コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 俺と羊と彼女の3ヶ月【完結】
- 日時: 2013/10/20 00:14
- 名前: ゴマ猫 (ID: QXDbI9Wp)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=33042
はじめまして、ゴマ猫です。
コメディライト、2作品目となりました。
今回はちょっと不思議なラブコメに挑戦しています。
内容がわかりづらかったらすいません(汗)
読んでくださった皆様のおかげで、無事完結させる事ができました。
参照が、2000を超えました!!
ここで書かせていただいてから初めてこんな凄い参照数になり、ただただ、感謝の言葉しかありません。読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました!!
2013年夏の小説大会コメディライト部門で、銀賞をいただきました。何かの間違えではないか? と思ってしまうほど驚きました。
すべてこの作品を読んでくださった皆様のおかげだと思っております!! 本当にありがとうございます!!
下の作品は、自分の過去作品と、合作です。
どちらも、完結作品です。
興味があったら、この作品も含めてコメントいただけると嬉しいです。
【日々の小さな幸せの見つけ方】前回作品です。(1ページ目にリンクあります)
【幼なじみから恋人までの距離】あるま様との合作です。(リンクは上です)
——あらすじ——
眠ることが大好きで、中学時代は寝る事に没頭していた桜井洋一(さくらいよういち)は、羊神社で謎の羊に遭遇。羊の呪いで洋一の記憶は徐々に消えていき、3ヶ月しか持たないと言われる。呪いを解くために羊に出された条件とは……?
【お客様】
結衣様 華憐様
朔良様 春歌様
藍歌様 一之瀬様
あるま様 珠紀様
七海様
【目次】
登場人物紹介>>7
羊との遭遇>>1 >>2 >>3 >>4
羊との再会>>8 >>9
彼女との遭遇>>12 >>13
俺と彼女の距離>>14 >>15 >>18
夢の中で>>19 >>20 >>21
帰り道>>22 >>23
葉田の憂鬱【番外編】>>26 >>27 >>30
おんじぃの助言>>31 >>32 >>33 >>34
幼い頃の記憶【橘 菜々編】>>35 >>38
彼女の場合【橘 菜々編】>>39 >>42 >>47 >>48
デート>>49 >>50 >>54 >>55 >>60 >>64 >>67 >>70 >>74 >>75 >>78 >>81 >>83 >>87
日常の変化>>88 >>93 >>97 >>98 >>104 >>109
空白の時間【橘 菜々編】>>110 >>113 >>116 >>119
空白の時間【桜井 洋一編】>>123 >>124 >>125 >>126 >>130 >>131 >>135
エピローグ>>136
???>>137
あとがき>>144
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- 葉田の憂鬱3【番外編】 ( No.30 )
- 日時: 2013/05/28 21:42
- 名前: ゴマ猫 (ID: 9cJ6xZl9)
とある日の放課後。
部活が終わった俺は、1人帰路についていた。
夏の気配が近づいているのか、夕方でも大分暖かくなった気がする。
自宅近くの川沿いを歩いていると、どこからか声が聞こえてきた。
「だ、大丈夫だよ!! 今助けるからね!!」
少し気になった俺は、声が聞こえた方を探す。
すると、川辺近くに居た人の声だったみたいだ。
「ほ〜ら、怖くないよ。良い子だからおとなしくしててね」
よく見ると、セミロングくらいの黒髪をサイドでまとめていて、比較的小柄な女の子だった。
年齢は多分同じくらいだろう。
その子が着ている制服はうち(学校)の制服だ。
「大丈夫だよ〜。怖くないよ」
さっきから何をしてるのかと思い、女の子の視線の先を見ると、子猫が川の岸辺に居た。
どうやら間違って川に入らないように、安全な場所まで移動させようとしてるみたいだった。
なるほど。
怖がらせないように声をかけて、安全な場所に誘導させようって訳か。
これ以上見ていても仕方ないので、帰ろうとしたその時。
——バシャーン
大きな水の音がした。
振り返ってみると、先ほどの女の子が川に落ちていた。
猫は……無事みたいだ。
さっきより安全な位置にきている。
冷静に状況判断をしていると、女の子がなかなか岸に上がってこない事に気付く。
見てみると、さっきより川の真ん中の方に行ってしまっている。
「……ガボッ……」
ガボッ?
