コメディ・ライト小説(新)
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- 日陰の僕らは絶縁体
- 日時: 2017/04/11 15:17
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
そして、君はいなくなった。
青く落ちて消えて、そして永遠に残る、どうしようもない嘘。
***
【 第1部 】
Episode01「音が消えた春」
>>001「汚れた群青(1)」
>>002「死ななかった猫(2)」
>>003「咲かない桜(3)」
>>004「ソファーから落ちて(4)」
>>005「死神さんは殺したくない(5)」
Episode02「夏に溺れた」
>>006「砂浜に裸足(6) 」
>>007「本音とキス(7)」
>>008「赤い花火(8)」
Episode03「零れ落ちた秋」
>>009「女騎士のお話(9) 」
>>010「王様のお話(10)」
>>013「王様と女騎士のお話(11)」
Episode04「冬に霜華」
>>014「忘れられた木(12)」
>>015「雪は夢の形(13)」
>>018「雪の幽霊より(14)」
*
>>019「挨拶Ⅰ」
***
【 第二部 】
Episode01「見えない明日の探し方」
Episode02「昨日の天気は忘れておくれ」
- 忘れられた木(12) ( No.14 )
- 日時: 2017/01/31 15:31
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
「今日はね、とても面白い本を読んだの」
くすくすと笑いながら、少女は足をばたつかせる。りぼんのついた赤い靴がゆらゆらと揺れ、コンクリートの地面とごつんとぶつかった。
どんな本を読んだの、尋ねてみるが、少女はただくすくすと笑うだけで何も教えてはくれなかった。
やがて、少女はブランコから降りて、俺のもとにやってきた。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてるよ。聞いてる」
繰り返し俺は答えた。少女はそれでもぷくっと頬をふくらませて不満そうな顔をする。
木陰で休んでいる俺のもとにやってきて、少女は隣に座った。
「緑の絨毯ってきれいだね」
「四つ葉のクローバーを踏み潰しているかもしれないのに、それでも綺麗か?」
「その表現の仕方が間違ってるんだよ。草花の中で四つ葉は珍しいから偉いっていうの? もしかしたら三つ葉のほうが珍しい地域があるかもしれないじゃない」
「そんなのあるかよ。幻想だ」
「想像って大事だと思うんだ」
風が吹いて、木の葉っぱがざわっと音を立てて揺れた。
緑色の葉っぱが雨のようにぱらぱら降ってくる。少女の頭にもこつんとぶつかり、そして彼女の手のひらに着地した。
「たとえばこの葉っぱもさ、もしかしたら君の元に落ちたかったのかもしれない。それでも風の導きによって私のもとに落っこちた。運命だよ」
「そんな都合のいい運命なんてないよ。ただ風によって落ちた葉っぱに過ぎない」
「事実はそれでも、人間はいろいろ考えることができるのに。やっぱり君はもったいない」
「葉っぱのフレディでもあるだろ、葉っぱは土にかえって栄養になるんだよ。次の命を作るんだ。ただそれだけ」
「絵本のお話ができるなら、もっと想像力のある人間に育ってほしかったな」
少女はぽつりとつぶやいて、またくすくすと笑った。
「私は運命を信じたいな」
少女はアクリル絵の具で塗りつぶされたような青色の空を見ながら、ゆっくりと目を閉じた。
俺は少女の隣で、ただ葉っぱがすべて落ちるのを待っている。
- 雪は夢の形(13) ( No.15 )
- 日時: 2017/02/03 16:57
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: 3A3ixHoS)
この世の中で一番大事なものってなんだろう。
俺は永遠に見つかることのない答えを探している。
「人間はなくしたものを探すために生きてるの。何か大事なものを失って、そして人間は生まれてくる」
あの人の言葉が何度も何度も繰り返しリピートされる。
夢の中に出てくる。少し口角をあげて、ふふっと声を出して笑う。あの人が誰なのかはわからない。ただ、俺に大事なことを教えてくれる。
本当はそれが大事なのかもわからない。ただの人の暇つぶしなのかもしれない。それでも俺はあの人の言葉を思い出して言葉を連ねる。
「大事なものを失って、そして生まれて……」
じゃあ、いったい俺は何を失って生まれてきたのだろう。
何を探すために生きているのだろう。
夢を見る。美しい女が俺に意味のよくわからないことを語りかけてくる、そんな夢を見る。
いつもきまって同じ場所。
噴水のある公園。見覚えはない。どこなのか見当もつかない場所にあの人と二人きりでおしゃべりをする。
「もう、お別れかもしれないわ」
あるとき女の人はにいつものように微笑んで言った。
いつもと違うのは彼女の言動と景色だった。
噴水のある公園。それは同じだった。それでも違った。
「……ゆ、き」
あの人と出会ってから初めて雪が降った。
彼女はただ笑うだけ。
何も言わずにただ笑うだけ。
「かもしれないってなんだか適当だね」
「そうね。わたしは案外適当な性格なのよ。人間適当が一番っていうじゃない」
「だから君は死んだんじゃないのかな」
「あら、あなたは私が幽霊だって言いたいのね」
あの人はふぅと軽く息をついた。ため息に似たようなその息は白い。
そうだ。ここは夢のはずなのに、どうしてこんなに寒いのだろう。
「失って人間は生まれてくるってわたしは言ったでしょう」
「言った。けど俺には意味が分からない。ねぇ、どういうことなの」
あの人に手を伸ばした。けれど触れられない。
やっぱり幽霊なのだろうか。感じる冷たさは冬の証拠。
「わたしは探している、あなたが生きるための方法を。そして、あなたは失った。わたしを失った」
やっぱりあの人は意味の分からないことばかり言う。
俺が生きるための方法? 俺は生きている。
寒さを感じているし、今だって夢を見ている。ただそれだけだ。
「おはよう。あなたはわたしを失って、生きることを見つけるんだよ」
微笑む彼女の表情は、いつもと少しだけ違った。
雪のせいであれ。どうか、雪のせいであってくれ。
彼女の瞳から零れ落ちる涙よ、どうか夢であってくれ。
- Re: 日陰の僕らは絶縁体 ( No.16 )
- 日時: 2017/02/04 01:10
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
こんばんは。夜分に失礼しますm(*_ _)m
はるたさんのお名前を見かけて、小説を読ませて頂きました!
