあと、フレドリカはためいきを吐いて悲しそうな表情を見せた。
「……だめね。なにも思い出せないわ」
フレドリカは、周囲を眺めながら「でも」と続ける。
「少しずつ、頭の中が整理されてきた気がする」
眺め終わると、意思がこもった瞳で俺を見つめた。
「ツバサ、貴方も調査に来た、っていってたわよね? ……だったら、一緒に来てくれない?」
「勿論、いいよ」
「……ありがとう!」
「やった……」と隠し切れない喜びを見せる彼女を見やり、サイモンが口を開いた。
「そちらは話がまとまったようだな」
サイモンは、俺とフレドリカを見比べてから口を開く。
「僕たちも調査に来たといったのだが……正直いって、三人しかいないから困っていたんだ。どうか、僕たちも同行させてくれないか?」
「いいよ♪」
返答がすぐに返ってきたからか、サイモンが驚いたような表情を見せた。だが、驚きは終わりすぐに微笑む。
「では、決まりだな」
「ああ! よろしくな、サイモン!」
「おーい」
会話が終わったのを察したのか、アルケミストの少年が気だるそうに話しかけた。気だるそうだったのは、長い会話が続いていたからだろう。
「話は終わったかー? とっとと出発しようぜ」
「少し待て、アーサー」とサイモンがいう。
「彼と同行することになったんだ」
「はあっ!? なんでいきなり!!」
「うるさい……」
遺跡中に、少年の叫び声が響き渡った。
叫び声を聞かないようにと、両耳をふさいでフレドリカがつっこんだ。
・ 遺跡―グラズヘイム― ? ・
「ハイランダーが仲間になるなら心強いわ。三人だと、どうしても負担が大きいもの」
赤髪の女性が、安堵したようにいった。
「初めまして、私はラクーナ・シェルドンっていうの。お会いできて光栄よ、ハイランダーさん!」
にっこりと笑う女性――ラクーナが、少年に「ほら」と呟いた。
「チッ、分かったよ! まあサイモンがいうんだし、しょうがねえか……」
舌打ちしたわりにはやけに笑顔だなと思うぐらいの笑顔をみせ、少年が挨拶した。
「俺はアーサーだ。足ひっぱんなよ?」
「ああ、よろしくな! ディアマイフレンズ♪」
「馴れ馴れしいな……」 「馴れ馴れしいわね……」
二人が呆れたように呟いた。
「そういえば、この装置――」
フレドリカが興味を示したのは、カプセルが装着されてある装置だった。
まあ、自分が眠っていた場所には当然興味沸くよな〜、と思った。
その装置は、煙も出さず、サイレンも鳴らさないでいる。
それを見て、サイモンが感心したように声を漏らした。
「……今の僕らでは、とても解明できない技術だ。失われた古代の文明が開発した装置――」
ガショッ
「うんしょっ」
「そこから、フレドリカが現れた……か――」
トントンッ
「んしょんしょ」
「奇妙な話だな――」
ボフンッ
「やりー!」
サイモンの話の途中で、なにかをしていた少年――アーサーの喜びの声を聞き、サイモンがアーサーに向かって低い声でいった。
「…………アーサー、何をしている」
「のぼった!」
「のぼった……? ――ハアッ……」
思わずためいきを吐いてしまうほどの行為をしたのかしてないのか――上を見ると、アーサーがフレドリカが眠っていた場所にすっぽりとはまっていた。
――ちなみに、その頃。
「冬眠被験者フレドリカ・アーヴィング――」
「えっ!? 貴方、古代文字が読めるの!?」
コケなどであまり見えなかった、装置に書かれてあった言葉――古代文字を、フレドリカが読んでいた。
俺はそこに注目する。言葉はどれも読めないものばかりだった。
……すごいな、フレドリカ。
「えっと――計画の為に永き眠りについたリッキィの行く末を祈る……」
フレドリカが、言葉が書かれた場所を見つめながら「リッキィ……?」と呟いた。