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シークレットガーデン-椿の牢獄-[完]
作者: 姫凛  (総ページ数: 15ページ)
関連タグ: シークレットガーデン 叢とムラクモ 裏と表 陰と陽 乙女の淡い恋心 キュン死に注意 
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10~

*13*

「隠し階段の次は…隠し壁……」

メシアの生き残りは今只の壁へと戻った隠し扉をまるで隣人の邸へ訪ねて来た客のようにこつこつとのっくし材質を確かめているようだ。こつこつと叩くたびに首を左右に傾げながら。そんな不思議な物なのか、ずっとからくりがある生活をしていた我には分からない感覚だった。不思議そうな顔で首を傾げるメシアの生き残りに「はい。此処は最高技術を持ったからくり職人達に造らせた、からくり牢獄なんです」とからくりのことを説明してやった。メシアの生き残りから出てきた言葉は「へぇ…」となんとも素っ気ない物。初めて見る物だ。それも致し方ない物か。―少々つまらなくも感じるが。

いや今はそんなくだらない事に現を抜かしている場合ではない。一刻も早く此処ここから逃げ出さねば……知識のない化け物達だげ、食欲は旺盛だ。どんな姑息な手段を使って襲いかかってくるか知れたものではない。メシアの生き残りの腕を掴み「こちらですっ」と次のからくりの仕掛けがある場所へ移動しようとしたときだった――腹部に強烈な重い一撃、まるで鉄球を当てられたかのような激痛を感じたのは。

「ごふっ」と喉の奥から腹の奥の方から血が溢れ吐血した。横にいるメシアの生き残りの「ムラクモさんっ!?」我を心配する声が聞こえる。敵に同情をかけられるなどなんと惨めな。ふがいなき事だ。吐血し膝までついてしまうとは……こんな醜態バーナード様へとても見せられたものではない。汚名は返上するもの。足元に落ちているのは腐りに繋がれた分銅か……ならば敵は一人しかいぬ――ロックス。「ヒドイやないか〜、ムラクモちゃ〜ん」鎖の先を持つものに鋭い眼光を向ける。けたけた嘲り左手で鎌を持ち右手で繋がれた鎖をくるくると手持ち無沙汰のように振り回している。

「わしという男が居ながら、他の男に浮気するやなんて」

浮気だとなんの話だ、と奴の視線の先を見つめればそれはメシアの生き残りの事だった。そうか他の男と駆け落ちしようとしていることが気に食わないのか。……ふふ。なんと幼稚で独占欲の強い男だ。我の心などとうの昔に王へ捧げたというのに。ぺっと唾を吐き捨てたつもりがそれは赤黒い血だった。この体は我が思っている以上に先の一撃でだめーじを受けていたようだ。――瞼を閉じた。そして無理やり抑え込んでいるもの殺意の奔流。臓腑を丸ごと支配するが如きそれらを一時的に解き放った。
心地よい感覚だ。瞼の裏側で微かに見える、轟々とした流れとうねり。毛細血管の幻が脳に見せつけてくるのは、血流のいめーじ。肉塊の夢想。次々に思い浮かぶいめーじが、指を、脳を、心臓を、全身全てを震わせて――あぁ――殺したくなってくる。

「貴方…何者ですか?」
「はぁ?わしはお前なんかに用はないっちゅーねん」
「奴の名はロックス。此処の監守だ」
「そしてムラクモちゃんの彼氏やなっ」
「えぇぇぇ!!」

なにか聞こえる。瞼を閉じた向こう側の世界でなにか聞こえる。話し声、男が二人。驚くメシアの生き残りの声といやらしく笑うロックスの声だ。人を疑うという事を知らないメシアの生き残りがまた何か変な勘違いをしているような気がするがそんな事我には関係のない話。我のすることなんていつの時代もどんな時でも変わらない。

「そこをどいてください」
「いややと、ゆうたら?」
「……殺す」
「くひひっ、ムラクモちゃんはせっかちやの〜」

鉈の切っ先をロックスに向ける。我が獲物は欲しているのだ、奴の生き血を。ならばそれを用意してやるのが持ち主の役目。メシアの生き残りにも剣を構え直す様に伝え、殺る気になったロックスも右手に掴んでいた鎖を手持ち無沙汰な感じから八の字に回し、いつでもその先に下げられている重い文堂から重い一撃を放てるように。「まぁ、ええわ。わしも最近体がなまってきとったから、ええ運動になるわ。死んでも恨まんといてなぁ!!」躊躇なく襲いかかってくる奴に向かって我はあくまでもムラクモとして答えた「それはこちらのセリフです!」―と。

やっと始まる。血沸き踊る闘いが。やっと潤すことが出来る毎年ずっと乾き続け砂漠のようになってしまった我が喉を――我が獲物を―潤すことが出来る。

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