コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- なるやん、時々へたつん。【シリアス編進行中】
- 日時: 2016/01/04 11:34
- 名前: 彼方 (ID: dzyZ6unJ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=38844
- この小説はナルシスト×ヤンデレの2人の、よく分からないイチャイチャ(?)物語と、主人公×ツンデレのラブコメです……読めば分かります!!← 
 とか言ってますけど、なるやんの部分少なめです←
 どっちかというと、へたつん、時々なるやんですw というか、その四人以外のラブコメも多めです←
 気が向いた時に更新するので、更新止まったら「あ、この作者飽きたんだな…」とでも思っといてくださいw
 ≪2014.12/30執筆開始≫
 +゜*。:゜+.゜目次+゜*。:゜+.゜
 キャラ紹介>>01
 オリキャラ応募用紙>>07
 プロローグ1「なるへた」
 >>02>>03>>04
 プロローグ2「やんつん」
 >>05>>06
 第1話 「俺じゃ釣り合わないから」
 >>10>>11>>12>>13>>14
 第2話「鈍感恋模様」
 >>17>>18>>21>>24
 第3話「君とスポーツバッグ」
 >>25>>28>>29>>30>>31
 第4話「転校生トライアングル」
 >>32>>33>>34>>35>>38
 第5話「きっと恋は変わってく」
 >>43>>44>>45>>46>>47>>50
 第6話「恋心に変わった日」
 >>51>>54>>55>>56>>57>>58>>59
 第7話「首吊りなんかじゃ救われない」
 >>61>>62>>63>>64>>65
 第8話「あっかんべをあの日のように」
 >>66
 《祝、参照1000超え 2015.12/30》>>60
 ゜・†。+゜お客様゜・†。+゜
 椎名さん >>08>>15すごい良いキャラありがとうございます!!!ヾ(*´▽`*)ノ
 春音>>19>>26>>40ボクっ娘&可愛い系男子キャラありがとΣb( `・ω・´)グッ
 むむさん>>22ハイキュー良いですよね(((
 四之神綾芽さん>>36ハイキュー好きがいてうれしいです!!(そこじゃない)
 正義さん>>39マトモなキャラありがとうございます!!アレンジしがいが(((((
 てるてる522>>48>>52久しぶり&ありがとう!!…φ(・ω・*)
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
- Re: なるやん、時々へたつん。【理系男子のオリキャラください←】 ( No.63 )
- 日時: 2016/01/02 14:37
- 名前: 彼方 (ID: z5Z4HjE0)
- 今日初めて外を見て、驚く。もうとっくに日は暮れていた。 
 あたしの隣には望と菜々架もいて、気付けば友哉のお母さんも座っていた。
 お母さんは友哉の手を握り、「神様……」と囁きながら祈っていた。
 「……何で…………?」
 あれから初めて、あたしは声を出した。およそ声とも言えないほど、息が多く混ざった声だったけど。
 そこでようやく、思い出す。
 望も菜々架も、まるでこのことを分かっているかのような勢いで焦っていたことを。
 「…………菜々架」
 あたしが呼びかけると、赤くなった目で菜々架が振り向く。
 「…………後でちゃんと、全部話す、って菜々架言ってたでしょ?…………何で、友哉は……」
 菜々架は、はっとした顔になり望としばらく視線を交わした。
 望は、魂をどこかに置いてきたような顔で、徐に頷いた。
 「………そうね、全部話しましょうか。桃音、私と望と友哉は幼なじみでしょう?」
 「そう、だけど……」
 今更それがどうしたっていうのか。
 「あのね。実は幼なじみって________もう一人、いたの」
 「……もう一人、いた……?何で過去形、なの?」
 過去形、なんて。それじゃまるでその人が____
 菜々架は頷いて、言った。
 「…………その子____日下部 雛って言うんだけど____」
 「……言うん、だけど?」
 菜々架は一度大きく息を吸った。ふーっと口で長く吐いてから、あたしの目を見て告げた。
