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*31*
さあっ、と風が吹き抜けた。潮の香りが鼻腔をくすぐる。今日は晴天。空の明るい青と海の深い青の境界線がはっきりと見える。
____貴女の見たかった風景ですね。
ここは崖の上の小さな野原だった。下には碧い海があって、上には蒼い空がある。きっと貴女も気に入るはず。
僕は手にしていた小瓶を置いて屈んだ。中にはさらさらとした灰が三分の一ほど入っている。
僕は指が全て埋まるほどの深さの土を掘って、そこへ小瓶ごと入れて土をかぶせた。____これで、よろしいでしょうか。
答えは返ってこない。でも、後ろから爽やかな風が吹き抜けていった。僕はそれが、貴女が海の方へ駆けて行ったように感じた。
____この先、どう生きてゆこうか。
執事を続ける理由はない。だからこの際、執事服は脱ぎ捨ててしまおうか。
そして、何をして生きてゆこうか。
僕にかかっていた過去の呪いは、あらかた貴女が解いてくれた。全て解けた訳ではないが、自由に生きてもいいんだ、と思える程度には軽くなっていた。
旅をしてみてもいいかもしれない。世界中を回って、色々なものを見ていくんだ。そして、貴女に色々なことを話してあげられるような、そんな経験を得たい。
行商人でもやってみようか。幸い時間は有り余るほどにある。それぐらいできるだろう。
そして貴女を探すんだ。貴女は必ず生まれ変わると言っていた。だから、僕はそれを信じ続ける。
僕は、小瓶を埋めた辺りに一輪の花を置いた。この花の名は、ネリネ。別名、ダイヤモンドリリー。
貴女へ渡す花としてぴったりな花言葉を持つ花をわざわざ探したんだ。
ネリネの花言葉は____、
「また会う日まで」
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