コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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微妙な短編集【リクエスト募集中!】
日時: 2016/02/01 20:57
名前: ガッキー (ID: okMbZHAS)

微妙な短編集です。大体一話か二話で終わります。面白かったら「良いね」とか「YES」とかいっていただけたら続き書きます。自由にやります。
もう一度言います。微妙です。
あと、更新が遅かったり、誤字脱字がある時あります。笑って許して!
頑張ります(‾+ー‾)

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Re: 微妙な短編集 ( No.9 )
日時: 2015/11/21 23:48
名前: ガッキー (ID: kJLdBB9S)

「じょ、冗談だ」
「・・・私は冗談が嫌い」
「すんません」
時間が止まっているのか、それともいつものように動いているのか。という問題よりも俺が分かったのは、この少女が先程の怪物よりも遥かに恐ろしいという事だ。俺の今の心境を例えるなら、鬼に追われていたら閻魔様に助けられたーーみたいな。そんな気分だ。
生きた心地がしない。
「兎に角、時間が進まないんだな?分かった。理解したよ」
どんなに理屈を並べても結局は暴力一つで解決されてしまう、自分の弱さに辟易する。
「なら良い」
少女は出会いのシーンから変わらず無愛想だが、心無しか『俺の言葉に満足した』ように見えた。
「さっきのついでにもう一つ聞きたいんだけど、良いか?」
「許す」
ありがとうございます、教官殿!とでも言いたくなる程の態度だった。畜生め。
「何なんだ?あの怪物は」
本当は一番最初に訊くべき事だったのだろうが、俺はあまりの恐怖に逸らしていたのだ。意識があの怪物の最期の叫びや悲痛の表情に向かないように、別の質問で記憶の彼方に捨て去ろうとしたのだ。
しかし、少女の暴力同様、あの怪物は俺の中にトラウマとして居座るつもりのようだ。忘れる事は出来ない。
「あれは、都市伝説」
「と、都市伝説ぅ?」
次から次へと少女の口から飛び出す非日常的なーー非現実的な単語の数々に、俺は言葉の最後のトーンを大袈裟に上げて訊き返した。
「信じてない?」
「そう簡単に信じられる方がおかーー信じます」
会話の途中で鋏を喉笛の近くで開閉されては、俺も肯定するしかない。
というか、殺さないんじゃなかったのか。半殺しならセーフとか言うんじゃないだろうな。・・・喉笛断ち切ってセーフは無理か。
「この学校には、都市伝説と七不思議が現れる」
抑揚の少ない声色で、少女が言った。
「は?どういう事だ?」
「言葉通り」
「またそれかよ・・・」
都市伝説と七不思議、ね。じゃあさっきのはどっちなのだろうか。
すると、少女は俺の疑問を察したらしい。答えてくれた。
「あれは都市伝説『てけてけ』」
「てけてけ?・・・聞いた事があるような」
たしか、下半身が無くて、上半身だけで動き回るヤツだったか・・・。
俺は怪談や都市伝説には全く興味が無いので『何故上半身と下半身が分かれた』のかは分からない。
だが、確かに、俺を襲って来た怪物と一致する。アイツにも下半身は無かった。
「あの怪物が、お前の言うてけてけなのか」
「そう」
「じゃあ、何で俺はそんなおっかない場所にいるんだ?」
「分からない。この学校に人間は滅多に来ない筈。私も今まで見た事なかった」
「・・・そうか」
満足のいく答えを得られなかった事には残念だが、気持ちを切り替える為にも俺は渇いた唇を舌で湿らせてから、
「俺はどうすれば良い?何をすれば帰れるんだ?」
「私と協力して、この学校から都市伝説と七不思議を全て消し去れば、元の場所に帰れると思う」
少女は、まるでその台詞を予め用意していたのかと錯覚する程、間髪入れずにスラスラと返してきた。
「そうなのか?」
「私は、そういうルールだって聞いた」
誰から?と聞いたらまた暴力の餌食になりそうだったので、スルー。
「じゃあ分かった。協力させてくれ」
「うん」
少女は真顔で俺の協力を受け入れた。力になれるのかは微妙だが。だって俺文化系だし。
さて、どうやら俺は何やら大変な事に捲き込まれてしまったようだ。
生まれてから今までスポーツ関連の習い事も部活動もやった事無い自分の経歴に大分不安が残るが、どうせ死ぬ筈だった命だ。やれる所までやろうじゃないか。
「俺は柊懐貴だ。よろしくな」
「私は口裂け女の、裁ち鋏・裂(たちばさみ・さき)。よろしく、ヒイラギ」
俺が瞬時に感じた疑問を許さないとでも言いたげな早さで、少女は暗い廊下を先に歩いて行ってしまう。それに慌てて付いて行く俺。