「まさか……泳げないのか!?」
ここの川はそう深くはないと思うのだが、流れもあるので泳げないと厳しい。
急いで川辺に行く。
本当はこういう時は助けを呼んだ方が良いらしいが、泳ぎには自信があった俺は飛び込む事にした。
——バシャーン
「……つっ」
服が水を吸って、思うように泳げない。
だが、急がないとマズい。
重い服と、川の流れに邪魔をされながらも女の子の所へたどり着いた。
「大丈夫か? しっかりつかまってろよ」
頷く余裕もないのか、女の子は無言で俺の脇腹あたりにしがみついてきた。
人を抱えた状態で泳ぐのはかなり大変だったが、なんとか岸まで来れた。
「……ふぅ……大丈夫か?」
「……ごほっ、ごほっ!! は、はい……」
あらためて聞いてみると、咳き込みながらも女の子は小さく頷いて返事した。
なんとか大丈夫そうだ。
自分も、相手も制服はずぶ濡れでひどい状態だったが、助けられて良かった。
「……あ、あの……」
「ん?」
「あ、ありがとうございます……」
申し訳なさそうに謝る女の子。
「気にするな。猫も無事みたいで良かったな」
俺がそう言うと、女の子は目を見開いて驚きの表情になる。
「み、見てたんですか!?」
「たまたまだ。悪気はない」
「い、いえ!! そういう意味ではなくてですね」
なぜか女の子はあたふたしていた。
気温が暖かくなったとはいえ、このままゆっくりしていると風邪を引いてしまう。
そう思った俺はバッグから少し大きめのスポーツタオルを取り出して、女の子に渡す。
「こ、これは?」
「そのままだと風邪を引くぞ。安心しろ。予備のタオルだから使ってない」
「い、いえ、そんな事は気にしてないのですが……いや、気になると言えば……気になるけど」
女の子は少し俯いて、考えるように呟いていた。
「にしても、何で川に落ちたりしたんだ?」
「いやぁ、なぜか突然猫ちゃんが驚いてしまって、川に入りそうで危なかったんです。それで、慌ててたら転んで……ドボンと」
「そうか」
猫は警戒心の強い動物だ。
子猫にしろ野生ならなおさら強い。……多分この子が近づいてってしまったので驚いてしまったんだろう。
それに猫は基本的に水が嫌いだ。なので、ほっといても自ら川に飛び込む事はなかったと思う。
その事実は言えないが。
とにかく、もうこれで心配はないだろう。
そう思い、俺はその場を離れて帰る事にした。
「あ、あの!! すいません!!」
立ち去ろうと少し歩いたところで後ろから声がかかる。
「ん?」
「ほ、本当に、ありがとうございます。な、名前とか教えてもらっても……」
「葉田だ。葉田 流星」
それだけ告げて、すぐさま逆方向に向き直り歩き出す。
あまり話すのが得意じゃない俺はこんな雰囲気が苦手だ。
それにとくに感謝されるような事もしていない。
もし、通りかかったのが他の誰かでも、方法は違えど同じように彼女を助けただろう。
お礼を言われたくてやってる訳ではないのだし、だから別に気にする事はないのだと思う。
……って、俺は少し変なやつなのかもしれないな。
自分の考えに自分でつっこんでしまう。
そんな事を考えていると、後ろから大きな声が聞こえてきた。
「あのーーっ!! 私、青山 美晴です!! 今度タオル返しますねーー!!」
そうか、同じ学校ならまた会う事もあるかもな。
振り返らず、手を少しだけ上にあげて了解の合図をした。
制服、明日までに乾くといいんだが。
そんな事を思いながら自宅へと帰った。
- おんじぃの助言【17】 ( No.31 )
- 日時: 2013/06/02 20:48
- 名前: ゴマ猫 (ID: 9cJ6xZl9)
最近は人の話しや、今日あった出来事を日記に書いている。
そのため今のところ日常にかんしては問題はない。
知らない話しというか、覚えてない話しは日記を見て対応。
