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カオスヘッドな僕ら【連載終了】
作者: むう  (総ページ数: 51ページ)
関連タグ: コメディー 未完結作品 妖怪幽霊 現代ファンタジー 天使 
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 皆さんこんばんは。カオ僕の可憐なヒロイン(?)栗坂八雲(くりさかやくも)です。
 広島生まれ東京育ちのごくフツーな生活を送っていた私は、ある日道端に倒れている謎の男を見つけ。
 このまま死なれたら困るわと家に呼び(!?)おにぎりを食べさせてあげたのが全ての始まりでした。
 
 まさかその男が死神で、札狩(ふだかり)っていうカッコいい仕事をしてる割に馬鹿で、どうしようもなくめんどい奴なんて考えてもなかった。
 そしてそのまま時が過ぎ、現在私はなぜか。



 空を飛んでいます。
 それも、スマ〇ラみたいにバビュンッと光の速さで……というわけでもなく。
 いうならばタンポポの綿毛が子孫を残すべく風に身を任せるような感じで、フワ~~ッと浮いている。



「………バァァンッってバクハツさせる言うてたやん……あれ嘘だったん?」


 背中に生えたちっちゃな羽根を必死に動かして飛んでいる相棒の死神・紗明(さあき)の表情を盗み見ると、彼は何とも言えないような苦い表情で目をそらした。


「なんか、いざやってみたら『あれ? できねえな? およ?』と思いまして……」
「……………………………馬鹿なの?」
「いや、そんな訳ないと思うっスけどねぇ」


 十分バカなんだよ。だいたい、術の風力で自分の身体&主人の身体を持ち上げるなんて不可能だ。
 まぁ、非常に亀スピードではあるが着実に目的地へ向かっている点だけ、ある意味助かったかもしれないけど。

 眼下に広がる街を眺めながら、どこかにターゲットである朔(さく)くんの姿がないか確認。
 だがしかし、ミニチュアのような細々とした風景で人を探すのはかなり難しい。
『人がゴミのようだ』で有名な某映画の悪役の気持ちが分かった気がする。

 人間の三十倍目がいいという死神にサーチを任せ、私は決して乗り心地がいいとは言えない彼の背中の上で小さく伸びをする。


「天界の学校では、次席を取るくらい頭ベリー良かったんすけどね」
「嘘つけぇ!」
「嘘じゃないですもん! ホント―ですもんッッッ!!」


 心の底からそれはないと思った。その気持ちの強さが叫びに変わり、否定された紗明はムッとして言い返す。

「クコの方がはるかに俺より劣ってましたね! だいたい俺とクコとユルミスだったら、クコ<俺<ユルミスの順で頭いいんすよ」
「あんた次席ってさっき言ったじゃん!!!」


 一番じゃないやん!
 そもそも年下のユルミスちゃんに負けてるじゃん。絶対嘘。認めない。絶対嘘だ。


 と、ガヤガヤと言い争っていると、紗明がなにかを発見したようだ。
 話を止め、ある一点をじっと凝視する。目を凝らしてみると、ファミマの駐車場にゴM……(ゴホンゴホン)男子二人の姿があった。朔くんと、噂の男の子のようだ。


「……どうします? 右ストレート決めて逃げます?」
「せんでいいから、とりあえず着地して」
「アイムワカッタ」
「あんたの英語どうなってんの?」


 フワ~~。


 着地の際も、スーパーヒーローみたいに高いとこから土ぼこりを立てて……というのではなく、あくまでフワリと、後遺症も着地の衝撃も全く気にしなくていい、超超安全な降り方でした。保険料もかかりません。


 ストッッ。


 背中から地面に降りた私は、急いで辺りを見回す。
 入り口付近で、朔くんと例のおモチくんの友達(自称)・享介(きょうすけ)くんがコーラを飲んでいる。ときどきお互い談笑したりと、仲睦まじい様子である。


 ………勘違いだったのだろうか。
 今の今まで亨介くんが、黒札を狙う敵だと思い込んでいたけど、本当におモチくんの友達なのかもしれない。ただ普通に家に行きたいから声をかけた、ただそれだけのことかもしれない。


 ちょっぴり肩透かしを食らったような、何とも言えない虚無感を抱いた。
 突き出した右手は何も掴むことなく空を切る。



「あ」


 と、こちらに気づいた朔くんが視線を向ける。来てくれたのかと、連絡してよかったというような、ほっとした顔で。
 そして、隣の亨介くんを窺う。さっきまで穏やかだった彼の口元は、きつく結ばれていた。目つきは鋭くなり、目の奥の光が消える。

 明らかに数秒前とは異なるオーラに、私も、そして紗明も無意識に肩に力を込めた。
 彼を直視できない。全身から放たれる圧に、心臓がおびえているんだ。


「あぁ……朔くんのお友達ですか? お世話になります」


 礼儀正しく腰を折った亨介くんの言葉は、どこかざらついていた。言葉にできない恐怖があった。

 大きく深呼吸をして、必死に私は冷静を装う。
 今まで紗明につき合って退治してきた霊たちとは明らかに違う。現時点でのラスボスは、この子だと確信する。


「なんでそんな、幽霊でも見たような顔をしているのかな? ………ひょっとして」



 僕が怖いのかな?
 と、ぞっとするような低い声で囁く。
 

 ヒュッと口から変な息がもれた。
 いつもは殊勝な紗明でさえ。いつも明るい朔くんでさえ、その声を聞いた途端血の気がスッと引いた。

 固まる一同を一瞥して、ポケットに手を突っ込み亨介くんが目の前にあるものをかざす。
 良く知っているそれは、朔くんの頬にもついている、悪霊をおびき寄せる札、黒札だ。



「………………ごめんけど、君たちには邪魔されちゃ困るな」
 

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