コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- Memory Dust(学園ミステリー)
- 日時: 2012/07/11 00:29
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/
・あらすじ
「君は、生きているの?」「私は、私を殺せる人を探しにここへ来た」——それが僕と彼女たちとの出会い。そう、暴君「水無月アスカ」とツンドラ転校生「時雨悠」との……。——あっ、ついでにアスカの双子の弟「水無月アキト」も忘れずに……。
・当作品は超常現象交じりの学園ミステリーとなっていますご了承ください。
・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)
※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m
・亡霊姉弟篇
第零章 〜数奇な運命の出遭い〜 >>01
・死にたがりの少女篇
序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の一 >>02
序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の二 >>03 >>04
序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の三 >>05 >>06
序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の四 >>07 >>08
第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の一 >>09 >>10
第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の二 >>13
第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の三 >>14 >>15
第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の四 >>16
第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の五 >>17
第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の六 >>18
第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の七 >>19
第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の一 >>20 >>21
第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の二 >>22 >>23
第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の三 >>24 >>25
第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の四 >>26 >>27
- 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の六 ( No.18 )
- 日時: 2012/06/15 21:18
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/11/
「……死にたい」
女王様の私室で虚しく木霊する僕の嘆き……。
あの後、乱心した僕を数人がかりで自席まで送り届け。
どこから取り出したか定かではない縄で「また飛び降りないように」と、しっかりと椅子に固定させられてしまい。
固定されながらも僕は大声を上げて、もがき続けていたのだが、結局力尽きてしまった。
——ただ単に諦めてしまっただけだが……。
「……何、意味の分からない事を言ってるのよ。——シゲルはもうとっくに死んでいるじゃない」
「いや、姉貴……。キサラが言っているのはそっちの意味の『死』じゃないと思うぜ」
「まぁ〜どっちでもいいわ。それよりも——時雨悠、なかなかやるわね……」
「……ただのキサラの自滅じゃね?」
僕の気持ちを後目に水無月姉弟は淡々と語り合う。
捕縛されている間に僕なりに状況整理をしていて、気付いた事があった。
それは、転入生からの理不尽な暴力を受けてしまった所から色々とややこしい事になってしまっていたようなのだ。
理不尽な暴力を受けて気を失い。
目覚めた僕はどうやら記憶を失っていたようで。
何て言うか——アキトを巡ってアスカと勝負していたらしい……。
その事を思い出したのが、アスカとの勝負で飲んだ謎の液体のおかげなんだが……。
——出来ればBL展開の部分だけは思い出したくなかった……。
「はぁ〜」と、大きく嘆息をした僕の嘆きは女王様の私室に虚しく響き。
さらなる虚しさに自分の身体が苛まれてしまった。
「で、あの子から何か聞き出せたんでしょうね?」
「……僕の現状を見れば言わずとも分かるだろ?」
この言葉にアスカは目を凝らし、まじまじと僕の事を見つめ始めた。
今の僕の右頬には転入生に打たれた手形が残っている。
……ったく、どれほどの力を込めれば、手形が残るって言うんだよ……。
——って、記憶がぶっ飛ぶほどに、か……。
まぁ〜いい……。
これで僕に任せたのが「間違いだった」とアスカは気付くだろう。
すると、ようやく僕の意図が理解出来たのか、彼女が頷くながら、
「——って、言う事は成功した、と……」
「何でそうなるんだよ!」
ホント、どう見ればそうなる?
奴の目は節穴か?
——いや、節穴だね。
「……核心に迫る質問をしたから彼女に叩かれたんじゃないの?」
彼女の何気ない発言に僕は思わず「ビクッ」と身体を強張らせてしまう。
その反応にアスカは首を傾げ、僕の事を見つめる。
本当の事など、言える訳なかろうに……。
言ってしまおうならば、さらなる仕打ちを転入生から受けてしまうかも知れん。
それだけの事を彼女の中では「仕出かした」と思っているのだろうからな。
しかし、寝堕ちか……。
あそこまではっきりと頭が「ガクッ」と下がる所を見てしまうと、何だが可愛げがあって良いな……。
「……何、気色の悪い笑みを浮かべているのよ」
表情に出ていたのか、アスカにそんな事を言われた。
ふむ、僕の表情筋が馬鹿になっているのかな?
