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*8*
可憐なる可愛らしい少女らしくない、素早い動きで魔物の背後に回る。
「“ヘッドスナイプ”!」
“ヘッドスナイプ”――頭を使う攻撃を封じる銃撃。頭突きとかの直接攻撃は勿論、“キュア”とかも封じるといわれている技だ。
……‘ガンナー’……なのか。
「グルアアア……」
四人の攻撃により、かなり魔物の動きが鈍くなった。
俺はにやりと笑い、槍を構えて魔物へと突進していく。
「いっくぞ〜!」
槍をブゥンと振り回し、最近覚えた技を繰り出す。
「“ロングスラスト”ッ!!」
「グルアアアア! グルアア……グル……ル……」
魔物の荒かった息が、花が枯れていくように、徐々に静まっていった。
「やった……」
俺は、呆然としたように呟きながら、自身の持つ槍を見る。――それは、確かに血で汚れていた。
続いて、倒れていく魔物を見る。
息が荒くなっている四人の仲間。
倒れていく魔物。
血塗れの、俺の槍――。
「やったあ〜!!」
倒した。倒したんだ。
手を上げたり跳ねたりして、俺は勝負に勝ったのだと喜んだ。
「……パパ……?」
不意に、少女の声が聞こえた。
「……え」
「……パパ……パパに会えるなんて……」
きゅ――。
少女が懐かしむように、照れるように、俺のズボンのすそをつかんだ。
・ 遺跡―グラズヘイム― ? ・
「パ、パパ……!?」
「え……。あ……!」
ハッとして、少女は俺の顔を見つめる。
「……ごめんなさい。間違えた……」
いやいや、自分の親の顔と赤の他人の顔を間違えんなよ! と思った。色々自問自答、心の中でつっこんでいるうちに、少女の異変に気がついた。
「痛い――」
頭を両手で抱え、冷たく硬い板の床に座り込んでいたのだ。だが、座るといっても腰を下ろすのとは違い、へたりと倒れ込むように座っていた。
頭痛がするのか、頭を抱えて涙目になる少女。
「大丈夫か?」
「……うん……治まった。平気よ」
そういえば、この子の名前はなんというのだろうか?
俺は不思議に思い、聞いてみた。
「なあ、きみの名前はなんていうんだ?」
少女は俺を見つめ、両手を下ろすと、口を開いていった。
「……フレドリカ・アーヴィング……」
なにか、変だ。そう直感した。
さきほどの戦いでの彼女の瞳は、意思がこもっていたように感じた。なにかを目指すような、「やらなきゃ」というような、そんな瞳だった。
だが今は――違う。女の子らしい瞳といえばそれまでだが、とても意思がこもっていた瞳とはまるで違う。
ぼんやりとしていた。
どうしてだろう? と思ったが、その理由はすぐに分かった。
「……それしか、思い出せない」
「え……!?」
「名前は思い出せたけど、それ以外が思い出せないの」
記憶喪失……!?
俺が驚いて声を失っていると、それを見かねた青年がこっちにやってきた。
メディックだといった、銀髪の青年だ。
それと同時に、また少女――フレドリカが座り込む。
「っ……!」
「どうした、頭痛か?」
「ふむ」と青年は訝しそうに呟く。
「妙だな……。なあ、この子はきみの連れじゃないのか?」
ふるふると首を横に振る。
「残念ながら、違うんだよなあ……」
「……そして、記憶喪失か」
「そうみたいで――ん?」
フレドリカが立ち直り、俺をじっと見つめていたことに気がついた。
「どうした?」
「知ってる……気がするの」
「え?」
フレドリカは意思がこもっているような瞳を向け、俺に向かっていった。
「私、貴方を知ってる気がする……。私は昔、貴方と一緒に――っ!!」
突然頭痛が走ったのか、フレドリカは再び座り込む。
「連れではないのに知っている、か……」
それを見て、青年が呟いた。
「ああ、そうだ」
さっきの呟きが嘘のように話を切り替え、青年がお辞儀をした。
「戦いに巻き込んですまなかった。しかし、おかげで助かった。……ありがとう」
「……ああ、うん」
「あの魔物はラクダの亜種だろうが、凶暴さは恐ろしいぐらいだ。この遺跡に何匹もいたら……ここは、相当な危険な場所になるだろうな」
確かに、とうなずく。
あの魔物は強かった。尻尾攻撃も突進も半端じゃなかったと思う。
だけど、フレドリカのおかげで――。
「ありがとうな」
「え……?」
痛そうにしていたフレドリカが、不思議そうに俺を見やる。
「ありがとう、だよ」
「あ……。ええ……」
沈黙を守っていた彼女が、青年を見やり急に口を開いた。
「……貴方たちは……何者なの?」
「これは……失礼したな。僕らのことを説明しないと」
青年は一つ咳をすると、なにかの木製カードを取り出した――。