コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 【完結】四年二組のシンデレラ!? 魔法のカボチャと弱虫王子
- 日時: 2016/05/07 20:13
- 名前: ヨミ (ID: Nt.wHtNX)
ヨミと申します、初投稿です。
小学生向けっぽい小説を書いてみたのですが周りに小学生がいないのでこちらに投稿することにしました。
もちろん中学生以上の方のコメントも大歓迎です!
もともとワードで書いた小説をコピペして投稿するので書式が乱れるかもしれません。その時はごめんなさい。
こちらのサイトは初めて使うので(というより小説投稿サイトというものが初めてなので)間違ったことをしてしまうかもしれませんが、その時にはご指摘ください。
==小説について==
こちらの小説は既に完結したものを投稿するので、よっぽどのことが無い限り物語が途中で終わるようなことはないと思います。
ただ30000字ちょっとある作品なのでゆっくりちまちまと投稿していきます。
30000字というと文庫本の1/3冊ぐらいでしょうか
まぁまぁ長いですね
内容はコメディーとファンタジーとちょっぴり恋愛です
キャラクターもストーリーも全てオリジナルとなっています
笑ったり胸キュンしたりしてもらえたら嬉しいです。
- Re: 四年二組のシンデレラ!? その3 ( No.3 )
- 日時: 2016/03/29 21:46
- 名前: ヨミ (ID: Nt.wHtNX)
3
四人でカボチャを見てからだいたい二時間ぐらいがたった。もうすぐ午後七時。カボチャがある畑の周りは街灯も無く、真っ暗だ。
見えるのは星明りだけ。地上が暗い分だけ空の星々は明るく光っている。
そんな暗い夜道に小さな明かりがやってきた。自転車のライトだ。その自転車に乗っているのは吉野美春だった。美春はお習字教室から帰ってくるところだった。
いつもは明るい道を通って帰るのだが、カナエと帰っている時にこの道の方が近道だということに気づき、今日は初めてお習字教室の帰りに畑のわきの道を通ることにした。
(真っ暗でこわいな。変な人とかがでなければいいけど……)
自分で選んだとはいえ、少女一人で夜道を通るのは心細い。
周囲をきょろきょろ見回している時だった。
(あれ? 何だろう?)
美春はぼんやりとオレンジ色に光る何かを見つけた。
本当は帰りにより道をするのはいけないことだけれど、光の正体が気になった美春は自転車に乗ったまま近づいてみた。
近づけば近づくほど丸い光は大きくなっていく。そこで美春は気ついた。光の正体は夕方に見たカボチャなのだと。
美春の頭の中でタクミの言葉が思い出される。
(そうだ、カボチャはちょうちんになるんだった)
でもちょうちんにしては変だ。今はハロウィンではないし、こんなだれもいない場所で明かりをつけている意味も分からない。
美春は自転車をおりてカボチャに近づいた。
どうやらそれは、ちょうちんですらないようだ。
ちょうちんであればカボチャの中にロウソクや電球が入っているはずだ。
でもカボチャはカボチャの皮が光っていたのだ。
美春はカボチャの皮にふれてみる。
「きゃーっ!」
美春の体はカボチャの中へと引きづりこまれた。
(何これ!? だれか助けて!)
そんな美春の心のさけびはだれに届くはずもなく、美春はそのままカボチャの中に入ってしまった。
あまりの出来事におどろいた美春は少しだけ気を失っていた。
「……あれ?」
美春は甘いかおりをかいで目を覚ました。目の前は一面のオレンジ色だ。座っている床もふわふわとやわらかい。
「ここ……どこ?」
見回してみても入口も出口も無い。ただオレンジ色のかべがあるだけだ。
部屋は一人で座るだけでいっぱいの広さだ。それでも不思議とせまさは感じなかった。
(ここはどこだろう。たしか私はカボチャにふれた時……)
美春はピンときた。
(そうだ! 私はカボチャに引き込まれたんだ。だとしたら、ここはカボチャの中!?)
