完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*19*
ライデンside
「セイシュン!やっと会えましたね!」
セイシュンに飛びついたツバキだったが、
「あいたっ」
見事にかわされた。
結局、ミカンと俺で無理矢理セイシュンをツバキに会わせることにした。
流石にツバキが悲しむだろうし、それにセイシュンがツバキを拒む理由が知りたいと思ったからだ。
「セ、セイシュン、なんでかわすのよ!」
若干ムッとした顔でセイシュンを見るツバキ。
セイシュンはそれを……とても悲しそうな、まるで誰かを亡くしたかのような目で見ていた。
「……え?セイシュン?」
ツバキはぽけっとセイシュンを見つめる。
しばらくの間、重い空気が流れた。なぜ重いのかもわからず、俺もミカンもじっと立っていた。
「……あっ、そうだセイシュン!これからは、セイシュンも私たちの軍に入れるんだよ!これからはずっと一緒なんだよ!」
思い出したかのように、ツバキは語り出した。
心底嬉しそうに、心からの願いが叶ったことに喜びを隠せないようだった。
……が。
「……僕が、君達の軍に?なんの冗談だい?」
突き放すように、セイシュンは言葉を発した。
「……え?」
「悪いけど、僕はもう君達といる気はないよ」
ツバキや俺達に背を向けるセイシュン。
ツバキは一瞬固まっていたが、はっとなって呼び掛けた。
「な……なんで?セイシュン!」
「命を救われて、傷の手当てだってしてもらったんだ。もう充分。」
別れようとする理由を、深くは語らなかった。
「また一人で組織制圧しにいくよ。もうあんなヘマもしない。君達に迷惑かけることもないよ。」
じゃあね、とセイシュンは歩き出した。
「…待って!セイシュン!」
ツバキはセイシュンに駆け寄ろうとするが、立ち止まる。
もしかしたら、追いかけても想いが届かないことがわかったのかもしれない。
「そんな……せっかく、やっと、会えたのに……」
ツバキの目に涙が溜まっていく。
それが一筋流れたとき、異変が起きた。
「……人が黙ってりゃ……いい気になりやがってえええええええええええええええええ!」
ミカンが魔素球をセイシュンの背に打ち込んだ。
「……いったぁぁあああぁぁぁ!何すんだよお前!」
セイシュンがこちらを振り返った。
「……セイシュン、お前、ツバキちゃんが優しく差し伸べてくれた手を、冷たく振りほどくようなマネすんじゃねえよ」
いつもは眠そうな顔をしているミカンが、しっかりと光を宿した目でセイシュンに向かっていた。
「……君には関係ないね。僕は僕のやりたいようにやる。それで何か間違ってる?」
セイシュンは、わざとミカンを挑発するような言い方だった。
「それはお前の勝手な都合だ。ツバキちゃんを悲しませる理由にはならない」
ミカンは更に言葉を続ける。
「一人で突っ走ってただ敵と認識したものを斬り続けて、それで怪我して死にかけて満足か?一人だけレベル上げ続けて、敵わない相手に出くわしたら終わりってことか?お前を助けたのは他でもないツバキちゃんだろ。一人意地張って小さかった頃の約束もすっぽかして、幼馴染みを裏切るような行動するのがお前のやりたいことってやつか?」
「黙れッッ!」
セイシュンが声を荒げた。ツバキの肩がびくりと跳ね上がる。
「君にはわかんないだろうさ!守りたいもののために自分を殺してきた僕の気持ちなんてわかるわけないんだ!何でもかんでも好き勝手やってたら、守りたいものすら守れなくなるって気付いたんだ!奴等は研究所から脱走した僕を狙ってる、僕と一緒にいたらツバキは狙われるんだ!だったらツバキは僕と一緒にいない方がいい!」
「お前の方こそ全然わかってねぇよ!」
セイシュンの手に力が入ったが、言葉を発したのはミカンだ。
「ツバキちゃんは……死んでるかもしれないって思ってたお前のことをずっと探してたんだよ。何日も何年も……。それがようやく実った、お前を見つけた、会えた。それだけでツバキちゃんはどれだけ嬉しかったと思う?それなのにお前は……」
ミカンの背が少し震えた。
「守るべきものを守るために、なんて正義感振りかざして、本人の気持ちなんてわかろうともしない。その人の幸せなんて自分の価値観押しつけてばかりで考えたこともない。それでいいのか?本人が危険な目に遭わないだけで、そいつは幸せか!?」
「大切な人がいなくなってしまうことは……怪我するより、重い病気にかかることより辛いことだってわかんねーのか?
大切な人に拒まれる悲しさがお前にはわかんねーのか!?」
セイシュンははっと目を見開いた。
「ミカさん……」
ツバキは涙声で呟く。
「僕といたらダメ、とか……そんなんはどーでもいいんですよ。大切な人が隣にいればどんな苦難でも乗り越えられるって言われてるでしょ?そしてお前にとっても……悪い話ではないと思うぜ?だって……」
ミカンはツバキに目を向けた。
「お前が自分を殺してまで、守りたかった人なんだから。」
セイシュンの目から一筋、涙が溢れた。
「……さ、ここまで言ったけど、気持ちは変わりましたか?」
ミカンはそれだけ言うとセイシュンの目の前から下がり、元の場所まで歩いた。
「……ツバキ。正直今の僕は……君を守れるかわからない。でも……僕と一緒にいてくれるの……?」
セイシュンがツバキに手を差し出すと、彼女は満面の笑みで手をとった。
「……うんっ!」
俺とミカンはその場を去ろうとした。
「……ミカン、ライデン。」
セイシュンの声が聞こえた。
「……ありがとう。」
俺なんもしてねーよ、と付け足して、俺とミカンはその場を後にした。