ポケットサイズの日記帳を持ち歩いている……というよりはメモ帳と言った方が正しいか? 多少不自然ではあるが、「忘れっぽいから」って言えば納得してくれる。
「桜井、体調はもう平気なのか?」
「あぁ、もう大丈夫だよ。ありがとな」
朝の教室。
俺は葉田と他愛のない会話していた。
先日の昼休みに、屋上で倒れてしまった俺。
原因は羊。
羊にかけられた呪いを解くため、羊に出された条件は橘さんを笑顔にする事。
その目的のため、橘さんに羊の事を色々と聞こうとしたところ、突然激しい頭痛に襲われて意識が落ちた。
意識が落ちて、夢の中で羊に会った。
そして『自分の事は彼女に言うな』と。
言えば問答無用で記憶が全てなくなる……そう言われて、お手上げ状態のところで出会った女の子、青山 美晴に思わぬ情報をもらった。
羊に詳しい人物が居るんだとか。
今日の放課後、青山さんにその人の所へ連れて行ってもらう事になっているのだ。
色々と疑問はある。
なぜ羊は橘さんにこだわるのか? そもそもあの羊は何者なのか? 呪いを解く方法は他にないのか? そんな疑問や不安はつきない。
「……桜井?」
「……へっ?」
思考の世界にトリップしていたせいか、葉田の話しを聞いていなかった。
「えっと、何の話ししてたっけ?」
「やれやれ。今日はボーっとしてるみたいだな」
肩をすくめて、葉田はそんな事を言う。
「洋くーん!!」
その時、明るい声が教室の入口付近からかかってきた。
視線をやると、黒髪をサイドでまとめた快活そうな女の子、青山 美晴が居た。
「あれ? 青山さん?」
急いで青山さんのところに行く。
「どうしたの?」
「今日の放課後なんだけど、授業終わったら校門前で待ち合わせね!! 遅れたら許さないよ」
青山さんは明るい笑顔で、ビシッと人差し指を俺の目の前につきつける。
「遅れないよ。っていうか足の具合はもう良いの?」
先日の放課後、俺は足を痛めた青山さんを家までおぶって送っていったのだ。
「ん〜? あぁ、大丈夫だよ〜。私、頑丈だし」
青山さんは、ニコッと笑いながらピースサインを自分の目の前で作る。
「頑丈て……まぁ、良くなったならよかったよ」
「あははっ!! 洋くんは心配性だな〜」
そう言いながら、俺の背中をバシバシと叩く。
痛い、結構痛いから。
そんな事をやっていると、葉田が後ろからやってきた。
「おい、桜井。そろそろ授業が……って」
「あぁーーっ!! あの時のイケメンさん!!」
葉田と青山さんが顔を見合わせて驚いていた。
何だ? 2人は面識あるのか?
「同じ学年だったんですね!! 冷静な口調とか、対応とか、絶対先輩だと思ってたのに。ってしかも洋くんと同じクラスだったんなんて!!」
「……あぁ」
青山さんのマシンガントークに、ややたじたじな葉田。
青山さんは隣りのクラスなのだが、ニアミスというか、よく会わなかったもんだ。
「早く言ってくださいよ〜。でも、また会えて嬉しいです!!」
青山さんは恥ずかしさと、嬉しさがまじった声でそんな事を言う。
これはどういう事なんだろう? 1人置いてけぼり状態の俺。
「なぁ、これはどういう……」
事なんだ? と言おうとしたところで予鈴のチャイムが鳴った。
「おっと、時間ですね。じゃあ、流星さんまたです!! 洋くんもまた後でね!!」
そう言って、嵐のように青山さんは去っていった。
これは休み時間に葉田を問い詰めないとな。
「桜井」
「うん?」
「桜井が面白がる話しはないぞ?」
思考が読まれてたのか、先に釘をさされてしまう。
「嫌だなー。そんなこと考えてないぞ」
「まぁ、隠すような事はないから聞きたければ話すが」
席に着きながら、葉田はやれやれという表情をする。
葉田は俺のひとつ後ろの席だ。なので席に着いても話しができる。
「そんな事より、良いのか?」
「えっ? 何が?」
「橘さんだ。桜井が青山さんと喋ってた時、後ろからずっと見てたぞ?」