ダークファンタジー板で執筆されている小説も、少し読ませて頂いたことがあります。
今回のこの作品、なんていうかすごいなぁ……としか言えないと言いますか……。
短い中でもストーリーがあって、こんなにも引き込まれてしまいました(*゚O゚*)←
全部読ませて頂きました!
どれもすごく素敵で、大好きなのですがその中でも私は……「死神さんは殺したくない」「赤い花火」「忘れられた木」が印象に残っています!!
……これだけじゃなくて、もっとあるのですが絞りに絞ってこの3作です←
なんていうか、私の乏しいにも程がある語彙力では上手く今の気持ちを伝えられないのですが本当に感動しています。
全然違うストーリーをこんなにも引き込まれて読んだのは初めてでした!!((日本語
この作品大好きです(o´艸`)
更新頑張ってください! 応援していますm(*_ _)m
急に押しかけてすみませんでした(((;°▽°))
byてるてる522
- Re: 日陰の僕らは絶縁体 ( No.17 )
- 日時: 2017/02/20 16:14
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
■てるてる522 様
初めまして、はるたと申します。どうぞよしなに。
こちらもお名前をよく拝見させていただいています。
引き込まれる、というお言葉、本当にうれしいです。
もともと短編が得意ではなかったのですが、短い話でも何かを感じ取っていただける作品を書けるようになりたいという目標の下、この短編集を作りました。
挙げていただいた作品も殆どが「死」に間接的にかかわっている作品です。そもそもこの短編自体そういうジャンルが多いのです(照
死神さんは主人公をいまどきの女子高生という認識で書いたので、こんな気性の激しい女子高生じゃなかった私にとっては「これでいいのか」という不安ばかりでした。結局、死にたいといえる人間は本当に死にたいわけじゃないんだよ、ってお話です。受け取り方は自由です。
赤い花火はもろに「死」に直結してます。死んでしまう女の子のお話が書きたかったという本音だけ漏らしておきます←
忘れられた木、は個人的に雰囲気が好きです。殆どが会話でできている作品ですので、描写どうすんだお前、と自問自答を繰り返していました笑
いえいえ、感想をいただけて大変うれしかったです。
最近はコメントをもらえるのも滅多にないので、訪問していただけて、そのうえ丁寧に感想をいただけて本当にありがたいです。
またてるてる522さんの作品にも感想を置きに行きたいなと思っています。
コメント、ありがとうございました。
- 雪の幽霊より(14) ( No.18 )
- 日時: 2017/02/22 16:38
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
「世界の殻だけ僕は愛したい」
彼はいつもブランコに座って、私にそう言った。
意味の分からない言葉に、私はいつも「どうして」と聞き返すけれど、一度も彼が答えてくれたことはない。
世界の殻とはなんだろう。世界は卵じゃないから、殻もないし、中身もないはずだ。彼には黄身や白身がちゃんと見えているのだろうか。
今日も彼は私の隣でブランコをこいでいる。
冷たい風で、鼻のあたまを赤く染めて、彼はくしゅんとくしゃみした。
「どうしたんですか、寒いんですか」
「うん。君と初めて会った日よりはだいぶ冷えるようになったね」
初めて会ったのは、春だったから。歪めた顔から白い息を吐き出す。
彼は視点はいつも空だった。今日も分厚い雲の冬空を見つめている。
「私、明日からはここには来ません」
告白をしようと思った。もう時間がなかったから。
けれど、私はわかっていた。彼の答えも。彼の気持ちも。
「そうか。さみしいね」
「……それ、それだけですか」
「うん。それだけだよ。君と話していてとても楽しかった。君と会えなくなるのはとてもさみしい。……それだけ」
降ってきた雪は、お別れの合図だったのかもしれない。
頬に冷たい何かが触れた気がした。雪だ。涙じゃない、これは雪だ。
新しい場所で、これから頑張るから。
あなたを忘れて、これからもがんばっていくから。
伝え終わると、私はなんだかほっとしたんだろう。涙がどばっと滝のように流れてきた。辛いわけでも寂しいわけでもない。
彼は笑って言った。「またね」と。
「はい、また会いましょうね」
雪が落ちる。私の恋が終わりを告げた。
さようなら、二度と会わないから、だから私は「また」と守れない約束をする。
生きたいな。彼の隣で生きていきたいな。
冷たいと感じない雪も、触れられない彼の手も。
生きたい。彼の幸せを見届けたい。かなわない願いを心に秘めて、今日も私は幽霊として彼を見守り続けるんだ。