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*2*
翌日、正午すぎ、3人は、カフェで昼食をとっていた。
「よかった、今回も異常なしだ」
「俺も!」
「3人とも引っかからなかったわね」
3人はそれぞれ、検査結果を手に、胸をなでおろしていた。月に一度義務付けられた健康診断の結果が返ってきたのだ。初期症状を確認したら、すぐに緩和治療に入り、穏やかに死を迎える。それがこの箱庭での一般的な最期だ。
「安心したら腹減った!アイスも追加で頼んじまえ!」
「健康管理はしっかりしなさいよ?」
「分かってるって!」
口だけで答えて、ダンはサンドウィッチにかぶりつく。脂ののったベーコンの味が舌全体に染みわたり、思わず顔がほころんだ。
「ダンはいつも、美味しそうに食べるよね」
アイザックが微笑みながら言う。ダンはモゴモゴ喋っているが、何を言っているのか分からない。
「ダン、飲み込んでから話しなさい」
スムージー片手にノゾミが言う。ゴックンと大きな音を立てて、ダンは言った。
「だってさ、こうして好き勝手できるのも、どんなに長く生きても、あと1年あるかないかだろ?」
ダンの言葉に、2人の顔が少し曇る。箱庭内での平均寿命は20歳弱。だいたいは、20歳で病気を発症する。ダンは19歳だ。いつ発症してもおかしくは無い。
「俺は多分、お前らよりは先に逝くだろ。でも、大丈夫だ。きっと、シンリーも待ってくれている」
3人の心に、幼くして病に倒れた、もう1人の幼なじみのことが思い起こされた。ノゾミのルームメイトだったシンリーは、10歳で病気を発症し、そのまま息を引き取った。シンリーの命日から、3人にとって死は身近なものになった。だからこそ、シンリーが亡くなってからのこの6年間は充実していた。
「シンリーに、僕たちの見聞きしたことを全部教えてあげよう。そしてまた一緒に生まれ変わってきたら、今度は4人で色んなものを見に行こう」
アイザックの言葉に、2人は微笑む。そうだ、自分たちは生きていかなければならない。シンリーの分も……
「……差し当たっては万博だ!なんとかエリア1に行く方法はねぇかな……」
まだ諦めていないのかと、あきれながら2人はダンの方を見る。ダンはうーんと頭をひねっていた。人の移動による感染を防ぐため、エリア間の移動には制限が加えられているのだ。
「そんなに気になるなら、エリア間鉄道に忍び込んだら?」
ノゾミの提案に、2人は目を丸くする。
「だだだだめだよ!ガードマンに捕まっちゃうよ!終身刑だよ?」
アイザックは卒倒しそうな顔で止める。珍しく慌てふためく彼を見て、ノゾミは声を抑えて笑った。
「エリア間の越境だけでは罪にならない。空の貨物列車に乗っていれば、盗難を疑われることもない。せいぜい、注意勧告と反省文くらいよ」
アイザックは不安そうな顔をする。ノゾミはいつも、こんな無茶な提案には反対するのに、今日はいたって乗り気なのだ。先ほどの健康診断に、ノゾミの脳は本当に異常なしと書かれているのか、アイザックは不安になった。第一、そんな期待を持たせることを言えば……
「よし、忍び込もうぜ!それに、バレなきゃノープロだしな!!」
ダンは乗るに決まっている。アイザックは悪い方向に進んで行く2人を前に、オロオロするほかなかった。