コメディ・ライト小説(新)
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- 日陰の僕らは絶縁体
- 日時: 2017/04/11 15:17
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
そして、君はいなくなった。
青く落ちて消えて、そして永遠に残る、どうしようもない嘘。
***
【 第1部 】
Episode01「音が消えた春」
>>001「汚れた群青(1)」
>>002「死ななかった猫(2)」
>>003「咲かない桜(3)」
>>004「ソファーから落ちて(4)」
>>005「死神さんは殺したくない(5)」
Episode02「夏に溺れた」
>>006「砂浜に裸足(6) 」
>>007「本音とキス(7)」
>>008「赤い花火(8)」
Episode03「零れ落ちた秋」
>>009「女騎士のお話(9) 」
>>010「王様のお話(10)」
>>013「王様と女騎士のお話(11)」
Episode04「冬に霜華」
>>014「忘れられた木(12)」
>>015「雪は夢の形(13)」
>>018「雪の幽霊より(14)」
*
>>019「挨拶Ⅰ」
***
【 第二部 】
Episode01「見えない明日の探し方」
Episode02「昨日の天気は忘れておくれ」
- ソファーから落ちて(4) ( No.4 )
- 日時: 2017/01/08 09:53
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: F69kHN5O)
「俺のこと、ちゃんと好きなのかなって、そう、考えたりしない?」
「考えたりしない」
私の部屋のソファー、隣に一人の幼馴染み。
スマホを手に持ってずっと画面とにらめっこ。
「でもさ、こうメールが来ないだけで不安になったりとか」
「しない」
私の方を見ずに、ずっとスマホの中の恋人を見る彼に私は不満を隠せない。
恋人ができたくせに、まだ私の部屋にくるこいつの神経も分かんないし、私もまだこんな無神経な男のことが好きなんだと、あぁ後悔ばっかだ。
「お前も好きな人いるんだから、そういうことくらい考えろよー」
幼馴染みは机の上にあったお菓子の籠から飴玉をとって口の中にぽいっと放り入れた。
何も知らない幼馴染に、抱く感情を気づかれてはいけない。
ころころと口の中で転がす飴は、何味なんだろう。
考えちゃう自分が怖かった。
私のことを好きになって、とか、そんなこと言えない。
略奪なんてできない。
私は「悪者」になる覚悟がまだできないのだ。
「好きな人には、別に好きになってもらわなくてもいいんだ」
幼馴染は私の言葉にきょとんとした表情を見せた。
「どうして?」
やっぱり何にも知らない、何にも気づいてない、
そのままでいてほしいから、だから私は本当のことを言えないんだ。
このままでいたい。このままで、
この関係を壊したくなくて、私はまた何も言えなくなる。
クッションをぎゅっと抱きしめて、俯いて、そっと彼の目を見た。
真剣な瞳。きっと、自分が幸せだから私にも幸せになってもらいたいとか、そんなこと考えちゃってるんだろうな。馬鹿だ、ほんとう。
「きっと、報われない恋だから」
言葉にしたら、何だか現実味が増してきた。
やっぱり、言霊って本当なのかもしれない。
私は、この男の隣にはいられない。
ソファーに一緒に座るだけ、それだけで精一杯なのだ。
- 死神さんは殺したくない(5) ( No.5 )
- 日時: 2017/01/07 23:46
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: F69kHN5O)
「死んじゃうの、君」
屋上で、出会ったのは死神でした。
大好きだった人に振られて、何だか生きている意味も分からなくなって、それくらい夢中に恋をしてた自分がくだらなくて、馬鹿らしくて。
振られた理由が「妹にしか見えない」なんてそんなお決まりの台詞、解せん。