葉田に言われて、俺の席から少し離れた斜め横の橘さんを見ると、何かを言いたそうに俺を見ていた。
小さく手を振ってみたが、プイッと顔を背けられてしまった。
「二股はよくないと思うぞ」
「……だから違うんだって」
なんだかこの間の事から葉田を含め色々と誤解された状態だった。
ふと周りをよく見ると、クラス中からの視線が痛いほど俺に集中していた。
「……自分のクラスなのに、凄いアウェーな気がするんだが」
「心配するな。俺は桜井を信じているし、桜井が二股をかけても友達をやめたりはしない」
「葉田……マジで誤解なんだ。信じてくれ」
「大丈夫だ。安心しろ」
うんうんと葉田は頷いてはいるが、どこまで伝わったのか疑問だ。
そんな事をしているうちに担任が入ってきて、授業が始まるのだった。
- おんじぃの助言【18】 ( No.32 )
- 日時: 2013/06/02 20:54
- 名前: ゴマ猫 (ID: 2qC9xcD7)
チャイムが鳴り、放課後になると部活に行く人や、帰宅するために準備する人、教室に残って友達と話す人など、皆様々な行動する中、俺は待ち合わせ場所の校門前まで来ていた。
「はぁ……」
独り大きなため息をつく。
朝の誤解? のせいで、今日は1日橘さんに口を聞いてもらえなかった。
人の心は難しい。
ましてや女の子となればさらにだろうか?
「どったの? 辛気くさい顔しちゃって」
後ろから声がかかり、振り返ってみると、待ち合わせをしていた人物、青山さんが居た。
「いや、別になんでもないよ。人生は色々思うようにはいかないな〜って考えててさ」
「何それ? 洋くん、おっさんくさいよ? だから老けて……いや、大人っぽく見えるんだよ」
青山さんは、軽く毒を吐いてくる。
彼女は良くも悪くも、正直なため本音を隠しきれてない。
「まっ、そんな事より、流星さんと洋くんって友達なの?」
しかも青山さんは話しがぶっ飛ぶため、ついていくのも大変だったりする。
そんな事と言われてしまうのも悲しいところなんだが。
「あぁ、休みの日に遊びに行ったりとかはあんまないけど、仲は良いと思うよ」
「おぉ〜っ!! 心のホモってやつだね」
「友ね。友。おかしな関係になっちゃうから」
わざと言ってるんだろうけど、葉田とそんな関係にはなりたくない。
しかも、心の友とか、あの有名なガキ大将的なやつだよね? あれって一方的な友好関係だよな。
「まっ、それはともかく、流星さんって彼女とか好きな人とかいるのかな?」
「葉田の? さぁ、そういう話しは聞いた事ないなぁ」
俺がそう言うと、青山さんは小さくガッツポーズをしていた。
どういう事だろ?
意味がよくわからなかったが、青山さんは上機嫌になっていた。
そんな事を話しながら、俺達は羊神社の近くまで来ていた。
「ほら、ここが、この間言っていた羊神社に詳しい人が住んでる家だよ〜」
「ここ……か」
一見、普通の一軒家。
今風のというよりは、ちょっと昔の一軒家だ。
だが、羊が関わってるなら普通じゃない可能性がある。
「青山さん、その人と知り合いなの?」
「ん〜、正しくは私がっていうより、親の知り合いかな。小さい時よく遊びにきてたんだ」
青山さんは話しながら、玄関に行き、インターホンを鳴らす。
——ピンポーン
「…………」
「…………」
返事がない。
もしかしたら留守なんじゃないだろうか?
「おっかしいな〜。行くねって電話しといたのに……」
「どこか出かけてるんじゃないの?」
窓に目をやるが、電気がついてる様子もないし……ってか聞いてなかったけど、どんな人なんだ? 男の人か女の人かすら知らないし。
気になった俺は尋ねてみる事にした。
「ねぇ、青山さん。その人ってどんな人なの?」
「うん? あぁ〜、おんじぃの事?」
「おんじぃ?」
おんじぃって言うからには、お爺さんなのか?
