完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

君を想い出すその時には君の事を――。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 23ページ)
関連タグ:
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~

*12*

第2章 第4話;「自分の運命を決める闘い。」 【大切な思い出。】

「う~ん、いい匂いだ。」
「この匂いの誘惑には勝てないな。」
「えぇ……。瑠璃ちゃんのスフォリアテッレはスイーツの名店も泣くほど美味しいわ。」
テーブルに座った僕らは香って来たパイの匂いにうっとりする。
「出来た……!!」
小倉さんの声が響き、皆身を乗り出す。
「今日は、うかちゃんも手伝ってくれた。」
そう聞くと僕は自然とそわそわして恥ずかしそうに目線を逸らしている彼女を見た。
「う、美味くできたと思うから、食べて。」
「味わってしっかりと。数、少ないから。」
という言葉を聞き、僕らは一斉にスフォリアテッレを口に入れる。
 モグモグ。
口に入れた瞬間、チーズの香りとバターの甘みが伝わり思わず声を零す。

「「「「ほぅ―――……。」」」」

なんて美味しいんだろう。
「もっと!!食べたいよぅうう!!」
「足りない、足りないわ!!」
「瑠璃ちゃん、カモ―ヌッ。」
「瑠璃、美味しい!!美味しいよ!」
皆、欲しいと騒ぎだす。
「味わって、って言ったのに……。」
困ったように眉を下げる小倉さんは急かされ、キッチンへと走り出す。

***

「よっと……。」
私は、スフォリアテッレと包んだ箱を積んで歩いていると後ろから声をかけられる。
「――日高さん、何をしているんだ?」
振り向かなくても判る、この声の主は勿論―――九条君だ。
「あの、お母様とか色んな人が食べたいって言ってたから今から届けるんだ。」
「ふぅん。……で、小倉さんは?」
「えっと、多分。今頃―――……。」


『小倉、もっと!!もっと!!』
藤谷がフォークを持ちながらテーブルを叩く。
 ドンドンッ。
『カモーヌ!カモーヌ!!僕のスフォリアテッレッ。』
獲物を捕らえるように目を光らせながら、猫月はフッと笑う。
『はい、はい、はい……!!』
忙しそうにキッチンに立つ小倉さん。

「ってなってた。」
「そうか。」
しばらく黙り込むと九条君は、ひゅうっと背伸びをし、包んだ箱を多く持っていく。
そして振り返る。

「………日高さんが転んだら、せっかく作ったスフォリアテッレが勿体ないだろう。行こう。」

緊張で強張ったような声が聞こえ、ほんのりと耳が赤くなっているのが私は見えてクスッと笑ってしまう。
素直じゃないなぁ――――でも優しいな。
「うんっ!!」

***

「まぁ、美味しそうなスフォリアテッレ。食べましょうか。」
お母様は嬉しそうに頬を染めながら、フォークを持つ。
綺麗に切って、お母様の紅色の唇に掠りながら口の中に入る。
「……美味しいわね。」
うっとりと微笑みながらお皿を持ち、スフォリアテッレを見つめる。
「このパイを食べると昔の事を思い出すわ。―――……藤花ちゃんと総司が合ったあの日を。」
私の名前までは聞こえたが後の方は聞こえなかった。
しかし、九条君は過剰に反応して言う。
「あまり、昔の事をッ!言うのは……!!」
お母様は目を見開く。
思い出したかのようにごめんなさい、と言いながら九条君の頭を撫でる。
「そうね――――藤花ちゃん、気にしないでね。」
 昔の事をって何?私の名前をどうして??
状況が理解できないなぁ。何のことだろうか。
首を傾げていると、
「本当に何でもないんだ。」
なだめるように言われ、私は植木鉢を抱えながら黙り込む。
あまり、詮索すると嫌だよね。
やめよう、本人に気にしないでって言われたんだから。
さり気なく話題を変えてみると、
「―――……このお花はお母様から、貰うの?」
「え?――――あぁ、用事があった時には分けてもらっている。」
あ、嬉しそうな顔になった。
九条君の頬がほんのりと薄紅色に染まる。
「この花はアイビーと言って、花言葉は公正と信頼。」
へぇ、可愛らしい花だなぁ。
うっとりと花に微笑みかける九条君は眩しかった。
「えっと、九条君って花言葉とか種類とか詳しいけど、お花が好きなの?」
思い切って聞いてみるとビクッと顔を強張らせ、ふいっとそっぽを向く。
「……すッ、好きで悪いか?」
なんか、、可愛い。
拗ねたような声を出し、真っ赤に耳を染めて私の反応を気にしている素振りを見せた。