そう、美春は畑にあった大きなカボチャの中に入ってしまったのだ。でも美春は自分がカボチャの中にいるなんて信じられなかった。
美春はあせってかべや床をたたいた。
するとかべはぐにゃりと曲がり、まどのようなものができた。美春はそこから外を見た。
「うそでしょ……?」
美春が下の方をのぞきこむと、そこには宝石をちりばめたような光のつぶがたくさんかがやいていた。美春はその小さなつぶの一つ一つが家や街灯の明かりだということに気づいた。
そう、美春を乗せたカボチャは空を飛んでいたのだ。
美春の顔が青ざめた。これではカボチャの外に出ることはできない。
「ちょっと、だれか!」
美春はカボチャのかべをドンドンとたたく。そのたびにかべがゆがんでまどが現れたり消えたりした。
美春がたくさんのまどを見てみると、一つだけ景色ではないものが見えた。白くつややかな短い毛、大きな体、空をふみしめるヒズメ。白馬だ。でもふつうの白馬とはちがうことが一つあった。その背中には白鳥のような大きなつばさがあって、夜空をなでるように羽ばたいている。
「ペガサス!?」
おとぎ話にしか出てこない伝説の生き物を目の当たりにして美春はカボチャが本当に馬車だったということを信じ始めた。
ペガサスは月に向かって空を走る。
これからどこに連れてゆかれるのかと美春がとまどっている間にも変化が起こった。
小さな光のきらきらが美春の体の周りを回りだした。すると彼女が着ていたシャツとズボンが真っ白なドレスに変わった。光は美春のくつ下を白いストッキングに変えて、土のついたスニーカーをガラスのハイヒールへと変身させた。手にはひじのところまでおおわれた白い手袋が現れる。最後に肩の長さで切りそろえられたおかっぱ頭の上に小さなティアラがちょこんとのっかった。
もしかしてこれは夢? そう思った美春は「起きろー、起きろー」と念じながらほっぺたをたたいてみた。
——ばふり。
手袋の上からたたいたにぶい音がした。でもほっぺたには感覚がちゃんと伝わっている。これは夢じゃない、と美春は気づいた。
(もう何が起こっているのかわけが分かんない!)
目の前の変化についていけなくなった美春は考えることをあきらめてぼーっとする。
その間にもカボチャの馬車はどんどん進んでいき、光のトンネルの中を走って行った。
- Re: 四年二組のシンデレラ!? 〜魔法のカボチャと弱虫王子〜 ( No.4 )
- 日時: 2016/04/02 15:23
- 名前: ヨミ (ID: Nt.wHtNX)
4
ガタン。
カボチャの馬車が地上におりた。
美春はどうしていいか分からなくて動けずにいた。するとカボチャの皮がぐにゃりとゆがみ、出口のようなものができた。
「さぁさぁお待ちしておりました、お姫様」
出口から口ひげを生やした白髪のおじいさんが顔をのぞかせた。彼は高級なタキシードを着ている。
「えっ? あ、あの……」
美春があたふたしていると、そのおじいさんは手をさしのべて美春をエスコートした。
美春がカボチャから出ると、大きなお城が目の前にあった。西洋風のレンガづくりのお城なんて絵本の中でしか見たことがない美春はとまどいと感動がまざったような気持ちになった。
「舞踏会の会場はこちらです」
おじいさんはおじぎをしながら手を向けた。
「あの、私はお姫様なんかじゃ……」
「いいのでございます。馬車に乗ってきたということはお客様でございますから、多少の身分のちがいがございましてもお姫様と呼ばせていただきます」
美春はとまどいながらも舞踏会の会場へと進むしかなかった。このお城の執事のおじいさんがエスコートしているし、にげるにしてもどこに行けばいいのか分からない。
お城のろうかは数えきれないほどのロウソクが並んでいて床にしかれたじゅうたんの色が赤いと分かるぐらい明るい。
