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作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (総ページ数: 23ページ)
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第2章 第3話;「自分の運命を決める闘い。」 【白い子猫。】
「藤花、居るか?」
朝早くから元気な声がドアの外から聞こえた。
――穂高?
「居るけど何か用?」
「ちょっといいか。」
うんと返事をして穂高を部屋に入れる。
そのまま、部屋に入ると穂高は恥ずかしそうに目線を逸らしている。
―――――――何を緊張しているんだろう?
「あの…さ…えっとこれ渡すな。」
右手を差し出して言う。
これは――花のペンダント?
「何これ。」
そう質問しても答えてはくれない。
――もしかして。
「私の事、心配してくれているの、昨日の事。」
「え、な。……そうだけど。」
そういうと恥ずかしそうに首の後ろを触る。
「貴方はいつも心配していると首の後ろを触るから、解ったの。心配してくれてありがとう。」
「あぁ……。」
何だか、久しぶりだなぁ。ゆっくりこうやって穂高と話すの。
「ダリア、あの時と同じね。」
図星をつかれたようにビクッと肩を揺らす。
私は幼かった自分達を思い出して笑う。
――9年前。
私がお母様とお父様や同年代の人に上手く接する事が出来なくて寂しくて泣いていた時に出会ったあの日。
「――お嬢。お嬢の婚約者様が来られましたよ。」
「行かないわ、今は居ないと日野西様に言って下さい。」
誰とも会いたくなくてけど隣に受け止めてくれる人が欲しかったあまのじゃくな私に貴方は会ってくれた。
「藤花ちゃん!いるんでしょう?」
包み込むように明るく、元気な声。
「いませんよ、すみませんが……。あっ!!駄目です、日野西様!!?お戻りくださいませ!!」
騒がしい、一人にさせてよ。
「――藤花ちゃん見っけ。はい、これあげる。」
スッと小麦色に焼けた手が伸びてきてニコッと笑ってくれた穂高。
「なんで、日野西様が……。」
手渡されたものを見て思わず声を上げる。
――ダリアだった。
綺麗で明るくてまるで穂高みたいな、太陽みたいな花。
「綺麗……。」
良かったと笑い私を寂しさから挽き出してくれた。
思い出の日――。
「懐かしいな、覚えててくれたんだ。」
「勿論。」
2人で笑い合っていると忙しそうな足音が聞こえた。
タッタッタタタ……。
ドアを開けるとサラサラの青っぽい黒髪が目の前を通った。
「あれって……。」
「おこちゃまだよな?」
2人で確認しあって九条君の後を追いかける。
九条君はしゃがみ込んで何かを探している様子だった。
「九条君。」
私が九条君を呼ぶとビクッと肩を揺らして振り向く。
「日高さん!なんで、まだ起きる時間じゃ……。」
そう言うと九条君は焦ったように腕時計を見る。
「どうしたの。何かを探しているようだけど?」
「――関係ない。」
冷たく距離を取られた、突き放す言い方に私はズキズキと痛む胸を抑える。
「関係ないってなんだよ!!おこちゃまっ!」
穂高が怒りを露わにして声を荒げる。
「関係がないから関係ないと言っただけだ。……おこちゃまと呼ぶな。」
「こんな奴はほっとこうぜっ!!」
結構だと言い残し静かに立ち去ろうとする九条君に私は慌てて呼び止める。
「――待って九条君!力になりたいの、何を探しているの?」
「それは、“お願い”か“命令”か?お願いだったら拒否権があるから断るけど。」
命令だなんてしたこともない――でもしなかったら断られて教えてもらえない。
ごくっ……。
私は冷や汗を流しながら、九条君の様子をうかがう。
「……め、命令よ。」
そう答えると九条君はため息をついてから言う。
「……本当に君には敵わないな。仕方がないから、教える。」
九条君は話し始める。
「3日前に屋上庭園に住み着いた白猫が居るんだ。その猫は親が居なくていつの間にか僕に自然と懐くようになった。」
へぇ、白猫。そんな猫、見たことがないなぁ。
「今日も一緒にご飯と食べようと部屋に招いていたところをどこかに行ってしまって……。」
気難しそうに鼻を触りながら言う。
「手伝うよ。」
「じゃあ、俺はこっち捜すから。」
「私はあっちを捜すね。」
私が捜そうとすると、九条君は呼び止める。
「――その、、、日高さん。ありがとう。」
お礼を言われたらふわっと心が温かくなって表情が自然に緩んだ。
「こちらこそ、九条君に無理言ってごめんね。」
ニコッと微笑むと「あぁ……。」と短く返事して行ってしまう。
――――しかし猫かぁ。どこにいるかな。
声を出してみたら飛び出してくるかなぁ。
「お~いっ!!出てこいよ、猫や~い!!」
居ねぇなぁ、、、、白猫。
『ミャア。ミー!』
「……あ!!!居たっ。」
『ニャッ?!』
白猫が驚いて走り出す。
クソ速い……!!