少女が口裂け女って事は、・・・。

Re: 微妙な短編集 ( No.10 )
日時: 2015/12/03 23:56
名前: ガッキー (ID: 0rBrxZqP)

「・・・・・・」
「・・・なあ」
「何」
「さっきから黙々と俺と裁ち鋏は歩いている訳だけどさ」
会話も当たり障りの無い世間話も無く、ただただ無言で、な。
「裂で良い」
裁ち鋏・裂は、即座に俺の言葉に反応。そして訂正を要求してきた。
「いや、でも、いきなり名前で呼ぶのは少しばかり抵抗があると言うかーー」
童貞にはハードルが高いと言うか。
「裂にしろ」
しかし、裁ち鋏さんは俺の反論を許さなかった。何様だコイツは。裁ち鋏様か。
「はい・・・」
じゃあお言葉に甘えて裂と呼ばせていただきますよ、と。
さっきから裂に(駄洒落じゃないよ)会話の主導権を握られっぱなしだ。もう握り過ぎて千切れてしまうのではないかと心配になってくる位強く握られてる。
「じゃあ、裂」
「何」
「一体何処に向かっているんだ?まさか、説明を受けた次の場面からいきなり七不思議とか都市伝説を消しに行くってつもりじゃないよな」
「心配は要らない。今から向かうのは下駄箱」
「下駄箱?」
替えの靴でもあるのだろうか。いやいや、そんなまさか。
「下駄箱に、これを終わらせるヒントがある」
『これ』とは、恐らく『七不思議や都市伝説を全て消し去る』という事だろう。
「ヒント?」
「うん。ヒントが送られてくる時間は決まっているけど」
「時間は進まないんじゃなかったのか?」
「時間は進まない。けど」
「けど?」
「日の出入りはある」
「・・・んー、じゃあ何だ?朝と夜はあるのか?」
「うん。昼間にしか現れないモノもあるから」
「変な感じだな」
俺のその言葉に、残念ながら裂は何の反応も見せなかったが。








「・・・んあ?」
突然目の前にあったモノが消え、代わりに見た事のないモノが現れた原因不明の現象に、この物語の登場人物、オレ事ーー紅月・桜打(あかつき・おうだ)は怪訝な声を出した。
何だコレ?オレは確か、葵(あおい)って奴との因縁の喧嘩をしていた最中だったんだが・・・。
葵に殺られたか?オレ。
だが、こんな所が天国ーーいや、オレが行くべきは地獄なのか。
想像してたのとは違うが、まぁ良い。
見た所、ここは学校だ。オレが田舎に転校した時に通ってた学校に似ている。流石にここまでボロくはないが。壁の一部が剥がれてやがるよ。管理が行き届いてねぇのか、それともーー
「どうすっかな」
一瞬浮かんだ懸念を強引に掻き消し、代わりの言葉を呟いた。
そして、取り敢えず辺りを散策しようとした矢先、近くにあった教室のドアが吹き飛んだ。まるで、内側から誰かがドアを蹴り飛ばしたようにーー敵のアジトに突入する暴走族のように。くの字に曲がったドアは壁に衝突し、重力に従い板張りの廊下に落下して、ゴトンッと重音を響かせて、やっと動きを止めた。辺りは埃と弾けた壁やらドアやらの細かな破片が視界を遮る。
「・・・・・・」
『こういう事態』が起きた場合、迂闊に声を出してはいけないというのはオレみたいな馬鹿でも分かる。『偶発的にドアが吹き飛ぶ』という奇跡でも起きねぇ限り、今の現象は人為的なモノだ。声で居場所がバレたら厄介・・・・・・。
いや、そうでもねぇか。
オレの右手は、葵と喧嘩をしていた時に使っていた金属バットを握っている。葵をコレでぶん殴ったりしたから所々凹みがあるが、まだ使える。
やれるなら、やりたい。暴力の応酬をしたい。
さて、誰が出てくるか。
誰が出てきてくれるのか。