死にたい。くっそ死にたい。
学校の屋上に忍び込んで、裸足になって下を見てみた。
人なんて凄く小さくて、まるで点のよううだ。
「宇宙のチリとなりたい」
ぼそっと呟いた言葉に、何故か口元が緩んだ。
死ぬ覚悟もないくせに、ばーか。自問自答を繰り返し、私は底なし沼にちていく。
「死んじゃうの、君」
不意に聞こえた声、それは男の声だった。
よく見ると、私の視界の反対側、屋上の隅っこでクッション持参で寝転んでいる男子がいた。
「だ、だれ」
驚いて足を滑らして、べしゃんと私は前に転んでしまった。
視界にとどまったその男はニコリと微笑んで答える。
――僕は、死神だよ
は、冗談は顔だけにしろよボケ。
と、言いたかったが死神と名乗った男はいかにもモテそうなイケメンだったために、私の口は動かなかった。
ゆっくりと起き上った死神は、私のもとにやって来て「死にたいの?」と笑顔で聞いてきた。「そんなわけない」と答えると今度は腹を抱えて笑い出す。
「で、どうしたの?」
「好きな人に振られた」
「辛いの?」
「辛いよ」
死神は死神のくせに優しかった。
新しい人なんてすぐできるよ、その人には見る目がなかったんだよ、
そんなお決まりテンプレートの励ましをくれる。
最初はムカついたけど、それが優しさに感じるんだから、私もそうとうしんどいんだ。
「じゃあ、僕と付き合う?」
会話中の台詞にはそんな冗談が混じっていた。
うん、って言えばこの気持ち忘れられるのかな。
心の中の大事なものを閉じ込める為の錘がストンと音を立てて落ちた。
「私、まだ死にたくないや」
死神はくしゃくしゃの顔で笑った。
「僕もまだ、君を殺したくないよ」
- 砂浜に裸足(6) ( No.6 )
- 日時: 2017/01/08 11:59
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: F69kHN5O)
「あちい」
誰かが呟くように言ったその言葉が、風に乗って私の耳に届いた。
海の家の中からそっと外の様子を窺ってみた。
見えたのは砂浜に裸足の男。じっと空を見上げている。
こんがり焼けた小麦の肌は健康的で、手に持っているのはサーフボード。
ここらではサーフィンをする人も多いけれど、見たことのない男だった。
「焼きそばおかわりー」
客からの注文に私はすぐに彼から目を逸らした。
新しく来た客に水とおしぼりを渡して、忙しくキッチンと客席を行き来する。
「お姉さん、ちょっと」
手招きされて、すぐに客のもとに向かった。
小麦色の肌にすぐにはっとする。さっきの男だと思った。
水を一気飲みして彼は「水のお替りある?」と白い歯を見せて言った。
私はすぐに新しい水を持ってくる。少し汗をかいた男はまた白い歯を見せて笑って「ありがとう」と受け取った。
次の日も、その男は波に乗りに来ていた。
サーフィンを楽しんだあとに、海の家で一休みする。
それが一週間続いて、私はその男と自然と話すような関係になっていた。
「でさ、きみ名前は?」
男は一週間を過ぎたある日、ナンパのように軽く私の名前を聞いてきた。
「しがない、海の家のバイトです」
私ははにかみながら答えた。
不満げな表情を見せながらも、また男は笑って私の頭をくしゃっと撫でた。
男は毎年この海にきているらしい。
隣の県のCMでも流れる有名な会社に勤めていて、毎日深夜まで働いている社畜だと自分のことを話した。
男は自分のことをたくさん話してくれたけれど、あれから私には何も質問してこなくなった。
「じゃあ、さようなら」
いつものように、男は私の髪をぐしゃぐしゃにして帰っていった。
次の日、男は来なかった。それから、彼が姿を現すことはなかった。
八月の最後の日。もう会えないんだなと思と少しだけ寂しいと感じて、私はもう二度と会うことのない初恋の人を心の中に封印した。
- 本音とキス(7) ( No.7 )
- 日時: 2017/01/08 12:20
