コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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Memory Dust(学園ミステリー)
日時: 2012/07/11 00:29
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/

・あらすじ

「君は、生きているの?」「私は、私を殺せる人を探しにここへ来た」——それが僕と彼女たちとの出会い。そう、暴君「水無月アスカ」とツンドラ転校生「時雨悠」との……。——あっ、ついでにアスカの双子の弟「水無月アキト」も忘れずに……。

・当作品は超常現象交じりの学園ミステリーとなっていますご了承ください。

・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・亡霊姉弟篇

 第零章 〜数奇な運命の出遭い〜 >>01

・死にたがりの少女篇

 序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の一 >>02
 序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の二 >>03 >>04
 序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の三 >>05 >>06
 序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の四 >>07 >>08
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の一 >>09 >>10
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の二 >>13
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の三 >>14 >>15
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の四 >>16
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の五 >>17
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の六 >>18
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の七 >>19
 第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の一 >>20 >>21
 第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の二 >>22 >>23
 第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の三 >>24 >>25
 第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の四 >>26 >>27

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(1)序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の二 ( No.3 )
日時: 2012/06/11 00:32
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/3/

 「はい、却下……」

 呆れ果てた表情を浮かべてテーブルに叩きつけるように冊子を投げ飛ばし。
 無情にも没宣告を告げるセミロングの凛々しいお顔立ち、すらりと伸びた手足に非の打ち所が無い出るとこ出たコケティッシュな体躯の少女。
 ——水無月(みなつき)アスカは窓に寄りかかるように身を預けた。

 「決断早え〜よ、姉貴!」

 アスカの無情な宣告に納得いかずテーブルを勢いよく叩き、立ち上がりながら怒号を上げた少年。
 ——少女と瓜二つの顔付き、筋骨隆々とまではいかないが長身のがっちり体型である弟の水無月(みなつき)アキトは怒号を上げはしたが、静かに着席した。

 「アキの言い分は分かるわ。——だけど、根本的につまらない」

 眉一つ動かさず、淡々とした口調で吐き捨てるようにアキトの書き綴った最初で最後の今世紀最大の作品を酷評したアスカは徐に額を押えて大きく嘆息した。

 ——まだ、序盤中の序盤……。

 出だししか目を通していないってのに「判断を下すのは少し早計過ぎやしないか」と、心の内に留めながらも顔に出てしまっていたのか。
 アスカがしかめ面を浮かべ、こちらを睨みつけているのに気付き。
 僕はすぐさま目を逸らし、少し咳き込みながら誤魔化してみた。

 「……まぁ〜いいわ。私がアンタたちに期待したのがそもそもの間違いだった。やっぱりこの退屈過ぎる生活を打破する為には私自身どうにかするしかないわね」

 腕を組み、仁王立ちをして。凛々しい態度で僕たちの事を嘲笑うかのようにあっさりと切り捨て。アスカは顎に手を添え、何か企み始めた。

 ——ったく、だったら最初から自分で何とかしろっての……。

 僕が心の中でアスカに対して悪態をついていると。
 弟であるアキトが姉に聞こえないように小声で、

 「——なぁ〜キサラ。そんなにつまらなかったか、コレ……」

 姉にボロクソに言われ、少し「ムスっ」とした表情を擁して、自ら書き綴った作品が記載された冊子をこちらに提示し。僕に意見を仰いできた。
 「ふむ」と、僕は冊子に手を伸ばして流し読みではあったがアキトが書き綴った「仮題 閉じられた少女」に目を通す。

 主人公の少年が毎夜毎夜見る不思議な夢に登場する虚ろな表情を浮かべる少女は一体何者なのか?
 なぜ、少女は真っ白な空間に閉じ込められているのか?
 なぜ、少年はこのような不思議な夢を見るのか?

