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Memory Dust(学園ミステリー)
日時: 2012/07/11 00:29
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/

・あらすじ

「君は、生きているの?」「私は、私を殺せる人を探しにここへ来た」——それが僕と彼女たちとの出会い。そう、暴君「水無月アスカ」とツンドラ転校生「時雨悠」との……。——あっ、ついでにアスカの双子の弟「水無月アキト」も忘れずに……。

・当作品は超常現象交じりの学園ミステリーとなっていますご了承ください。

・なお、当作品は小説家になろうさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・亡霊姉弟篇

 第零章 〜数奇な運命の出遭い〜 >>01

・死にたがりの少女篇

 序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の一 >>02
 序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の二 >>03 >>04
 序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の三 >>05 >>06
 序 章 〜死にたがりの少女 前 篇〜 其の四 >>07 >>08
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の一 >>09 >>10
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の二 >>13
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の三 >>14 >>15
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の四 >>16
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の五 >>17
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の六 >>18
 第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の七 >>19
 第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の一 >>20 >>21
 第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の二 >>22 >>23
 第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の三 >>24 >>25
 第二章 〜死にたがりの少女と天真爛漫少女〜 其の四 >>26 >>27

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第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の二 ( No.13 )
日時: 2012/06/12 21:58
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/7/

 ——これはとある童話の話。

 仲の良い双子の姉弟がいました。
 姉は絶対的暴力を用いて、弟や周りの人物たちを屈伏させては、自分の玩具として楽しんでいました。

 そんな姉に対して、弟は「それが自分に対する愛情表現なのだ」と歪んだ感情が芽生え。
 いつしか姉の姿ばかり追いかけていました。

 ある日、律義な弟に姉はとある命令を下しました。

 「この薬を飲んで死ぬか。それとも、私の手によって殺されるか。どちらか選びなさい」

 と、一方的に言われました。
 もちろん拒否権はありません。

 弟は姉から受け取った怪しげなマークが描かれたガラス瓶をじっくりと見つめながら必死に考えました。

 そして、思案してからたった数分で結論を出した弟は「ふん」と鼻で笑い。

 どこか清々しさを感じさせる表情を浮かべながら、その怪しげなマークが描かれたガラス瓶に手を伸ばし。
 それを一気に飲み干す、と——。


 ——果たして、弟はどうなったのだろうか……。

(1)第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の三 ( No.14 )
日時: 2012/06/12 22:03
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/8/

 ——まっ、戯言はさておき。
 アスカが唐突に発した言葉には、この場にいる僕たちはもちろんの事。
 世界中の人々が聞いても「ポカ〜ン」とする事間違いなしである。

 ——時雨悠を殺してみる……?

 ……意味が分からん。

 こいつはとうとう人殺しにまで手を染めなければならないほどの欲求不満の強欲女に成り下がったのか?

 「……ちょっと、聞いてるの? 二人とも」

 反応がない僕たちにアスカは少し呆れ気味で尋ねてきた。

 「いや、聞いてるちゃ〜聞いてるが……」
 「じゃ〜何?」
 「姉貴が突然、変な事を言い出すからさぁ。俺たち……どう反応していいやら分かんなくなったんだよ」

 弟の言葉に姉のアスカは首を傾げてきょとんとする。
 その反応に僕たちがきょとんだわ……。

 「別に変な事なんて言ってないわよ。私はただ時雨悠を殺したいと言っただけ」

 何食わぬ顔をして、またおかしな事を言い出したアスカに僕たちは、もう何が何だか分からなくなり。
今、この時。どういった表情を浮かべているのかさえ分からなくなっていた。
 それでもやはりアスカが、なぜそんな馬鹿な事を言い出したのかを問わねばならない。
 僕は二、三回小さく深呼吸をして気持ちを切り替えると、