美春は生まれて初めてはくハイヒールにつまづきそうになりながらも足元に注意しながら歩いた。ゆかをこするぐらい長いスカートもふだんはズボンか短めなスカートしかはかない美春にとっては歩きにくいだけだ。でも絶対に転ぶことはできない。ガラスのくつということは割れやすいということだ。もしガラスのくつが割れてしまったらとがったカケラが足にささって——そこで美春は想像をやめた。
ろうかまで聞こえる音楽で舞踏会のはなやかさが伝わって、美春はきんちょうしてきた。
歩くたびに大きくなる音楽。もうすぐ会場だ。
「さぁ、こちらです」
美春は目を丸くした。たくさんのシャンデリアが体育館よりも広い部屋を照らしていた。
部屋の真ん中ではたくさんの男の人と女の人が手をとりあっておどっている。女の人はみんな色とりどりのドレスを着ていて美春の目にはまぶしく映った。
部屋のはじの方ではおいしそうな料理が並び、いいにおいがする。
オーケストラのバイオリンやチェロの音が部屋中にひびきわたっている。
そんな中、美春は部屋のすみでただ立ちつくしていた。周りの人はみんな大人だし、自分とは別の世界の人に見えたからだ。キャンプファイヤーなら経験したことがある美春でも、さすがに舞踏会は格がちがいすぎる。
(こんなところ、早く帰りたい……)
美春のほほに一つぶの涙が流れた。
「どうしたの? おじょうさん」
少年のソプラノ声がした。
美春が顔を上げると、同じ年ぐらいの男の子が目の前に立っていた。少年は細い金色の髪の毛にすき通るような白い肌で、きらびやかなマントとジャケットをまとっている。美春は彼のことも別世界の人だと思ってしまった。
「どうもしてない」
「泣いてたよね? せっかくのパーティーが台無しだよ」
少年は美春の手をとった。
「せっかくだからボクとおどろう? そうすれば、かなしいことなんてなくなるよ」
「ちょっと!」
美春が手を引っこめようとしたけれど、少年は強引に彼女の手をとった。
「私おどれない!」
「大丈夫、ボクがキミをエスコートするから」
少年の手が美春の腰へとまわった。美春のほほがぽわっと赤くなった。
「こわくないよ。ほら、ちゃんとおどれてる」
美春はただ手をつないで足を動かしているだけだったけれど、はたから見るとちゃんとおどれている。美春の心に重くのしかかっていた不安はゆっくりとほぐれていった。
「今夜はこんなにすてきな女性と出会えたことを神様に感謝しないとね。ねぇ、キミはなんて名前なの?」
「吉野……美春です。えっと、あなたは?」
少年はおどろいたような表情をうかべた。
「ボクのことを知らないでパーティーに参加しているのかい? ボクの名前はシャルル、このお城の王子さ」
王子の手をにぎる美春の手がふるえだした。まさか飛び入り参加をしてしまった舞踏会で初めておどった相手が王子様なんて、どうれだけ偶然が重なるのだろう。
「ごめんなさい。私、失礼なことを……」
「かまわないさ。だってキミはこれからプリンセスになるかもしれないんだから」
シャルル王子は白い手袋に包まれた美春の手をそっと口を近づけた。
その時、オーケストラの音楽をかき消すように鐘の音が鳴った。もう時間はもう十時、ふだんなら美春は眠りについている時間だ。
「私、もう帰らないと」
美春は手を引っこめて王子に背を向けた。
「パーティーはこれからだよ」
王子がさしのべた手を美春は振りはらった。
「ダメ。せっかくの楽しい会だけど、私はいつまでもここにいるわけにはいかないの」
帰りがおそくなってしまえば両親は心配するし、明日はまた学校がある。美春は王子が引き止めるのもさしおいて走りだした。
長いろうかを走ってゆくと舞踏会の音楽はどんどんと小さくなり、美春の胸をさみしさと不安がしめつけた。
美春はお城の外へ出た。