 ——と、言う話のようだ。

 「——いや、お前は頑張った方さ……。初執筆の僕たちにたった十分で『短編を書け』と命令し。出来上がるや否や少し目を通しただけで『つまらん』と言って、テーブルに叩きつけるアレがどうかしているとしか思えん」

 アキトに労いの言葉をかけた僕は伸びをしつつ、背もたれに寄りかかって天を仰ぐ。
 その際に少し椅子が傾き、バランスを崩しかけたのは当然の事ながら秘密だ。

 「——姉貴の悪口を言うなぁぁぁ!」

 突然、アキトは体を震わせながらアスカの悪口(?)を言った僕に対して唾を撒き散らし、頬を上気させて怒号を上げた。
 それに応戦するように、

 「——黙れ、シスコン!」

 そう言い放つ。

 「いや、黙らんぞ! あんなんでも俺の大切な姉貴だ! 誰であろうと姉貴の悪口を叩く奴は俺が許さねぇ〜。姉貴の悪口を言っていいのは——この俺だけだ!」

 「弟である自分だけの特権だ」と誇張したいのか、アキトは両親指で自分の事を指さし、意味もなくはにかんでみせた。

 ——ふむ、そこまで言うなら……。

 「あ〜だったら、僕の代わりにお前の後ろで不気味に微笑みながら仁王立ちをしている姉貴に向かって一言言ってくれ」
 「承知した……。ホント、あのクソビッチは——」

 「ア〜キ〜く〜ん。あのクソビッチって誰の事かなぁ?」

 僕の代弁者たるアキトの背後から口元を歪ませ、凄惨な笑みを浮かべながら彼に抱きつき。
 アキトの耳元で艶やかな声で囁く、ク——水無月アスカ様……。
 アスカ様のしなやかでお美しい腕がアキトの首に絡み。
 最初は抵抗をしていたものの徐々にアキトの顔色が青ざめていき。

 ——そして、目が白目をむき、口から泡を吹いた……。

 それを特等席で目の当たりにしていた僕は静かに手を合わせて、

 「南無〜」
 「——まだ、死んでねぇ〜わ!」

 「ハァハァ」と、よっぽど苦しかったのだろう。
 アキトは肩をならし、過呼吸のように必死に息を吸う。

 「アキをイジメちゃだめよ。シゲル」

 今し方、弟に行った教育(?)と言う名の暴力的行為は何もなかったかのようにアスカは微笑み。あたかも僕がやったかのように装いやがった。

 「……直接手を下したのはお前だろうに」
 僕は一応ながら「奴は後ろにいる」と教えてやったのだが、あの馬鹿が調子づいて口を滑らしたに過ぎない。

 ——決して誘導なんてしていないぞ。

 「それはそれよ。——そんな事よりもシゲルも私に何か意見がお有りなのかしら?」

 笑顔のまま手と首を「パキポキ」と鳴らし。
 意見を言おうならば即、手を下せるように身体を慣らし始める彼女の姿に僕は、

 「いえ、何にもございません!」

 アキトの二の舞になるのだけは避けるべく。
 ご機嫌を損なわないよう椅子からすぐさま飛び上がり深深く土下座をした。
 腕が三角に綺麗に折れていたと思う。

 ——ん? プライド? ナニソレ? クエンノ?

 「……そう、ならいいわ。それと今日はもう解散よ。——また、明日からよろしくね」

 そう言い残してアスカは野郎二人を残して「すたすた」と部屋を出て行ってしまった。
 僕は少し一安心して、椅子の隙間を縫うように手足を伸ばして床に転げ寝る。

 「——アキト〜生きてるか〜」
 「……ああ、大分マシになった……」

 肩をならして呼吸を整えていたアキトの生存確認を済ませた僕はゆっくりと瞳を閉じ。
 現在の心境をさらけだそうと思った。
 それについてはアキトも同じような気持ちを抱いていたのか。
 僕たちはタイミングを見計らって、

 『…………はぁ〜』

 と、野郎二人の大きな溜め息が部屋の中で虚しく木霊した……。

(2)序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の二 ( No.4 )
日時: 2012/06/11 13:36
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/3/

 ——アキトと学校で別れてから、僕は一人寂しく家路を歩んでいた。

 「……はぁ〜」

 僕は学校を出てからずっとこの調子で溜め息を漏らしている。
 本来ならこの日が最後の春休みだったはずなのだが、姫様のワガママに付き合う羽目になり休日がおじゃんになったからだ。

 まさか、僕たち三人で——いや、実質二人、か……。
 入学式の準備をする事になるなんて思いもよらなかった。
 それも当日の早朝に、だ。

 ——無計画すぎる……。

 こちとら気持ちよく安眠していた、って言うのに。
 禍々しい着信音が何度も何度も部屋の中に鳴り響き。
 しつこいから出るや否や、

 「学校に集合! 以上」

 と、一言だけ言い残して切りやがり、こちらの反論の機会すら与えてはくれず……。
 やむなく学校に行き、椅子やらを体育館に並べて準備が終われば。
 今度は姫様の暇つぶしに付き合わせられる羽目になり短編小説を書く事になった。