 「それが変なんだって……。——何で、転入生を殺さなきゃならんのだ」

 僕のこの言葉にアスカは小さく息を吐いて、ゆっくりと瞳を閉じる。
 そして、瞳を開けて徐に口を開いた。

 「……アンタたちは知りたいと思わない? なぜ、彼女があんな事を人前で言い出し……そして、なぜ死にたがっているのか?」
 『それは……』
 「私は知りたいわ。だって、私たちはこれだけ生者であろうと努力をしているのにも関わらず。何ら変わりない退屈な日々を過ごす亡霊、浮幽霊でしかないのよ。それなのに、生者から死者になりたいですってぇ〜? 冗談じゃないわ! 私たちは好きでこの地位に甘んじている訳じゃない。必死で必死で、そちら側に行こうと頑張っているのよ!」

 興奮気味ながらも流暢な口調で語ったアスカの言葉に僕たちは少し「ホッ」として安堵の表情を浮かべた。
 それは彼女が色々履き違えて転入生の言葉を解釈しているのだと分かったからだ。

 転入生が述べた言葉はそのままの意味合いを持つモノだろうけど、アスカのモノは違う。
 アスカは自ら(僕たちも含む)の事を亡霊、浮遊霊、死者などと表現している。
 それは「退屈な日々なんて生きてる心地がしない」と揶揄した所から生まれた言葉だ。

 つまり、退屈しない日々を過ごす者たち(所謂、リア充って呼ばれる奴か?)の事を「生者」と称している彼女にとって「死にたい」なんて発言は言語道断である。
 自分がどうやっても行けないそちら側にいるくせに、小娘の分際でこちら側に来たいなどと気安く言いやがり、怒り心頭のアスカ様って感じのようだ。

 まぁ〜それはともかくとして、さすがのアスカも自分の退屈を埋めるために人を殺そうなんて馬鹿な考えはしない、か……。

 でも、一時。

 「自分が生者になれないのは髪型のせいだ」と、考えたアイツは色んな髪型にチャレンジしていたっけ?
 最終的に「何も変わりゃしないわね」と結論付け、長髪だった髪を「うざい」との理由で適当に短く切って、ぼっさぼっさの髪になってたな……。

 ——今となっては懐かしい思い出だよ。

 「で、アンタたちはどう思う?」

 目論見通り、少々ご立腹なのか。アスカが凄い剣幕で僕たちの事を見据えて意見を仰いで来る。

 「どう思うも何も……。——転入生が発したあの言葉の真意はアスカが思っているモノとは違う。全くの別次元の話だぞ」
 「そうそう。時雨さんが退屈な日々を過ごしたいと姉貴は解釈したみたいだけど、当の本人は本当の意味での死を望んでいるみたいだぜ」
 「は? 本当の意味での死って何? これ以上の何かが他にもあるって訳?」

 彼女の何気ない発言に僕たちは絶句した。
 マジで言っているのか、コイツは……。

 ——いや、今更驚く事でもない、か……。

 アスカは純粋にそう思って発した言葉なんだろう。
 僕は正面に座るアキトにアイコンタクトを送る事にした。
 あまり深い意味は無いんだが「この女王様の対応をどうするべきか」と、歴の長いアキトに意見を仰ぐ意味で送ったのだ。

 すると、アキトは「もう少し様子を見てからでいいんじゃね」と返して来た。
 全く、悠長な事を……。
 でも、先輩がああ言うなら従うしかない、か。

 「んで、姉貴は時雨さんの事をどうしたいんだ?」

 そう話しかけながらアキトは僕の事を一瞥する。
 「ふむ、どうしたらいいもんかいのぉ〜」と考えながら。
 「ここはアキトに合わせる感じで良いか」と、言う考えに至った僕は、

 「アスカはさ、転入生の事を殺してみたいって言ったけど。僕たちは別に転入生に恨みなんてない。だけど、アスカが言うように転入生が何で死にたがっているのかは気になるよ」

 僕たちの相槌のような言葉の応酬に色々と考えさせられる事があるのか、頷きながらアスカは思案顔になってしまわれた。
 うん、心にもない事を僕は「淡々と語ったなぁ〜」としみじみと思った。
 しかし、あの転入生が言った言葉が妙に気になる。

 ——私を殺せる人を探しにここへ来た、か……。

 それって、言いかえれば「自分の力では死ねない」って事だよな。
 つまり、ある程度の事は自分で試したって事、か……?
 ……ううん。そんな事、ある訳ない……。

 それともう一つ、気になる点があった。

 ……いや、これに限っては僕の勘違いかも知れない。
 だけど、あの転入生とはどこかで会ったような……気がする。

 どこだ……?