美春は来た時に乗ってきたカボチャの馬車をさがす。
玄関の前だけでなく広い庭をさがし回ったけれど、カボチャの馬車は無くなっていた。
(どうしよう、私帰れなくなっちゃった)
美春はドレスのままひざをついて泣きくずれた。知らない土地で一人ぼっち、これほど心細いものはない。
「さがしましたよ、お姫様」
執事のおじいさんが泣いている美春に声をかけた。
「王子様があなたのことを心配なさってました。城にお戻りください」
「でも、私帰らないと」
「こんな夜おそくでは危ないです。日が出てからでも……」
「ダメ」
おじいさんは困ったように頭を抱えた。
「ではこちらで馬車と護衛の兵を用意しましょう。失礼ながら、あなたはどちらの娘さんでございましょうか?」
「吉野です。日本の埼玉県風吹町に住んでいます。駅におろしてもれえればパパが車でむかえに来てくれると思います」
「はて……聞いたこともございませんが……」
おじいさんはますます困ったと言わんとばかりに首をかしげた。
「ウソ! 地図を見れば分かります」
「ではわたくしどもが調べますので、今夜は城でおとまりください」
美春は「いやだ」と言いたかったけれど、他に方法がないのでおじいさんに従うしかなかった。下手ににげて野宿するよりもお城にとまった方が何百倍もマシだ。
「はい……」
美春は帰ることはあきらめて、城にとまることになった。
- Re: 四年二組のシンデレラ!? 〜魔法のカボチャと弱虫王子〜 ( No.5 )
- 日時: 2016/04/03 13:14
- 名前: ヨミ (ID: Nt.wHtNX)
5
「みなさん、吉野美春さんが昨夜から帰ってないのですが、心当たりのある人はいませんか?」
四人でカボチャを見に行った翌日の朝の会で先生が真っ先に言った。その顔は引きつっていて大事だということが話を聞いているカナエにも伝わってくる。
「無いようですね。どんな細かいことでもいいので何かあったら先生に教えてください。それでは朝の会は終わります」
先生は号令やあいさつもせずに職員室にもどっていった。
朝の会が終わってカナエは真っ先にタクミと健太の元へ行った。
「小河さん、吉野さんが行方不明なんだって?」
タクミがカナエを見ると心配そうに言った。
「そのことだけど、あたしちょっとだけ心当たりがあるの」
「だったら早く先生に言わないと」
「だけどビミョーなんだよね。たぶん相手にしてもらえない」
「とりあえず心当たりって何なんだよ」
健太が食いつくようにカナエにきいた。
「うん。みはの自転車が昨日みんなでカボチャを見た畑のそばで見つかったんだって。それで今朝あたしもその道を通ってきたんだけど、あの大きなカボチャが無くなってたの。変だと思わない? 収獲するなら昼間にするでしょ? でも夜中にカボチャは無くなった。しかも昨日カボチャを見に行ったみはもいっしょに。これってたまたまなのかな?」
「つまり小河は吉野がカボチャの馬車にさらわれた、とでも言いたいのか? こんな時にふざけるなよ」
「ふざけたわけじゃ……」
「いやでも小河さんの言うことも一理あるかもよ」
「おいタクミ、お前までおかしくなったのか?」
「ちがうよ。夜にカボチャが無くなったということはきっとだれかが収獲したんだよ。でもあんな大きなカボチャをたった一人で収獲するのは難しいし、できたとしても時間がかかる。だからカボチャを収獲した人が吉野さんを見た可能性がある。さらに言うならカボチャを夜中に収獲するなんて畑の人ならやらない。きっとドロボウかもしれないね。それを吉野さんが見てしまったら……」
「それって大変じゃん!」
カナエはあわててさけんだ。
「落ち着け小河。カボチャドロボウが誘拐事件を起こすなんて考えにくい」
「そう……だよね。じゃあみはは……」
「放課後にまた畑に行ってみよう。農家の人にきいてみれば何か分かるかもしれない」