 書き終わったら書き終わったで「つまんない」と一言で全てを一蹴し、僕たちの頑張りの結晶をテーブルに叩きつけて。
 入学式が終わってからの片付けがまだ残っているっていうのに一人で「すたすた」と帰ってしまう始末……。

 ——全く、アスカのおかげで眠いし、しんどいしで。
 散々な春休みの最後を迎える事になってしまった。

 「…………はぁ〜」

 周りにいた通行人にも聞こえるほどの大きな、大きな溜め息を僕は吐いた。
 僕は「この歳で苦労人なんだぞ」と、少しアピール感を込めて……。
 そんな中、通学路である車やら通行人が往来する幹線道路をいつも通りに黙々と歩いていると見慣れたはずの景色なのだが……。

 ——なぜか、この時。意味も分からず……。

 ——いや、意味なんてないのかも知れないが、とある一つの建物が目に付いてしまった。

 僕の左手に木々や草花が生い茂る庭園のような空間があり。
 その敷地内に最近建てられたかのように錯覚させるほどの外壁が真っ白で茶色い屋根が特徴的な教会がぽつりと建っていた。

 ——いや、存在していた……?

 ふむ、元々あったのならさすがの僕でも覚えているはずなんだが……。
 ……って、毎日のように通る通学路だろうに覚えてない方がおかしいだろ。
 しかし、幾ら記憶を遡ってもこの場所に教会があった覚えがない。
 それに通行人も見えているのか、見えていないのかは判断つきかねるが……。

 ——別に気にも留めていない様子。

 でも、何だろうこのモヤモヤ感は……。
 それに胸の辺りにつかえるモノがある。
 ただの勘違いかも知れないけど、ちょっと顔を出してみる、か……。

 どのみち家に帰った所でやる事は一つしかない訳で——うん、寝るだけだ。
 だったら、やむなく休日返上したこの最後の春休みだった日をアスカの言葉を借りれば「どんな状況だろうと楽しまなきゃ損よ」だ。

 ……ああ、アスカに毒された、かな?

 僕は首を振って「大丈夫。毒されていない」と自分に言い聞かせ。
 幹線道路から逸れて教会に行く事にした。

 板チョコがそのまま取り付けられたような扉のノブに手を伸ばし。
 何となくだが「こういう神聖な場所に踏み入るのだから礼儀作法を忘れちゃいけない」と思い。僕は扉を軽くノックをして、

 「——失礼しま〜す」

 と、細々と言って。

 ——教会に恐る恐る足を踏み入れた……。

(1)序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の三 ( No.5 )
日時: 2012/06/11 00:35
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/4/

 中に入ると、教会内は窓から差し込む光に照らされ、和やかな雰囲気に包まれていた。
 そして、横長の古めかしい茶色い腰かけが綺麗に陳列し、祭壇まで続くレッドカーペットの先には人生初めて見る——ステンドグラスが何とも圧巻だった。

 「——神々しいなぁ〜」

 僕は思わず口に出してしまう。
 ステンドグラスには背中から純白な翼が生えた「天使」と思わしき女性が描かれており。
 その女性の両腕には薔薇のツルが絡んでいて、吊し上げられていた。
 さらに華奢なその両足には重りが付けられていて、身体の自由を奪われているにも関わらず女性は微笑んでいた。

 「ん?」

 ステンドグラスから差し込む神々しい光の下で膝を付き。
 祈りを捧げる人物が居る事に気付く。
 濃い紺色の服装からして、シスターさん(?)だと認識した。

 「……どうかしましたか? 迷える子猫ちゃん」

 僕の気配に気づいたのか。
 突然、シスターさんは祈りをやめてこちらに視線だけを送る。
 その際、投げかけられた優しい微笑みに少しドキっとしてしまった。

 「邪魔しちゃいましたか?」

 他愛もない言葉を述べながら僕は辺りをきょろきょろと見渡しつつ。
 レッドカーペットの上を通って、シスターさんの元へ足を進めた。

 「そうですねぇ〜」

 と、シスターさんは立ち上がりながらそう呟くと、

 「ちょうど、よかったんじゃないでしょうか?」

 顎に指を添えて微笑みながらそう続けた。

 ——ふむ、なんだかミステリアスな感じの人だ。

 そんな彼女の姿を捉えながら、僕は失礼を承知の上で少々、思案してみた。

 少し幼さが残る顔立ちから推測するに……同い年か年下?
 まさかの年上って事はない、よな……。
 でも、同い年だろうが年下だろうが、敬語を使いたくなるのはなぜだろう?