「いや、ただの思い出し笑いだ」
「これからアナタの事を『シゲル』から『ムッツリ』に変更するわ」
「はぁ? 何でそうなる? ——いや、そもそも『シゲル』と言う呼び名も、まだ僕は認めた訳じゃないからな」
——僕の名前。
如月瑞希(きさらぎみずき)の瑞希からゲゲゲなお方を連想して僕の事をそう呼称するようになった、アスカ。
それを他の連中も便乗して呼ぶようになっているから迷惑な話である。
ちなみにアキトが呼ぶ「キサラ」も如月から来ているみたいだが、僕は結構このあだ名の事を気に入っていたりする。
——だけどだ。
水無月姉弟が僕の事を「キサラ」や「シゲル」と呼ぶもんだから、それを僕の名前だと勘違いされる事が 多々あり、少々困っている。
これは僕の予想だが「キサラ」や「シゲル」に押されて、僕のフルネームの事なんて「誰も知らないんじゃないか」と、思う今日この頃である。
「確か……思い出し笑いをする奴は大抵ムッツリスケベらしい」
何かを思い出したかのようにアキトが唐突にそんな事を呟く。
「……それ、どこ情報だよ」
「水無月リサーチに決まってろうが!」
何故か分からんが逆ギレ気味に返答された……。
ふむ、普通に尋ねたと思うのだが……。
自分でも気づいていないどこかに過失でもあったのだろうか……?
「——で、そっちの首尾はどうだったんだよ。そのご自慢の水無月リサーチとやらは役に立ったのか?」
「いや、全く……」
と、アスカの様子を窺うようにしてアキトがそう述べた。
その際、二人の間で何かアイコンタクトが交わされたような気がしたが……。
追及してもコイツらは吐かないだろうから、気にしない事にした。
「……僕と大して変わらないじゃないか」
「それはお互い様でしょ? まぁ〜いいわ。だけど、彼女——時雨悠は何か怪しいと思う」
「……少女の素性を調べようとしている僕たちの方が十分怪しいと思うがな」
「ほら、好きな子の事を執拗に追いかけ回す。——恋する乙女な感じよ。要するに奥手って事……」
「奥手って言うよりただのストーカーじゃねぇ〜か」
「まぁ〜あれだ。——夢ばかり追いかける連中もストーカーと大差ないって事だよな」
真顔でそう述べたアキトに僕は「はぁ〜」と嘆息を吐いて肩を落とした。
——相変わらずの馬鹿っぷりに頭が痛い……。
自分で上手い事を言っているつもりだろうけど、夢見る少年少女たちと陰湿ストーカーを一緒にするな。
「んで、どうすんの?」
「そうね。引き続きよろしく頼むわ」
「……了解」
嘆息交じりに返答すると、アキトが怪訝そうな表情を浮かべ、僕の事を見つめながら首を傾げていた。
——何だ?
僕の顔に何か付いているのか?
「——何だか、元気がないなぁ〜キサラ」
「……いや、ここの所。色々あったからさ……。疲れているんだと思う」
うん、ホント色々とあったと思う。
主に心の方面が疲弊するほどに……。
「何言っているのよ。何もする事がないアンタなんかが疲れる訳ないでしょ?」
嘆息交じりに言い放たれたアスカの言葉で僕の苦労が一蹴されてしまった。
「……何気に酷い事を言ってるぞ。おい」
ホント、酷い奴だ。
僕だって色々とやる事があるんだぞぉ〜。
——例えば、ご飯を食べたり。
テレビを見たり。
床に就いたり。
と、指折り数えながら僕は重大な事に気付く。
——アスカの言う通り。
僕には何もありませんでした……。
「じゃ〜今日はこれで解散」
突然、発せられたアスカの「解散発言」に僕は思わず間の抜けた表情を浮かべてしまう。
まさか、これほど早くに解放されるとは思わなかったからである。
が、いつもなら僕と一緒になって驚くアキトが今日に限って妙に平然としているのには、違和感を覚えずにいられない。
——僕に何か、隠している……?