 僕は思い当たる節がないかと記憶を遡ってみた。
 しかし、それらしき人物は該当しな——いや、該当したにはした。
 だが、そいつは転入生とは対極の人物だ。

 ——そう、昨日遇ったシスターさんである。

 でも、これは僕の勘違いだろう。
 どちらも童顔でスレンダーな体躯ではあったが、漂わせる雰囲気が違ったし、性格も違う。
 したがって、この案はボツだ。

 それに、この世界には自分と似た人物は二、三人いると聞いた事がある。
 僕は昨日、今日で二人の似た人物と遇ったって事なんだろうと、思う。
 姉妹って事も考慮してみたが、それも違うと考えた。
 それならもう少しだけ噂になっていてもおかしくないだろう。

 ——美少女姉妹が転入して来るって、さ。

 シスターさんと転入生の歳が目測ではあるが、さほど変わらなかったから……。

(2)第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の三 ( No.15 )
日時: 2012/06/12 22:02
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/8/

 「キ〜サ〜ラ〜く〜ん。——何、お前まで難しい顔してんだ?」

 思案顔をしていたのか、不意にアキトにそう指摘され少しドキッとしてしまった。
 ふむ、僕はもう少し無表情だったと思うのだが……。
 やはり、水無月姉弟(特にアスカ)と関わってから表情豊かになってしまったのか……?

 「いや、あの転入生はなぜ、あんな事を言い出したんだろうなって……」
 「それはあれじゃね? ——私とアナタたちでは住んでいる世界が違うの〜。だから気安く話しかけないでちょうだい。って、意味を込めての牽制じゃね?」
 「口調はともかく、牽制ならもう少しマシな言い方があるだろうに……。例えば——私に気安く話しかけないでちょうだい愚民ども。って、感じで……」
 「それ、俺より酷い言い方だな〜。……まるで実害を被ったような言い草だ」

 まぁ〜たった数分で心をずたずたにされた実績があるからな……。
 しかし、アキトが言うように本当に牽制の意味を込めて言った言葉なのだろうか?

 もし、そうなら別段気にする事はないんだろうけどな。
 転入生が「一人で居たい」って言うなら一人で居ればいい事だし。
 僕もどっちかって言うとそっちの口だ。だから、彼女の事を否定も肯定もするような立場でもない。

 ——冷たい言い方かもしれんが、転入生の好きにすればいいと思う。

 「なぁ〜アスカ。そろそろ何か話したらどうなんだ? とうに浮かんでいるんだろ?」

 少し、急かすような言い草で僕は不意にアスカにそう投げかけた。
 実際、ここで僕たちがどうこう言おうが彼女の言葉が絶対になってくる。
 そのため、何か浮かんでいるならさっさと発表してほしいと思ったからだ。
 つまり、正直な所「さっさと結論を出して解放してほしい」って所だな。
 すると、ようやくアスカは考えが纏まったのか、僕たちの事を見据える。

 「……そうね。少し感情的になってしまったのは謝るわ。あの子が、なぜ自分の事を殺せる人物を探しているのか、なぜそこまでして死にたいのか……。そこに重きを置いて考えようと思うの。だから、する事は一つ。——あの子の身辺調査をしようと思う」

 淡々と語りながらもアスカの表情にはどこか楽しげなモノを感じられた。
 恐らく、この退屈すぎる日々を少しでも脱却できるかも知れない事件に巡り合えたからだと思われる……。

 「で、身辺調査をしてどうすんの? 転入生の事を説得でもする気か?」

 少し嫌みったらしくアスカの真意を問うてみる僕。
 別に深い意味はないけれど、どうせ僕たちが調べさせられるのだから、それぐらい聞いても良いだろ?