「ううん、むしろ良いと思うよ。」

私の言葉を聞くと九条君はホッとしたように声を漏らし、そうか、と笑みを見せた。
微笑んでいた彼は――――直後、黙り込み私をジッと見つめてくる。
どうしたんだろう。
「?」
私が首を傾げていると、迷ったように顎に手を当てようやく口を開く。
「あの日高さん、花の肥料を持っているか?」
持っていないけど……、と思い首を振ると九条君は優しく微笑む。
「じゃあ、明日。ラウンジで朝食を食べた後、市場へ行こうか。」
「えっ!?」
「――……あ、嫌か?」
私を見つめる瞳には不安が渦巻いていた。
そんなわけない、誘ってくれたことにただ、ビックリしただけだから。
って思い、口を開いた。
「違う、誘ってくれたことが嬉しいくてつい声を上げてしまっただけ。」
ありのままの気持ちを伝えると不安が渦巻いていた瞳をフッと甘やかにし笑みを浮かべた。
「そうか、、、、、じゃあまた明日。」
手を振り、私も手を振り返す。
「うん。」
風のように走り去っていく彼を見ながら、私は鼓動が早くなる胸を抑えた。

***

 彼女は覚えているはずもない、僕と君が初めて出会った日の事を。そこから、絶望に陥った事も。
彼女が作ってくれたスフォリアテッレを僕は丁寧に切り分け、口の中に運ぶ。
このチーズの香りとバターの甘み、微かにあるレモン味―――隠し味。
「……懐かしいな。」
頬を伝って零れた涙とコーヒーの苦みが昔の事を、鮮明に思い出させた。


『――――総司、そんなにかしこまらなくていいのよ。――だって、私達は家族になるんだから、ね。』
綺麗な黒髪の女性が淑やかに微笑みながら、僕の頭を大切に撫でる。
『家族……?』
僕が呟くと、
『あぁ。おいで、総司。』
たくましく、勇ましくも優しい雰囲気がある男性に僕を強く抱きしめる。
『お待たせ致しました、お嬢様が作ったスフォリアテッレです。』
彼女の従者である青年が微笑みながら言った。
『総司の為に初めて、藤花ちゃんが作ったんでしょう?』
『うんっ!』
彼女は可愛らしく愛らしい笑みを僕に向ける。
『なっ!!?藤花の手料理を俺のよりも先にっ!!!』
男性がガクッと肩を落とし、悔しそうに僕を見つめる。
『仕方ないでしょう、総司は藤花ちゃんの未来のお婿さんなんだから。』
“お婿さん”という言葉を聞いて僕と彼女はお互いに見つめ微笑み合う。
あの頃の僕は日高さんの事を、僕の未来のお嫁さん、そう思っていた。
『さぁ、いただきましょう。』
おっとりとした声が響き、僕らは席に着き綺麗に切り分け口に入れる。
 パク。
初めて食べたスフォリアテッレ。
チーズの香りとバターの甘み、微かにあるレモン味が口いっぱいに広がった。
『美味しい?』
そう聞かれ、僕は。
『うんっ!!』
そう答えた。
二人で微笑み合っていると女性が口元を拭いてくれた。
『二人とも付いているわよ。』
拭かれた彼女は、ありがとうっと言った。

初めて感じた、家族という温かみ。
誰かを“好き”だって感じた気持ち。
でも、楽しく嬉しいことだけじゃなかった。

『―――……総司、お嬢さんとの挨拶。上手くやれよ。』
父が言う。
『大丈夫よ、賢い貴方なら出来るわ。総司。』
母が言う。
『お前は貴和の弟の息子でお嬢さんの婚約者だ。大丈夫だよ。』
『その権利を持っているのよ、総司。』
両親は、「成功しろ、気に入られろよ。」そんな事しか言わなかった。

『後々、貴和には“ボス”の座から降りてもらって俺たち一族が組織を貰うからな。』

親友とか言って、父と母には私欲を満たす事しか頭になかった。
そんな両親が嫌だった。
ある時、両親達が彼女の両親の暗殺を企てている事を知った僕はその時、絶望に陥る事もまだ、知らなかった。