 「………………死んだの。5年前、小6の時に。それで、雛の命日はちょうど今日なの。
 元々、重い病気に罹ってたのよ、雛。でも、病気で死んだ訳ではないの。
 ________雛、自分がもう永くないって悟って、親に迷惑がかかるって思ったのでしょうね。…………自殺したわ。それも、病室で首を吊って」
 頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。自殺した、それも首吊り、ってそんなの。
 「………………でも、幼なじみが亡くなったのは、菜々架も望も一緒でしょ?何で友哉は____」
 菜々架も望も、そんなに自殺するほど参ってるようには見えなかった。
 むしろ、参っている友哉を支えているような、そんな感じだった。
 菜々架は「それはね____」とまた口を開いた。
 「実際に首を吊った雛を見たのは、友哉だけなの。雛の親ですら、見ていないわ。
 それと、友哉は雛のことが好きだったの。雛も友哉のことが好きだったわ。雛ったら、私が友哉に嫉妬してしまうくらい、仲が良かったもの。
 それと何より____、友哉、雛が首を吊る数分前に、雛と話していたから。それで、友哉が一旦病室に忘れ物をして戻ったらしいのだけど、その時には、もう____」
 菜々架がそう言いながら目を伏せる。
 「きっと友哉は、雛が自殺したのは自分のせいだって責めてるのよ。自分が気付いて止められていたら、自分が雛が首を吊る前に病室に戻ってきたら____って」
 自分のせいで幼なじみ、それも好きな人が自殺したなんて、とても想像がつかないほどに辛いことだろう。
 『恋はしたくない』____友哉はそう言っていた。
 それはきっと、『好きな人をまた助けられないんじゃないか』なんていう、トラウマから来る思い込みによるんじゃないかな。
 「…………オレ達は3人だけど、友哉はこれを、1人で何年も抱え込んでたんだよね。
 ……オレも菜々架も、しばらく雛が自殺だってこと知らなかったんだ。病気で死んだんだと思ってた。友哉が言わなかったら、きっと一生知らないままだった」
 後悔するように、静かに望が呟く。
 「………………友哉、前にも一回自殺を図ったことがあったんだ。中3の時、アパートの屋上から飛び降りて」
 中3の時、と言われて思い出す。
 友哉は中3の同じ時期、しばらく休んでいたことを。それで、ようやく来たかと思ったら、足を骨折していて。
 「…………じゃあ、中3の時、足骨折してたのは……?」
 「…………奇跡的だったんだ。落ち方が悪かったら即死だった」
 望が婉曲的に肯定する。
 「……信じられない。……だって友哉、いつも普通に笑って、とても病んでるようになんて見えなくて……ッ」
 あたしがそう涙を滲ませると、望がゆるゆると首を振りながら言う。
 「…………きっとそれは、お母さんとオレと菜々架に心配かけないため、だったんだ。だってオレ、今日見つけちゃったから」
 「……何を……?」
 あたしがそう言うと、「……桃音は見なかった?」と望が重い声色で問う。
 「部屋の隅に山積みになった、睡眠薬」
 「……睡眠薬、がどうかしたの?」
 睡眠薬なんて、ただ単に、眠れないだけじゃないんだろうか。
 しかし望は重たい表情で言う。
 「____聞いたことない?『オーバードーズ』って」
 「……薬の過剰摂取のこと、だったかしら?」
 菜々架の呟きに、望が頷く。過剰摂取なんて、明らかに体に害がある。下手すれば、死んでしまうんじゃ____
 「あれは明らかにそれを狙ってる量だったよ。だって睡眠薬2、3箱なら分かるけど……10箱以上あったのは間違いなかった。20箱くらいはあったかもしれない」
 「…………そんな……」
 信じられない、それしか言えない。
 ____どうしてあたし、気が付かなかったんだろう。
 きっと友哉はとうに限界を超えていて、それでも皆とふざけてみせていたんだろう。誰にも心配をかけないために。
 そうだ、そもそも、昨日あんな質問をしてきた時点で気付くべきだった。
 あたしはただただ両手を組み合わせて祈った。
 お願い、目を開けて。
 「…………友哉ごめんね、気付けなくて……ッ」
 あたしが昨日気付いていれば、友哉は首なんて吊らなかったかもしれない。
 あたしのせいだ。
 ここで友哉に死なれたりなんかしたら、あたしはどうすればいい?
