コメディ・ライト小説(新)

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Banka
日時: 2019/08/31 01:15
名前: をうさま ◆qEUaErayeY (ID: D28jR39t)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode=view&no=3918

>>1-3 >>6-22 >>26-38
2018冬大会 銅賞

君の声を思い出してから夏は始まる。

Re: Banka ( No.28 )
日時: 2019/08/01 13:56
名前: をうさま ◆qEUaErayeY (ID: /AHlo6jR)

「大会、今から楽しみです」
 隣で彼女が言い出したのとほぼ同時ぐらいに、公園に小学生ぐらいの子供達が入ってくる。彼らは一様に走っていて、帽子を被った先頭の子がサッカーボールを蹴っていた。
「楽しみ?」僕はその光景を見ながら、ふと聞き返す。というより、反芻してみる。いつまでもその言葉が引っかかった。
 子供達は次々と公園に入ってきて、最終的には十人以上集まっていた。そんな数の子供達が二チームに分かれてサッカーなんてするものだから、今まで僕らしかいなかったこの空間が急に活気に包まれたようで、何となく少し戸惑う。
 その光景を彼女もやはり見ていた。彼女は、嬉しいような、ちょっとだけ切ないような、微妙な面持ちのまま、目線を下に逸らした。
「先輩みたいな人には楽しみなんて感情湧かないでしょうけど、私なんて運で全国大会に行けたような物なので、優勝なんて狙ってませんし、何というか記念受験みたいな感じです」
 そう言い、また彼女は向こうでサッカーをする子供達へと目線を向けた。僕はとてもそれを本心からの言葉には思えなかったが、わざわざ聞き返すのも無粋だと思った。そして何となく向こうの夕焼けをぼんやり眺めようとしたが、幾つも動き合うあの子供達がどうしても視界に入ってきて鬱陶しくすぐに目線を戻す。彼女のほうはそのまま何秒間もあのくだらないサッカーを見続けていた。

「大会が楽しみなんて言う人初めて見たわ」
 言うと、彼女は笑いながらこちらを向くので、僕と目が合う。そしてそのとき初めて、無意識にずっと彼女を目で追っていたことに気づいた。
「確かに。私的にはお祭りに行くみたいなノリです」
 ははは、と笑う彼女につられ、僕も少し口元が緩む。どこからか吹いてきた風が僕らの間を抜ける。何というか、心地よい。いつまででもここで彼女と話していたい。
 しかし、そんな彼女の笑顔が止まったのは、突然だった。
「危ない」
 それは彼女のほうに向かっていた。僕は一心不乱に手を伸ばす。
 バン、とすぐに音がする。どうやら弾けたようで、反射的に顔の前に手をやっている彼女は無事そうだった。僕のほうは、サッカーボールが指に当たった感触の後に来た、刺すような痛みに違和感を覚えていた。彼女は目を丸くして、僕のほうを見つめる。
「すいません……。だ、大丈夫ですか?」
 指を見つめたままの僕に、彼女は横で心配そうに言う。まだ彼女は何が起きたのかいまいち飲み込めていないようだった。指は、見た目からは判断がつかないが、痛い。我慢できないほどではないが、このままは何となく気持ち悪い。
「すいませーん!」
 何人かの子供達が、ブランコの前の柵まで来ていた。ギリギリ足が届く範囲にボールが転がっていたので蹴ってパスをする。ボール飛んだなら何か叫べよ、と言おうとしたが、やめておいた。この指のことも、例えば体育の授業で怪我したのなら迷わず申し出たのだが、相手が相手なだけに言いづらい。見ると、その子供達はとっくに向こうに戻っていてサッカーの続きを始めていた。