けど、ここでも僕は彼らに言及する事無く。
「——分かった。じゃ〜また明日」
何食わぬ顔をして、そう述べた。
「おう、また明日な」
アキトが手を振って僕に別れを告げると、アスカと共に先に部屋を出て行った。
「ふぅ〜」と、自分以外誰も居ない部屋の中で溜め息を吐いた僕は、徐に腕を上げて伸びをする。
そして、反射的に欠伸が出てしまった。
——さてと、僕もそろそろ帰ろうかな。
しばらくしてからゆっくりと立ち上がり。
「のそのそ」と牛歩のように部屋を出る僕は忘れないように戸締まりをし。
【カチャ】
と、きちんと施錠をした事を確認して。
僕は部室の鍵を返しに、部室棟一階にある管理室に向かった……。
- 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の七 ( No.19 )
- 日時: 2012/06/16 21:45
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/12/
——西日が差し込む夕暮れ時……。
昼間と違い、物静かな廊下には夕日が差し込み。
その影響で廊下が茜色に染まり、少し不気味にも思える雰囲気に様変わりしていた。
そんな中を僕は我が物顔とは程遠いものの、廊下のど真ん中を悠々と歩く。
そして、外から、
「バッチコーイ!」
などの掛け声が微かではあるが、聞こえた。
だけど、校舎内は依然として静寂に包み込まれており、外と内との違いに少々違和感を覚えずにいられない。
外は掛け声などの「音」があるとして。
内である校舎内にある唯一の「音」と言えば……。
——僕が歩く時に生じる足音ぐらいである。
「スタスタスタ」
と、足音だけが響き渡る夕暮れ時の廊下。
今でこそ薄暗い所があるけれど、完全に日が沈み。
夜になってしまったらと思うと「ゾッ」とするものがあった。
ホラー映画様々の舞台に変貌するんじゃないか、と不覚にも思っちゃったりする。
ここだけの話じゃないんだろうけどな。
大体の建物の全てに言える事だと僕は思う。
昼間は人が居て、騒がしかったりするが……。
——時が経って。
夕暮れ、夜になると。
その賑わいは嘘のように静まり返り。
建物自体の印象も百八十度変わったりする。
今朝感じた、あの違和感もそうだろうか?
朝の顔、昼の顔、夕暮れ、夜の顔……。
全てにおいて、例え見慣れている景色だろうと違って見えてくる。
「……はぁ〜」
と、静寂に包まれた校舎内で、僕は徐に感慨深く溜め息を吐く……。
そして、同時に「自分は老けてしまったんだなぁ〜」と、しみじみと感じてしまった。
——若い頃は……。
——って、今でもピチピチの現役高校生だが……。
景色なんてどれもこれも同じに感じて、目にもくれずに遊び呆けているだろ、普通……。
だけど、ここに来て景色に目に行くってどうよ。
……老いを感じずにいられない。
「はぁ〜」
と、今度は嘆くように嘆息を吐く……。
少し肩を落としながら僕は鍵を返しに管理室に向かって、トボトボ歩いていると、
【ドスン!】
と、僕の足音や外の掛け声以外の音が突然、響き渡った。
ふむ、誰かが壁打ちでもしているのだろうか?
そう思いながらしばらく歩いているとまた、
【ドスン!】
と、低く鈍い音が聞こえた。
それに今度は近いのか、大きな音だった……。
壁打ち如きでここまでの大きな音が出るものなのか?
少し違和感を覚えながらもしばらく歩いているとまたもや、
【ドスン!】
と、低く鈍いながらも大きな音が鳴り。
先ほどの位置よりも近づいて来ているのか、音が鮮明に聞こえた。
さすがの僕も気になり。
しばらくその場に立ち止まって、耳を澄ましていると……。
——案の定、
【ドスン!】
と、低く鈍い大きな音が聞こえた。
どうやら外からのようだが、壁打ちで生じた音ではないような気がした。
「……それなら」と、廊下の窓から外を覗こうとしたその時。
——上から何かが降って来たのを辛うじて視認出来た。
「……何なんだ?」と、思いながら窓を開けて下に落ちたモノを覗き見た。
が、そこには何もなく。
至って普通の花壇が眼下に広がっているだけだった……。
……ふむ、何かの見間違いかな?