 自責の念と後悔で押し潰されて死んでしまいそうだ。
 こんな苦しい気持ちを、友哉は5年間、たった1人で抱え込んでいたんだ。誰にも迷惑をかけないように、何でもないふりをしながら。
 「……桃音のせいじゃないよ。オレも菜々架も、気付けなかったんだから。むしろ、オレ達こそ気付いて然るべきだった」
 望はあたしを気遣うように呟いた。両手でズボンを握りしめて、後悔に暮れるように俯いていた。
 余程強く握りしめているんだろう、その握った手は、細かく震えていた。
 幼なじみを2度も自殺で喪うかもしれない、そんな恐怖がどれほどのものか、あたしには想像もつかない。
 「…………友哉の馬鹿……ッ」
 菜々架はそう零した。頬には雫が伝っていた。
 怒り以外の彼女のネガティブな姿を、この時あたしは初めて見た。
 いつも望さえいればそれでいい、そんな態度ばかり取っている菜々架だが、本当は友哉も大切なんだな、なんて当たり前のことを思い知らされた。
 隣に座る友哉のお母さんは、固く目を閉じて祈っていた。あたしよりも、ずっとずっと強く。
 あんたにはこんなに真剣に心配してくれる人がいるのに、何で。
 そんなに自分を責めなくても、悩みを聞いてくれる人はいるのに。自殺に至るまで、思い詰める前に何で相談しなかったの、友哉?
 「…………馬鹿ぁ……ッ」
 あたしはそう吐き捨てながら、眠ってるようにも見える友哉の顔を睨みつけた。
- Re: なるやん、時々へたつん。【理系男子のオリキャラください←】 ( No.64 )
- 日時: 2016/01/01 21:16
- 名前: 彼方 (ID: dzyZ6unJ)
- 「…………なぁ望、俺なんかが生きてていいのかな。幼なじみを助けられなかったのに」 
 ちょうど2年前、中3の時のこと。
 一緒に学校に行こうと友哉の家に行った時、友哉はドアを開けるなりそうオレに問いかけた。
 雛のことはもうすっかり乗り越えたんだろうな、と安堵していた矢先だったから、オレはなんて答えればいいか分からずに狼狽えた。
 友哉はそんなオレを見て哀しげに笑うと、オレを押し退けて階段へと向かった。
 「……え、ちょ、待てよ友哉っ!」
 オレの制止も振り切って、友哉は無心に階段を駆け上がった。
 訳も分からない恐怖が込み上げ、オレも慌てて友哉を追った。
 友哉が向かった先は、アパートの屋上だった。何でこんなところに、と何気なく前を見ると
 「友哉ッ!?」
 友哉は持ち前の運動能力を発揮し、腕の力とジャンプ力で高いフェンスを乗り越えていた。
 そして、フェンスの先にあるほんの少しのスペースに前を向くように立った。
 「何でッ……友哉、そんなとこいたら落ちるでしょ!?」
 当たり前のことを叫びながら駆け寄ると、「だな」と平然と返す友哉。
 「友哉、何でそんなとこいるのさっ!早まるなよっ!?やっぱり雛のことでッ?」
 友哉は少しの間も開けずに首肯した。
 直感でこれはやばいと感じ、血の気が引いた。
 「確かに!雛が死んだのは不幸だったっ!でも、あいつが死んだのってしょうがないじゃん、病気だったんだしっ!どこにも友哉の責任なんてないよねッ!?だから、友哉が死ぬ理由なんてどこにもないよッ?」
 何とか思い留まらせようとフェンスのこちら側から喚く。
 フェンスの向こう側から返ってきた声は、意外にも感情の薄い声だった。
 「…………望、今まで黙ってたこと言ってもいいか?」
 「いいよ!いくらでも言っていいから!自殺するのだけは絶対やめろ馬鹿野郎っ!」
 オレが食い気味に言うと、友哉は「あのな」と驚くようなことを話し出した。
 「…………雛の死因って、病気じゃねえんだ。自殺なんだよ。病室で首を吊ってたんだ」
 「…………自殺……?」
 呆然と呟くオレに構わず、友哉は静かに続けた。
 「____俺さ、雛が死ぬ数分前まで話してたんだ。その時雛は俺に言ったんだよ。
 『友哉、ひな、生きてると迷惑だよね?だって、ひな、どうせ死んじゃうのにお金と薬をムダ遣いしてるんだもん』
 って。俺さ、
 『そんなこと言うなよ、雛は死なねえって』
