コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 【完結】四年二組のシンデレラ!? 魔法のカボチャと弱虫王子
- 日時: 2016/05/07 20:13
- 名前: ヨミ (ID: Nt.wHtNX)
ヨミと申します、初投稿です。
小学生向けっぽい小説を書いてみたのですが周りに小学生がいないのでこちらに投稿することにしました。
もちろん中学生以上の方のコメントも大歓迎です!
もともとワードで書いた小説をコピペして投稿するので書式が乱れるかもしれません。その時はごめんなさい。
こちらのサイトは初めて使うので(というより小説投稿サイトというものが初めてなので)間違ったことをしてしまうかもしれませんが、その時にはご指摘ください。
==小説について==
こちらの小説は既に完結したものを投稿するので、よっぽどのことが無い限り物語が途中で終わるようなことはないと思います。
ただ30000字ちょっとある作品なのでゆっくりちまちまと投稿していきます。
30000字というと文庫本の1/3冊ぐらいでしょうか
まぁまぁ長いですね
内容はコメディーとファンタジーとちょっぴり恋愛です
キャラクターもストーリーも全てオリジナルとなっています
笑ったり胸キュンしたりしてもらえたら嬉しいです。
- Re: 四年二組のシンデレラ!? その7 前半 ( No.8 )
- 日時: 2016/04/12 22:09
- 名前: ヨミ (ID: Nt.wHtNX)
7
放課後、カナエと健太とタクミの三人はカボチャのあった畑の前に来ていた。畑の中に農家のおじさんが立っている。
「みんな、準備はオッケー? 特に健太、竹刀は持った?」
カナエが小声で男子二人にきいた。
「はいはい、持ってきましたよ」
カナエがきくまでもなく、健太は竹刀袋を背負っている。
「それじゃあ行くよ!」
三人は農家のおじさんの方に向かっていった。
タクミは昨日と何も変わらない畑の地面を見て首をかしげている。
「あの、すみません。ちょっとききたいことがあります」
カナエが言うと、おじさんは暗い顔をしてふり向いた。
「昨日まであったカボチャはどこに行ったんですか?」
カボチャというフレーズを聞いておじさんの顔つきが変わってするどい目つきで三人を見た。
「おじさんも今朝起きたら無くなってておどろいたんだ。あんなもの一人で持っていけないだろうし……」
「実はこの辺で女の子が行方不明なんです。もしかしたらカボチャと関係があるかもしれないと思ったのですが、何か知っていませんか?」
「それは大変だ。おじさんも何か分かったら学校に伝えるよ」
「ありがとうございます」
カナエはおじさんにおじぎをして健太とタクミの方を向いた。
「やっぱり知らないみたい……」
「おじさん、本当に心当たりはありませんか?」
地面を見ていたタクミは顔を上げた。
「おかしいんですよ。畑の土はやわらかいので足あとが残ります。ここにある足あとは五種類です。一つは大人のもの、これはおじさんでしょう。あと三つはぼく達のものです。もう一つ、ぼく達よりも小さい足あとが残っています。もしかしたら吉野さんかもしれません」
「それがどうしたの?」
カナエはタクミを不思議そうに見た。
「ここでおかしいのは二つ、足あとが残るほどやわらかい土なのにカボチャを動かした形せきが無いんです。ふつうに考えてあのカボチャをぬすむなら転がすでしょう? でもそのあとが無い。持ち上げたにしても犯人の足あとが無い。もう一つ、吉野さんの足あとが畑の真ん中でとぎれてます。畑に入ったら出るまでの足あとが残りますよね。それが無いということは吉野さんが畑の真ん中で消えたことになります。一番現実的に考えるとカボチャの上に吉野さんが乗っかっていて、それに気づかずにクレーン車でカボチャをつり上げたということになりますが……夜中にそんなことをしたらだれかしらが気づきますよね」
おじさんはあやしげに笑った。
