完結小説図書館
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (総ページ数: 23ページ)
関連タグ:
*13*
第2章 第5話;「自分の運命を決める闘い。」 【二人の時間。】
真っ赤に染まった道を私達は歩く。
九条君は私の事をチラチラと見てきた。
やがて、マンションの目の前になって入ろうとすると、
「ひ、日高さん。」
声を掛けられた。
驚いて振り向くと、手を掴まれて手の上に可愛い包箱を渡された。
「えっと…………これは?」
訪いかけると、恥ずかしそうに目線を逸らしながら
「今日、日高さんは街でずっと髪飾り屋に迷ったように商品を見つめていて……だから。」
口を噤んだ九条君はバッと思い切り顔を上げる。
「た、たまたまその店員に声を掛けられたから買っただけのものだ。それが、偶然にも女子用だったから…………。」
必死に言い訳をする子供みたいに見えて、私は笑ってしまいそうになった。
「…………つまり、私の為に買ってくれたんだ。ありがとう。」
と微笑んで言うと、九条君は口をゆっくりと開く。
「今日、君に助けられた。日高さんの勘の良さがあの女性を助けられた、感謝している。」
はっきり感謝していると言われて私の心は、ボールみたいに弾んだ。
カッと顔に血が上ったような気がした。
私は焦って口を開く。
「ね、ねぇッ、あのさ、さっきの泥棒を気絶させた技って何?」
訊ねると、首を傾げてから穏やかに微笑んで言う。
「あぁ、みねうちの事か。姐様に伝授された。これなら地に血が流れず、汚すこともない。」
そういう九条君は自分の手を握りしめてフッと笑う。
私はその姿を見つめて、口から声がこぼれる。
「すごいね。」
その言葉を聞いた九条君は驚いて、振り向き私の事をまじまじと見る。
九条君は息を呑んで、恥ずかしそうに俯く。
そして、
「当然だ。」
返事をする。
「…………九条君ってお母様と仲が良いよね。」
「は?」
凝視する彼を見て、お母様の事を私は思い出す。
「お母様は組織のみんなに優しい、でも、特に九条君の事は期待しているんだと思う。」
「ふざけるな…………っ!!」
そういうと、九条君は怒ったように眉を寄せて怒鳴り、溜め息を吐く。
「お前は本当に何もわかっていない。一番、周りから期待されているのは君だ、ボスがデュエロを開くと言ったのも跡継ぎである日高さんを育てるためだと僕は思っている。」
言い残し、スタスタと歩き出す。
「一度褒められたからって調子に乗られては困る。―――勝ち進むんだろう?デュエロ。」
ビシッと怒られ、私は包箱を見つめた。
***
「そうたん、君さぁ。うかたんに厳しすぎない?」
猫月さんに指摘され、僕は顔を手で覆う。
「昨日もうかたんの事を突き放すようなこと言ったんだって?女の子を悲しませるなんていくらそうたんでも許せないなぁ。」
ケラケラ笑ってふざけていた猫月さんは、急に僕の事をキッと睨む。
「確かにあの時、いっぱい褒めてあげてってボク、言ったよね。」
と言われ、僕は口を開く。
「…………何か言っていたのか、日高さんは。」
訊ねると、頬を膨らませて言う。
「言わなくても判るに決まってるよ、超判りやすいんだから。あの子。」
聞いてみると、朝から肩を落としていたそうだ。
「いつまでさ、隠しておくつもり?初めて出会った人として、うかたんを騙して、せめてでも従兄だってことぐらいは伝えたら、どう?」
「このままじゃ、僕は彼女に―――ッ。」
自然に指を握りしめる。
「君は我慢しすぎだ。もちろん、その理由は解ってる、苦しいかもしれない。でも、藤花ちゃんに向き合ったあげるべきだと思うよ。」
そんなすべてを見切ったような猫月さんの言葉に僕は唇を噛み締める。
「君のやっていることはただの“逃げ”でしかないよ。本当は解っているんだろう、何をすべきか。」
図星を当てられて、僕は息を呑む。
「…………いい加減、大人になれ。総司。」
その言葉が僕の心に深く突き刺さった。
何も言い返せなくて、ただ、ただ悔しくて。
考えていることを言葉に出されて恥ずかしくて。
彼女に会わせるのが怖かった。
知られたくなかった。
彼女はいつか、猫月さんたちを通して全てを知ってしまうと思った。