「突き指か何かですか?」
「多分……」
 ダサすぎないか、と自分で突っ込んでみる。突然後輩のところに飛んできたサッカーボールを先輩が格好よく手で弾く! というところまでは良かったのだが、如何せんその弾き方が悪いせいで右の人差し指をユビしてしまっているという状況は、格好悪すぎて正直目も当てられない。
「なんかすいません……、すぐに病院行きましょう!」
「ああ、後で行くわ。多分そんなに急いで治療するほどのものでもないし」
 彼女は僕の怪我した指を大事そうに見たり恐る恐る触ったりしている。気を揉んでいるようなのが意外だった。
 おもむろにブランコを立ち上がった彼女は、歩み寄った近くのくず箱の前でまたミルクティーを一口飲み、捨てる。どうやらまだ持っていたらしい。ブランコに座っているとき、僕と反対側の手に持っていたようで気づかなかった。
 子供達は性懲りもなくまだサッカーをしている。タッチラインやゴールラインなど最低限の線さえ用いていない。簡易ゴールみたいなものはあるが、片方は木と木の間で、もう片方はベンチ自体に何となく当たったらゴール、という、そもそも得点になるシュートの基準が違うという致命的な欠陥を抱えていた。加えて、この公園の半分近くのスペースを占拠している。確かに、遊具のほとんどないだだっ広い公園は球技をするには最適だろう。

Re: Banka ( No.29 )
日時: 2019/08/05 19:25
名前: をうさま ◆qEUaErayeY (ID: D28jR39t)

 去り際の公園は、まるで別の場所のようだった。僕達が来たときと明らかに違っていたのは確かだったが、それが何なのか分からないまま僕は茅野に次いで公園を出た。
 その間なんとなく僕達は話さなかった。後ろで蝉のように騒ぐ子供達の声が、僕達の間の無言にさらに拍車を掛けていたのと同時に、陽と陰のコントラストを明確に形作っていた。
 彼女と何か話した訳ではないが、僕達は恐らく駅に向かっている。ここは高校と駅の中間ぐらいの場所で、ここから駅まではほど近く、学校から向かうより早く着く。
「先輩、今度私に将棋指導してくれませんか?」
「は?」足が止まってしまう。気づいた彼女も僕の少し前で立ち止まる。勿論それは意外すぎる発言だった。
「どうした? 急に」
 つい数週間前まで言っていたことと全く違うではないか、と思わず笑ってしまう。強くなった私を見てほしいから今はまだいい、との言葉を僕は確かに聞いた。事実、彼女の利用している将棋対局サイトによると、彼女は毎日平均十局近くネットで対戦しているらしく、もしかしたら彼女は僕を必要としていないのではと少し感じ始めてきた矢先だったので、尚更だった。

「別にいいけどさ」
 彼女が何か言いにくそうな顔をしていたので、すかさずフォローしてみる。言ってしまえば別に理由などどうだっていい。もう彼女とはしばらく指していないので、むしろ楽しみだった。
「私、もっと強くなりたいんです。もっと上に行きたいんです。……いつかは先輩に追いつきたいです」
 絶句して立ち尽くす僕の目の前まで、彼女は歩み寄る。背が低めの彼女は僕と頭一つ分差がある。というか、今や僕らの間を隔てるのはその身長差ぐらいで、異様なほど顔が近い。
 彼女はいつも、こういうときに真剣な眼差しで僕のほうを見る。時々忘れてしまいそうになるが、僕は将棋部の部長で、彼女は部員だ。なので僕は彼女の熱意に応えてやる義務があり、勿論僕もそのつもりでいるのだが、彼女のその眼差しの前ではどうも落ち着かない。何か、全てを見透かされているようだ。
「強くなりたい、か」
 なんとストレートな感情表現なのだろうと思った。そこまでひたすらなその言葉に僕は懐かしさすら覚えていた。確かに彼女にとっては今が一番将棋を楽しく思える時期だろう。やれることが増えてきて、成長も実感できているはずだ。
 ただ僕に追いつきたいとなると話が違ってくる。ここにたどり着くまでに僕が失ったものと同じくらい彼女も失うとなれば、僕はとてもそれを応援する気にはなれない。だから、ここ数ヶ月の彼女の将棋に熱中している姿は少し怖かったが、どうやらそんな僕の気持ちなどお構いなしに事態はどんどん深刻な方向に進んでいるらしかった。
 当の彼女は、未だ上目遣いで僕をじっと見つめていた。横を自転車が通る。高校生の男女がこの顔の近さで見つめ合っていると周りからはどう見られるのだろう、と少し冷静になる。
「僕の瞬きの回数でも数えてるのか?」
 茶化すように、一瞬両目を瞑ったまま少し離れてみる。
「数えてました。よく分かりましたね」
 数えてたのかよ。僕を笑う様子の彼女はゆっくりと背を向け、少し歩いた。肩に掛けているスクールバッグの香車キーホルダーが一瞬見え、揺れる。
「嘘ですよ」
「嘘かよ」
 なんだこの会話、とアホらしくなって道端の自動販売機でも観察してみる。さらっとしぼったオレンジが以前より高くなって、蓋付きになって復活していた。
 彼女は少し歩いた後、振り返って笑う。さっきユビした右の中指がチクリと痛む。