 ——シスターさんだから?

 それとも、少し幼さが残る顔立ちの割に年上と思わせるような大人な雰囲気を漂わせているせいか?
 ふむ、それにしても修道服が似合っている。
 彼女のためだけにこしらえられた衣服に思えた。
 それはシスターさんの何もかもを包み込むような優しい笑顔が要因なのかも知れない、が……。

 「——私の顔に何か付いてますか? 迷える子猫ちゃん」

 まじまじとシスターさんの顔を見ていたのがバレたのか、そう指摘され。
 何の計らいかは分からないが、徐に顔を近づけてきた。
 吐息が掛るか掛からないかのすんでの所まで警戒もなく顔を近づけて来たもんだから、僕の心臓はバクバクである。

 「——いえ、何でもありません。……って、さっきから気になってたんですけど『迷える子猫ちゃん』じゃなくて『迷える子羊』じゃないんですか? それに子猫ちゃんって主に女の子に向けて使う言葉だと思うんですけど……」

 僕は冷静を装いながら視線を逸らし、誤魔化すようにシスターさんにそう告げる。
 もし、間違って使っているのなら、指摘してやらないと……。

 「……ふむ、言われてみればそうかも知れませんね。じゃ〜訂正しますね。——迷える子犬君」

 と、満面の笑みで名称を変えてきたシスターさん。

 ——う〜ん、悪気はないんだろうけど、何だろうか。この納得しかねる気持ちは……。

 「どうかしましたか?」
 「いえ、何でもありません」
 「そう、ですか?」

 首を傾げて少し不満気な表情を浮かべるシスターさんに僕は吹けもしない口笛を吹いて誤魔化してみる。と、

 「——神に誓ってですか?」

 そんな僕の不審な行動を怪しんだのか、シスターさんは眉をひそめ。地の利を生かした最凶の詠唱魔法を唱えてきた。
 僕は咄嗟に、

 「天国にいる——ジョンに誓って……」

 ……うん、自分自身にツッコミを入れようと思う。

 ——ジョンって誰だ?

 「……分かりました。そのジョンさんに免じて信じましょう」

 僕のデマカセを真に受けたのか、シスターさんは納得し、微笑んでくれた。

 ——良かった。これで天国にいるジョンも報われるな……。

 ……うん、分かってるって。——やればいいんだろ?

 せぇ〜のっ!


 ……ジョンって誰だよ。

(2)序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の三 ( No.6 )
日時: 2012/06/12 10:20
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/4/

 「さて、迷える子犬君は一体、何の御用でここへ来たのですか?」
 「ん〜単なる寄り道、かな?」
 「寄り道、ですか……?」

 「寄り道」って言葉に引っ掛かったのか、シスターさんは俯き。険しい表情を浮かべる。
 さっきまでのミステリアスの雰囲気から少し「ピリッ」とした感じが見受けられた。
 やはり、お祈りの邪魔をしてしまった事を怒っているのだろうか。
 幾ら聖職者だろうと、寄り道を理由に大事なお祈りの時間を邪魔されたんだ。
 怒ってない訳がないだろう……。

 そこで、

 「すいませんでした……」
 
 僕はシスターさんに深深くお辞儀をした。
 それぐらいの事をしたのだから当たり前だろ?

 「……えっ?」

 僕の行動にシスターさんは呆気にとられたのか、少し間の抜けた声を上げた。

 「いや……やっぱりお祈りの邪魔をしてしまった事を不快に思っているんじゃないかと思って……」
 「いえ、そういう事じゃないんですよ。——うん、そうですね……。これも何かの縁ですし、迷える子犬君は何か悩み事は無いですか?」

 顎に指を添え、少し首を傾げてシスターさんは僕にそう尋ねる。

 「悩み事です、か……」

 ふむ、突然そんな事を聞かれてもなぁ〜。

 ——ここはあれか。

 「悩み事が無いのが悩み事なんですよ〜」って、茶目っ気たっぷりで言う所、か?