「ずいぶんと利口だね。君が正解さ。そう、きっとカボチャは昨日の夜に女の子を乗せて消えちゃったんだね」
「消えるなんてことがありえるかよ! お前が何かしたんだな」
健太はおじさんをにらみつけた。
「何かをしたわけではないが責任はある。全部話そう。ここでは話せないから家まで来てもらっていいかな?」
三人は顔を見合わせた。知らないおじさんについて行ってはいけないと学校で教わっているし、事件に関係する人物ならなおさら危ない。でも三人は決めた。
「分かりました」
吉野美春が危ない目にあっているかもしれないと思うと、これっぽっちのことをおそれていてはいけない。
「じゃあついてきな」
三人はおじさんの後ろを一列になって歩いて行った。
- Re: 四年二組のシンデレラ!? その7中 ( No.9 )
- 日時: 2016/04/16 15:18
- 名前: ヨミ (ID: Nt.wHtNX)
三人が案内された家は農家特有の庭の広さや家のつくりではあったものの、ごくふつうの民家だった。
三人はたたみの部屋に案内されて、座布団の上に座った。
おじさんは三人に麦茶を入れてくれたが、三人のうちのだれも手をつけようとはしなかった。
「これから話すことはだれにもだまっていてほしい」
おじさんが首にかけたどろだらけのタオルをとった。
「信じないかもしれないが、あのカボチャはただのカボチャじゃない。別の世界に行くための飛行船というか車というか……そんなものだ」
「だれがそんな子供だましを信じるかよ」
健太が竹刀袋からはみ出た柄の部分をにぎりながら言う。
「うん、こんなことを口で言っても信じてもらえるわけはない」
おじさんは指をパチンと鳴らした。
すると三人の前に並んでいた飲み物が麦茶からオレンジジュースに変わる。
「見てもらった通り、私は魔法が使える。もちろんだれにも言わないでくれ。私が魔法使いだとバレるとここで生きていけなくなるんだ」
健太とタクミは今見たことが信じられないといった様子で目を見開いたまま固まっている。
「と、いうことはあのカボチャはやはり馬車だったのですね」
カナエだけは話についていけてる。むしろ何だか楽しそうにさえ見える。
「その通りだ」
「みは、吉野美春は大丈夫なんですか? 別の世界がどのようなところか分からないと、あたし心配です」
「あの馬車は城の舞踏会に行くためのものだから危なくはないはずだ。きっと今ごろは城で休んでいるだろう。あの馬車は本来上流階級でもなかなか乗れないぐらい高級なものだからね、城の人もあの馬車に乗ってきたお客に対してらんぼうなマネはできない」
「そっか、ならよかった……っていうかうらやましい!」
カナエはカボチャの馬車に乗って舞踏会に行く美春の姿を想像するとうらやましくてたまらなかった。
「何であの馬車は吉野さんを乗せていってしまったんですか?」
魔法を信じることはできないけれど、話についていくためにタクミはおじさんの言っていることを受け入れることにした。
「私が舞踏会は今日だとをかんちがいしていたんだ。でもカボチャはちゃんと昨日の舞踏会に行くようになっているから、たまたま近くにいた吉野さんをつれていったのだろう」
「おじさん、みはは帰ってきますか?」
カナエがたずねたとたん、おじさんの顔は暗くなった。
「それは向こうの対応次第だ。カボチャの馬車を輸入して彼女を送ってくれれば帰ってこれるが……あの王様は魔法使いがきらいだから馬車を買うことはないだろうな」
「じゃあ、みはは帰ってこないの? おじさん!」
「一応馬車をこちらから送ってみるけれど、馬車に乗っている人しかあの馬車がカボチャだと分からないから、馬車を見てもカボチャの馬車だとは気づかないだろうな」
おじさんは頭を抱えた。
「馬車を送る、ということはもう一台馬車はあるんですね?」
カナエはおじさんに問いつめた。
「ああ、ある。行って帰ってくるぐらいなら使えるだろう」
「ならあたし、むかえに行きます!」
