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君はかわいい女の子
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 12ページ)
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10~

*7*

episode4【体育祭。】


「天会長っ!!」
「わぁ~学ランですか!?カッコいいですねぇ~。」
「写真一枚とっていいですか!!」
頬を真っ赤に染めた女の子達が会長に群がって話している。
――今日は体育祭で赤組と白組に分かれて戦うけど……。
「今年は見所がいっぱいだよな。あの虎と本気を出さない残念脱力イケメンが違う組で戦うっていうトコ。」
「どっちが勝つのかな~?私は王子様に勝ってほしいなぁ。」
 そう!皆の期待を背負っているからこその会長に勝たないと……!!

「……あ、のんちゃん。のんちゃんはジャージで猫耳なんだ。」
会長があたしに気づき、話しかけてくる。
「あ、はいジャージは男子から貸してもらうんですけど。会長は学ランですか。」
あたしは、会長を上から順に見て言う。
「うん、中学の制服。……でのんちゃんは誰から貸してもらったの?」
「……え、はるちゃんですけど。」
そう答えると眉をぴくっと上げて言う。
「それ。悠翔さんのやつじゃなくてもいいんでしょ?」
そういうと会長はジャージを差し出し着せてくる。
 ん??何、これ……。
「……ありがとうございます?」
なんとなく言うと恥ずかしそうに頭を撫で白組に戻っていく。

『――午後からは1年生による借り物競争が始まります。』
 あ、次だな…。
そう思い、立ち上がるとはるちゃんが話しかけてくる。
「次、望の出番か。頑張れよ。」
「うんっ!」
あたしは、元気よく返事をしてスタート地点に向かった。
「晴家、命運はお前にかかってるぞっ!!」
「頑張って~王子様❤」
皆があたしが通るたびに呼び掛けてくる。
 嬉しい……。
頑張らなくちゃな、そう思いハチマキをきつく結びなおす。
『―よーいっドン!!』
アナウンスが入り合図が響いて皆がいっせいに走り出す。
『さぁ、始まりましたっ!!1年生による借り物競争っ!早くも到達です。』
 ……どれが一番安全なんだろう??
確か、初恋の人とかそういうものが入ってるって聞いた事がある……。
 悩むのはやめにしよう!!ええいっつ!!
勢いよくカードをひっくり返すとあたしは目を見開いた。
『おおっっと!選手の一人である晴家 望。固まっているぞ!まさか今回、特別に用意したお題が書かれていたのかっ?!』
 ああ、言わないで……。
『そのお題こそ、貴方の好きな人か付き合っている人っていうお題でーすっ!!』
 泣き出しそうになった、あたしにとって付き合っている人も好きな人もいないから。
消えたい――アナウンスでは付き合っている人を探してる。
あたしなんて――。

「望っ!!」
悠翔が望の所に向かおうとするとそれよりも早く悠翔の前を通って行った人物がいた――。
 瀬名 天だ――彼は誰よりも早く彼女を助けようとしていた。
「――のんちゃんっ!!」

「のんちゃんっ!!」
あたしなんてそう思ったその時――とても落ち着く、聞きたい声が響いた。
「……か、いちょ、う。」
「――行くよ。」
震えたあたしの腕を掴んで一緒に走ってくれる。
「えっっ会長が王子様の彼氏!?あの本気を出さない残念脱力イケメンが走ってる……っ!」
「嘘!!」
「あの虎がっ?」
ザワザワと驚きの声が聞こえる。
 普通だったら、こうなることも予想できたのに何で来てくれたんだろう。
どうして、あたしは走っている会長の背中に呟く。
『晴家選手、ゴール!!』
ゴールしたんだ……。
「――会長、あの、来てくれてありがとうございます。助かりました。」
そういうと会長は振り向き微笑む。
「それと……手。」
あたしが小さな声で言うと気が付いたようにパッと手を放す。
「ごめん。」
じゃあねというと白組に戻っていく。

 あたしは、胸を押さえて一人ため息をつく。
「……。」 
 きゅうぅぅと締め付けられるように胸が痛い。
ドキドキする、変に手汗が凄くて。
――風邪でもないのになぜかあの会長が来てくれた時から痛い。
これって……違う、違うそんなわけない。嫌だ。
あたしは、否定したい気持ちから走り出す。
 どんっ!
「ちゃんと前見ろよっっゴラァ!!」
「ごめ……っすみません!!」
振り向いて謝るとぶつかった人は固まる。
「……えっ虎っ!?――何なんだ、あの可愛い顔っ!!」
さっき、ぶつかった人は何かを叫んでいるが何を言っているか聞こえない。
走るのが疲れて立ち止まると呼吸を整えて考える。
 この気持ちは、この気持ちはあたし……会長に恋してる。

この気持ちが後で苦しみに変わり絶望になり嫉妬に変わること、自分がおかしくなることをまだあたしは知らなかった――。
 
 俺は、借り物競争が終わり望を探しに行く。
風になびく色素の薄い髪。
いつもは1つに結っているのに今は肩ぐらいの髪を下ろしていた。
「のぞ……み?」
俺が声を掛けようとしようと近づいたら思わず目を見開いた。
――見たこともない顔だった、儚げで触れたらあっという間に壊れてしまいそうなそんな説明も出来ない顔。
「望……。」

あの顔は誰に見せるのだろう。

君は昔から俺のものだったはずだった。

触るな、笑いかけるな。

話すな、触るな。

そんなことを思って近づいてきた人間を毒づいてきた。
大切に大切に見守ってきた俺だったがあっという間に取られてしまったんだな。
5,6年だなんて短いと思ってた、適度に手紙を送れば大丈夫だと思ってた。
「くそ……っ。」
俺は悔しさを噛み締めてその場を立ち去った。

「のんちゃん……ずるいよ。」
天は右手を握りしめて彼女の愛称を呟いていた――。

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