コメディ・ライト小説(新)
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- 日陰の僕らは絶縁体
- 日時: 2017/04/11 15:17
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
そして、君はいなくなった。
青く落ちて消えて、そして永遠に残る、どうしようもない嘘。
***
【 第1部 】
Episode01「音が消えた春」
>>001「汚れた群青(1)」
>>002「死ななかった猫(2)」
>>003「咲かない桜(3)」
>>004「ソファーから落ちて(4)」
>>005「死神さんは殺したくない(5)」
Episode02「夏に溺れた」
>>006「砂浜に裸足(6) 」
>>007「本音とキス(7)」
>>008「赤い花火(8)」
Episode03「零れ落ちた秋」
>>009「女騎士のお話(9) 」
>>010「王様のお話(10)」
>>013「王様と女騎士のお話(11)」
Episode04「冬に霜華」
>>014「忘れられた木(12)」
>>015「雪は夢の形(13)」
>>018「雪の幽霊より(14)」
*
>>019「挨拶Ⅰ」
***
【 第二部 】
Episode01「見えない明日の探し方」
Episode02「昨日の天気は忘れておくれ」
- 女騎士のお話(9) ( No.9 )
- 日時: 2017/01/23 16:17
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
ある日、王様が言った。
それは間違いだったのだと、今ならわかる。
――隣国と戦争をする
彼の気持ちなんてわからない。わからなくてもいいのだ。
彼が、この国の王が「戦争」を、「勝利」を所望している。私たちは、彼にそれを与えなければいけないのだ。
砂嵐が吹き荒れて、私はごくりと唾をのんだ。喉にとおるその唾さえも気持ち悪く感じた。傷だらけの足は、思うとおりに動いてはくれない。私はそれでも王様のために、国のために戦った。
死んだ。みんな死んでしまった。
あっけなく、敵の矢にあたった人や、敵陣に攻め込んで切り殺された人。死に方は色々だったけれど、みんな死んでしまった。
けれど、勝利を手に入れた。沢山の、うん千万の屍を越えて、私たちの国は勝利した。
戦争に出ていた人間は、私と王様以外死んでしまった。
「王様、王様。どうか、お願いです。私を殺してください」
勝利をつかんだのはお前のおかげだと、帰ってきた私たちを国民は祝福した。
私の心には、ただぽっかりと大きな穴が開いているだけ。
ぐちゃぐちゃになった死体を、黒く濁った血液も、目を瞑ればすぐに映像となって浮かび上がってくる。生々しいそれを、私と王様だけが覚えている。
「それは無理だ。わたしには君を殺せない」
王様は私にそう告げた。
「私は罪人です。沢山の人の死を見ました。助けることだってできた人たちも、手を伸ばしたら救えた命もあったのです。私は彼らを見殺しにしました。英雄として民に祝福されるようなそんな人間ではないのです。どうか、私を殺してください」
王様はただ私をじっと見つめて、深いため息をついた。
呆れられたのだろうか。王様の表情ばかり伺って、私は息することも忘れていた。
私はただの騎士だった。弱い弱い騎士だった。
だれも救えない弱い弱い騎士だった。
「君には、生きてほしかったな」
王様はそうぽつりと声を漏らして、ゆっくりと瞼を閉じた。
それからゆっくりと椅子から降り、私のほうに歩いてきた。
王様が手を伸ばしてきたので、私は驚いて目を瞑る。
暖かな掌が、私の頭を撫でた。驚いて私は目を開けるけれど、王様の顔は影になって見えなかった。
「君には、幸せになってほしかった」
王様は、私と歳も変わらない王様は、そうぽつりとまた声を漏らして部屋から出て行った。
- 王様のお話(10) ( No.10 )
- 日時: 2017/01/24 17:16
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