「うん。本名は忘れちゃったんだけどね。小さい時から、おんじぃ、おんじぃって呼んでたんだ」
「へぇ〜。って事は結構なお爺さんなの?」
「そだね。私が小さい時からお爺ちゃんだし、樹齢何年だよ!? ってくらい」
樹齢って……。
人間だよね?
なんだか不安になってきてしまった。
その時、後ろから大きな声がかかった。
「こらーーっ!!」
何事かと振り返って見たものは、ツルツル頭に長めの白髭をたくわえたお爺さんが、持っていた杖を振り下ろす瞬間だった。
「おわっ!!」
間一髪で横に飛び、かわす事ができた。
ちなみに青山さんは、少し離れた所に居て、ポカーンと様子を見ていた。
「この泥棒めっ!! ワシの家に入ろうとはいい度胸じゃ」
「ち、ちが……」
違うと言おうとするが、それより早く2撃目がくる。
後ろに転がりながら、それを回避。
ってか何これ? この爺さん動きが機敏過ぎるでしょ!?
「なかなかやるな。だがそこまでじゃ」
「話しを聞いてくれって!!」
「泥棒と話す事などないわいっ!!」
閑静な住宅街の中、なぜかわからないが、死闘が繰り広げられようとしていた。
- おんじぃの助言【19】 ( No.33 )
- 日時: 2013/06/03 22:32
- 名前: ゴマ猫 (ID: tHinR.B0)
と思われたが。
「おーい。おんじぃー」
おんじぃと呼ばれる爺さんが、杖を振り上げようとした瞬間に後ろから青山さんの声がかかる。
「……なんじゃ、美晴ちゃんじゃないか」
その声のおかげで杖を振り上げる腕が止まった。
「ダメだよー。話しも聞かないでそんな事しちゃ。ほら、昨日電話で話した羊神社の事知りたい人だよ」
一瞬、考えを巡らした後、おんじぃと呼ばれる爺さんは合点がいった表情に変わった。
「あぁ〜、昨日のか。ホッホッホッ。挙動不審の奴が居るから、わしゃてっきり泥棒だと」
「…………」
ホッホッホッ……じゃねー!!
こっちは、危うく死にかけたよ!?
この爺さん、俺を見てた目がマジだったもん。
「もう〜。しょうがないなぁ、おんじぃは」
青山さんは何事もなかったような笑顔だが、本当に大丈夫なんだろうか?
……色々と。
そんな不安をかかえながら、おんじぃなる爺さんは俺達を家の中に通してくれた。
玄関を通り、案内された所は6畳くらいの和室。
畳のどこか懐かしい匂いがして、木製のシックなテーブルと、和風の座布団が3つ置いてあった。
「まぁ、適当にかけなさい」
おんじぃにそう促されて、俺と青山さんは座布団に腰をおろす。
しばらくして、おんじぃが温かいお茶を持ってきてくれた。
そしてふたたび台所へと消える。
「わはっ、ありがとー。おんじぃ」
「……いただきます」
座布団の上に正座する俺と、足をくずしてリラックスモードの青山さん。
慣れているのもあるんだろうけど、あぐらはやめた方がいいんじゃないか?
そう思った俺は、小声で青山さんに言ってみる。
「青山さん。あぐらはやめた方が……」
「なんで?」
青山さんにキョトンとした表情で聞かれる。
「いや、ホラ、自分家なら良いけど、他の所じゃマズいっていうか、失礼っていうか」
「洋くんはマジメだねぇ〜。そんなにカタいと、モテないよ?」
青山さんは肩をすくめてそんな事を言った。
モテないってのは関係ないだろっとツッコミたかったが、青山さんに言っても、『そんな事より』とか言われて終わるのでやめといた。
そこに、おんじぃが煎餅の入ったお皿を持ってきてくれた。
「こんなものしかないが、遠慮せんで食べてくれ」
「はいはーい。喜んでいただきまーす」
青山さんは明るい声で、煎餅を取り、食べ始める。
俺はそんなに長居するつもりもないので、さっそく話しを切り出す事にした。
「……あの、それで羊神社の事を教えてくれるって話しなんですが」
「おぉ〜、そうじゃった、そうじゃった。すっかり忘れておった」
忘れてたのか……。
「むかーし、昔。ある所に、お爺さんとお婆さんがおったそうな……」
まるで、おとぎ話でも話すかのような語り口調でおんじぃが話し始める。
すでにうさんくさいのは気のせいか?