そう結論付けた僕は「さっさと管理室に鍵を返しに行こう」と徐に顔を上げた瞬間。
——何かと目が合ってしまった……。
その「何か」は、そのまま花壇に落下し、
【ドスン!】
と、低く鈍い大きな音を立てた……。
僕はその「何か」と目があったその刹那。
……堪らず、思考停止し。フリーズしてしまっていた。
——いや、ただの現実逃避かも知れない。
それは認めたくもない悲惨な状況を指す事になるからで。
だから、僕は自ずとフリーズしてしまったのかも知れない……。
けれど、そんな事をしても。事が起こった「現実」は何も変わる事は無い。
——そう、変わる事は無いのだから、さっさと認めてしまえば楽になろうに……。
だけど、それは……。
事実を認めようとした、その瞬間。
——僕は思わず口を押え、奥から込み上げてくるモノを必死に抑えた。
これまでの人生で初めての感覚だった……。
これほどまで喉が。
食道が。
そして、身体が暑苦しい……とも違う。
でも、それが一番当てはまっているような、気持ち悪い感覚に襲われてしまった。
しばらくグロッキー状態になっていた僕だったが。
思い切って、事実確認をするため。
花壇に落ちたモノに目を向ける事にした。
……しかし、事が起こった現実は変わらず。
花壇上で彼女が……。
——時雨悠が自らの血液で身体を紅く染めながら横たわっていた……。
- (1)第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の一 ( No.20 )
- 日時: 2012/06/17 21:32
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/13/
息を切らしながら僕は必死に走っていた。
少し滑る廊下に足を取られながらも僕は走る……。
——いや、走らなければならない。
僕は見てしまったのだから。
その時。
その瞬間をリアルタイムで垣間見たのだから、もう他人事では済まされない……。
だけど、もし時間を遡れるのなら事が起こる前に戻りたいと切なに願う。
けれど、それは叶いもしないただの戯言にすぎない。
でも……でもっ!
僕は思考停止、現実逃避をしないで考えを巡らせながら現場に直行する。
その間にずっとループのように流れる彼女の表情が脳裏から離れなかった。
時雨悠が飛び降りて行く様を目の当たりにした時——情けない話だが、僕は動けなかった……。落ちて行く彼女と目が合った瞬間、自ずと身体が震えた。
何も感じられなかった。熱気も冷気も生気すらも何もかも感じられなかった。虚無と言う言葉が一番合っているんじゃないか、と思わせるほどに何も感じられなかった。
僕は当初、人形が上から落ちて来たんだと思ったが、そうじゃなかった……。
彼女が僕と目が合ったと言う事を分かっていたのかは定かではないが、無表情だった彼女の表情に一瞬ではあったが、艶やかな笑みが零れたのだ。
その瞬間、人形じゃないって事が分かるや否や身体が震えた。
そして、あの笑みが不気味でしょうがなかった……。
なぜ、笑う事が出来る?
どうして、そんな表情が出来る?
分からない……。僕には分からない。理解出来なかった……。
だけど、今はそんな事はどうでもいい。今の僕が出来うる最善の策を講じるだけだ。
「時雨ぇ————!!」
僕は叫んだ。
何の意味もない叫びかも知れなかったが、何かを叫ばずにはいられなかった。
いや、ただ心につかえている何かを吐き出したかったのかも知れない。
けれど、僕はもう一度叫ぼうと思う。
もう、そこまで来ているのだから……。
「時雨悠ぁ——————!!!!」
息を切らし、身体を揺らしながら僕は現場に到着した。
しかし、視線は地面に向けたままで彼女の事をまだ見れていない。
一、二回深呼吸をして気を引き締めた僕はゆっくりではあるが、視線を彼女が横たわっているであろう前方の花壇に向ける。
「……あ、れ?」
目の前の景色に僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう……。
そこにあるはずのモノがなかったからである。
彼女——時雨悠の遺体がどこにもなく、ただそこにあるのは何も変わらず咲き誇る花壇の花々だけだった……。
——どういう事だ?
見間違いで済むような話じゃないはず。
いや、そもそも見間違えるはずがないだろう。
この目で全てを目の当たりにしたのだから……。
だったら、あるはずのモノはどこへ消えた?
顎に手を添えて考えていると、
【ドスン!】
と、低く鈍い大きな音と共に花壇の花びらが舞い上がり、紅い血液を流しながら横たわる時雨悠が目の前に突然、姿を現した。
舞い上がる花弁がまるで空から堕ちて来た天使さながらの様相だった。
僕は堪らず膝を着いて崩れ落ち、そして——嘔吐した……。
情けない姿かも知れない。
しかし、今はそんな事はどうだっていい。
今、起こった事は一体どういう事なんだ?
彼女は一度、死んだはず……。だけど、また上から降って来て目の前でまた息絶えた……。
時雨悠の身に何が起こっている?