***

「僕は、あんな事をして彼女を壊してしまったんです。家族という温かさを知ってしまったから―――……。」
「総司。」
「ただ、怖いんです。知られたらって、こんなの――。」
彼女の母親の所に来ては、このように弱音ばかり言ってしまう。
「違うわ、貴方が悪いんじゃない。」
こうやって慰めて肯定してくれる。


「―――……ねぇ、総司。貴方があの子と婚約を破棄したとき、私と貴和に預けた物――――覚えているかしら。」


輝くように周りには宝石が散りばめている綺麗な指輪。
渡そうと思っていた指輪―――渡せなかった僕の想いが詰まった指輪。
「いつでも、取りに来て頂戴。」
真剣に僕を見つめながら続けて言う。
「……藤花は――――あの子は貴方の力になると思うから。」
僕は即座に首を振って否定する。
「日高さんは僕の事が理解できないし、僕だって理解してくれなくて良い、と思っています―――……。」
「総司……。」
気の毒そうに見つめる彼女の眼差しが妙に痛かった。

***

「――――おはよう、日高さん。」
ドアを開けると、私服姿の九条君が立っていた。
いつもスーツだったから、私は新鮮すぎて目を丸くしてしまった。
「では行くか。」
スタスタと歩き出す九条君の背中を見上げながら私も後をついていった。

***
「やったねん、また勝っちゃった!!」
にこっと満面の笑みで金を抱える成清に皆、頭を抱える。
「お前、こんなに賭け事、強いのかよ。」
俺は唸った。
「これで、お前の馬鹿付きのせいでこっちの商売は上がったりだよ……!!」
男が言う。
「ってかよ、その俺達から巻き上げた金で何、買うんだよ!!」
盛が怒鳴る。
すると成清はうーんと顎を触ってそれからニッと笑う。
「これで、ラザニアにスフォリアテッレでしょ~、マカロンに!!いっぱい食べられるよ!!」
猫耳のフードを揺らしながら答える。
俺達は一斉に溜め息を吐いた。
「はい、はい……お前はそういうやつだもんな。」
と呆れて男は言っていると、女性の怒号が響いた。

「だから……さっきまでバッグがあったのになくなっているんですッ!!!」
綺麗なドレスを着た若い女性は怒鳴る。
俺達は顔を見合わせ組織のネクタイをキチンとし、その女性に声をかけた。

***

街の花屋を回って、約二時間が経った。
「これで、買い物はひと段落したな。」
ぎこちなく私は九条君を見た。
真っ直ぐと前を向いて未来を見据えているかのように歩いている九条君はいつもよりずっと大人に、凛々しく見えた。
私がまじまじと見ていると、
「何だ?」
と聞かれ、ビクッと身体が強張る。
「えっと……九条君ってすごいなと思って。」
「は?」
口をぽかんと開き、首を傾げる。
「だって、自分にも私達にも厳しいし、冷静でいつもその先を見ている感じが凄いなって。」
そういうと戸惑ったように目線を逸らして言う。
「と、当然だ。任された以上、日高さんの事もちゃんと護るし、サポートもする。人に厳しければまずは自分に厳しく出しな。」
目を伏せて言う彼はなんだか違う人と喋っている気持ちになった。
そんな雰囲気に私は心のざわめきを感じた。
「私ももっと頑張らなくちゃ……デュエロだって勝ち進まなければいけないし。そんな中で自分の能力が何かも知らないから。」
素直に言うと。
「日高さん、能力は何の為にあると思っているんだ、僕は時々、解らなくなる。今までは誰かを護る為だって思ってけれど…………。」
九条君は微かに震えていた。
「僕は……ッ。いや、何でもない。」
どうしたの、と訊ねようとしたその時―――……男性とぶつかってしまった。
 ドンっ!!
「す、すみません!」
と急いで謝ると、男性はビクッと顔を揺らし立ち去ろうとする。
何か、反応が怪しかった。
謝れられた事だけであんなに恐がるのかな?
黙って男性の後姿を見ていると、
「なあ、今の男。怪しかったよな?」
と問いかけられて私は急いで首を縦に振った。
「あの人、変だった。」
「早く、追いかけるぞ!」
顔を見合わせて、私達は走る。