健太とタクミはカナエの顔を見る。
「何言ってんだよ、小河まで帰ってこれなくなったら大変だぞ」
「でもあたしは絶対にみはを助けるんだ。だってあたし、またみはと遊びたいんだもん」
おじさんはみけんにしわをつくって考える。
「私は王国を追放された身だからついていくことはできない。それでもいいかい?」
「はい、もちろんです」
おじさんは静かにうなづくと、神だなのおくから小さな棒を出した。
「君にこれをさずけよう。これは魔法のつえだ。もしかしたら、君はこれを使えるかもしれない」
カナエは小枝ぐらいの大きさの金のつえを持った。
「これであたしも魔法が使えるの?」
「まだ使えるかは分からない。魔法とは信じる力によって初めて生まれるものなんだ。君が魔法を信じられなくなったら……」
「にゅむにゅむにゅむぱぱぱぴりぱー! カナエ、モードチェンジ!」
おじさんの話をさえぎってカナエはさけんだ。するとカナエの体がうかび上がって、光り出した。くるくると体が回転して、ぱふん、ぱふんというかわいらしい音がするたびにカナエの服が変わってゆく。
シャツとスカートはひらひらがたくさんついたピンクと白のワンピース型のフリフリ衣装になった。その服に大きくて真っ赤なリボンがぱふん、ぱふんと現れる。黒いくつ下もフリルつきの白いニーソックスに変わり、その上につま先のとがったピンクのブーツが現れる。小手には白い手袋がつけられて、金色のつえは大きなきらきらしたピンク色のクリスタルのステッキに変わる。最後に通学用の黄色い帽子がピンク色の魔女の三角帽子になった。
カナエは宙返りをしてから床におりると、左目の前でピースをして決めポーズをした。
「みんなの願いをカナエ(叶え)たい、魔女っ子カナちゃんここに参上!」
健太、タクミ、おじさんの三人はその光景を見てぽかんとしている。
- Re: 四年二組のシンデレラ!? その7後半 ( No.10 )
- 日時: 2016/04/16 15:19
- 名前: ヨミ (ID: Nt.wHtNX)
「よし、これで私も魔法が使えるようになった」
「ちょっと待ちなさい! まずは私の話を聞け。魔法の使い方をまだ教えていないだろう。呪文も必要ないし変身もしなくていい」
「でも変身するとふういんされていた魔力が解放されるんだよ」
「勝手な設定を作るな」
いや待てよ、と魔法使いのおじさんは考えた。魔法の原動力は信じる力だ。ふつうは魔法を習得する時には魔法使いの弟子について魔法を信じることから始める。でもカナエはその段階をすっとばしていきなり魔法を使って変身したのだ。こんな才能の持ち主は見たことが無い。しかもカナエの体からあふれる魔力を彼は感じていた。信じる力から魔力が生まれることを考えると、カナエの魔法に対する信じる力は一流の魔法使いにも負けないだろう。そんな彼女に魔法についてとやかく言ったところで聞く耳を持たないだろう。カナエにはカナエの魔法理論が存在して、それを信じているのだから。
おじさんはカナエの魔力を信じて口出ししないことにした。
「おじさん、ほうきを貸して。みはをむかえに行かないと」
「馬車はどうした馬車は!」
おじさんはカナエの言うことに口出しするのはやめようと決めたが、すぐにつっこんでしまった。
「ほうきでも行ける気がする!」
「そりゃ君が行けると信じれば行けるのが魔法だけど……」
おじさんは頭を抱えた。
「ちょっと待てよ。ほうきは頑張っても二人しか乗れないぞ」
健太は魔法について何も分からないが、ほうきで男女四人が飛ぶのははずかしいと思った。
「健太とタクミは行かなくていいよ。一人で大丈夫、だって私は魔女っ子だもん。もう何もこわくない!」
健太はカナエの肩をつかんだ。
「一人で行くなんて絶対にダメだ。やっぱりオレ、小河が心配なんだ」
「健太……」
(あたしのことをそこまで心配してくれるなんて……)
カナエは胸がキュンとした。
「だって魔法が使える小河をほっといたら何をしでかすか分からないだろ?」
——ズコー!