 「特に意味はないわ。ただ、知りたいだけ。いいえ、こんな面白そうな事をみすみす見逃す訳にはいかないでしょ!」

 拳を強く握ってアスカは僕の言葉にそう返答した。
 とうとう、本音が出やがったか。
 初めから分かっていただけになんつうか……。

 ——ここまで自分の気持ちに素直になれるのは逆に清々しいな……。

 「……分かった。僕たちは何も言うまい。いや、言った所で強制イベントは確定しているから無駄な体力は使いたくない。ただ——」
 「分かってるわよ。アンタたちが言う『死』を本当に彼女が望んでいるのなら、説得でも何でもすればいいじゃない。私はそれまでの過程を楽しませてもらえば十分だから」
 「了解」
 「よ〜し。そうと決まれば行動あるのみだな」

 何やらやる気がみなぎっているのか、徐にアキトが拳を強く握り締め、熱血漢あふるる言葉を発した。
 そんな彼の態度に僕は嘆息を吐きながら冷やかな視線を送る。
 毎度の事ながら、姉の命令に素直に従っていて「面倒臭い」と思った事はないのだろうか?

 ——本人がそれで良いのなら別にいいの、か……。

 他人の僕がとやかく言う事でもないし。
 アキト自身が少々シスコン気味だから姉の役に立てて幸せなんだろうな。

 「なぁ〜キサラ。身辺調査って一体何をすればいいんだ?」
 「そういう事は探偵かストーカーに聞いてくれ」
 「なるほど、その道のプロに聞けって訳か……。でも、そんな知り合い居ないからな〜」

 僕の言葉を真に受けたのか、真剣な面持ちで唸るアキト。
 いや、ツッコミ所があるだろうに……。
 探偵はともかく、ストーカーの知り合いが居る方が稀なケースだろ。

 「まぁ〜どうにかなるか……」

 「考えていてもしょうがない」と言わんばかりにアキトは開き直りやがった。
 確かにそうなんだが、もう少し頭を使った方がいいと思うぞ〜。
 特に姉とのあり方についてじっくりとな……。

 「その事なんだけど……」

 何かいい案があるのか、アスカが渋い表情ながらも言葉を発した。
 僕には嫌な予感しかしないけど……。
 さて、どんなトンデモ案を告示するのか見ものだな。

 ——せめて、僕たちが容易に出来るような事でお願いするよ……。

 「身辺調査は私とアキがするとして……。——シゲルには時雨悠と接触し、それとなく聞き出す役目を担ってもらおうと思うの」
 「はぁ? 何で、僕が?」
 「ほら、アナタは彼女と話した事がある唯一の人物だから」
 「少し買い被り過ぎだぞ、その言葉……」

 僕の事を褒めて、そそのかそうとしても無駄だ。
 生憎だが、僕はそこまでノリが良い人間ではない。

 ……それにしても、少し言い過ぎではないだろうか。
 幾らなんでも僕としか会話を交わしていない訳がないと思うが……。

 ——ほら、転入生とお近づきになりたい輩がいるだろうしな。

 「——いや、姉貴の言葉は結構マジだぜ。キサラ以外の奴らから話しかけられている所を見たけど……全てスルーだったぜ」
 「……僕が話しかけた時はたまたま機嫌が良かっただけだと思うよ」

 ……ったく、大勢で押し掛けるから転入生が機嫌を損ねただけだろ。
 年頃の女の子は繊細なんだよ、馬鹿野郎!