「お爺さんとお婆さんは、最近悪夢にうなされる事に悩んでおったそうだ。困り果てたお爺さんとお婆さんは、山に住むという、神様にお願いをしにいった」
一応、真剣に聞いている俺と、興味がない表情で煎餅を食べる青山さん。
「そこで、真っ白に光輝く神様に会った。お爺さんとお婆さんは神様になんとかしてほしいとお願いをする。すると、あら不思議、その晩から悪夢を見る事はなくなったそうじゃ……めでたし、めでたし」
「……は?」
あまりに、あっさりした物語に思わず間抜けた声が出てしまう。
しかもアバウト過ぎじゃないのか?
絶対どっかはしょってるよね。
「終わりじゃ」
「えっ……? 本当にそれで終わりですか? もっとこう、詳しい事は」
前のめりになって、おんじぃに問いかける。
「昔話ではそうなっとる。なんでもその神様が、羊に似ておったとかで、祈れば悪い夢や、悪い記憶を消してくれると現代に伝わったみたいじゃな」
おんじぃいわく、原因不明の悪夢に悩まされていたのは、老夫婦だけではなく、この辺りに住む人達のほとんどだったらしい。
そこで山の神様になんとかして下さいっと祈ったところ、羊に似た神様が出てきて、それから悪夢を見なくなった。
以来、この地域の人々は羊を神格化して、羊の像を神社にまつるようになったらしい。
今じゃそんな話しは聞かないし、本当か嘘かわからないけど、もしそうなら、俺が会ったのは神様って事になる。
「ふあ〜。なんか眠くなっちゃったよ」
小さなあくびをしながら気の抜けた声で、青山さんは退屈そうな表情をしていた。
「青山さん……自由人だよね」
「だって、この話し何回も聞いてたからさ〜。さすがにね」
「…………」
何回も聞いてるなら、わざわざ、おんじぃの家に来なくても直接話してくれて良かったのにと思ったが、青山さんだしなぁ〜と納得。
出会って間もないはずだが、既にそんなイメージが固着していた。
「な、なによ? その可哀相な子を見る目は?」
「いや、青山さんは、青山さんだよなぁ〜って思っただけだよ」
俺がそう言うと、青山さんは納得いかないっという表情をする。
「むぅー。洋くんがイジメる」
さらに、むくれた表情になり脇腹をつねってきた。
「痛いっ!! 痛いから」
「洋くんのくせに生意気だぞー」
青山さんは、すげー理不尽だった。
そんな様子を見ていた、おんじぃが小さく笑っていた。
- おんじぃの助言【20】 ( No.34 )
- 日時: 2013/06/05 17:56
- 名前: ゴマ猫 (ID: vysrM5Zy)
「仲が良い事は、いいことじゃな」
おんじぃは遠い目で俺達を見つめてそんな事を言ってきた。
「そんなんじゃないですよ」
「へっへー。まぁね」
即座に俺が否定し、青山さんが肯定する。
青山さんは基本的に、誰にたいしてもこんな感じなので、特別に仲が良いという訳ではないと思う。
「あーっ、何よ? こんな美少女と仲良くなれたってのに」
「美少女って……それ、自分で言わない方がいいよ」
青山さんは確かに可愛いと思うけど、自分でそんな事を言ってしまったら台無しだ。
——っと知りたい事はまだあるんだ。
一番の問題は、『羊』というワードを出してどこまで大丈夫なのか? ってとこにある。
前回の橘さんに聞こうとした時のように、うかつに聞いて記憶が全てなくなってしまったら、それこそ本末転倒だ。
それが怖くて、誰にも言ってないのだから。
(まぁ、言っても信じてもらえないだろうってのもあるけど)
ここからはちょっとした賭けになってしまう。
心臓の鼓動が不安で早くなり、言わない方がいいんじゃないか? という気持ちに駆られる。
気分は地雷だらけの場所を歩く感じだ。
