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- 魔断聖鎧ヴェルゼファー
- 日時: 2016/12/12 21:12
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: Lr4vvNmv)
鈍鉄の雲が空を一面に暗く覆い尽くす。
赤褐色の大地には錆び付いた風が吹き荒れ、枯れ果てた乾いた砂塵を細かく撒き上げる。
遥か遠くを臨む、地平線の彼方。
轟々と粉煙を吹き散らし埋め尽くす、蠢く夥しい無数の集群。
獲物を狙い定める異形の眦と眼、醜唾に濡れる鋭い歯牙と顎。
ひたすらに貪り求め、ひたすらに奔る。
————魔物。
人々は悟る。
終焉が、終わりの刻が近づいてくる・・・・・。
絶望に情熱は挫かれ、生きる力は萎え崩れる。
明日はもう、来はしない。
すべてを諦めた眼差し。
唯重い足はその場から動く事は無く、傍らの愛する者たちと静かに寄り添うだけ。
願うのは迅速なる死と最小限の苦痛。
だが、それすらも迫り来る悍ましい黒い波は許しはしないだろう。
与えられるのは、無限の悪夢、虚無の到来。
永劫に続く混沌の呪縛。
そう誰もが思い、ふと疲れた顔で曇天を見上げた。
頬を撫でる一迅の風。
廃堕に包まれる街並みを仰ぐ雲間から射す一筋の兆し。
翔け抜ける疾空。
瞬く間に頭上を過ぎ行くそれは巨大な白い鳥を思わせる。
いや、天使か。
人々の瞳に徐々に命の輝きが宿る。
知っている。
それは希望。
それは光。
それは明日への扉へと導く標。
夜明けの残滓が照らし、活力を齎すかごとく降り注ぐ。
まるで鼓舞し、守護するかのように。
大きく靡き、はためく白麗の羽。
薙ぐは上下両対刃の巨大な銀十字の大剣。
虚空に描かれる閃きが、不毛に地表を閉ざす闇の緞帳を切り裂き開く。
最早力無き自分を嘆く必要は無い。
暗闇に怯える日々は去ったのだ。
再び廻るだろう、愛しき者たちと分かち合う悦びを。
白き翼を持つ・・・その者の名は————。
第一幕
>>1 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9 >>12 >>13 >>14
第二幕
>>15 >>16 >>17 >>18 >>19
閲覧者様コメント
>>10
作者コメント
>>11
- Re: 魔断聖鎧ヴェルゼファー ( No.15 )
- 日時: 2015/06/21 00:16
- 名前: Frill (ID: REqfEapt)
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【第二幕】
出逢い 白き虚ろの少女
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「はあっ・・・はあっ・・・」
薄暗い石床の回廊。
何処をどう走ったのか。
ロベルトは倒壊する遺跡の奥を唯ひたすら闇雲に駆けた。
両腕には庇うように少女を掻き抱いて。
軽い。
少女の体重もさることながら、自身の身体が羽根の様に軽い。
元来、腕力や体力勝負にはからっきしのロベルト。
自分でもモヤシのようにひょろひょろしているのは自覚があるが、それでも小柄な少女とはいえ、人一人分の重さを負荷していてもほとんど苦にならないのに少なからず驚いた。
この危機的状況で所謂、火事場の馬鹿力が発揮されたのか。
今ならハンスと格闘しても互角ぐらいかもしれない。
そんな事を考えていて、ふと、足を止める。
周りを見渡すといつの間にやら遺跡の更に深部だろうか、何処か解らぬ場所を歩いていた。
遠く、僅かに響く破音、まだ遺跡の崩壊は続いてるようだが此方の方までは被害は無いらしいのでようやく安堵した。
しかし、自分がどうやって此処まで来たのか、皆目見当がつかぬ事に今更ながら気付いた。
崩落から逃げる事に夢中で道順など憶えていない。