少女はにこやかに笑って、いつも人々の手伝いをしていた。
毎朝にわとりから卵をもらい、牛の乳を搾り、花に水やりをしていた。近所の子供たちに絵本を読んであげたり、一緒に鬼ごっこをしていたりした。
俺はそっと陰からそれを見ていた。
少女はやがて騎士になった。
男にも勝るほど強くなり、少女は俺の前にやってきた。
「本日より、あなた様にお仕えいたします」
あのときみたいな笑顔は見せてはくれなかった。
呼吸をする。浅く呼吸をする、そしてゆっくりと前を見た。
ぴらりと落ちたその書類にはこれから起こることのすべてが書かれてある。
戦争が始まる。
たくさんの人間が死ぬというのに、戦争が始めるという。
戦争が始まれば武器がたくさん売れ、経済状況が潤うだとか、そんな馬鹿らしい理由で。たくさんの人間が死ぬ選択肢を俺は選ばされた。
生き残ったのは、俺と一人の女騎士だけだった。
あの時の少女だった。
彼女は民衆から祝福されてもただ泣くだけ。「私はだれも救えなかった」そう、細い声でただ泣くだけ。
自分の愚かさを嘆く少女には、あの時の面影が一つもなかった。
「私を殺してください」
少女の唇はそう動いた。
俺と同じ年の彼女は、ただ懺悔を繰り返す。
自分を追いつめて、頭の中で自分を何度殺したのだろう。
二人っきりの空間は、音もせず、ただ彼女の涙が地面に落ちた。
「そんな結末、俺は望んでなかったのに」
少女が出て行ってから俺はまた椅子に座りなおす。窓から見えた群青の空を見つめながらふぅとため息をつく。
街では祭りが始まっているのだろう。戦争の勝利を祝って、民衆は舞ったりしているのだろうか。勝利の女神とまで謳われた少女の望みとは正反対に、街は喜びに更けていく。
「望みを何でもかなえてやろう」
ぽつりと考えていた言葉が漏れた。
きっと今の少女は「自分を殺してくれ」というだろう。だから言葉にできなかった。
俺は椅子から立ち上がり、金庫を開けてあるだけの財宝を手に外へ出る。
山の中まで「あの人」に会いに、城を抜け出した。
- Re: 日陰の僕らは絶縁体 ( No.11 )
- 日時: 2017/01/24 23:57
- 名前: いろはうた (ID: b4ZHknAo)
はるちゃん!!
お久しぶりですいろはうたです!!
なかなかお姿をお見掛けしないと思ったら、
新しいほうのコメライにいたのですね!!
いろはうたは、いまだに古いほうのコメライがメインなので
寂しいなあと一人でいました笑
1コメをとれて光栄です!!
そして、そして、でました。
短編ものですね!!!!!!!!!!!!
これこそいろはうたが最近超ほしかった栄養です!!!!!笑
ひとつひとつの物語が繊細な言葉で描かれていて、
でもくどくなくてすっきりと読めるところがさすがだなの一言に尽きます。
もう、さすが。
尊敬の念しかない。(;ω;)
更新頑張ってください!
- Re: 日陰の僕らは絶縁体 ( No.12 )
- 日時: 2017/01/25 16:16
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
■いろはうたさん
いろはちゃあああああああああああああああああん(絶叫
おひざしぶりでずううううううううううううううう(号泣
久しぶりのいろはちゃんにおかしいくらいのハイテンションでお送りしています。はるたです。
気づいたのが遅かったのですが、アザミゴトのほうでもコメントありがとうございました。しばらく更新に悩んでいたので、返信できていませんでした。本当にごめんなさい(土下座
そうなんです、最近はコメライの新しい方によく出没しているのです。シリダクで書いていた作品が完結しましたので、更新がしやすい短編をちょこちょこ書こうかと……。あ、多作品が完結しないのでそっと目をそらす目的がありますちょこっとだけ()
勿論いろはちゃんの作品も読んでおりますよ!!!今度コメントに行かせていただきますね。それと、小説大会での入賞もおめでとうございます、やっぱりいろはちゃんは偉大だなぁと毎年のように実感しています(*^^)v
こちらこそ、いろはちゃんに一コメをとっていただけて光栄です!
うれしいよ!!!