タクミが提案した。
「でも事件に子供だけで首をつっこむなんて危ないぞ」
「そこは心配はいらない。あたし達には強力な武力がある」
カナエは健太の肩をたたいた。
「健太、竹刀を持ってきてくれ」
「オレかよ!」
健太はため息をついた。
「でも、例え健太が行かなくてもあたしは行くよ。友達がいなくなったのにじっとなんかしてられない」
「だったらぼくも行く。女の子一人に全部任せられないし、昨日いっしょにカボチャを見に行った責任はぼくにもあるからね」
カナエとタクミは健太を見た。
「ああ、じゃあ仕方ねぇな! オレも行くよ」
健太の返事を聞いてカナエはにこりと笑った。
「みんな、ありがとう。今日の放課後に畑に行くよ。健太は竹刀を忘れずに!」
「本当に持ってくるのかよ……」
健太のつぶやきは一時間目始まりのチャイムの音にかき消された。
- Re: 四年二組のシンデレラ!? その6 前半 ( No.6 )
- 日時: 2016/04/05 22:54
- 名前: ヨミ (ID: Nt.wHtNX)
6
美春が目を覚ますと、ベッドを囲う白い天蓋が見えた。
(ああ、昨日の舞踏会は夢なんかじゃなかったんだ)
美春はネグリジェからメイドが用意してくれたドレスに着替えた。本当は動きやすいシャツとジーンズが良かったけれど、わがままは言えない。
美春はお城で用意してくれたハイヒールをはいてろうかに出ると、部屋の前には執事が立って待っていた。
「お目覚めになりましたか。朝食の用意はすんでおります。では、こちらへ」
美春は執事の後についてゆく。
「そういえば私が帰るための道は分かりましたか?」
美春がたずねると執事は顔をくもらせた。
「世界地図のすみからすみまでさがしましたが、ニホンという島は見つかりませんでした。ジャパン、ジパング、ヤーパン、ジャポンなど美春様がおっしゃっていた他の読み方でもやはり地図にはありません」
「そうですか。朝食後にその地図を見せてください」
「かしこまりました」
長くつづくろうかを歩きながら美春はため息をついた。
「早く帰らないと、お城のみなさんにもご迷惑ですよね」
「とんでもございません! 王子は美春様のことを大変気に入られております。もし美春様がよろしいのでありましたら城にお住まいになっていただいてもいいのですよ」
「そう言ってもらえるとありがたいです。帰れなくなったら私、ここでメイドとしてやとってもらうのか……」
それを聞いた執事が上品に笑った。
「ご冗談を。さぁ、こちらで朝食をおとりください。お姫様」
美春は冗談なんて言ったつもりはないのに、と首をかしげた。
とびらをくぐると、美春の目の前にごうかな料理が並んでいた。
「やぁ、おはよう。昨晩はよく眠れたかい?」
「お、おはようございます。はい、おかげさまで」
食卓の前にシャルル王子が先に座っていた。
メイドは王子と正面のいすを引いた。美春はそこに座る。
「キミが昨日帰るって飛び出して行ったときボク心配したんだ。外は治安が悪い、ドレスを着た女の子なんてすぐにおそわれてしまう」
「そうなんですか……」
野宿をしなくて良かったな、と美春は改めて思った。
お城の朝食は美春の口に合っていてとてもおいしかった。キノコや野菜のような山の幸から魚や貝のような海の幸まで並んでいる。美春は慣れないながらも上手に銀のナイフとフォークを使って魚のムニエルを食べる。
「痛っ!」
突然王子が口元をおさえた。するとメイドがすかさずやってきて、彼の口に布きんを当てた。
「どうなさいましたか!?」
メイドに対して王子は怒った。
「どうしたじゃない! どうして魚の骨をとってないんだ! 食べ物に危ない物をまぜてボクを殺す気か? そんなにボクを王にしたくないか!」
「申し訳ありません。すぐに料理人を呼んできます」