「どったの? なんか顔色悪いけど、お腹でも壊した?」
黙り込んでしまった俺を見て、青山さんが少し心配そうな表情で見てくる。
「大丈夫だよ」
そう一言だけ青山さんに言い、意を決しておんじぃに尋ねる。
「あの、羊の事なんですが……過去にって言っても大昔とかじゃなくて、最近の話しで羊に会った事があるって人はいないんですか?」
心臓は爆発寸前だったが、どうやらセーフみたいだ。
激しい頭痛も襲ってこない。
「ふーむ、そういえば1人おったような気がしたな」
おんじぃは白髭を右手でさすりながら、思い出すように話す。
「確か……10年前くらいじゃったか、小さな女の子が、白い羊を見たと言っておってな」
10年前というと、俺が5歳くらいの時の事か。
近所だけどそんな話しは聞いた事がない。
「誰も信じなかったが、その子は言っておったな。羊さんが、お願いをかなえてくれる……とな」
「あの、その子他に何か言ってました? あと、その子の名前とかわかります?」
つい、前のめりになってしまう。
「なんじゃ? 初恋の相手かなんかなのか? わしも神社で偶然会っただけだからの。名前は……西村だったか」
何かの手がかりになるかもって思ったけど、西村なんて名前はありふれているし、とてもじゃないが、手がかりにすらならない。
少し気落ちしたが、次の質問をしてみる事にした。
「その、変な質問なんですけど、その羊の神様って人に呪いとか……かけたりするんですか?」
この質問もかなり危ない橋だったが、どうにかセーフだったみたいだ。
「ホッホッホ。そんな事はせんよ。よっぽど悪い事でもしなければ、バチなどあたらん」
「…………」
よっぽど悪い事したんだな……俺。
今さらだが、あの時の俺何やってんの!? という気持ちになった。
「もし、お前さんが言う呪いにかかったとしても、真摯に謝れば大丈夫じゃ」
おんじぃはおだやかな笑顔で言うが、俺の顔は若干引きつっていた。
真摯という面では、真摯じゃなかったと自分でも思うから。
「はぁ……」
曖昧な表情で返事をする俺を見て、おんじぃはさらに続ける。
「まぁ、何があったのかわからんが、若い時ってのは失敗の連続じゃ。とんとん拍子に上手くいく方が珍しいだろうて」
おんじぃは、俺が何かに悩んでいると思ったのか、励ましてくる。
あえて何に悩んでいるかを聞かないところは優しさだろう。
悩んでいるのは間違いないので、俺も素直に耳を傾けた。
「そうかも……しれませんね」
あの時、神社に行かなければ、あの時、ちゃんと謝れていれば、という後悔の念にさいなまれる。
「ただ、失敗した時に反省はしても、後悔はするな。こりゃ、わしの持論じゃ」
「…………」
「つまり、しっかり反省して次にいかせば良いって事じゃよ。それだけで失敗は大きな意味を持つからの」
俺に次はあるのだろうか?
だけど、おんじぃの言葉は俺の心にストンと落ちて、少し気が楽になった。
「ありがとうございます」
「いやいや、またいつでも来るといい。次回はもう少しマシなお茶菓子を用意しとくからの」
最初の印象からは想像できないくらい、おんじぃはとても優しい人だった。
ちなみに先ほどから静かだった青山さんは、隣りで熟睡モードに入っており、時折小さな寝息をたてている。
「ほら、青山さん帰るよ」
俺が肩のあたりをつかんで揺すると、にやけた顔になり、ブツブツと寝言を言っていた。
「おいてくよー?」
その一言で目を覚ましたが、寝ぼけ眼で駄々をこね始める。
「ねーむいー。歩けないー」
「子供かっ!!」
その後、やっとの事で青山さんを引っ張り出して帰路につくのだった。
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