カナエはずっこけた。
「たしかにそうだね。小河さんなら『おかしのマンションをつくる』とか言ってマンションに魔法をかけそうだもんね。オチはマンションがくずれておかしの山ができてアリが寄ってくるという……」
「タクミ、あたしそんなことしないよ! 二人とも私を一体どんな風に思ってるの!」
カナエは顔を真っ赤にした。
「まぁやるとしたらせいぜい空の雲を全部わたあめに変えるぐらいかな」
「「絶対について行く」」
男子二人は顔をひきつられながら声をそろえた。
「小河さんってどんな子なの?」
おじさんが男子二人にたずねた。
「よく言えばクリエイティブで実行力があります」とタクミは答えた。
「悪く言えば妄想力を振りかざして一人で暴走します」
健太はため息をついた。
「何となく分かったよ、彼女の魔力が強い理由が」
おじさんはカナエの魔力が単なる妄想から生まれているのだとさっした。妄想は根拠のない物を信じることだ。本質は魔法の習得となにも変わらない。とはいえ妄想だけでここまで強力な魔法を使う人もそういないのだが。
「分かったよ、馬車で行こう」
カナエが言うと、おじさんはカボチャがしまってある倉庫に向かった。
三人は庭に出てカボチャの到着を待つ。
「その姿を見てもまだ信じられないな、小河さんが魔法使いになったなんて」
さっきまでタクミは魔法なんてものを信じていなかったけれど、目の前で起こっていることを受け止めると魔法を信じざるをえない。
「オレもだ。吉野のことも不安だけど小河のことも何だか不安だ」
「そう? あたしは魔女っ子になる心の準備はできてたよ」
カナエはうれしそうににやにやしている。
そうこうしている間におじさんが大きなカボチャをリアカーに乗せて運んできた。
「あれ? 馬車じゃないの?」
白馬が馬車を引っ張ってくるものだと思ったカナエはガッカリした。
「これから魔法をかけて馬車にするんだ」
おじさんは馬車を地面に置く。
「小河さん。これを馬車にしてみなさい。吉野さんをつれて帰る時には小河さん一人でカボチャを馬車に変えなきゃいけない。もし変身させられないのなら吉野さんを助けに行くのはあきらめてもらおう。みんな帰ってこれなくなったら困るからね」
これはおじさんがカナエに課した試験だ。カボチャを馬車に変えるなんて魔法は何年も修行しなければできない。つまり、この試験は半分カナエに王国に行くのをあきらめてもらうための口実のようなものだ。そんなことも知らずにカナエは笑いながらステッキをかまえた。
「うん、カンタン、カンタン!」
カナエは魔法のステッキを振った。
「にゅむにゅむにゅむぱぱぱぴりぱー! 大きなカボチャよ馬車になーれ!」
ステッキの先からきらきらとした光が現れてカボチャを包む。
——ぼふん!
光が消えると、カボチャはさらに大きくふくれ上がった。その下にはちゃんと四つの車輪がついていて馬車の形をしている。そしてその車を引くのは——
「——ナスかよ!」
健太は思わずつっこんだ。
カボチャを引く馬はお盆の時に仏壇の前にかざられているような四本足の生えたナスだった。しかも馬と同じぐらい大きい。
「すばらしい、形は多少おかしくてもこんなにすぐ馬車を作ってしまうなんて。私の想像をはるかにこえている」
おじさんは馬車を見てうなった。
「うわー、こんな馬車いやだ!」
カナエがナスを見てなげく。試しにナスにさわってみると、ナスは足で地面をけってやる気をアピールしている。
「もう一度……」
「いや、これで十分だ。早く吉野さんを助けに行きなさい」
おじさんはステッキを振ろうとするカナエを止めた。
「こんなの馬車じゃなくてナス車だよ! せっかくカボチャの馬車がロマンチックなのにナスがセットになったとたんに八百屋さんにしか見えないよ!」
「いいから乗ろうぜ」
健太はわがままを言うカナエを無理やりカボチャに乗せた。
三人がナス車に乗るとナスは力いっぱい空をかけはじめた。
「みはは白馬なのにあたしはナスとかひどい格差だ……」
カナエの声は雲の中へと消えていった。
- Re: 四年二組のシンデレラ!? その8 ( No.11 )
- 日時: 2016/04/21 00:19
- 名前: ヨミ (ID: Nt.wHtNX)
8