 「あっ、ちなみにですよ。——悩み事が無いのが悩み事とか、言うのはなしですよ。君は見るからに捻くれた方のようですし……」

 そう言って、シスターさんは眉間にしわを寄せ、ジト目で僕の事を見つめてくる。

 「そ、そんな訳ないですよ。僕は正直者で名が通ってますよ。——そうですね、悩み事じゃないんですけど、あのステンドグラス……」

 僕は小さく呟いた。
 たまたまだろうけど、考えていた事が見抜かれてしまい僕は少し焦ってしまった。
 だが、それを誤魔化すために少し声が上擦ってしまったけれど、咄嗟にしては好プレーだったと自画自賛してみる。

 「ああ、あれですか。——私には理解出来ませんね……」
 「え? 何で、ですか?」

 露骨に不快感をあらわにしたシスターさんに僕は首を傾げて尋ねる。

 「腕と足を縛られて笑みを浮かべているんですよ。ありえないですよね? ——普通、亀○縛○+吊りし上げにボ○ルギ○グを施されてやっと悦を感じられるかどうかっていうのに……。——全く、甘いですよ」

 真顔でそう語る聖職者。

 ——いや、性職者に僕は少し立ち眩みを覚える。

 全く、どこが好プレーだ。
 失策じゃないか。
 好プレーだと自画自賛していた数秒前の自分が恥ずかしい!

 ……ん?

 今のはさりげなく自分の性癖を暴露——いや、考えすぎだ……。

 「まぁ〜今のは冗談ですけど……。——あら? 少〜し残念そうな顔をしてますぅ?」

 不気味な笑みを浮かべてシスターさんは僕の顔を覗き込むように詰め寄ってきた。

 「まさか、僕は紳士ですよ。そんな訳ないです」

 思わぬ問い詰めに少し後退しながらも首を振って否定する。

 ——この人、狙ってやっているんじゃないだろうか?

 「それはさておき……」

 馬鹿な流れを変えるかのようにシスターさんは「パチン」と、手を叩いて一拍入れた。
 そして、瞳を閉じて小さく息を吐いた後に。徐に瞳を開いたシスターさんの雰囲気が先ほどのお茶らけたモノから「キリッ」と真剣な雰囲気へと変貌した。
 僕はシスターさんの真剣な姿に息を呑んで。
 「こちらもそれなりの対応を取らねば」と、心を落ち着かせて臨む事にした。

 「……迷える子犬君は何か探し物はありますか? ——例えば、自分探しとか」
 「いえ、特には。それに自分を見失うほど落ちぶれちゃいませんよ。たぶん……」
 「なるほど……」

 僕の返答に対して真剣な面持ちで頷いてみせるシスターさん。
 僕はこの質問には「何か、そこまで考えさせるほどの真意が隠されているのか」と疑問に思い、聞いてみる事にした。

 「あの〜頷いてますけど、この質問に何か意味はあるんですか?」
 「……あっ、特にないですよ」
 「ないのかよ!」

 ——あっ、思わずタメ口でツッコミを入れてしまった……。

 いやいやいや……。
 あの真剣な表情で質問されたからには「何か思惑でもあったのか」と、誰だって思うだろうに普通。
 でも、蓋を開けてみると何もないって……。

 ——そりゃ〜反射的にタメ口になってツッコミを入れてしまうわ……。

 「……ふふふ、やっと本性を現しましたね。さっきから気になってたんですよ。——その不似合いな敬語」

 眼前には身体を震わせながら不気味に微笑むシスターさんの姿があった。
 何て言うか「してやったり」と言った感じで僕の事を見つめており、少々腹が立つ。

 「……そんなに違和感ありましたか?」
 「ええ、大ありです。大人の遊園地と謳っておきながらその中で繰り広げられるイベントの数々が全て幼稚染みているぐらい違和感あります」

 「プンプン」と少しお冠なのか、頬を膨らませながらそう述べた。
 そんな彼女に対して額を押えて頭を悩ます少年が一人。

 ——大きな嘆息と共にがっくりと肩を落とした……。

 ……えっと、これはどう処理をしたらいいんだろうか?
 この人が言う「大人の遊園地」って言うのは——疲れた体を癒す大人たちの最後の楽園(ただし、有料)の事だろ?
 それにシスターさんが発した言葉から推測するに……。