「ここら辺から人間の声がしたんだけどなぁ〜」

「・・・骨?」
オレは思わず口に出す。
骨としか言い様が無かった。理科室ーーもしくは理科準備室に置いてあるような、骨格標本(因みに、オレの小学校の頃にいた標本の名前は『まさお君』だった)が声を発し、あまつさえ動いているのだ。骨だけの身体を動かす為の筋肉もないというのに、だ。
「あれぇ〜?君かぁ」
間延びのする、苛々する口調で骨がオレを指差した。
「人に指差しちゃいけねぇって習わなかったのか骨野郎が」
「君も、目上の人には敬語を使わなきゃいけないって習わなかったのかなぁ?」
「骨なんかどれも同じに見えるんだよ。個性を持とうぜ個性を。ほら、手伝ってやるからよ」
「?」
全っ然関係無いけどよ、と前置きをしてから。
「所々陥没した骨って、滅茶苦茶レアじゃねぇか!?」
首を傾げた骨野郎の頭にフルスイングした金属バットがめり込むのには、一秒も掛からなかった。



Re: 微妙な短編集 ( No.11 )
日時: 2015/12/04 00:09
名前: ガッキー (ID: 0rBrxZqP)

「・・・なあ、今何か聞こえなかったか?」
「そう?」
「鈍い音がしたような」
「多分気の所為」
「そうなのか・・・?」
しかし、そう言われては納得しなくてはいけない。これ以上殴られては俺の顔の骨格が変化してしまう。骨格標本のように綺麗(だと自負している)で美麗な骨格とおさらばしてしまう。
恐らく、何かの拍子で物が落ちたーーとか、そんな感じだろう。俺や裂がとやかく言う事ではない。
その『拍子』が何なのかは気になるが、それについて問うて、また殴られるのはご免だ。流石に三回も殴られたら、キリストも真っ青だろう。
「と言うか、下駄箱って案外遠いんだな」
「私達が居たのは四階だから」
「それにしてもだ。まだ俺達は階段すら降りてないだろ?」
「そういうモノ」
「・・・・・・」
説明が雑過ぎる気がするが、裂は校内について詳しいらしいし口出しはしない。したくない。
「そういえば、元居た世界の両親は俺が居なくなって心配してんのーー」
「・・・来た」
「何が来たんだよ。いきなり止まらないでく・・・れ」

「あ、あゝあゝア嗚呼嗚呼ぁぁあ」

身体の半分は内臓を外へと晒し。
もう半分は不気味な位の肌色。
ドクンドクン、と心臓のリズムに合わせて脈打つ血管。
不気味な呻き声。

怪談関連には疎い俺でも分かるーー『動く人体模型』だった。
「マジかよ、どうするんだ?」
「下がってて。『動く人体模型』は『動く骨格標本』よりも知名度が高い。全国級で」
何だ。どういう事だ?知名度が高いから何なんだ?
しかし、何回もぶん殴られたくない俺は言われた通り、十メートル程後ろへ下がる。
「僕が何をしたって絵ゑヱぇぇぇぇえええ言うんだよオ了汚おぉぉ」
「あなたが何をしたか、何をされたか何て興味は無い」
裂は、手を後ろに回し、服の中に手を突っ込んで身体の半分以上はあろう大きな裁ち鋏を取り出した。