おまけにハンスともはぐれてしまった。
アイツは無事逃げ出せたろうか、鎧機があるので大丈夫だと思いたい。まあ、自分とは違いサバイバル関連にはアイツのほうが生存能力が高いのは間違いない。
今はこの迷路の如く構える遺跡をどうにかしなければならないのだ。
「・・・むうぅ、まいったな。 ・・・俺とした事が、冷静さを欠いた行動だった・・・。 しかし、あれは・・・」
地下大広間で起きた遺跡崩壊時の不可思議な衝動。
まったくもって自分らしからぬ行動。
先程のはなんだったのだろうか。
ロベルトは自身の腕に抱いた静かに瞳を閉ざす少女の遺骸を見つめる。
どうして己はこの正体不明の少女の亡骸を守ったのか。
それに頭の中に響いた謎の声。
まるで自分では無い何者かに突き動かされたような・・・。
尽きることの無い思考の波に揉まれている間にもロベルトの足並みは自然に遺跡の奥へと進んでいた。
普段なら遺跡で迷えば大人しくその場で動かず待機して仲間の迎えを待つであろうのだが、何故か確信があった。
根拠もへったくれも無いのに何故か自信がある。
このまま進めば大丈夫だ、と。
- Re: 魔断聖鎧ヴェルゼファー ( No.16 )
- 日時: 2016/02/27 02:12
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 16oPA8.M)
————ヒタリ。
しめやかな感触。
水の匂い。
「ここは・・・」
ロベルトが辿り着いたのは地下に広がる地底湖だった。
その湖には渡り回廊があり、中央には白いアーチの建造物が建っていた。
ポータルだ。
見たところ損傷は無く、おそらく起動できるだろう。
「・・・よし。まずはこの遺跡から出よう。その後ハンスと合流して———」
ふと、両手に抱く少女を見やる。
その場の勢いで連れてきてしまったが、一体どうしたものか。
溜息をひとつ吐きロベルトは中央のポータルへと歩く。
外に出たら、ちゃんとした墓でも作ってやるか。
そんなことを思いながら長い渡り回廊を中ほどまで進んだとき、違和感に気付いた。
湖の中に何か大きな影が映った。
「まさか、こんな時に・・・!」
・
水面の波紋が徐々に大きくなる。
それは凄まじい速さで水上に出ようとしていた。
「やばいっ! 魔物だっ!!」
ロベルトが少女を抱えなおし、前方に走り出した。
刹那。
先ほどまで自分が立っていた回廊ごと巨大な顎が咬み砕いていた。
盛大な水飛沫を散らし、異様な何かは長い肢体をぐるりとくねらせて喰らいそこなった獲物に視線を向ける。
それは全長二十メートルはあるであろう巨大な蛇のような物体だった。
魔物。
魔物(デモドゥス)と呼ばれる史上最悪の怪物。
いや、災害。
すべての生き物の天敵。
生きとし生けるものの存在を貶める呪われた存在。
遥か昔から人間と争ってきた。
「くそっ! 生身じゃ戦えないっ! 鎧機(マギナ)がないと・・・!!」
魔物は多種多様であり、既存の生物の概念は一切当てはまらない。
ある学者は言う。
魔物は生物ではない、と。
魔物が死んだ、もしくは活動が停止するとその体は無数の粒子となり霧散してしまうのだ。
死体が残らない。
学者は言う。
彼らを構成するのは高純度の魔導元素である、と。
意志を持つ自然災害だ、と。
つまり現在、自分たちが、あらゆる生活面、生産面で消費しているエネルギー源である魔導燃料は遠い昔の魔物の化石から出来ているのではないか、と。
これに魔導学会はおおいに着目し、魔物の研究が行われているらしい。
しかし、聖教会が反目し異端扱いしているとも言われている。
学会や教会の思惑はとにかく、発掘屋としては常に魔物の脅威に晒されている自分らを労ってほしいものだ。
ロベルトは少し自嘲気味に笑った。
こんな状況下で冷静に考えている自分に対して。
全速力で走る背中に感じる圧倒的な威圧感。
これが生物じゃないって?