 としか言えなくてさ。雛の病気は治んねえって知ってたのに」
 友哉は空を仰いだ。
 「……あいつのこと、直接的じゃなくても、間接的に殺したのは俺なんだよ。俺は何だってできるって過信してたくせに、好きな奴1人助けらんねえ。俺、しばらく考えたけど、やっぱこんなクソ野郎が生きてていい訳ねえんだよ」
 友哉は、雛が死んでから性格が酷く変わった。
 前はオレに負けず劣らずの自信家で、自信過剰さと気の強さが一番の取り柄みたいな奴だった。
 そして自信を持つに値するだけの、腕っ節も頭の良さも人気もあった。
 例えるなら、ガキ大将みたいな奴だった。今もだが、オレはこの頃から友哉に敵わなかった。
 今の友哉しか知らない人からすれば、とても信じられない話だろうが。
 今の友哉は、雛が死んだことを自分のせいだと責め、どんな奴より自信のない、卑屈な奴になってしまった。
 きっと友哉は、自分が何より嫌いになってしまったんだろう。
 友哉はしばらく言葉を切り、やがて続けた。
 「俺時々、夢見るんだ。
 『友哉は幸せそうで良いよね。ひな、皆のために死んだけど、まだ生きたかったな』
 なんて、にこにこしながら雛が俺に言うんだよ。まるで責めるみたいに。で、後ろは病室で、首を吊った雛が俺を見てるんだよ。何も言わずに俺を責めてんだ」
 友哉が、はは、と笑う気配がした。乾いた笑いだった。
 「知ってるか、望。首吊り死体ってすげえ綺麗なんだぜ。白目剥いてること以外は、とても死んでるように見えねえくらい。でも、舌がだらんと出てるんだぜ。あっかんべをしてるみたいに。
 怖えとか不気味っつーより、おかしいんだ。これが死体か、って言いたくなる感じでさ。でも思い出すと、鳥肌立つんだわ。全然怖くねえのに死ぬほど怖えんだよ。
 雛の夢見る度にそれが頭っから離れなくて、毎回食ったもん全部戻しちまって。もう無理なんだわ俺。この先生きていける気がしねえ」
 そこで友哉が初めて、オレの方を振り向いた。
 友哉は、声を出さずに涙を流しながら、自嘲気味な笑みを浮かべていた。
 情けないことにオレは、息を呑むことしかできなかった。
 「なぁ望。1つ頼みがある。母さんに、今までごめんって謝っといてくれ」
 そして友哉は前を向いた。そして、一歩足を踏み出すように何気なく、飛び降りた。
 「…………友哉ッ!?……友哉ぁッ!」
 オレは下を見て、ただ友哉の名前を叫んだ。
 オレは何もできなかったんだ。この時も、さっき友哉が首を吊った時でさえも。
 友哉の言う通り、首を吊った後の人間は、すごく綺麗だった。とても死んでるように見えないくらい。
 でも、オレは友哉を見た瞬間、あることに気が付いた。舌が出てなかったのだ。
 それは友哉を降ろした後、すぐに分かった。友哉は口の中にティッシュを詰め込んでいたのだ。
 きっとこれは、実際に首吊り死体を見たからこその、友哉なりの気遣いだ。
 馬鹿野郎、こんなとこで気を遣うくらいなら、最初から死ぬなよ。
 きっと雛は首を吊って、母親やオレ達を救うつもりだったんだろう。
 そんな雛が、死んだ後に友哉を責める訳がない。むしろ、友哉を道連れに死んでいったことを後悔してるんじゃないか。
 きっと友哉は首を吊って、雛を救うつもりだったんだろう。
 自分のせいで雛は死んだ。なら、その自分が死ねば、雛は救われるはずだ、って。
 馬鹿野郎。どっちも大馬鹿野郎だ。
 首吊りなんかじゃ誰も救われないってのに。
- Re: なるやん、時々へたつん。【理系男子のオリキャラください←】 ( No.65 )
- 日時: 2016/01/02 21:19
- 名前: 彼方 (ID: vJF2azik)
- あれから10日ほどが経っても、友哉は未だ目を覚まさないままだった。 
 何度病室に来ても、友哉はまるで寝てるみたいな顔を見せるだけ。
 あたしと菜々架と望は、友哉のお母さんから話を聞いた。
 病院の先生は、
 『首を吊った後すぐに縄を解いたのが幸いして、一命は取り留めました。ですが、手足の麻痺、言語障害などの後遺症が残る可能性が大きいです。最悪の場合、このまま目を覚まさないまま植物状態、という可能性もあります』