「あなたが怪談なら、消すまで」




「・・・・・・ククク」
ずり、ズリ、と紫色の液体に塗れた金属バットを引き摺る。
「うは、はははは」
着ていた制服には大量の返り血。その姿で一人笑う様は、最早どちらが化物か分からなかった。
「簡単だよなァ」
視線の遥か先、二つの人影を発見してから。

「全部ぶっ殺しゃあ良いんだ!」

オレは走り出した。



Re: 微妙な短編集 ( No.12 )
日時: 2015/12/11 23:02
名前: ガッキー (ID: YohzdPX5)

「倒した」
「おい、戦闘シーンは良いのか。どうやって人体模型倒したんだよ。読者も俺も全く分からないんだが」
「過度な残虐シーンによりカット」
「お前何したんだ!?」
「私の口からはとても」
「倒した張本人が言うのかよ・・・」
しかし、今の俺の中では知りたいという気持ちと同時に知りたくないという気持ちも同居しているので、聞けなくても別に良い。そわそわはするが。
人体模型の死体はいつの間にか無くなっている。裂に、視認出来なくなる程細かくぐちゃぐちゃにされたのではないのだと信じたい。

相も変わらず、夜。

時間は進まないし戻らない。唯一の俺の心の支えとなった夜明けは、まだ先らしい。
早く朝にならないモノか。夜の学校は怖過ぎる。裂がいなければとっくに発狂していただろうな。
「移動しよう」
「あ?・・・おう、そうだな」
裂からの提案に肯定で返す。人体模型という名の障害も無くなった事だし、予定通り下駄箱へ向かおうじゃないか。
裂は、紫色でベッタベタになった大きな裁ち鋏をそのまま服と背中の間の隙間に入れた。・・・汚いとかそういう感想より、そこに入れたら背中曲げられないんじゃないか?もしコンタクトでも落としてみろ。背中を曲げられないから俺一人で探す羽目になるぞ?
まぁ、裂がコンタクトを着けているとはとても思えないが。
「なぁ、裂」
無言で歩くのは退屈だし、気まずいので、俺は少し前から思っていた事を口にした。
「何」
「裂はいつからここに居るんだ?」
いつから、こんな事をーー怪談や都市伝説との戦いをーー続けているんだ?
「・・・・・・」
しかし、俺の質問に対する答えは無かった。
無言である。
聞いてはいけない事だったのだろうか、という思いが俺の中で生まれる。
「まぁ、話したくないなら別に良い。早く行こうぜ」
だから、こんなフォローを入れておいた。
「・・・・・・話す」
「は?」
「話す。そう言った」
まさかの応えに、俺は同様を隠せない。話すのかよ。
裂は、真面目な話なのか着衣を正してから
「私は、裁ち鋏・裂はーー」


「はっはァァァァァァァァアアアアア!!」


廊下で幾重にも反響する誰かの声。発生源ーー発声源を突き止めて振り向いた時には、もうソイツはそこまで迫っていた。
「死ねや!」
金髪だった髪色(今は紫色で気味の悪い色になっている)を振り乱し、
凹んだ金属バットを振り被り、
迫っていた。
金髪は跳躍し、空中で横薙ぎに金属バットを振るう。
・・・コレが、俺に向けられた行動であったならば、こうダラダラと説明してはいられなかっただろう。
「裂ーー!避けろ!!」
問題は、金髪は裂に向かっているという事だ。助けようとしても(そんな力は無いけど)、俺の場所からでは、どんな運動神経を持っていたとしても届かない距離。それこそ口裂け女位の足の速さを持っていないと届く事のない距離だ。勿論、百%純粋な人間には声を掛ける事しか出来ない。
標的となった裁ち鋏・裂。彼女は、咄嗟に屈む事が出来なかった。
俺には、勿論裂にもその理由が分かる。

ーー『裂は、紫色でベッタベタになった大きな裁ち鋏をそのまま服と背中の間の隙間に入れた。・・・汚いとかそういう感想より、そこに入れたら背中曲げられないんじゃないか?』ーー