たしかに災害なのは間違いない。
普通の重火器ではまるで歯が立たない。
故に鎧機、とくに戦闘用にフレームカスタムされたもので一気に叩き潰すしかないのだ。
今までも魔物には出会ったことはある。
こんな大物ではないけれど。
それでも並みの鎧機でようやく撃退出来る程度だった。
自分も鎧機には乗れるが、ハンスほどのセンスは無い。
せいぜい牽制して注意を引き付けるのが関の山だ。
今、真後ろで蜷局(とぐろ)を巻いてるみたいな奴は見たことない。
全身を貫くような殺気がヒシヒシと伝わってくる。
やばい・・・相当にやばい。
ハンスはいない、鎧機もない。
目の前のポータルまでとてつもなく距離を感じる。
後ろで気配を感じる。
首を大きくもたげて姿勢を低く構えている。
マズい・・・来る。
ポータルまであと少し。
駆けろ、俺の足。
もう少し。
ロベルトが白い光に包まれると同時に、突風がポータルごと貫いた。
- Re: 魔断聖鎧ヴェルゼファー ( No.17 )
- 日時: 2016/03/05 11:21
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: XsTmunS8)
迸る白い閃光。
視界一面に交錯し、ホワイトアウトする。
宙を浮く奇妙な浮遊感。
同時に身体全体を打ちつける鈍い衝撃が襲った。
「ぐはっ!?」
僅かに空中浮遊を味わった後に背中に強烈な痛みを感じた。
「ぐ・・・、ど、どうなった・・・?」
全身を走る痺れるような鈍痛と今だ眩暈する眼を無理矢理こじあけて状況を確認しようと試みる。
「うっ・・・」
眩しい。
細めた目から射し込む鋭い日の光。
青い大空。
立ち込める嗅ぎ慣れた土の匂い。
「外、か・・・?」
密着する大地の感触、自分は仰向けで少女を抱えたまま大地の上に倒れている。
この体の痛みは放り出されて地面に叩きつけられたからか。
痛みを堪え、なんとか首を回らせ辺りを見渡す。
見渡す限り鬱蒼と茂る密林。
中央には開けた場所があり、それなりに大きな湖水があった。
別のところに視線を向ければ、少し離れたところに草木の中で蔦に覆われほぼ全長が隠れたポータルがある。
どうやら無事ポータルで遺跡から脱出したみたいだ。
ここは遺跡からそう離れた場所ではないのかもしれない。
「ふう・・・」
ロベルトは静かに息を吐く。
安心したからか一気に虚脱感が駆け抜ける。
あれだけの魔物に襲われよく助かったものだ。
「・・・ん?」
背中越しに僅かに地面の揺れを感知した。
まだ遺跡の崩落が続いているのか。
ハンスは無事に逃げ出せたのだろうか。
まだ揺れる地面。
それどころか余計に振動が強くなってきている。
非常に嫌な予感がする。
「・・・おいおい、冗談だろ?」
ロベルトの思考と大地の揺れに比例するように湖水の水面がブクブクと泡を噴き出している。
上手く逃げおおせたと思ったのに。
爆発するように墳上したまるで間欠泉の水柱。
泡立つ湖の水中から勢いよく、それが飛び出した。
さんさんと照り付ける日光に照らされ、ヌメリとした黒い光沢を放つ蛇によく似た異質の怪物。
巨大な口角を裂き開き、聞く者に嫌悪を抱かせる奇怪な咆哮を発した。
- Re: 魔断聖鎧ヴェルゼファー ( No.18 )
- 日時: 2016/06/16 22:05
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: CwTdFiZy)
漂う。
何もない、真っ暗な世界に白い少女がひとり。
ただ揺ら揺らと、浮かぶ。
とても永い時間をそうして過ごしてきたのか。
いつ頃からか、此処にいるのか。
少女は思い出そうとしたが、薄く靄のようなものがすぐに思考を覆い閉ざしてしまう。
自分には使命があったはず・・・。
使命とは何か?