はい、ちょこちょこ書きたいなと思っていたお話の欠片を小説にしてみました。
携帯小説風な、読みやすい小説を目指して書いているので、そういっていただけてうれしいです。ありがとう。
私もいろはちゃんには尊敬の念しか抱いておりませんぞ(ニヤリ
コメントありがとうございました。
いろはちゃんの小説の更新も楽しみにしています。
- 王様と女騎士のお話(11) ( No.13 )
- 日時: 2017/01/25 16:41
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
森の奥深くに入る。木々が茂るその場所は、深い緑の森だった。
足場が悪く、少しでも踏み外せば、雪崩のように下に落っこちる。
踏ん張るようにして、俺はゆっくりと一歩ずつ前に進んだ。
「おや、こんなところにあなた様のようなひとが来てもよいのかしらね」
やっとたどり着いたその場所には、たった一つだけ家が建っていた。
カラフルな家だ。屋根は赤と緑のクリスマスカラーで、煙突からはもくもくと煙が出ている。冬で火を起こしているのなら分かったが、まだ秋の初めだ。しかも汗をかくぐらいの暑さなのに。
家の前には一人の少女がにたりと微笑んで立っていた。
「なんで、煙が出ている?」
「私の質問をちゃんと聞いた? ここに来るような人間じゃないでしょうに、あなた様は」
「あぁ、すまない。少し、あなたにお願いがあって」
「私にお願いなんて……あなた様ほどの人間が私にお願いなんて……」
くすくすと少女は笑った。
黒いマントにとんがり帽子。一見、アニメなどで見る魔女っ子のような姿の少女はくるりと一回転してにこりとまた俺に微笑みかけた。
「何のお願いかしら。場合によっては、あなたもあれになるかもしれない」
魔女っ子はそういって煙突のほうを指差した。俺の目に映るのはもくもくと空と一体化する煙。最初は意味が分からなかった。
けれど、すぐに気付く。この季節に火を起こす。
何かを焼いている。
あぁ、人間を焼いているんだ。
俺は少しだけ声ばった体をさすって、魔女っ子に言った。
「入れ替わりの薬がほしい」
「入れ替わり? あなた様のような人間が立場を捨てるというの?」
「あぁ、ある人間と入れ替わりたい。きみにしか頼めない」
そういって俺は手にあるだけの金貨と財宝を魔女っ子渡した。
彼女は不思議そうにそれを見た後、ふっと鼻で笑てこちらの表情を伺った。
馬鹿な人間、そう思われているのだろう。彼女の瞳には光はなかった。
「あなた様の結末が良いものでありますように」
魔女っ子はそういってあのカラフルな家の中から小さな瓶を取ってきて俺に渡した。
受け取った俺は「ありがとう」とお礼を言ってその場から離れる。
彼女の言葉には抑揚はなく、多分俺の結末を分かっていたからこそ、彼女はそう言ったのだろうなと山を下りながら一人で笑った。
俺はその日、城に帰って女騎士のあの少女を呼び出した。
彼女はまだ泣いている。自分が見殺しにしたのだと、わんわんと泣いている。
俺は彼女に薬の入った水を渡した。
彼女はごくりとそれを呑む。俺も彼女と同じように、薬を水に溶かして呑んだ。
ゆっくりと俺と少女は眠りについた。
先に目覚めたのは俺だった。小さくなった体は、女のものだった。
目の前には眠り続ける俺がいる。少女だ、俺の姿をした少女。
少女の姿をした俺は、腰にしてあった剣を俺の姿をした少女に突き立てた。
ぐしゃり、内臓のつぶれた音が聞こえた。
口から血を吐いているのは俺であって、俺ではなかった。
「罪は、王を殺したこと」
女の声で、俺はつぶやく。
「そして少女は死にました」
血を吐いて、内臓をつぶされて、無残な死に方をした俺を見ながら、俺は俺の血がへばりついた剣をさやに戻す。
そして、すぐにその部屋を出た。
女騎士の願いをかなえた代わりに、すべてが消えてなくなった。
王様は死に、女騎士も死んだ。
結局誰も、救われなかった。