「料理人なんてどうでもいい! ほかの料理も安全か調べてくれ。もちろん美春のもだ」
「かしこまりました」
美春は食べようとしていた魚のムニエルをメイドに取り上げられてしまった。
「どうしたんですか? 王子様」
「王子様はよしてくれ、シャルルでいい。時々ああいうことがあるんだ。魚にほねが入っているのに平然と出してくる。キミにもすまないことをしたね、こんな危ない思いをさせて」
王子が言っていることがいまいち美春には理解できなかった。
「この国の魚にはタコみたいにほねが無いのですか?」
「おかしなことを言うな、キミは。ほねがあるからさっき入っていたんだろう」
「だったら魚にほねが入ってるなんて当たり前じゃあ……」
「だからってほねが入ったまま出したら危ないだろ?」
「そうですかね。ほねが入っているのも含めて魚だと思いますが」
美春は魚のほね程度で大さわぎをする王子にあきれた。
「キミには想像もつかないか、王子のボクがいかに身の危険にさらされているかなんて」
王子の言い方に美春はカチンときた。
「分かりますよ。外を歩けば石は落ちてるし、昼寝をしたらベッドから落ちるかもしれませんものね。そのナイフで大切なお手てをケガしないようにお気をつけください」
王子はだまってしまった。
美春は言いすぎたと思ったけれど、すぐに謝る気は無い。
食べ物は全部下げられてしまったので、美春も王子も何もできずに、ただ無言で座っている。
「ごちそうさまでした」
美春は重い空気にたえられずに席を立った。
執事のおじいさんが一礼をして美春についていく。
「美春様、朝食の雰囲気をこわしてしまい、まことに申し訳ありません」
ろうかで執事は美春に深々と頭を下げた。
「私こそ、ついあんなことを言っちゃって……」
「美春様も王子も悪くはございません。全ては魚にほねが入ったまま食卓に並べてしまったわれわれの責任でございます」
美春は王子をかばう執事に納得がいかなかったけれど、そのまま流した。
「美春様はおっしゃっていた地図の用意ができておりますが、ごらんになりますか?」
「はい、お願いします」
美春は執事についていき、本がたくさんある部屋に通された。その部屋の真ん中にある大きなテーブルには小学校の黒板ぐらい大きい地図が置かれていた。
美春はその地図をちょっと見ただけで変だと気づいた。大陸が一つしかえがかれていなかったのだ。島のようなものもちらほらと見えたけれど、どう考えても日本にはない。そのえがかれた大陸も見たことがないような形をしている。
「日本はありませんね」
「そうですか。残念でございます」
その地図を見て美春の頭の中に二つの考えがうかんだ。
一つはカボチャの馬車に乗って自分が知っている世界とは別の世界にやってきてしまったという考えだ。自分の知らない世界だから自分の知らない世界地図だったというわけだ。
二つ目はこの地図は昔の地図だということ。まだアメリカ大陸も見つかっていないぐらいに作られた昔の地図ならひとつづきになったユーラシア大陸とアフリカ大陸しかえがかえていないのも納得できる。それに測量の技術も発達していないから自分が見たことがないような大陸の形になっていたもおかしくはない
でも、どちらにせよ美春は現代の日本に帰るのはできないだろう。
「私はやっぱり帰ることができないかもしれません」
美春の胸にかなしみがこみ上げた。
「ここにやって来れたということは帰れるということです。それまでわたくしが手伝いをしますので、どうかお気にやまないよう」
執事は一礼して去っていった。
「入っていいかい?」
執事が去ってすぐに部屋の外から王子がのぞいていた。
「ええ、もちろん」
王子は地図を見ている美春のとなりに立った。
「朝はごめん、せっかくのさわやかな気分を台無しにして」