ずっと直視は出来ないものの彼女の事を見ていると唐突に彼女の身体の周りに淡白い発光物が発生し、身体を包み込んだ。
何が起こったか分からず呆然として眺めていると、淡白い発光物と共に彼女の身体は綺麗さっぱり跡形もなく消え去ってしまい。
僕は慌てて辺りを見渡したが跡形もなく消えており、彼女が落ちた衝撃で萎れていた花壇の花々が何事もなかったように再び咲き誇っていた。
何なんだよ、一体……。
何が起こったのか理解出来ず嘆いた僕は徐に天を仰ぐ。
すると、見上げた先から何かが降ってくるのが視認出来た。
いや、もう目の前に迫る勢いで降って来ていた。
そして、それが何なのか瞬時に理解出来た僕は咄嗟に両手を大きく広げて上から降ってくる彼女を——時雨悠を受け止める態勢に入る。
無謀かも知れない……。
上から落ちて来て勢いが乗っている人間を受け止めようとするなんて……。
でも、やるしかないだろ?
もう、巻き込まれてしまったのだから……。
半ば開き直りのように覚悟を決めた僕は上から降ってくる彼女を見据える。
その瞬間、強烈な衝撃と共に彼女が僕の腕の中に収まり、僕は彼女を抱えたまま背中から地面に叩きつけられてしまう。
背中を思いっきり鈍器で叩かれたような衝撃が走り、僕は思わず表情を歪める。
だけど、悲痛の叫びは上げないように歯を食いしばって耐える事にした。
彼女が受けた痛みはこんなものでは済まされないだろうから……。
時雨は僕の腕の中で身体を震わせており、その震えが僕にも伝わって来る。
彼女が何者かは知らないが、誰だって死ぬのは怖いさ……。
「……生きてるかぁ〜?」
僕は何気ない感じで彼女に安否を投げかける。
ホント、つくづくおかしな対応だろう……。
「……アナタは馬鹿なの? それともFool(フール)なの?」
顔を僕の胸にうずめながら淡々とした口調で述べた彼女の言葉に僕は「くすり」と微笑む。
「——それ、どっちも一緒だ。……ったく、無事みたいだな」
まだ身体を震わせているものの、あの毒舌が健在なのを確認出来て少しホッとする。
しかし、背中が痛い……。
人間、慣れない事をするとダメだな。
「さてと——そろそろ帰るか……」
僕が何気なく発した言葉に時雨は顔を上げてきょとんする。
本当に拍子抜けしたのか、間の抜けた表情が少し笑らけてくる。
「おいおい、まさか歩けないって言わないだろうな?」
少し茶化すように述べた言葉に何を思ったのか、時雨はほくそ笑み。
そして、僕から身を退いて立ち上がった彼女は相変わらずツンケンした態度ではあるが、頬を紅く染めながら徐に僕に手を差し伸べた。
僕はその手に捕まり、少し痛む身体を労わりながら立ち上がる。
「——じゃ〜帰るか」
僕の言葉に時雨は何も言わず小さく頷いただけだったが、それを見て僕は歩き出す。
彼女も僕に釣られて歩き出し、僕の少し後方を黙々と歩く。
だけど、どこか納得がいっていないと言わんばかりに後方から「ジロジロ」と時雨は僕の事を監視しており、僕がその妙な視線を感じて後ろを振り向く度に彼女は少し慌て気味に平然を装うが……バレバレである。
ホント、そんな事をしていると聞きたくなるだろう……。
しかし、こうして後ろからついて来ている時雨悠を見ていると「ごくごく普通の女の子なんだなぁ〜」と思う。
けど……一体何者なのだろうか?
まぁ〜気を遣って何も聞こうとしない僕もおかしな類の人間なのかも知れない。
先ほどの事を何もなかったかのように彼女と普通に接しているのだから……。
だけど、時雨は本来の調子じゃないような気がする。
なんつうか、しおらし過ぎる。
僕に正体がバレて猫を被っているのか?
それとも迷惑を掛けたと思って反省しているのか……?
