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君を想い出すその時には君の事を――。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 23ページ)
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10~ 20~

*2*

第1章第1話;「メゾン・ド・セグレート」 【君と私。】

 『秘密館って知ってるか?あそこに新しい入居者だってさ。』
『どこぞの旧家のお嬢様らしいよ。』
『あぁ、あの大財閥日高家だろ?そーとー性格がきついんだって。』
――無駄に虚勢を張って悪態をつく、これが私の欠点。
「あそこにいる子だろ?ルックスはいいのにな。」
――また噂話をしている、私の事何も知らない癖に。
「おー、藤花。着いてたのか、言えっての。」
聞き覚えのある声に私は、ハッとして急いで顔を上げる。
「なんだ、藤谷か。久しぶりと言っておいたほうがいいかな、まぁこれから嫌でも顔を合わせるけど。」
また自分の世界にトリップしてたなと藤谷が言う。なんでわかるんだろう、藤谷は。
 藤谷政宗。実家が近いだけの間柄の奴でやけに世話好き、見かけによらず。
「今、俺の事言ってただろ?」
「……知ったような口を聞かないで。」

――ここは通称『秘密館』
正式名はメゾン・ド・セグレート。
最強のセキュリティーを誇る最高級マンションで
高額の家賃を払い、能力・家柄・経歴を認められた人間だけが住める場所。
というのが表向き。
別に私自身はこのマンションに特別にこだわってはいないし入りたくて入った訳じゃない。

 何であれ、私は一人でいると決めた。
そのために家を出た。
  チン。
「俺、5号室だから。手伝ってほしい時は声かけろよ?」
「わざわざご足労どうもありがとうございます。」
7号室……ここだよね。
 ガチャ。
隣?誰だろう…?

「「!」」

桜が舞った、とても綺麗で――。
――見覚えがある顔で思い出そうとすると頭に激痛が走る。
 男の子…隣の部屋の入居人?
「こ、こんにちは。隣に越してきた日高 藤花です。」
男の子はびっくりしたように、目を見開くと目線をそらして言う。
「……知っている、僕は九条 総司。隣に住んでいる。以上。」
そういうと私の傍を通り過ぎていく。
何なの?あの人……??
 バサッ。
うん?誰かの本が――。
この本の持ち主?女の人、スタイルいい…。
「これを落としましたか?」
固まった表情で私を見る。
「…かっ」
か?何だろう…。
「可愛~~いっ!貴方が日高ちゃんね?あたしは北小路 紫よろしくねっ!」
な、何なんだこの人……!?
引っ越し初日、近所の人の噂話はかなり本当に近いことが分かった。

「ここの入居人はずいぶんと過激なんだね、藤谷。」
―—ラウンジ。
「藤花ちゃん、ポタージュいる?」
「……逃げたんじゃないか?」
私は逃げて無視したのに…ついてくるから…。
 しかも。
こんなしつこくて、邪見扱いがしにくい人にあったから―。
私は、ぎりぎりっと歯を食いしばる。
でも、それじゃここに来た意味がないじゃないか。
「頼むから…自分の部屋に戻って。」
「そんな寂しいこと言わないでよ。」
「いいじゃないか、友達第一号ができて。お兄ちゃんうれしいよ。」
…こいつら。
でも温かく私を迎えてくれる藤谷達に感謝している、
だなんて口が裂けても言わないと私は心に決めた――。




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