裂は、服と背中の間の隙間に大きな、身長のの半分以上の大きさの裁ち鋏を入れた。
幾ら足が早くても。
幾ら鋏の扱いが上手くても。
背中に裁ち鋏を仕込んでいたのなら、満足な動きーー回避行動も出来やしない。
ガイィンッ!!と。
額に金属バットを食らった裂が後ろに仰け反る。額から伸びるように、紫色の血液が弧を描く。
「ッ、裂!」
「ンあァ?お前・・・人間か?」
背中からーーというよりかは頭から板張りの廊下に倒れた裂の元に行こうとしたら、金髪が金属バットの先端をこちらに向けて睨んできた。
「は?ーーそ、そうだ。人間だ」
「そうか、・・・・・・オレはやっと人間に会えたのか」
心無しか、安堵したような雰囲気を見せる金髪の男。何だ?何故安堵しているんだ。
「いやァ、会えて嬉しいぜ。何せ、今迄出遭ったのは気ン持ち悪い化物ばっかだったからな」
何故微笑んでいる。
・・・もしや、
戦わなくて、済む?
「俺の他には、人間に会わなかったのか?」
「あァ。会ってねぇ」
哀しそうに、首を横に振りながら金髪の男は言った。
「な、なら。協力しないか?三人でさ。お前がさっきぶん殴った奴とも、きっと話し合えば分かり合える。な?協力した方がここから出易くなるとおもうんだ」
「は、はは・・・そうか、よ」
「あぁそうだ。だからーー」

「ンなの関係ねェんだよッ!!」

「ッ!?」
「お前が化物だろうが人間だろうが、オレは知ったこっちゃねェ」
金髪の男は、鋭い眼力で俺を睨め付けながら、こう続けた。

「目に入ったモノは全部殺すだけだァッッ!!」

Re: 微妙な短編集 ( No.13 )
日時: 2015/12/11 23:19
名前: ガッキー (ID: YohzdPX5)

交渉決裂。
俺と金髪(名前は紅月と言うらしい)の間には不穏な空気が流れていた。ドクン、ドクン、とリズムを刻む心臓が痛い。
「・・・・・・」
一歩でも、一歩でも動いたら殺られる。あの、金属バットで。裂も餌食になったあの金属バットで。
しかし、動かない訳にもいかないのだ。裂の安否が気になる。気に病む。
「しっかしヨォーー」
不意に、何か言おうとした紅月が消える。不意打ちかと思って身構えたが、どうやら違うらしい。俺の後方で、恐らくは袖のボタンと板張りの床との摩擦による、甲高い音がした。
紅月の居た所には般若のような形相の裂。
ああ、そういう事か・・・。
突き飛ばしたのだ。裂が紅月を。
口裂け女の脚力から繰り出される速度で。怒りに身を任せて。
ただで済む訳が無い。
「裂、大丈夫か?」
「大丈夫」
簡潔にそう言い、この話を完結させようとする裂の頬を見ると、赤く腫れ上がっていた。床を滑った際に火傷したのだろう。痛々しい。それに加えて、紅月にやられた額も酷い。今この瞬間も心臓の鼓動に合わせて紫色の血が流れていた。
「取り敢えず・・・」
参った。パジャマと迄は言わないとしても、自分の今の服装が部屋着だという事を忘れていた。
いつも常備しているハンカチーー額の血を拭うハンカチがポケットに入っている訳も無く。
ポケットに手を突っ込んだまま固まった俺に、裂はこう言った。
「大丈夫。それよりも、アイツがまた襲って来たら今度こそ危ない。今の内に」
「逃げるか」
「そう。一刻も早く下駄箱に向かわないと」
そうだ。あんな可笑しな奴に構っている暇は無い。今は、下駄箱に向かう事が先決だ。
無傷な俺と、流血中の裂。端から見たら児童虐待に見えるその絵図で、俺達は再びーーいつ着く事が出来るか分からない下駄箱に向かうのだった。




完。


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