先に王子が謝るとは思ってなかった美春はびっくりした。
「いえ、こちらこそ。ひどいことを言ってしまったかもしれない」
「そんなことないさ。ねぇ、ボクはキミのことをもっと知りたいんだ。もし良かったらいっしょに庭のバラを見に行かない?」
「ええ。いいですよ」
美春の返事に王子はほほえんだ。
「こっちだよ、ついてきて」
王子は美春の手をとって歩きだした。
- Re: 四年二組のシンデレラ!? その6 後半 ( No.7 )
- 日時: 2016/04/09 01:37
- 名前: ヨミ (ID: Nt.wHtNX)
美春と王子は城の庭園に出た。庭と言っても公園よりもすっと広くて美春はおどろいた。
周りには視界の全てをうめつくすほどたくさんのバラの木があって、その枝一本一本にたくさんの花がさいていた。
「すごくきれい」
美春はこんなにすばらしいバラ園を見るのは生まれて初めてだった。
「でしょう? ボクの城ではバラの花が一番多く育てられているんだ」
美春はバラ園を見て、庭の手入れにどれだけの労力が必要なのだろうと思った。日々細かい手入れをおしまないからこそ美しいバラがさく。こんなに美しいバラを広い庭いっぱいにさかせているのだから、たくさんの人が絶え間ない努力をしてきたのだろう。
「ねぇ美春、キミはこれからどうするんだい?」
「分からない。何とか帰りたいけれど、帰る方法が見つからないの」
王子はかなしそうな美春の手を両手でにぎった。
「もし美春が帰らないのなら、ボクはキミを妃として城にむかえようと思う」
うん、と美春はぼーっとバラを見ながらうなずいた。
「って妃!? 妃ってことはお嫁さんってこと?」
美春は王子の言葉の内容が分かるとおどろいて王子の顔を見た。
「もちろん。ボクと結婚してほしい」
美春は突然のプロポーズにおどろいて顔が赤くなる。
「で、でも私達まだ子供ですよ? 結婚とかっていうのはまだ早すぎるというか……」
「たしかに少し早いかもしれない。でも婚約は早い方がいい。いつお父様から政略結婚をしろと言われるか分からない。その時にボクがキミと婚約していればお父様を説得することができる」
「セイリャクケッコン?」
「そう。ボクの国が他の国と仲良くできるように他の国のお姫様と無理やり結婚させられるんだ」
「それはお気の毒……」
「ボクは愛する人と結ばれたい。だから美春、キミと」
「でも私達昨日出会ったばっかりですよ。お互いのことなんて何も知らないし……」
美春は王子の言葉をさえぎるように言った。
「だからこれから時間をかけて美春のことを知りたいんだ。それからボクのことも知ってほしい、ボクがどれだけキミを愛しているかということを!」
王子は一輪のバラの花をプレゼントしようとバラの木に手をのばした。するとバラのトゲが王子の指先をちくりとさした。
「うっ……血が出てる」
王子の指先から一滴の血液がじわりとにじんだ。
「美春、早く城の医者を呼んでくれないか!」
「どうしましたか? ああ、バラのトゲがささったんですね。なめとけば治りますよ」
大げさにふるまう王子に美春は言った。
「王子様、おケガは大丈夫ですか!?」
どこにひかえていたのか、執事がすぐに王子の元にかけつけてきた。
「大丈夫に見えるか?」
「申し訳ありません。すぐに医者を呼んで参ります」
執事は城に走っていった。
「私、部屋にもどるね」
美春はなんだか白けてしまった。過保護に育てられたのか知らないけれど、いくらなんでも王子はちょっとしたことで大さわぎしすぎだ。
昨日の夜には大人っぽくエスコートしてくれた王子が急に子供っぽく思えてしまう。
美春は一人で部屋に帰ると、やることもなくただまどから空をながめていた。
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