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作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (総ページ数: 23ページ)
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第2章 第6話;「自分の運命を決める闘い。」 【コーヒーの約束と心の距離。】
『一度褒められたからって調子に乗られては困る。』
怒ってた…………あんなこと言ったら怒らせるに決まってる。
調子に乗ってた私。九条君に褒められたからって発言する言葉は一度考えて言わなくちゃ。
もう私の中で悪態は出なくなったって思ってた。
でも全然だったな……なくなったわけじゃなかった。
こうやって人の気持ちを考えないで嫌な気持ちにさせて私って凄く最低だ。
「やっと仲良くなれたのに………怒らせちゃったら終わりだよね。」
そう思い視界に入った可愛い包箱を見つめる。
何かを大切な仲間という存在から貰うのは初めてだった。
大事でまだ開けられていない。
「…………。」
静かに立ち上がり包箱を手に取ってリボンを丁寧に外していく。
「!」
入っていたのは欲しかったゴムだった。
綺麗な月のゴム――――急いで着けていた真っ黒なリボンのゴムを外して月のゴムを使って結ってみる。
いつもの私とは違って見えた。
似合わないと思いあの日諦めて店を出たのに…………気が付いていたんだ。
よく見てるなあ……。
「っ……!」
ほわっと心が温かくなった。
すぐさまお礼を言いたくなった。
貰うだけじゃ悪いと思って部屋のドアを開けた。
いつもいたこのドアの目の前にも九条君はいなかった。
「……それもそうだよね………怒らせちゃったんだもん……。」
一人で呟いた私の心は何故か冷たく冷え切っていた。
頬に少量の涙が伝っていた――――。
***
「…………っ!」
一人、僕は布団の中で悶えていた。
こんなにも遅くまで寝ている日はなかった。
昨日までは5時には起きていたのに今は9時だ。
「あんなこと言わなければよかった………本当に馬鹿だな、僕は。」
と呟いて、布団から起き上がる。
カーテンを開け、朝のすがすがしい日差しを浴びる。
ふわぁっとあくびをした後、洗面台に行こうとすると
『~♪♪』
スマホの着信音が鳴り響いた。
朝に誰から?と思い僕は手に取る。
声を聴いた瞬間、僕は泣きそうになる。
『………あ、の九条君。昨日はごめんなさい、私何にも考えてなかった。』
心配そうな声。
そっか、彼女は僕以上に不安を抱えているんだな。
「僕こそ………強く言ってしまってすまなかった。」
すると日高さんは、
『………ちゃんと、謝りたいしありがとうも伝えたいから明日の午後4時、一緒にコーヒーを飲みませんか?』
と焦ったように言う。
僕は聴きながらスケジュールを確認する。
「その日は僕は生徒会があるから日高さんとは帰りの時間が違うし、どこで待ち合わせをするんだ?」
『あのね……!カフェで飲むんじゃなくてね、わ、私が淹れたいの!!だから、、、部屋に来てくださ、、い。』
日高さんが…………?
『いいかな?』
僕の心は勿論のことながら、弾んだ。
「良いに決まってるが――――日高さんは大丈夫なんだな?」
『明日、じゃあまたあとでね。』
ブツ――――ッ。
明日がとても楽しみになった。
***
今日は九条君とのコーヒーの約束の日だ。
急いで帰って部屋を綺麗にして九条君をもてなしたい。
「「「「それではさようなら。」」」
帰りの挨拶をした後、私は急いで家へと向かう………はずだった。
「藤花!」
名前を呼ばれ、振り向くと黒いリムジンに乗った穂高と何故か乗っていた小倉さんが居た。
「今から帰りか?」
と言われ、私は言う。
「ああ、今から家へと帰りコーヒーの準備をするんだ。」
すると、
「コーヒーって?」
訊ねられて「九条君に淹れてあげるんだ。」と答えると穂高はムッとしたように顔をしかめる。
「?」
「おい、俺の婚約者だ。車に乗せろ。」
黒のスーツを着た男達に穂高はそう言い、私の腕を掴み取り車に乗せようとする。
「穂高、これはどういうことだ!?九条君との約束が私にはあるんだが!?」
と乗せられるのを拒むと、穂高はチッと舌打ちをして私に怒鳴りつける。
「婚約者の方がその約束よりも大切だろ!!…………構わず乗せてくれ。」
グイっと男たちの力は強くなる。
「る、瑠璃!!」
小倉さんは、走ってきた水無瀬君に言う。
「水無瀬…………来て。」
穂高はその言葉に反応し、「奴も乗せろ。」と男達に言う。
水無瀬君は軽々、乗せられてしまった。
***
「こッ、ここは?!!」
―――……ここは中華料理店だな。
「さあ、お前たち。食べるがいい!!」
穂高は上機嫌で料理を頼む。
「北京ダック、食べたい!!」
小倉さんは次々と料理を平らげる。
「帰りたいんだが………どうして、無理やり私を乗せたんだ!!?」
と叫ぶと、穂高は真剣な顔つきになって言う。
「藤花に話すべきことがあるんだ………。」
私はその真剣な眼差しに何も言えなかった。
***
中華料理店に高級ショッピングモール、遊園地…………あっという間に日は暮れて月が光り輝く時間になった。
九条君との約束の時間はもう、過ぎていた。
きっと、また怒っている。
もしくは心配で探していたら…………と考えると途端に会いたくて仕方がなくなった。
「帰りたい。…………帰りたいッ!!」
と叫ぶと穂高は私の頭を優しく撫でた。
「そろそろ種明かしするか。」
その声が掛かり、私は穂高の顔を見つめる。
「――――……九条はお前の従兄で元婚約者だ。」
え?
私は目を見開いた。
「そッ、、そんなわけがない!!嘘を吐いているんでしょッ!?だって九条君が私の元婚約者だとすれば記憶があるはずよ、なのに記憶はない!?どうしてなの?!」
と声を荒げて言うと、穂高は悲しそうに眉を下げてギュッと私の事を抱きしめる。
「こんな事、俺だって言いたくない。だけど………お前は12年前、セグレード能力を使って記憶を失った。両親の記憶から九条に関する記憶、そしてこの事に危機を感じた親父さんが能力を封印して消したんだ。」
穂高の話は全て筋が通っていた。
母様に父様の言う遊んだ記憶もなかったし、能力の事を言うと悲しい顔をして私の事をただ、抱きしめていた。
だから、九条君も―――……?
『知っている。』
『昔から見ている。』
『あまり、昔の事を言うのは……!』
あんなにも初めて出会った時、黙っていたの?
と、なると皆で私の事を騙して演技をしていたって事…………?
嘘、嘘だ……あんなにも信じていたのにも言ってくれなかった??
涙が溢れ出してきた。
もう、信じられない……。
母様も父様も九条君も――――皆、嘘吐き。
「今までごめん。藤花、許してくれ―――……!!」
穂高は私の事をずっと抱きしめてくれていた。