西の空に夕日がしずむのを美春は城のまどからながめていた。お城にはもちろんテレビやマンガなんて無い。美春は退屈だった。
「どうだい、お城での生活は?」
王子が美春の部屋に入ってきた。美春はバラを見た時以来初めて王子と話す。
「退屈。このままじっとしていたら城にかざってある絵画や彫刻みたいに固まってしまいそうです」
「やっぱりそうか。だからみんな退屈をまぎらわすために時々昨日みたいなパーティーを開くのさ」
王子は美春のとなりに座った。
夕日がまどから差しこんで、王子と美春をやさしく照らす。
「結婚のことは考えてくれたかい?」
美春は城の中でやることもなく、王子のプロポーズについても考えたりもした。でも答えはすぐに出た。
「私はあなたとは結婚できません」
「どうしてさ?」
「それは、あなたが弱いからです」
美春は丸く大きな瞳で王子を真っ直ぐ見つめる。
それを聞いた王子は笑う。
「弱い? このボクが? そんなはずはない。ボクは何千という兵隊を動かせる。ボクの一言で周りの国も全部ボクの領土にできるんだよ?」
美春はだまって首を横に振った。
「権力だってだれにも負けない。昼間見ただろう? あんなに広い庭にたくさんのバラをさかせられる人なんて世界をさがしても少ししかいない。ボクの一体何が不満なんだ?」
「力が強いのは兵隊さんです。バラを育てたのは庭師です。あなたはそれらの人たちを統べる権力を持っているかもしれません。でも私を愛してくれるのは何万の兵でも庭師でもなく、あなた一人でしょう? 私にとっての一番の人がバラの花にふれることすらできないいくじなしなんていやなんです」
美春は家にとめてもらっている身分で言いたいことを言いすぎたと思った。でも、こんなことで城を追い出されるのなら王子の気持ちはその程度だったとあきらめられる。
「すまない……」
王子は小さくつぶやくと、部屋から走って出て行った。
そんな王子の後ろ姿を見た美春は胸が痛くなった。
その夜、王子は一人ベッドの中で美春のことを考えていた。
今まで王子の周りには王子と結婚したい人がたくさん集まっていた。だから美春に結婚をことわられるなんて全く考えてなかった。
何で今まではたくさんの女の人が周りにいたのだろうか。それはシャルルが王子だからだ。権力もあるしお金もある。そんなことはシャルル自身も分かっていた。王子という立場と結婚したいのであってシャルルと結婚したいのではない。そんなかなしい現実から目をそむけたくて、愛されていると思っていたかった。
でも美春はちがった。シャルルのことを王子だからではなく一人の人として向き合ってくれた。こんな人は初めてだった。本当はうれしくてたまらないのに、自分のことを王子と見てくれないせいで結婚をことわられてしまった。
どうしていいのか分からない。
考えれば考えるほど美春のことが愛おしい。
どうしたら美春は自分を好きになってくれるのだろう。
考えて考えて、王子はベッドから起き上がった。
「もっと強くならないと」
シャルルは部屋から剣を持って外に出た。
月明かりが王子をぼんやりと照らす。
どうしたら強くなれるのかなんて分からない。だけど何もしなくては強くなれるはずもない。シャルルはそれが正しいのかは分からないけれど、ただ剣を振った。
強くなりたい。
強くなりたい。
そう思いながら、剣で風を切り続けた。
- Re: 四年二組のシンデレラ!? その9 ( No.12 )
- 日時: 2016/04/23 14:54
- 名前: ヨミ (ID: eXx5XrYY)
9
カナエがカボチャの中で目を覚ますと、健太とタクミはすでに起きていた。
「おはよう。あたしのことも起こしてくれてよかったのに」
「寝てても起きても変わらないだろ」
健太はつまらなそうに言った。
カボチャのナス車は一晩中走っている。ペガサスなら簡単に走れるきょりでもナスにとっては一苦労で休み休み進むしかない。そのせいで王国に行くまでの時間がペガサスよりも何倍もがかかってしまったのだ。
その時、ガタンと、カボチャがゆれた。どうやら着陸したようだ。
「着いたのかな?」
カナエがナス車のドアを開けると、そこは森の中だった。カナエが振り返って見ると、目の前には大きな城がそびえ立っている。