 ——大人たちが唯一幼少期に戻る事が許される場所のようだ。

 ——ふむ、だったら僕に言える事はただ一つだな……。

 「シスターさんが言うそこは大人の遊園地じゃなくて大人の幼稚園の事じゃないかな?」

 ……うん「実に柔和に表現された言葉なんだろうか」と、再び自画自賛してみる。
 僕の言葉に納得してくれたのか、シスターさんは感慨深く頷いて「なるほど……」と小さく呟く。

 「……つまり、幼稚プレイ専門の場所って事ですね」

 真顔で述べられたその言葉に僕は膝を付いて崩れ落ちる。
 気のせいか、口内で少し鉄っぽい味がした。

 ——ああ、これが「大人の味」と言う奴か……。

 しかし、この人……折角、僕が柔和にフォローしてまとめてあげたと言うのに、全て台無しにしやがった。
 それに膝を付いて崩れ落ちた僕の事を不思議そうな表情を浮かべて見つめている。
 その様に僕は憤りを感じずにいられない……。

 何なんだ?
 ワザとやってるのか?

 ——それとも、天然でやっているのか?

 もう、訳が分からん……。

 「……あの〜どうかしましたか?」

 そんな僕に少し心配そうな表情を浮かべながらシスターさんが話しかけて来た。

 いかんいかん……。

 僕はもう少し、クールだったはずだ。
 なのにここに来てからペースが乱れまくっている。
 まるで、水無月姉弟(特にアスカ)と接しているみたいだ。

 なんつうか……手応えがないんだよな〜。
 ひらりとかわされている——って、言うより。軽くあしらわれているような感じで……。

 ——もう、いいや。

 敬語なんて使っているからペースが乱されているんだな、きっと……。

 「……ああ、大丈夫だ」

 僕は敬語を諦め、タメ口でそう答えた。
 そして、身体を揺らしながらゆっくりと立ち上がって平然を装う。

 「——そろそろ、お暇しようかな」

 立ち上がり際にそう告げるとシスターさんはきょとんとして少し間の抜けた表情を浮かべる。そんな彼女の態度の僕は首を傾げた。

 「……もう、帰っちゃうんですか?」

 少し名残惜しいのか、上目遣いで訴えかけて来たシスターさんに不覚にも「ドキっ」と動悸がして、少し顔が熱くなってしまった。

 「いや……ほら、あまり長居したらシスターさんに迷惑かなって……」

 少し心もとない態度ながらも照れてしまったのを上手く誤魔化せたと思う。
 その僕の言葉にシスターさんは納得してくれたのだろうか、軽く頷いてみせた。

 「……そうですね。——お互い、色々と都合がありますし、ね……」

 どこか物寂しさを彷彿させるかのような憂いた表情を浮かべながら話したシスターさんに何か妙な違和感を抱かざるを得なかった。
 まるで、これが最後のお別れのような……そんな錯覚が生じた。

 「……じゃ〜僕はこれで」
 「はい、お見送りをします」

 ゆったりとした足取りで僕たちはレッドカーペットを歩き。
 板チョコがそのまま取り付けられたような扉のノブに手を伸ばし、ゆっくりと扉を開ける。

 ——扉を開けた瞬間。

 日の光がちょうど真正面から差し込み、僕は堪らず目を細め、手でそれを少し遮る。

 「それじゃ〜また」
 「……はい。近いうちにまたお会いましょう」

 小さく手を振って、微笑むシスターさんに見送られ。
 僕は不思議な雰囲気を漂わす、この教会を後にした……。

(1)序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の四 ( No.7 )
日時: 2012/06/11 00:40
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/5/

 ——翌日。
 毛布の心地の良い感触を名残惜しみながら、今日から始まる新学期……。
 僕は無事、進級を果たして本日から二年生となった。

 しかし、特にこれと言った特別な思いがある訳でもなく、いつも通りの朝を迎える。

 二階の自室で、ある程度の支度を整えてから一階の居間にいつも通りに向かう。
 居間のテーブルに置かれた朝食を時間たっぷり使って食べる。
 普段なら悠長な事をしていられないかも知れないが、今日は午前中——始業式をやる事になっていた。
 だから、僕は始業式だけをすっぽかして。
 どのクラスに編成されるかの確認をしに行くだけの予定を立てていた。

