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作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (総ページ数: 12ページ)
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episode2【梅雨入りで、雨で、傘で。】
春も過ぎすっかり梅雨入り。晴れていた空は雨、雨、雨!!
雨ばっか……!!
「はぁ…。」
やっぱり、雨が降ると気持ちが沈むなぁ……。
最近、雨ばっかりで会長とも会えてないし、というか雨の日どこに居るんだろう?
そんなに親しくはないから知らないな、会長の事は知らないことばかり……。
「お困りですか?お嬢さん。」
……誰?
こっちは、気持ち沈んで今、誰とも話したくないのに……。
あたしは、ため息を吹きつつ、振り返る。
「……え?」
後ろに立っていたのは、深めかぶった鮮やかな青い色の帽子に
ショルダーバックを身に着けた青年だった。
ううん。
帽子からのぞく金髪っぽい明るめの茶髪を緑色のリボンで
下に結って整った顔立ちに女の子みたいな細い腕。
まちがい、ない……!
「……何をしているの。」
思わず、青年――八奈見葵を、睨み付ける。
葵の姿は、この学校ではかなり浮いている。
鮮やかな青い色の帽子もかなり珍しいし、しかも制服を着ていないこと自体が怪しい。
「ごめん、ごめん。そんなに睨み付けないでよ、怖いなぁ望ちゃんは……。」
「なんで、また男装をしてバイトをしているの?」
「ちょっと!男装だなんて大きな声で言わないでよっ!男装している理由知ってるくせに……。」
「………。」
そう、この八奈見葵は女子でありながら男装をしている、そのことはトップシークレットらしい……。
まぁ、確かに一瞬男の子に見えてはいるんだけど……童顔で細い腕のせいで疑われている。
イケメンではあるんだけどね。
「はい、お届け物です。」
不機嫌な顔であたし宛ての手紙を差し出してくる。
そんな怒らないでよ……。
そう思いながら手紙・葵を見る。
葵は、こうやって校内のバイト――
なかなか渡せない、渡しに行けない校外・校内からの手紙を受け取り、
相手に届けるバイト・郵便屋さんをしている。
それにしたって……あたしに誰が手紙を書いたんだろう?
あたしは、手紙の封を切る。
手紙の封を切った瞬間―思わず、あたしは目を見開く。
その宛てぬしは、会長だったから!!
なんて書いてあるんだろう……。
『のんちゃんへ。
最近、梅雨入りをし屋上で会えなくなりましたね。
学年は同じでも俺は授業にも出ていないし……。
こんなことを言うのは、恥ずかしいけど……文字だから言うね、
なんか今まで隣に居た人がいなくなると超寂しい。
弱音を吐くのはこれくらいにしようと思う。
天より。PS 梅雨が早く終わるのを願っています。』
そんなことを思ってくれていたんだ、あたしと同じだったんだ。
心が弾んで、ウキウキしてさっきまでの沈んだ気持ちが嘘みたいで……。
頑張ろう次、会った時に胸を張れるように成長しなきゃ。
「あ、望ちゃんが今日、最後の配達先だね。」
にこっと言い、立ち去ろうとした葵を呼び止める。
「この手紙、どこで預かった?」
「?ポストに入られていたよ。」
葵は、キョトンとしてから、真面目な顔になって言う。
そっか、受け取った場所が分かれば会いに行けると思ったのに……。
「それじゃあ、用は済んだし帰るよ。」
一人になり、あたしは、届けられたあたし宛ての手紙をぎゅ……と抱きしめて
会いたい気持ちを抑え込んだ――。
久しぶりに、午後に晴れて屋上に行こうとした矢先、雨が降った。
「……。」
いや、なんでっ!?
イライラして、階段を下りて昇降口に行き、帰ろうとすると――。
「…………っ!…。」
小さな泣き声が聞こえてきた。
何だろう…?
そう思い、靴を履きかえ外に出てみると…女の子が困ったように眉を曲げてただ、ただ雨を見つめていた。
「あっ…」
あたしに気づいたらしく涙をぬぐいあたしに向き合う。
「ふ、副会長っ!えっと…雨、降っちゃいましたね!」
あはは、と女の子は不自然に笑う。
もしかして……この子。
そう思い、手元を見てみると折り畳み傘をもっていなかった。
「傘。」
あたしがそういうと手元を見て隠す。
「あの、傘。貸そうか?」
「…えっ。」
「別にあたしだったら濡れても大丈夫だし、それに貴方の方が心配だし。持って行っていいよ。」
あたしは彼女に傘を手渡すと彼女はお礼を言い急いで帰っていく。
ふう…。
「……でのんちゃんは傘がなくてどうやって帰るの?」
後ろから男の子の声が聞こえる。
“のんちゃん”
この呼び方をする人は一人しかいない、もしかして――。
「会、長…?」
後ろから頭に向かって手を伸ばした男の子は目の前にきて微笑む。
「当たり。」
――ずっと、ずっと会いたくて、この声が聞きたくて。
「久しぶりに会えて、う、嬉しい……!!」
自然と心にあった喜びを会長に伝えることができた。
その瞬間――どうしよう、目から涙が溢れてくる。
会長は、あたしの事をじぃ…と見ている。
恥ずかしい!!
「…やっ、そ、そんなに見ないでください。恥ずかしいです…。」
と、顔を手で隠し言うと会長は言う。
「なんか、可愛い。」
!?あ、あたしが…!!かわいい??!
「……のんちゃん、帰ろっか。」
あたしが固まっているのを横目に会長は傘に、あたしを入れる。
「雨…降らないでほしいなぁ。」
あたしがボソッと言うと会長はあたしの頭を撫でる。
「だね。」
驚いたようにあたしが会長を見ると、続けて言う。
「気持ち沈むし、日向ぼっこも出来なくなるからね。」
なんだ、その事かぁ……。
あたしは一人肩をおとす。
雨が、ポツン、ポツンと会話しているかのように地面に向かって落ちる。
………静かだなぁ。
なんか、落ち着かない、チラッと会長を見ると前を見て傘を持っている。
まつ毛、長いなぁ、背高い……。
まじまじと見ていると肩に何かが当たる。
とん、とん。
……ん?会長の方を見ると肩が少し濡れている。
会長、あたしが濡れないように……優しいなぁ。
今頃になって言うけど――これって“相合い傘”というものではないでしょーかっ!?
……意識したらなんか恥ずかしくなってきた、だって会長と相合い傘してるんだよ?!
会長は女子と相合い傘をして恥ずかしくはないのでしょうか!??
会長を見るといつもと変わらない表情であたしを見る。
「どしたの?」
会長はいいな、相合い傘だなんてしても恥ずかしくもなくて。
――そっか、あたしなんて意識なんてしてないからか。
じゃあ、恥ずかしいあたしは“男子”として会長を意識してるってこと??
……いや、ないない。
それでも、あたしは何に意識をしているんだろう?
あたしは、一人考えていると家路についた。
「ここまででいいよ。」
「大丈夫?送ろうか、家の前まで。」
「大丈夫で、す。すぐそばにあるので、さようなら。」
「……うん、さようなら。」
――俺は、パタパタと帰るのんちゃんを見つめる。
「……。」
初めてだった、女子の事可愛いだなんて思えたのは――。
相合い傘だって、のんちゃんが俺の事見つめていたのを知ってた、ドキドキだってした。
「はあぁぁぁあぁ。」
……疲れた、初めて気ぃってものを使った気がする。
俺は一人、雨の中でしゃがみ込みさっきの事を思い出す。
「あんな顔すんなよ……。」
そう呟いて、のんちゃんの顔を思い出しながら家に帰った。