「すごい、お城が目の前にある!」
カナエにおくれて健太とタクミがカボチャの中から出てきた。
「これならすぐに吉野さんをむかえに行けるね」
「よし! さっそく行こう」
カナエが先頭を歩き、その後ろにタクミ、最後に健太が一列に並んで城へと進んでいった。
やぶの中から城の門をのぞくと、頭からつま先まで鉄のヨロイに包まれた門番が二人立っていた。
「たぶん事情を言えば入れてもらえるよね」
カナエはそう言うと、真っ直ぐ門へ進んでいった。
「お前たち何者だ?」
案の定門番に聞かれたのでカナエは答えた。
「吉野美春をむかえにきました。城に入れてください」
門番はカナエの魔女っ子の服を見て首を横に振った。
「あやしい者を城に入れるわけにはいかない」
「あやしくないよ、入れてよ」
「ダメだ」
三人はあきらめていったん森の中に引き返した。
「そりゃあそうだよな。そう簡単に入れるはずがない」
「あたし門番の格好の方があやしいと思うんだ」
「まぁ近所のコンビニとかにいるんなら門番の方があやしいな」
健太とカナエの話を聞いて、タクミは考えている。
「どうにかしてしのびこむ方法……そうだ! 小河さん。魔法でぼく達の服を変えられないかな? あの門番と同じヨロイを着れば仲間だと思って入れてもらえるんじゃない?」
「たしかにいいアイデアかもしれないぞ! 小河の魔法にかかるのがちょっとこわいけど……」
健太は少し気が進まなかったけれど、ほかに方法が思いうかばなかった。
「こわくない、こわくない。あたしを信じて!」
カナエはステッキを振った。
「にゅむにゅむにゅむぱぱぱぴりぱー! 門番とあたし達が同じ服になっちゃえ〜!」
ステッキの先からきらきらとした光があふれた。
————ボフン!
大きなはれつ音がした。でもカナエの魔女っ子ドレスにはなにも変わらなかった。
「あれおかしいなぁ。何も変わらない。ごめんタクミ、健太、失敗しちゃったか——」
——カナエが振り返ると、魔女っ子ドレスを着た健太とタクミの姿がそこにあった。
「ちょっと二人! なんて格好してるの!? シュミ?」
タクミはほっぺを赤くしながら城の門の方を指さした。
門の前には筋肉ムキムキの男が二人、パツパツの魔女っ子ドレスを着てあたふたしている。
「おえぇぇぇ。あのおじさん達ヘンタイなの?」
「違うだろ! お前の魔法が失敗したんだ!」
健太がカナエをおこった。
カナエがかけた魔法は『門番が着ている服と同じ服を三人が着る魔法』ではなくて『門番と三人が着ている服が同じになる魔法』だ。だから門番も男子二人もカナエと服が同じになった。魔法をかけることには成功したけれど、そもそもの魔法のかけ方を失敗していたのだ。
「いきなり相手のヨロイを消したんだから城では大さわぎになるぞ! いったん森の中にもどろう」
健太の指示に従って三人は森のおくのカボチャがある場所までもどった。
「ごめん、あたしのせいで……ぷぷっ」
「謝りながら笑ってんじゃねーよ!」
健太はカナエのほっぺたをぐにゅーっとのばした。
「だって、健太の魔女っ子ドレス似合わないんだもん! ぷぷっ」
「当たり前だろうが!」
「それに比べてタクミは……」
カナエと健太はタクミを見た。するとタクミはスカートをおさえて顔を赤らめた。
「そ……そんなに見ないでよぉ……」
「いけますな」
カナエは「ふむふむ」とうなずいた。
「『いけますな』じゃねーよ! とっとともどせよ!」
健太はカナエをにらむ。
「えー、せっかく面白いのに」と言いながらもカナエはもう一度ステッキを振った。
「にゅむにゅむにゅむぱぱぱぴりぱー! カナエ、クーリングオフ!」
きらきらが包んで男子二人と門番の服は元にもどった。
「はぁ……やっともどった」
タクミはふぅとため息をついた。
「それでどうする? お城にもどっても絶対に入れてもらえないよ? ぼく達があやしいのが確定しちゃったんだから」
「そうだな、少しはなれたところから様子を見てるか。大丈夫そうなら今度こそヨロイを着て城に入ればいいだろうし」
三人はまたしげみの中から城の様子を観察することにした。
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