完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

カオスヘッドな僕ら【連載終了】
作者: むう  (総ページ数: 51ページ)
関連タグ: コメディー 未完結作品 妖怪幽霊 現代ファンタジー 天使 
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~ 30~ 40~ 50~

*11*

 〈チカside〉

 
 やばい、やばい、やばいやばいやばいやばい。
 これは本気でヤバい。
 
 僕は耳まで赤くなり、目の前の相手を直視することも出来ずに視線を漂わせる。
 胸の鼓動がどんどん高くなり、息をするのも苦しくなり、初めての感覚に振り回される。

 あれから一日後の土曜日の朝。今いる場所は、とある子供部屋の一室。
 淡い色合いのカーテンやら、ベッドのわきに置かれてあるテディベアやら、床に敷かれてあるフワフワのカーペットやらからやたらと甘い香りがする。
 その香りをかぐたび、僕の心はちょっぴりくすぐったくなる。



 「も~緊張しすぎじゃのー、おモチくん」
 「だ、だだだだだ、だって………」
 「ほらほら、そんなところで固まっとらんと、こっち来て」


 ここは八雲の家であり八雲の自室である。
 幽霊の僕は、行くところもなく低迷していたんだけど、八雲が家に招待してくれたのだ。
 それについては物凄く嬉しいんだけど、なんというか、その……、その………。


 「なあなあ、うちの言った通りやったろ?」


 八雲の頬についている白札を取れば、収入も入るし仲良くなれる。
 そう言ったクコが二ヒヒッと愛嬌のある笑みを向ける。
 確かに、普段なら女子と必要最低限の会話しかしない僕が、こんな簡単に青春ぽいことを。
 感謝していいのか、どうなのか、複雑な気もち。

 
 「ホ、本当に、良かったの? お母さんとかは……」
 「ああ、いいのいいの。うち、父子家庭だから」


 あ、そ、そうなんだ……。
 急に聞いて、悪いことしちゃったな。
 そう言うと、「気にしないで」と八雲はニッコリとほほ笑む。
 笑うとえくぼが出来て、僕はそんな彼女がとてもかわいいと思った。


 「うちのお父さんは写真家で、ずっと外国にいるんだ」
 「え、ってことは一人暮らしなの?」
 「ううん、あんちゃんと、妹と、紗明との四人暮らし」


 あ、そっか。八雲って、妹がいるんだっけ。
 あんちゃん、ってことは、もしかして妹が二人いるの?


 「ああ、違う違う。あんちゃんっていうのは、お兄ちゃんってことだよ」
 「あ、あんちゃんって、そういう意味か」
 「そうそう。方言っていろいろあるけん楽しいよね」

 八雲の妹ちゃんは、かのんちゃんというらしい。
 漢字でどう書くのかと尋ねたら、『叶愛(かのん)』と書くようだ。キラキラネーム、恐るべし。
 ちなみにお兄さんの名前は『翔(かける)』。
 地元広島に住んでいたのだが、大学受験して今はこっちの大学に通っているらしい。

「おモテくんは、兄弟おる?」
「うん、同い年の弟が1人」
「双子ってこと? いいなあ、憧れるわー」

 双子の弟がいるのは別に嫌じゃない。
 ただ、生前、朔ー弟に何も返せなかった。
 朔、今何をしているんだろう。悲しんでないといいな。


 あれ、というか………紗明は、どこ行った?
 いつもなら、「おーゴキブリ。アルジ様に何か言ったらマジ許さねえかっな」とか言うのに。
 彼が家にいるなら、まさにライブハウス並みにうるさいと思ったんだけど……。


 むしろ、凄く静かだ。
 あれ、紗明、もしかして逃げた?


 「ちゃうちゃう。あそこにおるよ」


 そう言ってクコが一角を指さす。
 そこ―部屋の隅にいたのは、なぜか体育座りをしてズッド―――――ンと落ち込んでいる死神。
 

(あ、あれ、こいつ本当にあの紗明か?)

10 < 11 > 12