 「いいや。俺が見るに——時雨さんは常に不機嫌だと思う」
 「……失礼な奴だな」
 「まぁ〜そんな所よ。それに彼女の身辺調査をして理由が見つからなかった時のための保険にもなるでしょ? ——だから、もしものためだと思ってやれ!」

 いつまでもぐずぐずしている僕に痺れを切らした女王様は凄い剣幕で睨みつけ、有無も言わさぬ様相で呈した。
 そんな彼女に僕は何も言えなくなり、

 「……了解」

 こうして無理やり役割を決められた一人の少年は額を押えて大きく嘆息を吐いた、とさ……。


 ——めでたしめでたし……なのか?

第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の四 ( No.16 )
日時: 2012/06/13 22:19
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/9/

 ——翌日。
 最悪な目覚めと共に今日一日を迎える事になった。
 モーニングコールが水無月アスカからの電話で、僕の安眠が妨げられたからである。
 そして、出るや否や命令されたのだ。

 「誰よりも早く学校へ行き、時雨悠と二人きりでコンタクトを取れ」と……。

 ——はぁ〜。
 無計画すぎるだろ……。

 まず、なぜに朝早くから行かなきゃならない?
 仮に早く登校した、としよう。
 だけど、相手は登校しているか分からないし、遅刻すんでの所で来るかもしれない。
 そんな賭けのような提案に乗れる訳がなかろう。

 だから、僕は行かん!

 ——と、言いたい所だが、行かなきゃ何されるか分からん……。
 それに「行ったか、行っていないか」を確認するため「校門に取り付けられた防犯カメラをチェックするから」と、言われちゃ〜もう、ホント……。

 行くしかないだろ……?

 気分が優れないまま。いつもの時間よりかなり早めに起床し、登校前に行う身支度をいつも通りに済ませて、家を後にした。

 陽が出て、あまり時間が経っておらず。
 辺りが少しモヤがかり、肌寒い朝……。
 昨日、家を出た遅い時刻と違い。遠方の会社に勤める通勤者たちがちらほらと歩いており、僕は「朝早くからご苦労様」と労いの言葉を心の中で述べてみる。

 しかし、いつも通い慣れた道のりなのに、妙な違和感を覚えるのはどうしてだろうか?

 見慣れた景色である事には間違いないのだが……。
 もしかすると、辺りに立ち込める白いモヤと少し薄暗い環境が、そう思わせているのかも知れない。
 少々、臭い事を考えながら何ら変わりない学校に辿り着き。
 校舎に向かって欠伸をしながら歩いていると、どこかで朝練をしているのか、

 「いち! にっ! いち! にっ!」

 と、威勢の良い掛け声が聞こえて来た。

 「青春を謳歌してるのぉ〜」

 そんなジジ臭い事を漏らしながら校舎に辿り着いた僕は自身の教室へ向かう。
 二年C組の表札がぶら下がった教室の扉をゆっくりと開けて入ると……。

 ——案の定、僕が一番乗りだった……。

 ほら、言わんこっちゃない……。
 だけど、アスカの言いつけ通りに眠たい中、朝早くに来てやったんだ。
 これで文句を言われちゃ〜もう……お手上げである。
 愚痴を心の中で溢しながら、自席に腰を下ろす。
 ふと、入り口付近の壁に掛けられた時計に目をやると。

 ——時刻、午前七時十分になろうとしていた。

 ……マジか。
 授業開始までまだ一時間半はあるぞ。
 どう時間を潰せばいいんだ?

 寝る——訳にはいかないよな〜。
 寝てる間にもし、アスカが奇をてらって早く学校に来てしまったら何を言われるか分かったもんじゃない。

 ふむ、僕が寝堕ちするのが先か。
 はたまた転入生が来るのが先か、あるいは……。

 【ガラガラ】

 と、僕が考えにふけっていると扉が開かれた。
 誰が入って来るのだろうと扉の方に視線を向けると、そこから凛々しい面持ちの——まさかのターゲット様がいらっしゃってくださった。

