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*紹介文/目次*
ごめんなさあああい!
何か削除するとか言ってて悪いんですけど、やっぱ書くことにしました!
それに基づき、八雲ちゃんの方を削除します。
あ、あとちょっと作者の罪悪感から、W主人公の名前を悠から八雲に変えましたw
それでは続きです。お待たせしました。
********************
時間と言うのは毎日すごいスピードで流れている。
歩道を歩きながら、僕は西の空の美しい夕焼けに心を奪われる。
鳥が家へ帰っていくのを確認し、自分はどこにも行く当てがないことに肩を落とした。
「どないしたん百木くん」
「別にどうもしないよ」
と言って、僕はある建物の前で足を止めた。
数年前に建てられたばかりの木製の二階建てアパートで、ベランダで洗濯物が風に揺れている。
きっと今頃みんなは、テーブルを囲んで夕食でも食べているのかな。
それとも、少しは死んでしまった息子のことを思ってくれているのだろうか。
「どないしたん百木くん」
二回目、クコが尋ねて来たので、僕は答える。
「うち、ここだから」
「……誰だって、いずれ一人になる。寂しい時は言うたってくれてええよ。君の担当になってしもた以上、見捨てるっちゅう様なことは出来ひん。話し相手にもなったるし、膝や胸に飛び込んでくれてもいいんよ?」
……おい、お前サラッと変な文章を挟むのやめろよ。
呆れと怒りで開いた口が塞がらない僕に、クコはニヒヒッと意地悪な笑みを浮かべ、
「えっち」
「黙れアホ天使」
ウキャキャキャと目の端に涙を浮かべる天使と付き合うのは結構疲れる。
だからと言って一人では何もできないところが、人生の難しさだ。
そんなことを考えていると、横断歩道の向こうから女の子が一人、こちらへ歩いてくるのが見えた。
大人っぽい濃紺のブレザーに、やたらと丈の短いスカート。
確かあの制服は、駅前の牡丹(ぼたん)ヶ丘中学の。
「百木くん、折り入って頼みたいことがあるねんけど」
「何?」
「あの子のほっぺに、何か白いものが貼りついてるように見えるんやけど」
言われて、注意深く女の子を観察すると、確かに左の頬に白い正方形の札が貼られてある。
これまでのクコの説明と情報を照らし合わせれば、あれの正体は。
「ということで、【ボッチざまあみやがれ】の百木くん!」
「何がボッチざまあみやがれだ」
「あ、やっぱり、【足が短い百木くん】の方がええやろか」
「どうにもならない部分だよ!!」
「ハイハイ。早速出番やで。コッソリ後から忍び寄って白札回収。そしたらあの子と仲良くなれるかもしれんし、収入も入るで! 夏のWサービスや!」
何だよ夏のWサービスって。
服屋のセールみたいに言うなよ。
ん? 収入? 収入が入るのか?
「白札は一つにつき三万、黒札は十万やったかな。回収して、担当の天使に渡すと、天界から毎月労働に見合った分だけお金が……」
「ホワイト会社マジ感謝ですわ!!!」
こうして僕の初めての札狩がスタートすることになったのだが、僕はまだこの先待ち受ける事件を知らない。
お金の話題でテンションが上がる子供である僕は、早速女の子の背後に忍び寄り、ちょっと失礼して白札をはがそうと――。
そう思い、彼女の頬に手を伸ばそうとした直後、
バァァァァァァァァァァン!!
という大音量と共に、僕の体は宙に舞った。
そして、数メートル先のガードレールに無様にぶつかる。
「百木くーん!」
珍しくクコが自分の身を案じてくれている。
何か、むなしさが二重に増してくるのが悲しい。
そんな僕を横目でチラッと見やると、女の子は腕を組み、言った。
「汚ねー手でアルジ様に触んじゃねーよ、人間。ケッ」
……………は??
ちょ、これ、どういうこと―――――――!?
10~ 20~ 30~ 40~ 50~
*11*
〈チカside〉
やばい、やばい、やばいやばいやばいやばい。
これは本気でヤバい。
僕は耳まで赤くなり、目の前の相手を直視することも出来ずに視線を漂わせる。
胸の鼓動がどんどん高くなり、息をするのも苦しくなり、初めての感覚に振り回される。
あれから一日後の土曜日の朝。今いる場所は、とある子供部屋の一室。
淡い色合いのカーテンやら、ベッドのわきに置かれてあるテディベアやら、床に敷かれてあるフワフワのカーペットやらからやたらと甘い香りがする。
その香りをかぐたび、僕の心はちょっぴりくすぐったくなる。
「も~緊張しすぎじゃのー、おモチくん」
「だ、だだだだだ、だって………」
「ほらほら、そんなところで固まっとらんと、こっち来て」
ここは八雲の家であり八雲の自室である。
幽霊の僕は、行くところもなく低迷していたんだけど、八雲が家に招待してくれたのだ。
それについては物凄く嬉しいんだけど、なんというか、その……、その………。
「なあなあ、うちの言った通りやったろ?」
八雲の頬についている白札を取れば、収入も入るし仲良くなれる。
そう言ったクコが二ヒヒッと愛嬌のある笑みを向ける。
確かに、普段なら女子と必要最低限の会話しかしない僕が、こんな簡単に青春ぽいことを。
感謝していいのか、どうなのか、複雑な気もち。
「ホ、本当に、良かったの? お母さんとかは……」
「ああ、いいのいいの。うち、父子家庭だから」
あ、そ、そうなんだ……。
急に聞いて、悪いことしちゃったな。
そう言うと、「気にしないで」と八雲はニッコリとほほ笑む。
笑うとえくぼが出来て、僕はそんな彼女がとてもかわいいと思った。
「うちのお父さんは写真家で、ずっと外国にいるんだ」
「え、ってことは一人暮らしなの?」
「ううん、あんちゃんと、妹と、紗明との四人暮らし」
あ、そっか。八雲って、妹がいるんだっけ。
あんちゃん、ってことは、もしかして妹が二人いるの?
「ああ、違う違う。あんちゃんっていうのは、お兄ちゃんってことだよ」
「あ、あんちゃんって、そういう意味か」
「そうそう。方言っていろいろあるけん楽しいよね」
八雲の妹ちゃんは、かのんちゃんというらしい。
漢字でどう書くのかと尋ねたら、『叶愛(かのん)』と書くようだ。キラキラネーム、恐るべし。
ちなみにお兄さんの名前は『翔(かける)』。
地元広島に住んでいたのだが、大学受験して今はこっちの大学に通っているらしい。
「おモテくんは、兄弟おる?」
「うん、同い年の弟が1人」
「双子ってこと? いいなあ、憧れるわー」
双子の弟がいるのは別に嫌じゃない。
ただ、生前、朔ー弟に何も返せなかった。
朔、今何をしているんだろう。悲しんでないといいな。
あれ、というか………紗明は、どこ行った?
いつもなら、「おーゴキブリ。アルジ様に何か言ったらマジ許さねえかっな」とか言うのに。
彼が家にいるなら、まさにライブハウス並みにうるさいと思ったんだけど……。
むしろ、凄く静かだ。
あれ、紗明、もしかして逃げた?
「ちゃうちゃう。あそこにおるよ」
そう言ってクコが一角を指さす。
そこ―部屋の隅にいたのは、なぜか体育座りをしてズッド―――――ンと落ち込んでいる死神。
(あ、あれ、こいつ本当にあの紗明か?)