 と言っていたらしい。
 首吊りっていうのは、窒息して死ぬ訳ではなく、脳に酸素が行き渡らなくなるようにして、死ぬものらしい。
 つまり友哉には、脳に酸素が行き渡らなかった時間が多少なりともある訳で、後遺症が残る可能性は大きいらしい。
 でもあたしは信じてる。友哉が何事もなく目を開けてくれることを。
 だから今日も病室に通い続ける。例え目を覚まさなくても。
 学校にはあれから行っていない。
 『学校には行くべきだよね』なんて3人で話すだけ話して、結局行く気が起きずに行っていないのだ。
 きっと他の人は不思議に思っているだろう。仲の良い4人が同時に10日も休んでいるんだから。
 毎日不安で不安で仕方なく、夜だって眠れず、睡眠薬を飲もうか真剣に悩んでいるくらいなのに。
 何事もないような顔で学校へ行き、何事もないような顔で友達と笑えるはずがない。
 今日は、しばらく病室に居座るつもりで朝食を多めに食べ、病院に来た。
 朝早くから病院に来たって何も変わりゃしない。どこかでそう囁く声がするが、無視をした。
 病室のドアを開け、また眠るように横たわる友哉がいるんだろうな、と思っていたあたしは、立ち尽くしてしまった。
 「………………桃音」
 友哉が身を起こしてあたしを見ていたのだ。
 あたしはしばらく動けなかった。
 それを見た友哉が、怪訝な顔で首を少し傾けた。
 「…………桃音?」
 その声で金縛りが解け、すぐに駆け寄った。
 言いたいことは山ほどあったが、喉元で交通渋滞を起こしていた。
 しばらくもがいたあとに出たのは、
 「……いっ……てえな、いきなり殴んなよ!」
 「うるさい阿保、黙って殴られときなさいよ馬鹿ぁッ!」
 腹パンだった。
 言いたいことが言葉になって出てこないので、もう5発くらい殴っておいた。
 あたしは、「……ってえ」としかめっ面で腹をさすっていた友哉の胸ぐらを掴んで怒鳴った。
 「あんたねぇ、どんだけ心配したと思ってんのッ!?あたしもそうだけど、菜々架と望もすっごい心配してたんだからね!?首吊る前に誰かに相談しなさいよ馬鹿っ!1人で抱え込まないでよッ!」
 友哉は戸惑うように視線を泳がせ、やがて控えめに笑った。
 「……ごめんな」
 「謝って済む問題じゃないっ!馬鹿友哉っ!」
 「そうだよな、悪りぃ」
 友哉は苦笑いをした。
 「で、後遺症みたいなのはないの?」
 そう心配すると、少し考え込んで友哉は言った。
 「手足が痺れてる気がするし、頭も痛えけど……しばらくしたらなくなる程度だろ。大丈夫」
 「……ふうん、あっそ」
 「聞いといて興味なしかよ……」
 興味ないふりをしたが、実際は安堵感で泣きそうになるのを抑えるので必死だった。
 よかった、本当によかった。このまま友哉が目を覚まさなかったらどうしようかと。
 「……あー、どうにもこの日になると鬱っぽくなっちまうな。____俺はもう大丈夫、心配かけて悪りぃ」
 バツの悪そうな、それでいて朗らかな顔で笑う友哉。
 それを見てあたしは、安心するというよりは疑問に思った。
 ____自殺するほど参っていた人間の表情じゃない。
 同じようなことは何度も思った。
 だって、いつも友哉は明るくふざけていた。なのに飛び降り自殺をしたり、オーバードーズを企てたり、首を吊ったり。
 もしかして、この表情もあたしに気を遣っているだけなんじゃないんだろうか。
 「…………ねぇ友哉」
 「ん?」
 あたしはこれを問うか少し悩んだが、結局口にした。
 「首を吊ったの、後悔、してる?」
 友哉の瞳に一瞬、泥のように濁った暗い色が宿った。
 しかし瞬きをした後には霧散していて、後悔の色だけが残っていた。
 「あぁ。しなけりゃよかったと「嘘つき」
 今のは絶対嘘だ。だって、一瞬友哉の瞳に宿った色は、後悔なんかじゃなかった。
 友哉の瞳は、動転したように揺れた。やがてすっと目を伏せると、片手で顔を覆った。
 「……………………何で分かった」