 「マジかよ」と思いながら見つめていると。
 転入生が僕の存在に気付いたのか、僕の事を見るや否や本当に誰からにも分かるような不愉快な表情を浮かべた。
 そして、大きく嘆息を吐きつつ「すたすた」と自身の座席である。

 ——僕の前席にゆっくりとその重い腰を下ろした。

 ……ホント、傷つくよな〜。

 まぁ〜いい。奴さんが寝堕ちする前に来てくれたから、それで良しとしよう。
 しかし、何から切り出せば良いのやら……。
 視線を彷徨わせながら逡巡し、ようやく考えが纏まる。

 うん、ここは手堅く挨拶だよな。

 笑顔で「おはよう、転入生」って、感じか。
 当たり障りなく無難な感じだけど、もう少しフランクな感じの方が良いかな?
 「悠ちゃ〜ん、チョリース!」って、感——いや、ないな。
 フランクって言うよりチャラ男だ。
 それに僕のキャラには不釣り合いだ。

 ——うん、無難が一番だな……。

 挨拶をするだけなのになぜか緊張してしまい。
 気持ちを落ち着かせるために二、三回小さく深呼吸をし。
 気持ちが落ち着いた所で、

 「お、おはよう。転入生」

 少しおぼつかない口調ながらも僕なりに頑張れたと思う。
 だけど、転入生は無反応で挨拶を返してくれる事は無かった。
 ふむ、想定内の事とは言え、少し胸に「ズキン」と来るな……。

 「——案外、来るのが早いんだな〜。もしかして、緊張して眠れなかったとか?」
 「……」

 返事がない。
 これはただの——じゃない。

 「僕もさぁ〜。緊張じゃないけど、なかなか寝付けなくてさぁ〜。気付いたら朝だったんだよ〜。まいっちゃうよな」
 「……」

 ……これしきの事で、へこたれへん!

 「どう? もう学校には慣れた? いや、まだ始まったばかりだから分からんか」
 「……」
 「うん、そうだよなぁ〜。人間、慣れるまでが大変なんだよな〜。慣れたら慣れたで、また違った要因で大変だけど」
 「……」
 「あははは。小童の分際で何語ってんだって話だよなぁ〜」
 「……」
 「——悠ちゃん。キャワウィ〜ネェ〜」
 「……」

 ……ダメだ。何言おうがスルー判定を食らわされる。

 総スルーされて心が折れた僕は不貞腐れながら机に肘を着いて、それを顔の置き場とした。
 そして、大きな嘆息を吐いて授業が始まるまで「ボーっ」と過ごす事と相成った……。

 すると、前方に座る転入生の頭が突然「ガクッ」と下がり。
 その光景を後方から「ボーっ」と眺めていた僕は自ずとある疑念が過ってしまった。

 ……もしかして、寝てた……?

 そう思いながら彼女の事をまじまじ見ていると。
 自分が寝堕ちした事に気が付いたのか、転入生は「パッ」と頭を上げ。
 周りをキョロキョロと見渡し始める。

 その最中、何かに気付いたのか見渡すのを唐突にやめて。
 狙い澄ましたようにゆっくりとした動作でこちらを振り向いた。
 が、身体を「プルプル」と小刻みに震わせながら凄い剣幕で僕の事を睨む転入生。

 「なぜ、お怒りになられているのか」の意味が分からず、僕は首を傾げてしまう。

 「……えっと、どうかしましたか?」
 「……」

 僕の事を睨むだけで何も語らない転入生に少し恐怖を覚えた。
 それと同時に頭の中では良からぬ展開が幾重に渡って繰り広げられてしまう。まるで、後に起こる事態に備えてのシミュレーションのように……。

 ——ああ、これはアレだな。お約束(?)って奴だよな……。

 ふぅ〜しょうがない。
 全て受け止めるとしようかね……。

 半ば開き直るように瞳をゆっくりと閉じて深く息を吐き。
 気持ちを切り替えて、覚悟を決めた僕はゆっくりと瞳を開ける。
 転入生もこの流れの意図を理解出来ているのか分からないが、凄惨な笑みを浮かべ、待ち構えていた。
 そして、準備が整った所で僕の右頬に向けて鞭のようにしならせ、スナップを利かせた平手打ちが放たれた。