 別段、始業式に行かなきゃならんほど、重要な事でもないし。
 僕と同じような考えを持つ生徒が他に結構いたりする。

 ——ふぅ〜、そろそろ行くとしようか……。

 僕は食べ終わった食器を水にさらし、後で洗えるように施しておく。
 そして、少しダルさが残る身体に鞭を打ちながら「のそのそ」と玄関に向かい、家を後にした……。

 ラッシュ時を大幅に過ぎた時間帯に家を出たものだから、通勤学者はほとんどいない。
 その少し寂しい道中を黙々と何気なく歩く少年が一人……。
 見渡す限り人っ子一人、車一台も通らない道を歩く様は何だか。

 ——この世界の最後の生き残りのような気がしてならない。

 それはこの静寂さがそう強く思わせているのだろうか、それとも……。

 そんな馬鹿っぽい考えを巡らせている内に、僕が通う平々凡々な公立高校に辿り着いた。
 すると、ちょうど始業式が終わったのか。
 生徒たちの憩いの場所たる中庭に人が「ぞろぞろ」と集まり出していた。
 その中庭に僕が求めるモノがある。

 僕は人ごみを掻き分けながら校舎の壁に沿って置かれたクラス表を覗き見ようと、試みたその時。

 ——背後から誰に思いっきり引っ張られ、後ろに戻されてしまった。

 それにはさすがの僕も不快感をあらわにし。
 僕はそいつの事を睨みつけるために振り返る。と、
 「ニヤニヤ」と気色の悪い笑みを浮かべる、見慣れた輩がそこにいた。

 「——キ〜サ〜ラく〜ん。お前、また式をばっくれただろ」

 僕の肩に暑苦しく腕を回して、気色の悪い笑みを近づかせて来る男子生徒。

 ——水無月アキトが出遭って早々、僕に苦言を呈してきた。

 「別にいいじゃん。そんな事よりも僕はどのクラスになったか確認しなければならん」
 「ああ、それなら心配いらないぜ。——俺たち一緒のクラスになったからな」
 「はぁ? お前と一緒?」
 「そう。……それと姉貴も一緒だぜ」
 「マジか……」

 アキトの言葉を聞いて僕は愕然とした。
 別にアキトと同じクラスになった事を嘆いた訳ではない。
 むしろ、後者の人物に対してだ……。

 ——水無月アスカ。

 一年の時もそうだったが、まさかまた同じクラスになろうとは思いもよらなかった。

 ——誰だ、このようなクラス分けをした輩は……。

 僕に何の恨みがある?

 それに片割であるアキトまでもが一緒のクラスとなると……。
 思い当たる節は一つしかないなよな。

 「暴君の抑止力たる生贄を二名用意した」って所、か……。

 ……はぁ〜。
 急遽、親の仕事の都合か、何かで転校出来ないかな……。

 「ん? どうしたんだ、キサラ」
 「いや、転校って——どうやったら出来るのかなって……」
 「……登校初日からお前は一体何言ってんだよ」
 「……お前、アスカと同じクラスなんだぞ。——その意味分かっているのか?」
 「……それを言うなら俺なんか姉貴と血の繋がった姉弟だからな。だから、キサラの一、二年間なんて俺にとったら一、二分程度だ。……我慢しろ」

 「——ねぇ〜。何を我慢しろってぇ〜?」

 『うわっ!』

 聞き覚えのある女の子の声が聞こえて。
 僕たちは思わず、ワザとらしいリアクションをして驚いてしまう。
 そして、恐る恐る声が聞こえた後方へ視線を向けると……。
 そこには怪しい笑顔を浮かべて、僕たちを見据える美少女が——。

 ……いや、美少女の皮を被った鬼神がそこにいた。

 鬼神は僕たちの肩をその人知を超えた力で握りしめ。その苦痛に堪らず、僕たちは表情を歪めた。

 「……あ、アスカ様いらっしゃったんですか……」
 「……お、お姉たま。ご機嫌麗しゅう……」
 「あら? 二人とも普段と口調が変わっているけれど……どうかしたのかなぁ?」

 不気味に微笑みながらそう話したアスカ様はさらに力を込めて僕たちの肩を握りしめる。
 僕たちの肩から「パキポキ」と怪しげな音が鳴り始める。
 恐らく、僕たちの肩が限界に達し、悲鳴を上げているようだ。
 それに身体から変な冷や汗が流れ始めた……。

 ふむ、このままでは粉砕骨折へ直行か……。

 南無〜だな……。


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