「待てよっ!!」
追いかけると真っ直ぐ走り出す。
『にゃあ。』
猫は一度、止まり俺の方に向く。
イライラ。
バカにしているような顔をしやがって……。
俺が走ると壺が落ちそうになる。
「よ……っ。――――――危ねぇ!!」
ふうっと息をつくと白い物体が視界に入る。
『ミャア!!』
俺はバランスを崩して直後、割れる音が響く。
バリンッ!!
「あぁ、、、、ヤバい!!!」
そう叫んだ瞬間――――――寒気が立つ。
「ほ~だ~かぁあああ!!!!」
鬼のような顔のメイド達が俺の事を囲んで俺の事を睨み付けていた。
「ゲッ!!」
***
白猫―――――……居た。
しかもあんな高いところ、、届かないだろう。
もっと、、、、背が高ければ。
『チービ。』
「僕はチビじゃないっ!!!」
本棚に思い切って拳を当ててみたところ、本が直後、落ちてきた。
ドンっ!!!
『ミャアァアア?!!』
猫の悲鳴が聞こえ、僕は振り向くと本と一緒にバランスを崩し倒れてしまっていた。
「あれ―――――猫。」
助けたはずの白猫が居なくなっていた。
どこに行ったんだ、、、潰れてしまっているとか??
しかし、探してみても呻き声も何も聞こえなく居なくなっていた。
『ミャ!!』
得意げそうに喉を鳴らしフッと僕の方を見てから外の方に逃げだしていくのが判った。
僕の事を馬鹿にしているのか??いつも一緒に居たこの僕を……?
イラッ。
あの、、、猫。
***
「猫―――――……猫ちゃ~ん?」
『ミャアァアアア!!!』
突如、猫の可愛らしい泣き声が響いた。
振り向くと白猫で瞳が青緑色の子猫……に物凄い形相の穂高に、、何故か九条君。
「「逃がすかぁあああ!!!」」
「二人とも、、どうしたの?」
小さく言った声は怒り狂った二人には届かなかった。
薔薇の庭園の小さな休憩所に逃げ込んだ子猫をみて穂高と九条君は悪い笑みを浮かべ言う。
「そこに逃げ込んだならこっちに行く!!」
「僕は回り込んであっちに行く!!」
囲まれて怯えた子猫はキョロキョロしている。
可哀想、逃げてっ!!
二人が飛び込んで捕まえようとしたその時―――――……猫の小さな悲鳴と共に低い低温の呻き声が聞こえた。
ゴチンッ!
何かがぶつかったような音がした。
「「痛っ!!!」」
二人は休憩所の枠に額を抑えながら子猫を探す。
『ミャア♪』
機嫌の良い声が近くで聞こえ、やけに温もりを感じた。
ま・さ・か……子猫が??
「―――猫ちゃん。大丈夫だった?」
『ミャア♪』
嬉しそうに喉を鳴らしながら鳴く子猫はとても可愛かった。
二人は恨めしそうに子猫を見つめる。
「―――……くそ、猫って女の方が好きだって言うよな。」
「あぁ、露骨な猫だ。」
二人が珍しく意見が合ってる。
面白い―――クス。
「何を笑っているんだ。」
「藤花、答えろ!!」
いや、別に。と返すと心底不思議そうな顔でお互いを見つめあう。
あらら、気づいていないんだ。
「……というか藤花の胸から離れろよっ!!」
「しがみつくな。このマセ猫が!!」
ちょっと、、酷い。子猫に向かって―――さっきの追い詰めることも可哀想だった。
イライラ。
一発、やってもいいよね。
「はぁ!!!」
生々しい音が聞こえ、続いて低音の悲鳴が響き渡った。
バシンっドス!!!
「……なんで?」
「顔、体中が痛い……。」
青白くなってゲッソリとした顔が二つ。
「あのねぇ!!まだ、解らないの?!」
拳を構えるとビクッと肩を揺らす。
「「十分、理解しています!!」」
こういう時は揃いも揃って同じこと言うんだから、案外仲良しなのかもね。
まぁ、これくらいにしとこう。
可哀想だしね。
「ご飯、食べよっか。」
私が微笑むと二人はドキマギする。
「―――……用意は僕がする、僕の業務だぞ。」
そういうとフッと笑って穂高が宣言する。
「俺、藤花の隣で食べる!!」
「おいっ!隣は僕だっ。」
「速いもん勝ちだぜ!!」
「くそっ。どいつもこいつも僕の事を馬鹿にしやがって……!!」
二人が無我夢中でラウンジに向かって走り出す。
「あ、待ってよ!!」
―――……小さな子猫を通して、二人の素顔と案外仲が良いって言う事が判った一日だった。