 絶望を押し殺したようなその声は、さっきまでとは全然違って、これが友哉の本心だと思った。
 「おかしいでしょ。首吊るくらい病んでる人間が、何事もなかったかのように明るく振舞ったら」
 「………………そうか」
 友哉は震える息を何度も吐くと、徐に言葉を紡ぎ出した。
 「………………俺さ、もう分かんねえよ。自分が死ななきゃいけねえのは分かってんのに、死ぬことすらできねえ。なら、俺は一体どうすりゃいいんだっつの…………」
 「何でっ……何でそこまで死ぬことにこだわるのよっ!?」
 あたしがそう聞いても、友哉は答えることはなかった。
 「雛って子の話なら、望と菜々架にもう聞いたわ」
 あたしがそう言うと、友哉は押し黙り、やがて呻き声のように囁いた。
 「………………嘘ッ____だろ……ッ?」
 しばらく友哉は固まっていたが、やがて乾いた笑いを零した。
 「なら、なおさら分かんだろ。……俺が雛を殺したんだぜ?俺何もできねえでさ。雛だって、何で自分は死んだのに、俺なんかが生きてんだって思って____」
 「それが分かんないって言ってんのよっ!」
 あたしは思わず怒鳴った。友哉が驚いたように顔から手を離し、あたしを見た。
 「雛って子が首吊る直前に話したのに、気づけなかったから自分が殺したのと一緒?だから死ぬ?……バッカじゃないのッ!?
 あんた分かってんのっ?その理屈でいくと、あんたがもし死んでたら、あたしがあんたを殺したことになんのよっ!?だって、あんたと最後に話したのあたしだもん。そうすると、あたしも死ななきゃいけなくなるのっ!
 ____ねぇ友哉。聞くけど、あんたが首吊ったのってあたしのせい?あたしがあの日あんたを止められなかったから首吊ったの?で、それなのに何であたしなんかが生きてるんだって、そう思う?」
 友哉は揺れる瞳であたしを見つめていた。やがて、緩く首を振った。
 「思う訳ねえよ、そんなこと。俺が首吊ったのは俺の勝手な事情で____」
 「そうよ、分かってんじゃないの。きっとその雛って子もそう思ってるわ」
 あたしが鼻を鳴らすと、友哉は黙って不思議そうにあたしを見つめた。知らない言葉を言われた子供のように、ぱちくりと目を瞬いて。
 不意に、友哉の頬に雫が滴った。
 友哉は、また片手で顔を覆って、嗚咽を漏らした。
 小さな子供みたいに。
 ダムが決壊したみたいに。
 身を震わせながら、友哉はいつまでも涙を流した。
 あたしはただ黙って、顔を覆っていない方の手を握り続けた。
 「………………なら、俺、生きてていいの?」
 ともすれば掻き消えてしまうほどの声で、友哉が問う。
 「生きてていいんじゃなくて、生きてなきゃ駄目なんでしょ馬鹿。あんただったら、自分が死んだ後に、自分の好きな人が不幸だったり、自殺したりしたらどう思う?
 ……あたしだったら絶対嫌よ。幸せになってもらわなきゃ、おちおち安心して眠りに就けないもん。
 ____きっと、思いっきり幸せになってやるのがその子にとって、一番だと思うわ。それでもそんなに償いたいなら、自殺なんかしないで、毎日墓参りでも行ってやりなさいよ」
 友哉は、箍が外れたようにしゃくり上げ続ける。
 「………………生きなきゃ、駄目で、幸せに、ならなきゃ、駄目」
 「そうよ。だからもう一生自殺なんて考えちゃ駄目だからねッ?」
 友哉は小さく頷く。そして、だんだん大きく、何回も頷いた。
 どれくらい経っただろう。
 しばらくして、少し友哉が落ち着いてきてから、顔を上げて友哉は笑った。
 「……桃音、ありがとな」
 その笑顔は、憑き物が落ちたように清々しく、陽だまりのように柔らかく、何より綺麗だった。
 その笑顔を見たら、どうしようもなく嬉しく切なくなって、あたしも我慢していた涙を何粒か流した。
 「……馬鹿友哉」
- Re: なるやん、時々へたつん。【理系男子のオリキャラください←】 ( No.66 )
- 日時: 2016/01/04 10:41
- 名前: 彼方 (ID: XM3a0L/1)
- さて、シリアス編長くなる、と言っておきながら案外短いなと思いませんでしたか? 