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: F69kHN5O)
「キスしたい」
冷房ガンガンの部屋で、ぽつりとあいつが漏らした本音。
聞き逃すことはなかったが、あえて聞こえなかったフリをした。
雑誌をぺらぺら捲る私に、寝そべりながら漫画を読む彼。
面白いの? と尋ねると「面白いよ」と返され、
面白いの? と聞かれると「面白いよ」としか返せない。
夏のはずなのに寒いのはかれがあいつが暑がりのせいだ。
「なぁー、キスしようぜー」
今度は大声で彼は言った。
不満げな表情は、ここ二週間、ずっとこんな感じでお互い別々のことを楽しんでいるせいなのだろうか。
夏なのだから花火大会とかお祭りとか、外に出かけていれば彼の望む「恋人ごっこ」が出来るって、ちゃんと分かってる。
「いやだ」
私は「夏! 彼氏とデート 水着特集」というページをちらりと見て、何とも大胆なビキニに正直引きながら答えた。
「何で、俺のこと嫌い?」
犬のように、純朴に目を潤ませて尋ねてくる彼に私は深いため息をついた。
彼の白い肌は今年の夏私が外にあまり出たくないというのに付き合ってくれた証だ。
わがままな彼女に付き合えるくらいなら、もっといい子を見つければいいのに。
「好きだよ」
ぽろっとこぼれた本音に、私もびっくり。彼もびっくり。
近づいた顔、見つめ合う瞳。
唇はゆっくり触れた。
「お前が俺のこと好きとか、嘘っぽい」
私の唇を軽く舐めて、彼は私の頭にぽんと手を置いた。
私はギュッと彼を抱きしめて、自分の今の表情を気づかれないように隠した。
キス一つで真っ赤になる自分が嫌いだ。
自分が思っているより私はこいつのことが好きだと、まだ気づきたくない。
「今日、暑くない?」
冷え切った彼の手が私の頬に触れた。
「うん、暑いね」
また、私たちはゆっくり唇を重ねた。
- 赤い花火(8) ( No.8 )
- 日時: 2017/01/23 16:17
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
――明日、花火を見に行きたい。
いっこ、にーこ、さんこ、夜空の星を一つずつ数えながら、ぼそりと彼女はつぶやいた。
彼女の瞳には星が映り込んでいて、まるで宇宙の瞳だと僕は思った。
「花火、見たことあるの?」
「あるよ。夜空に咲く大きなお花のことでしょう」
比喩で表現したのか、彼女は笑って答えた。
長く伸びた髪を右耳にかけて僕の方を見る。
「とってもきれいだと思った、だからまた見に行きたいの」
「見に行くのは無理だよ」
僕がそう答えると、彼女は「そうだね」と軽く口元を緩めた。
眉が下がるのを見て、僕は自分の発言を悔いた。
言っていい真実と、言っちゃダメな真実があるのだと。
僕はちゃんとわかっているのに。でも、わかっていてもできないことがいっぱいある。
「昨日は赤を見た」
彼女がまるで機械のように言葉を紡ぐ。
赤は血の色。きっと昨日、彼女は血を吐いたのだと、僕はそう思った。
「今日も赤を見た」
彼女は続ける。また今日も吐血しちゃったんだね。
僕は何も言わず、彼女の言葉にうなづいた。
「明日も、赤を見るのかな」
明日も赤しか見えないのかな。赤ばっかの人生なのかな。
彼女の瞳にはいつしか涙が浮かんでいた。
ぽつりぽつりと落としていく彼女の欠片はとても小さくて、僕が掌で受け取ろうとしても隙間に入り込んで地面へ帰ってしまう。
ふいに、五時を告げるチャイムが鳴った。
聞き覚えのある夕焼け小焼けのあの音色。なめらかに流れていく音楽につられて、彼女は口ずさんでいた。
「ゆう、やけこやけで、ひが、くれ、……」
こらえていた涙がまたぼろぼろと彼女の瞳から零れて落ちる。
僕がハンカチを渡すと、彼女はごしごしと自分の顔を拭いた。
「ねぇ、明日も私と話してくれる」
彼女は僕の手をつかんでそういった。
明日には死ぬから、だから。
看取られたい。彼女は誰かに看取られたい。
だから僕は今日も彼女の願いを叶えるためにここにいる。
彼女の死を見るために、彼女が息をしなくなる日まで、ここにいる。