***
「はぁ……ここまで来れば安心だな。今日は運がいいな。」
と言いながら男は、綺麗な宝石が散りばめられたバッグを取り出す。
路地裏で嬉しそうにバッグを開き、財布をもち、札束を数える。
「あれ、明らかにあの男の奴じゃないよな……?」
耳元で囁かれ、私は頷いた。
「行くぞ。」
と言われ、男に声をかける。
「おい。」
男は振り向き、私達を睨み付ける。
「なんだよ、坊やとお嬢ちゃん。」
手元にあるバッグを確認し、私は男に向かって歩き出す。

「―――……そのバッグは貴方のものじゃない。」

とキッパリと言って私はバッグを取る。
男は見破られたように顔をしかめる。
「――――……人のものを取って自分のものにしようとするやつは野放しにはできないな。」
九条君は身構える。
すると、男はニッと不敵に笑い。
「やってみな、お前みたいなチビがどうやって俺を捕まえるんだ?」
というと、九条君がその言葉にキレて睨み付けたその時――――足音が多くなる。
「「!!」」
振り向くと男達が私達の事を囲むようにいた。
中には大きな棒を持っている人までいた。
「お前ら、噂の組織・セグレードだろ?知ってるぜ、女にぎゅうじられるようじゃお前たち組織も終わりだなぁ!!」
男達はクスクスと笑い始めた。
私はもう我慢できなくなり、蹴りを入れようとしたその時、九条君が首にナイフを当てた。

「―――……僕達、組織の事を知っている人間はどうなったかじゃあ、知っているよな?」

フッと笑う九条君はとても恐ろしかった。
「お、お前!断罪の総司!?」
と男は焦って言う。
「死ぬ前に言いたいことはそれだけか?―――……彼女とボスを貶す奴らは容赦しない!!」
私は息を呑んで言う。
「私も―――母様と父様を侮辱する人は許さない!!」
そう言って、護身のために習ったナイフを手に持つ。
「大丈夫か?」
そんな心配する声を無視して私は男にナイフを突きつける。
「ほら、大丈夫でしょ?」
というと、
「習いたてなんだよな………?」
疑問の声がかかり、私は頷く。
そんな彼はナイフを握りしめて、華麗に男達の動きを止める。
私は、棒を持った男の首に足蹴りして男を気絶させる。
「お嬢ちゃん、背後ががらすきだよ。」
と言われて振り向くと拳が顔に向かってくる。
「……危なッ!!」
首を慌ててかわして、よろめいた男を回し蹴りをする。
「うぐッ!!!」
男達の低い呻き声が次々と響く。
「ちくしょうッ!!!」
男が叫んだのを私が睨むとビクッと後ずさりをする。
逃げようとする男の目の前にナイフを思い切り、投げる。
 ザクッ。
ナイフが壁に突き刺す音が響き、男は目を丸くする。
私は続けざまにナイフを投げて男をしゃがみ込むようにする。
男は恐怖で気を失う。
二人で顔を見合わせてニコッと笑い合う。

***
「はい、貴方のお財布です。」
と綺麗なバッグも返すと若い女性はニコッと微笑む。
「ありがとう。もう助かりました、このバッグお気に入りなんですよ~!」
女性と話して合っている藤花を見つめて俺は話す。
「藤花が異常に気付いたんだってな。」
というと、
「あぁ、ナイフも習いたてだって言うのにこんな風にナイフを刺して捕まえたんだ。」
九条は呆れたようにナイフの差し跡を見る。
「一つ、かりが出来ちゃったねー♪」
口元のソースをペロッと舐めて頷きながら成清は言う。
すると、九条は目を伏せて言う。
「出すぎた真似、本当にすまない。」
その言葉に成清は真っ直ぐ見つめて頭を撫でる。
「いや、むしろ助かったよ~!!そうたんのお・か・げ!!」
抱きついた成清を、ふざけるな、と肘で押す。
「……ッ。」
諦めた九条は顔を伏せる。
「まあ、そうたんのそういう義理堅いところ、ボクは好きだよ~❤」
「……どうも。」
恥ずかしそうにそっぽと向いた九条の頬を成清は摘み言う。
「それよりも、うかたんの事たっぷりと褒めてあげてよ?」
と成清が言うと、九条は目を丸くする。
「そうだよ、藤花の勘の良さが今回の犯人を捕まえられたんだしな。」
俺が九条の頭に手を置くと、べしッと跳ね返されて藤花の事をまじまじと見つめた。
「女の子は褒めてくれて成長するんだからね~。」
九条はその言葉に
「それもそうかもな。」
と素直に言った。

11 < 12 > 13