 実はですね、まだもう1話、全て友哉視点でお送りさせていただきます←
 まぁ予想はつくと思いますが、友哉視点ですから、7話より鬱っぽくなる可能性あります、ご注意ください←
 第8話「あっかんべをあの日のように」
 「友哉!見て見て!ひな、また絵描いたの!」
 手足を管に繋がれてさえいなければ、飛び跳ねそうな勢いで雛が絵を差し出す。
 何度も入退院を繰り返して、その度に管に身体中繋がれて、ベッドに縛り付けられるというのに。雛はいつでも無邪気だった。
 「絵?どれ____うっわ」
 雛の特技は絵を描くことだった。それも風景画。雛は色鉛筆だけで、色々な世界を写し出す。
 空を見ながら描いたのか、それとも想像で描いたのか。とにかくそれは、突き抜けるような青空の絵だった。
 絵の端の方には、窓枠らしきものも描いてあった。なら見ながらか、と思ったが、すぐにその考えを打ち消す。
 最近は曇ってばかりだった。晴れの日よりも雨の日の方が多いくらいに。
 「ねーえー友哉ー、黙ってないで感想言ってよ〜」
 気付くと、ハリセンボンみたいにぷくっと頬を膨らまして雛が見ていた。
 正直に言って、かなり上手いと思った。雛の絵の中でも、傑作なんじゃないだろうか。
 でも褒めるのは癪だったので、
 「まあまあじゃねえの?」
 なんて、見下すような笑みとともに言ってやった。俺は絵が下手くそだというのに。
 「友哉、自分よりひなの方が絵が上手いの、認めたくなくて意地はってんだぁー!」
 べっと舌を出して雛が言う。図星を指され、俺は言葉に詰まった。
 「うっ……うっせチビ!」
 「チビじゃないもん!背が低いだけだもん!」
 「それをチビって言うんだよバーカ!」
 「うるさいデカブツ!」
 「デカブツじゃねえよ!背が高いだけだし!」
 「それをデカブツって言うんだよバーカ!お返しだ!」
 しばらく馬鹿みたいに睨み合う。
 そして先に噴き出したのは雛だった。俺もつられて笑い出した。
 雛とはいつもこうだった。
 くっだらないことで喧嘩が始まり、それがチビとデカブツの言い合いになり、終いには両方笑ってうやむやになる。
 雛はかなり背が低かった。それは病気のせいではなく、ただ単に遺伝だ。俺は対照的に、この頃から背が高かった。
 雛のことがいつから好きだったのか。それは曖昧で、覚えていない。
 そもそも本当に恋だったのか。そんなことを聞かれたら、きっと俺は答えられないだろう。
 もしかしたら友愛だったのかもしれないし、親愛だったのかもしれない。
 だがどちらでも構わない。俺が雛を好きだったのは、そして雛も俺を好きだったのは事実だ。
 そんな雛の笑顔が曇り出したのは、いつ頃からだったろうか。
 「……雛?」
 「…………あ、ごめん。何でもないよ?」
 雛は時々、思い詰めたような表情で黙り込むことが多くなった。
 なんだと問い詰めても、返ってくる答えはいつも、「何でもないよ」。
 その理由は少し後、雛のお母さんからの話で悟った。
 「…………友哉くん、望くん、菜々架ちゃん。…………落ち着いて聞いてちょうだい」
 ある日、俺と望と菜々架は、雛のお母さん____おばさんの家に呼び止められた。
 ただならぬ空気を察し、俺たちは雛の家のリビングで、押し黙った。
 おばさんは、逡巡したように視線を彷徨わせたが、やがて口を開いた。
 「雛の病気、あるでしょう?」
 雛は、心臓が悪いそうだ。
 それで激しい運動もできず、すぐに心臓発作を起こしては、入退院を繰り返しているという。
 「…………あの病気ね?………………治らないらしいのよ。もって余命半年だと」
 風景が全て遠退くのを感じた。
 ナオラナイ。
 ヨメイハントシ。
 理解できない。
 理解したくない。
 いつまでもこの日々が続いていくんだと思っていた。
 いつまでも、雛が入退院を繰り返して、それでもやっぱり中学も高校も一緒に通えるものだと。
 『うっ……うっせチビ!』