Re: Banka ( No.30 )
日時: 2019/08/08 14:05
名前: をうさま ◆qEUaErayeY (ID: /AHlo6jR)

「先輩、今日はありがとうございます。さっきも言いましたけど教室に居づらいことぐらい全然大丈夫なんで。それより将棋のほうがよっぽど大切です。今は、私には将棋しかないんです」
 前を進む彼女を追いながら聞くが、流石に背筋が凍る。もはや彼女の将棋に対する熱意は狂気的なレベルまで達しているのかもしれない。普通なら、なぜ急に将棋なのか、なんてことをずけずけと訊けただろうが、今となっては怖すぎて無理である。訊くにしても、もう遥かに手遅れだ。
 思えば、将棋部に突如現れたあの日から既に始まっていたことなのかもしれない。彼女は最初こそ何となく遠慮気味だったが、結局すぐ僕に対局を平手で挑んできたり、負けたら負けたで“リベンジする”なんて豪語してきたり、かなりアグレッシブになっていた。

 今にして思えば、初めて会った日、彼女は将棋のルールブックのようなもので駒の動きを覚えていたが、それは家からわざわざ持ってきて部室で読んでいたみたいだった。それも、まさに一読目といった感じで。今にして思えばそれは少し妙である。どうして家から持ってきたものなのに部室で初めて読むのだろうか。家で少しでも読んでおこうとかはなかったのだろうか。そのときは何も感じなかったが、今にして思えば少し不自然だ。
 妙なことは他に幾らでもありそうだった。というか彼女に関しては不明なことが多すぎて、もはやどこから手を付けていいか分からない状態にある。そしてそれは初めて会ったあの日から、今に至るまで全く変わっていない。

 駅はまだ空いていた。まだ仕事が終わるには早い時間なので、スーツ姿のサラリーマンなどは少なく、制服姿の高校生が圧倒的に多かった。
 彼女は駅中央の長い階段を少し上り、足を止める。
「あ、先輩は電車乗らないんでしたっけ」
「うん。ここから家が近いから歩いて帰る」
「……そうですか」
 じゃあまた学校で、と抑えめに手を振った彼女は、また階段を上り始めていった。そのときの微妙な表情と、どことなく物悲しそうな後ろ姿が印象的だった。僕は彼女が階段を一段一段上がっていく姿を、ただ見つめている。結局彼女は一度たりとも振り返ろうとはせず、やがて彼女が見えなくなっても未だ見つめたままの僕だけがこの場に残った。
 駅前の喧噪は止まることを知らない。よく分からない、僕は何がしたいのだろう。もはや自分で自分が分からない。
 ただ、いずれにしろ、謎が謎のままの茅野都美という人間に、僕は少しずつ惹かれていっているのかもしれない。彼女を深く知ることは、それなりの恐怖も勿論あったが、それよりも単純に彼女という人間そのものへの興味が勝っていた。