素直に反省なんてするような玉じゃないような気がするが、果たして今の彼女は一体何を考えているのやら……。
僕はまた、時雨が僕の事を「ジロジロ」と監視しているだろうと思い、嘆息交じりに後ろを振り向く。と、そこには僕が思っていた光景は無く遥か後方で彼女——時雨悠が道端で倒れ伏せており。
その姿を視認した僕は思考より先に行動に出ていた。
- (2)第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の一 ( No.21 )
- 日時: 2012/06/17 21:34
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/13/
荷物などを投げ飛ばして彼女の元へと駆け寄った僕はすぐさま何かの媒体から得た知識をうろ覚えながらも懸命に施してみる。
……うん、息はしているようだ。
時雨の細い手首を握りながら口元に耳を傾け、不謹慎ではあるが彼女の生存確認をした。
しかし、勢い任せとはいえ……目の前には時雨のほんのり朱に染まった艶やかで柔らかそうな唇がそこにあった。顔を近づけているせいで心なしか彼女の息がかかる。
——はっ!
んな事を考えている場合じゃない。時雨を運ばないとな……。
僕は急いで彼女を背負う事にした。
——うおっ!
柔ら——軽いなぁ〜。うん、実に軽い。それにほのかに甘い良い匂いがする……。
ああ、そうだな。うん、分かってるよそんな事……。認めてしまえばいいんだろ?
——僕は水無月姉弟の言う通りムッツリスケベです!
いや、やっぱり認めんぞ!
それならオープンスケベと呼ばれる方がいくらかマシだ。ムッツリスケベは何だか陰湿な感じがする。だが、どうだ。オープンスケベなら爽やかな感じがするだろ?
だが、オープンスケベが爽やか判定されるのはごく一部の人間に限る、ってか?
枠外の輩が表明しようものならただのセクハラ野郎に成り果ててしまうから要注意だっ!
……さて、時雨を背負ったのは良いが——どこに運べば良いんだ?
彼女の家って言っても……場所、知らないし。
——ふむ、困った時に頼りになるあのネコ型ロボットが恋しくなるなんて思わなんだ……。
まぁ〜どうにかなる、か……。
どうせ、無難に僕の家に運ぶ事になるんだろうからさ。
んで、運び終えて僕の家で目覚めた時雨に有らぬ容疑を掛けられて引っ叩かれる画が凄く浮かぶなぁ〜。
……はぁ〜。
自分で愚かな妄想をして憂鬱になった僕は「トボトボ」と時雨を背負いながら家路を辿る。
夕日も沈み。
すっかり、辺りも暗くなり、街灯がちらほらと点灯し始める。
時間帯的に通勤者の方々が帰宅し、これから家族団らんで夕食と言った所だろうか。
どこからともなく和気藹々とした会話などが聞こえてくる……。
僕も急いで家に帰ろう。家族団らん、和気藹々などと言った和やかモノが待ち構えている訳ではないが、彼女を早く安静に出来る場所で寝かしつける方が良いだろ。
それに陽も沈んで春先ながらもやはり肌寒いしな。
でも、背中だけは暖かかったりする。
時雨悠と言う名の暖房器具を背負っているから……。
少し下がってきた彼女の身体をしっかり整え、家路を急ぎつつも起こさないよう落とさないよう細心の注意を計って慎重に歩く。
家路の途中にあるスーパー前で少し人が多くなり、僕のこの状態に「こそこそ」と話しながら奇異な視線を投げかける人物たちが気にはなったが……。
——出来るだけ気にしないようして淡々とした足取りで先に進む。
しばらく歩いてからようやく見えて来た——とある三階建ての一軒家……。
門札には「衣更着」と表記されているが、間違いなく僕の家である。
別にこれでも「キラサギ」と読めるし、陰暦の二月もこの字で書く事もあるようで……。
だけど、一見さんには少々分かりづらいだろうな。
ユーモラスな姉が——うん、阿呆な姉が奇をてらって施したようだが、はっきり言って迷惑極まりない行為である。
……ったく、そんな姉と現在二人暮らしの家に初めて招いた客人を二階にある僕の自室に運び、そこにあるベットに寝かしつけた。
もちろん、しっかりと毛布を被せて……。
「ふぅ〜」
と、一息吐きながら、僕は一階にある台所に足を運んで冷蔵庫チェックをする。
特に意味はないのだけど、染みついた習慣みたいなものだ。
——ふむ、これと言ったモノはないな……。
ゆっくりと冷蔵庫を閉じた僕は隣の居間に向かい、徐にテレビを点けて腰を下ろす。
別に見るモノはないのだが、これも習慣のようだ。
テレビから流れる音をBGMにするのも悪くないだろ。
さてと、BGMを聞きながら時雨悠の事をどうするか、考えないとな……。
テーブルに両肘を付けた手に顔を乗せて、恋煩いをした乙女然とした態度で僕はボーっとしながらも思考を巡らせる。
時雨のあの変な特異体質は一体、何なんだろう……。
確かにこの目で彼女が死ぬ様を見たはずなんだ。
だけど、現場に行ったら何もなく、気が付いたら彼女が血を流して横たわっているし、突然変な光に包まれて消えるわ……。
また、上から降ってきた所を捕らえたのは良かったとは思うが……果たして助けてしまって本当に良かったのだろうかと悩んでしまう……。
本来ならそれが当たり前の行動である事は確かなのだが——時雨悠が発したあの問題発言が気になるからかも知れない。
でも、あの場面で助けなければ僕は後悔してたと思うし、第一後味が悪いだろ。
……うん、これで良かったんじゃないか?