 『チビじゃないもん!背が低いだけだもん! 』
 『それをチビって言うんだよバーカ!』
 『うるさいデカブツ!』
 『デカブツじゃねえよ!背が高いだけだし!』
 『それをデカブツって言うんだよバーカ!お返しだ!』
 こんな馬鹿みたいなやり取りを、中学でも、高校でも、続けていられるものだと思ってた。
 「嘘……」
 菜々架の声が聞こえる。望は驚いて、声も出ないようだった。
 「………………嘘だよなっ!?なぁおばさん!嘘だって言えよッ!」
 俺が怒鳴っても、おばさんは哀しい色を浮かべ、首を振る。
 「…………やだよ、そんなの……っ。雛が、死んじゃうなんて、やだ……っ」
 望がぼろぼろと涙を零す。
 「…………雛っ」
 俺は気付けば、家を飛び出していた。
 「友哉っ!?」
 驚いたような望の声が背中に飛んでくるが、無視して俺は走った。
 気付けば、俺は雛の病室の前にいた。
 雛に会って、俺はどうするつもりなんだろうか。まさか、「お前もうすぐ死ぬんだってよ」なんて言える訳もない。
 しばらく俺は悩んだ。
 その悩みを断ち切ったのは、雛の声だった。
 「…………誰か、ドアの外にいる?」
 俺は思わずドアを開けた。雛はほっとしたような笑みを浮かべる。
 「なぁんだ、友哉か。どしたの?」
 俺はなんて言っていいか分からず、ただ雛を見つめた。
 ただ雛の顔が見たかっただけ、なんて恥ずかしいこと、言える訳もない。
 結局俺は、
 「…………お前の絵、見たくなったから見せろ」
 なんて頓珍漢なことを言った。
 雛は驚いたように目を丸くし、やがて、にへらっと笑った。
 「ふっふーん。友哉、ひなの絵のファンだもんねー?」
 「ちっ、ちっげぇよ!お前のへったくそな絵がたまには見たくなっただけだし。だって絵なら俺の方が上手いじゃん」
 「まったまたー、強がらなくていいんだよー?ひなはちゃーんと分かってますからぁ。ていうか友哉、絵苦手でしょ?」
 「あぁ苦手だよ、それでも俺の方が上手く描けるし?俺何でもできちゃう天才だから」
 「あーあーまた始まった、友哉の自慢癖」
 雛はぷくっと頬を膨らませつつも、絵を取り出してくれた。
 その絵は、夏祭りの絵だった。
 青い甚平を着た黒髪の少年が、自慢するように、袋に入った金魚を持った手を突き出している。……というかこれ、
 「……俺?」
 雛は途端に顔をぱっと輝かせた。
 「あったりぃ!ね、どう?友哉に見える?」
 「いや、俺もっとかっこいい」
 なんて言ったが正直、とても似てると思った。ただ認めるのが癪だっただけで。
 「はいはいそうだねぇ。でも、似てるでしょっ?だって友哉、『俺?』って言ったもんねー!」
 何だ、と思った。当然の如く、雛はいつも通りだった。
 余命半年なんてアテにならない。だってテレビの中じゃ、余命を乗り越えて長生きをしている人ばかりだ。
 途端に、悩んでいることが馬鹿らしくなった。
 ずっとこの日々が続くはずだ。俺はそう思った。
 ____この言葉を聞くまでは。
 「ねぇ友哉。ひな、また友哉の甚平姿見たかったな」
- Re: なるやん、時々へたつん。【シリアス編進行中】 ( No.67 )
- 日時: 2016/04/03 17:47
- 名前: にゃー (ID: HT/LCIMm)
- 失礼します。もし、間違いでしたらすみません。 
 ss掲示板にて、「苦すぎるカフェオレ」を書いた方でしょうか。
 僭越ながら申し上げますと、ボカロの「ミルクティー」という歌に
 ひどく酷似していました。パクリに近いというか、偶然ではないくらい
 似ていました。一度聞いてみて下さい。偶然とは考えにくいです。
 事が大きくなる前に記して置きます。人違いでしたら申し訳ございません。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
この掲示板は過去ログ化されています。