 【パチーン!】

 快音が教室に響き渡る。
 と、同時に意識をもうろうとさせ、椅子ごと床に倒れ伏せている——少年がいた。
 その光景は彼女の平手打ちの威力を十二分に物語っている。
 そして、少年は平手打ちを食らい、飛ばされている間に気付いた事があった。

 まず一つ、転入生がサウスポーだったと言う事。
 それともう一つ、これは一番重要視しなければならない事柄だった。

 ——なぜ、殴られなきゃならんのだ、と……。

 身体を「ピクピク」と痙攣させながら、徐々に意識が薄れて行く少年の事を嘲笑うかのように時雨悠は「うっとり」と恍惚な笑みを浮かべていた……。

第一章 〜死にたがりの少女と女王様の戯れ〜 其の五 ( No.17 )
日時: 2012/06/14 23:31
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n0270ba/10/

 「——お〜い。キサラく〜ん。生きてるか〜。お〜い」

 誰かが僕の事を呼んでいるみたいだ。
 だけど、何だろう右頬が妙に痛い。
 それに頭がクラクラする……。
 少し陰鬱ながらもゆっくりと瞳を開けると、そこには中腰姿で僕の事を見つめる男子生徒がいた。

 ——コイツ、誰だっけ……?

 佐藤くん?
 それとも、鈴木くん?
 ああ、高橋くんだっけ?
 男子生徒の名前を思い出せないまま、僕は身体を揺らしながらゆっくりと起き上がる。

 「大丈夫か? キサラ」

 心配そうに男子生徒は僕(?)に声を掛ける。
 が、しかし「きさら」って誰の事だ?
 僕の顔を見ながら呼んでいるのだから僕の事なんだろうけど……。

 ——一応、返事をしないと、な。

 「ああ、大丈夫だよ。えっと——田中くん?」

 首を傾げ確証がないながらも男子生徒の名前を呼ぶと、どうしてか彼に抱きつかれてしまった。

 ……え?
 どういう事?
 僕はこの男子生徒とはどういった間柄なんだ?

 男同士が抱き合うなんてよっぽどの事だぞ。
 男子生徒にされるがまま、身を委ねていた僕の瞳から自ずと何かが零れ落ちてきた。
 現在の自分の心情がどういったモノなのか、分からなくなってしまっている。

 悲しいのか?

 嬉しいのか?

 それとも……。

 【ドクン】

 ——あれ?

 胸が痛む……。
 何だろうか、この胸の痛みは……。

 これは「もしかして」と言う奴か……?
 この道筋を辿ればどこに行き着く?

 ……分からない。

 分からないけれど、何か大切なモノを多く失いそう。
 だけど、それでも自分の感情には素直にならなきゃならないよ、な……。
 僕は自分の「気持ち」に素直になって。この変な流れに身を委ね、未開拓地への道筋に沿って進む事にした。

 ——ああ、一体どうなる事やら……。

 「——何、男同士で抱き合ってるのよ。……気色が悪い。——ペッ!」

 不愉快そうな表情を浮かべ、蔑視を僕たちに向けながら吐き捨てるセリフを述べられた、彼と顔がそっくりな女子生徒が、僕の視線の先で立っていた。

 ……何だ、この女子生徒。
 僕たちの間柄に嫉妬しているのか?
 これだから、現実
リアル
は……。

 僕は愚かな現実に失望して大きく嘆息を吐く。

 「——僕と相棒の邪魔すんじゃねぇ〜。このそっくり女!」

 「シャ〜」と、威嚇をして僕は女子生徒を追い払おうとしたけれど、効果は無く。
 逆にそれが癇に障ったのか、さらなら仕打ちとばかりに表情に凄みを持たせ、汚いモノを見るような眼差しで凝視されてしまった。

 すると、女子生徒が何を思ってか、今度は不気味な笑みを漏らし。
 徐にスカートのポケットから「ガサガサ」と何かを取り出した。
 彼女が手に持つそれに目をやると。
 そこにはドクロのマークが描かれた怪しげな瓶があった。

 ——なっ、なんだ、あの茶目っ気たっぷりな代物は!