自分に言い聞かすように何度も繰り返して同じ言葉をリピートして、途中から何が何だか分からなくなり、僕は頭を掻きながらテーブルに項垂れてしまう。
はぁ〜、これで終わりって事はないんだろうな……。
これはただの気休めでしかないのかも知れない。彼女が死にたがっている限り、ね……。
しばらくボーっとしていると、突然上から、
【ガタ!】
と、物音がした。
もしかしたら、彼女が目を覚ましたのかも知れない。
謎の物音は徐々にではあったが近づいて来ており、それが足音だと分かった。
【スタスタスタ】
と、近づいて来る足音に若干ビクビクしながら待ち構えている僕がいる。
目覚めた彼女が第一声に何を言い出すかが怖かった……。
たぶん、いや確実に罵声を浴びさせられる事だろう。
「私の清やかな身体がドット汁に汚されてしまったわ」
何て事を言われそうだ……。
【カチャ!】
と、廊下側から居間に通じる扉のドアノブが音を立て。
その音を聞いた瞬間、僕は反射的に身構える。
ゆっくりと開かれた扉からは案の定、不機嫌そうな彼女の姿が現れた。
——さぁ〜ドンと来いっ!
「——おはよう。お兄ちゃん」
「……え?」
眠たそうに目を擦りながら時雨悠が居間に「とことこ」と入って来て、僕の予想を遥か彼方上を行く結果となり。
僕は思わず自分の頬を強めにつねった……。
- (1)第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の二 ( No.22 )
- 日時: 2012/06/18 22:57
- 名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/14/
時雨は少し眠たいのか、目を擦りながらゆっくりとした足取りで、さも当たり前かのように僕の隣にちょこっと、座り。口元を恥ずかしそうに隠しながら欠伸をした。
ど、どういう事だコレ……。時雨悠の新たな戦術か何か、か?
嗜好を変えて僕があたふたする姿を見たいって事か?
動揺の色を隠せない僕に気付いた時雨が不思議そうな表情を浮かべながら小首を傾げ、こちらを見つめる。物凄い、あどけない表情で……。
な、何なんだ! アノ無垢なる表情はっ!
ほけ〜っと、少し口が半開き状態で物欲しそうな表情をさらす彼女を目の当たりにして、僕はさらに動揺してしまう。
——いかん、いかん……。
これは時雨悠の策略だ。きっと僕がこのように動揺している所をアノ無垢なる表情の仮面を被った下では凄惨な笑みを浮かべているに違いない。
「ゴホン」と、僕は一拍間を開け。彼女の化けの皮を剥がす事にした。
「——おい、転入生……。僕にはそんな芝居は通用しない。さっさと元に戻れ」
「……え? 急に何を言い出すの? ——お兄ちゃん」
「急なのはどっちだよ。早く、その変な妹口調はやめろ」
「イモウトクチョウ? 私は元々こんな話し方だよ、お兄ちゃん」
「ちょっ……ホント、やめてください転入生! いや、時雨様!」
僕は早々に心が折れて妹口調の時雨に土下座をする。
——あの表情がイケないのだ。そう、あの表情さえなければ……。
彼女の穢れの知らない無垢な表情に屈した僕は悔しさのあまり、床に拳を叩きつける。
僕が苦言を呈する度に時雨は首を傾げながら呆けた表情を浮かべ、上目遣いで僕の目を——その奥までも見透かしているようなつぶらな瞳で見つめられた日にゃそりゃ〜もう……。
「お兄ちゃん。お腹空いたぁ〜」
足をバタつかせてご飯をせがみ出した時雨にどうしてか僕は怒るに怒れなくなり、彼女の言う通りに身体を動かしてしまう。
「——宅配で良いか?」
「うん! ピザが良いな〜」
「……了解」
宅配用のチラシを片手に注文をしようとしたら時雨がこちらに駆け寄って、僕からチラシを強奪し、勝手にメニューを決め始めた。
——はぁ〜、何て言うか本当に子供になっているかのような感じだな。
ホント……ここまで出来るなんて恐るべし時雨悠の演技力、と言った所か?