それは己の存在意義。
存在する証明。
少女は己が意識の波に身を委ね、深淵の黒海を揺蕩う。
黒しかない空間に長方型の映像スクリーンがいくつも少女を中心に現れる。
それらは荒い画像で僅かばかり少しだけ垣間見えた、少女のおぼろげな記憶。
得体無い怪物たちと戦う・・・白い巨人。
巨大な躯体を持つ群がる怪物たちを薙ぎ払う。
映像は無数に現れては消え、現れては消える。
すべて戦いの場面。
戦いの記録。
戦いの記憶。
そう、戦うこと。
それこそが己の存在する証。
そう、それが『私』の使命。
反存在である非生命体『魔物(デモドゥス)』を滅ぼすこと。
そう、それだけが・・・『私』の・・・
少女を囲む戦いの画像が乱れ、引き延ばされ、まったく別の映像が映し出される。
群青の青空。
・・・?
緑群の草原。
・・・これは・・・?
大きな、とても大きな立派な大樹。
・・・知っている・・・?
注ぐ黄金の木漏れ日。
・・・あれは・・・?
その中で軽やかに鈴を鳴らし舞い踊る白い少女。
・・・『私』・・・?
そして大樹の傍らに腰かけ、ハープを奏でる青年。
しかし何故か青年の顔は映像には映し出されない。
映像が途切れ、再び闇が覆う。
・・・今のは・・・
・・・何故か、懐かしい・・・
・・・あの男の人・・・
・・・何か・・・
・・・とても大切な約束をしていたような・・・
流れるのは無音の暗闇。
だが、少女には届いている。
・・・聞こえる。
・・・鈴の音。
・・・聞こえる。
・・・ハープの調べ。
いつの間にか口遊む。
遥か昔に誰かに教わった詩。
少女を仄かに暖かい光が包む。
輝きは徐々に増していき、光の帯びが差し込んだ。
少女は眩しそうに瞼を震わす。
永い永い微睡みから、今—————
- Re: 魔断聖鎧ヴェルゼファー ( No.19 )
- 日時: 2016/12/12 21:10
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: Lr4vvNmv)
『GYAGAGIYYYYYYYYYYYッッッ!!!!』
辺り一面に奇怪な咆哮を掻き鳴らし、怪物は巨躯を震わす。
そして光の無い闇色の眼をロベルトに差し向けると、その長大な身体を捻りながら物凄い速さで襲い掛かった。
「くっ!? 体が・・・!!」
先ほど全力で走ってしまったのがまずかったのか、身体に力が入らず迫り来る魔物に反応が出来ない。
両腕に少女を抱えたままのロベルトに魔物は巨大な口角を開き、ゾロリと連なる何本もの鋭い牙を覗かせる。
全てがスローモーショーン。
耳に聞こえる音が消え、周りの時間がゆっくりと流れる。
魔物が大きく開けた顎。
どこまでも続くような暗闇。
だんだんと己に近づく。
それはまるで死出を案内する死神さながらに。
————ここまでなのか。
ロベルトは漠然と自身の最後を感じた。
自分の人生の結末はかくもあっけない幕切れだったのかと。
頼れる相棒とあちこちの遺跡を冒険をしたこと。
時には同業者と発掘品を巡りトラブルを再三起こしたこと。
いつか伝説のトレジャーハンターとして偉業を成し遂げて見せると息巻いていた日々。
次々と脳裏に駆け巡る記憶。
それが死の間際に訪れるらしい走馬燈なるものなのかどうかは分らないが。
————俺はこのまま————
眼前を覆う闇が自身を飲み込む————
————はずだった。
「————敵影確認————防護フィールド展開————」
光が差した。
迫る闇に一丈の光が。
白く輝きを放つそれは、大口を開けた魔物にしなやかな指先をかざして凛とした佇まいを施す。
明光する淡い膜が周囲を包み込み壁となり己たちを護っている。
ロベルトは信じられないものを見たかのように見つめた。
さきほどまで腕に抱いていたはずの目の前に立つ少女を。
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