 はっ!
 もしかして、あれで僕たちの絆を確かめようとしているのか?
 僕が飲めば僕の勝ち。
 逆に飲まなければ僕の負け。
 もちろん、勝者に贈呈されるのはこの男子生徒って事なのだろう。

 良いだろう。
 その勝負受けて立ってやる。
 どうせ、中身は普通の飲料水だろうからな。
 僕は未だに抱擁してあっている相棒の事を名残惜しみながらも引き離し。
 そして、怪しげな瓶を手に持つ女子生徒の事を見据えた。

 「僕は君のためにこの勝負……勝ってみせるよ」

 親指を立てて、今の僕が持てる最高の笑顔を相棒に投げかける。
 相棒は僕の言葉に首を傾げて怪訝そうな表情を浮かべていた。
 けれど、僕にはその意図が理解出来ていた。

 ——そう、彼は知らない。

 僕と女子生徒の間でまさか自分を取り合っての勝負が繰り広げられようとしている事を……。
 だけど、それがどうしたと言うのだ。僕は相棒のために勝つのみ。

 さぁ〜勝負だ、女子生徒!

 僕は女子生徒が持つ怪しげな瓶を奪い取るような形で受け取り、蓋を開ける。
 すると、紫色の煙が「モクモク」と溢れ出てきた。

 ……ふ、ふん。だからどうだと言うのだ。

 どうせ、グレープジュースの中にドライアイスを入れたモノをこの瓶に詰め込んでいて、開けた瞬間に 紫色の煙が出る様になってるんだろ?

 ——ったく、ひやひやさせやがる。

 この怪しげなモノを作った生産者はなかなかの凝り性だとみた。

 だが、僕には全てお見通しだ!

 僕は腰に手を置いて、風呂上がりの牛乳を飲む要領で怪しげな瓶の中身を「グビグビ」と喉を鳴らしながら、一気に飲み干してやった。

 【ゲフッ!】

 と、心なしか。
 紫色のゲップが口から出たような気がしたが……問題無いだろう。
 僕の飲みっぷりに女子生徒は驚いたのか、口を開けて間抜け面をさらしていた。

 ふん、どうだ女子生徒よ。
 まさか、僕が飲むとは思わなかっただろ。
 だが、勝負は勝負。潔く身を引いてもらうぞ、この泥棒猫がぁ!

 そう勝利を確信した瞬間。


 ——僕は床に膝を着いて倒れていた……。

 ……ど、どういう事だ?
 身体が重い。
 それに視界が微妙にぼやけて来る。

 「まさか」と思いながら僕は女子生徒に視線を向けると、そこにはぼやけた視界の中でもはっきりと分かるぐらいに口元を歪め、凄惨な笑みを浮かべる彼女の姿があった。
 そんな女子生徒の姿を目の当たりにした僕はようやく状況を理解出来た。
 あの茶目っ気たっぷりの代物は本物だったのだと……。

 しかし「時すでに遅し」とはこの事なのだろう。
 徐々にではあったが意識がもうろうとしていた。
 そして、最後の力を振り絞って女子生徒に腕を伸ばしてみたが、届く事は無く。
 僕はそこで力尽きてしまった。

 ああ、勝負には勝ったが結果では負けたって事か……。

 ——虚ろいで行く意識の中で少年は無念さを残して気を失った……。


 ——しばらくして。

 目覚めた少年は何を思ってか、奇声を発しながら一直線に窓に走って行き。
 三階である教室から飛び降りようとした所をクラスメイトたちが慌てて、取り押さえ。
 その少年は事無きを得たとさ……。


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