「決まったか?」
「うん! これが良い!」
時雨は嬉しそうにメニュー表に載っているとあるピザを指さす。
僕は角切りのじゃがいもやらツナが入った子供向けの物を頼むのかなと踏んでいただけにそれを見て少し拍子抜けしてしまう。
彼女がモッツァレラ、バジル、トマトのシンプルかつ渋めなマルゲリータピザを指さしていたからだ。
「はいはい、これね。飲み物は?」
「お家にある物で良いよ」
「了解」
僕の傍らに立つ時雨を横目で見ながら僕はピザの注文をする。少し混んでいるようでなかなか電話が繋がらなくてひやひやしたが、ようやく繋がり無事注文を済ませた。
ゆっくりと受話器を置き、一足先に先ほど座っていた場所に彼女は座っており、僕もその隣に足を進めて腰を下ろす事に。
「四十分ぐらい掛かるってさ」
「うん、分かった!」
そう元気に返事をすると時雨はテーブルの上に置いてあったテレビのリモコンをイジり始め、チャンネルをコロコロと変え始める。
——ったく、子供なんだか大人なんだか分からなくなって来るな……。
微笑ましい光景を眺めながら僕はある事に気付いてしまう。
いつの間にか、時雨悠の術中にはまり、さも当たり前のように妹口調と化した彼女と接している事に……。
ホント、僕って奴は……。
「——で、転入生。アンタの目的は何だ?」
「目的って、聞かれても……お兄ちゃん家でピザをご馳走になる、事?」
「ああ、いい。質問を変える。——アンタは何者だ?」
「何者って聞かれても——時雨悠(しぐれゆう)以外の何者でもないよ」
「いや、名前を聞いてるんじゃ——って、え……?」
今、何て言った?
時雨悠(しぐれゆう)って言ったか?
「ハルカ」じゃなく「ユウ」って……。
確かに「ユウ」とも読めるけどさ、そこまで手の込んだキャラ設定だったのか?
もう、訳が分からないぞ……。だが、時雨が頑なに妹キャラを貫き通すなら僕だってこの変な流れに乗らない訳にはいかないだろ。たとえ、これが彼女の罠だったとしても……。
「……分かった。もう、何も聞かないよ。えっと——」
「悠(ゆう)だよ。分かった? お兄ちゃん」
僕が彼女の事をどう呼ぼうかと悩んでいたら先方からそんな提案をされて仕方なく……。
いや、もう——彼女の策略に乗っかったのだから恥ずかしながらも時雨の事を名前で呼ぶ事に決めた。
でも、その前に一つ。悠に苦言を呈さないと、な……。
「——分かったよ、悠。それと『お兄ちゃん』はやめてくれ。身体がむず痒くなる」
先ほどから僕の事を「お兄ちゃん」なんて呼ぶもんだから全身痒くて仕方がなかった。
何なんだろうな、この変な痒みは……。
「じゃ〜瑞希ちゃん」
と、もう即決したのか僕の事をそう呼んだ。
——って、
「結局『ちゃん』付けかよ……」
「……嫌? ——瑞希お兄ちゃん」
僕が少し不機嫌な顔をしたのが気に障ったのか、悠が少し涙目になりながらも上目遣いで僕に訴えかけて来るもんだから、堪らず、
「ああ、分かった。分かったから、お兄ちゃんだけはやめてくれ! 身体が痒い!」
彼女に屈し、身体を忙しなく掻いてしまった。
「うん! 分かった、瑞希ちゃん!」
「もう、それでいいよ……」
僕はテーブルに項垂れながら承諾する。
ああ、ホント……調子が狂うな。
身体が痒くなるわ、変な汗は出るわ——これも彼女の策略なのだろうか?
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