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君を想い出すその時には君の事を――。
作者: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM  (総ページ数: 23ページ)
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10~ 20~

*5*

第1章第4話;「メゾン・ド・セグレート」 【初めて。】


 このマンションに入居してから約2週間がたった、今――。
「学校に行くのか?」
「……あぁ、うん。」
クラスの前で私たちは話している。
通りかかった人たちは迷惑そうに何をしているのだろうと見てくる。
 あぁ、視線がイタイ。
「あの、袖を掴んでいるその手を離してくれないかな……!?」
私がそういうと九条君ははっとした顔になって――。
「!―ごめん。離す、じゃあ自己紹介頑張って。」
 なんかものすごく罪悪感がある。
後ろを見ると寂しそうに、自分のクラスに行く九条君が見える。
 そんなこと気にしてやれない、今日のためにたくさん練習をしたんだ。
「日高さん、入って――。」
クラスのみんなが私が入るのと同時にみんな見てくる――。
緊張する、手汗が……!
「苗字は日に高いと書いて日高。名前は藤に花と書いて藤花。よろしくお願いします。」
……初めて練習通りに言えたっ!どうかな、みんなは……!?
  シーン。
えっ!……もしかして失敗した?
「み、みんな、緊張しているのよ。さっ小倉さんの席の隣に座って?」
先生は焦ったように私に呼び掛ける。
 はぁ…。また、失敗かどうしてなんだろう?
「小倉さん、日高さんの事よろしくね。」
“小倉さん”。
知っている人が隣だと、なんか安心する……。
「よろしく。」
私がそういうと先生の話を聞いていなかったらしく、
驚いた顔をしてから、状況を理解したようでにこっと私に笑いかけて言う。
「……うかちゃん、よろしくね。」
小倉さん、また食べ物を食べてる……。いいのか?
先生に目で訴えかけても気づかない。
注意だって、できるのにしていないんだからまぁいいか。
 ――下校。
慣れない空間の中に居るとやっぱり疲れるな。
 早く帰ろう……。 
ふと気が付くと人だかりが見えた。何に集まっているんだろう?
「!」
そこにいたのは、校門によりかかっている誰かを待っている風に見える九条君だった。
自分の周りに人が集まっているのに気にしておらず、読書をしていた。
九条君は私に気づいたようでこっちに来る。
――まさか待っていたのは私……!?
九条君ちょっと待って、ここで私に近づくのは目立つから。
と目で訴えかけているのにこちらに来る。
 あーあ……。
「日高さん、一緒に帰ろう?」
「う、うん。」
すごく、気まずい……。というか視線がイタイ。
周りの人たちの話し声が聞こえる。
「日高ってもしかしてあの大財閥の一人娘?」
「ってか特待生と学年首席が一緒に下校ってどういう関係?」
「あの子って今日、転校してきたんでしょ?怪しくない?」
とヒソヒソと話しているのが聞こえてくる。
 あぁ、初日から失敗した――。
「どうしたんだ?浮かない顔して、悩み事か?」
九条君が一つは失敗した理由なんだけど、と睨み付けても気づかないんだからなこの人は。
そのことは抜かして他の事を九条君に話したら――。
「そんな反応されたのか…。でも大丈夫だよ、僕とか小倉さん、色んな人がちゃんと日高さんのことを分かってるから。」
焦らなくてもちゃんと分かる人はいるよと優しく微笑んでくれる。
九条君はなぜこんなに優しいんだろう?その発する言葉が不安を打ち消してくれる。
 また君に救われた。
――ありがとう。
そういうのはなんか照れくさいから心の中で九条君を見ていった。

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