 そのとき、僕は部屋にいた。
 学校から帰ったばかりの僕は即、課題を終わらせ、そこからずっとゲーム実況の動画を見ている。以前茅野に言ったように、僕は家では将棋を指さない。一年ほど前は指していたのだが、今はもうめっきりなくなった。……というより、必要としなくなった。
 気づけばついさっきまで明るかったはずのこの部屋が真っ暗になっていて、パソコンの画面から出る光が唯一の明かりだった。今何時だろう、と気になって、間もなく八時だと気づく。
 また今日も一日を無駄にしてしまった、と自己嫌悪するが、まあ別にそこまで自己嫌悪に陥るほどのことでもないだろう、とすぐに思い至る。

「夕一、ご飯でも食べにいかない?」
「あ、うん」
 母親だった。彼女は部屋に入るなり「暗っ」とすぐに照明をつけ、ドアを開けっぱなしのまま部屋を出ていった。
 そういえば腹がめちゃくちゃ減っている。今までゲーム実況動画ばかりを食い入るように見続けていたが、それでも何時間も見ていたら流石に飽きてくる。僕はパソコンから目を離し、すぐ母を追いかけた。

Re: Banka ( No.31 )
日時: 2019/08/13 20:10
名前: をうさま ◆qEUaErayeY (ID: cfr4zh/q)

 リビングには、既に行く準備を終えていた母が待っていた。
「準備できた?」
 訊かれるが、何か喋るのも面倒くさいので、黙ったまま玄関まで歩いていく。
「そういえば、前誰か女の子来てたよね」
「あれは後輩」
 靴を履き、玄関のドアを開ける。母はまだリビングにいるが、ドアを開けっぱなしだと虫が入ってくるのですぐに出て閉める。アパートの二階から見下ろす真っ暗な景色は、いつもと変わらない。
 田んぼが近いので蛙の鳴き声がめちゃくちゃうるさいが、蝉の声と同様、すぐに慣れるところまでがセットである。
「後輩っていっても、家に連れてくるなんて普通の関係じゃないでしょ」
 いつの間にか出ていた母が家の鍵を閉めていた。確かにそう言われればそうかもしれないが、先輩後輩という関係に過ぎないのは事実である。

 階段を降りると駐車場の一番近い所に車が止まっている。乗ると、すぐに車は出発した。
「どこに行くの?」
 別に僕は何でもいいけど、と付け加える。母と二人でご飯を食べにいくことは多いが、どこに行くかは彼女のそのときの気分で選ばれることがほとんどだ。
「そうだなー、寿司でも行くか」
 彼女はそう言って、左後ろの座席の僕を一瞬見る。分かった、といつも通り返す。寿司の気分ではないが、別に何でもよかった。
 僕の位置からは、運転する彼女の顔がたまに見える。母はいつもこんな感じだ。何が起きても、いつもこんな感じで無表情で、マイペースに振る舞っている。例えそれがどんなに悲しい出来事だろうと、息子である僕の前では涙すら流さないような人だ。だから僕は、それが少しだけもどかしい。
 こういう人を、一般には強い人間というのだろう。実際には強くも何ともなく、ただそう装っているだけの悲しい人間というのを、僕は知っているのに。
 もうバレバレである。僕が気づいていないと本気で思っているのだろうか。彼女が弱い人間だと分かっているだけに、僕の前でだけそういう部分を隠そうとしている彼女を見ていると、かえって切なくなる。たった一人の息子にさえ心配をかけさせたくないなんて思う人間を、強い人間と呼べるはずがない。
 薄暗い車内で、ふと、あの日 ユビした右手中指を見てみる。丁寧にテーピングされているが側面には埃などがくっついていて汚い。あの日、あんなに痛かったこの指も、今ではほとんど痛みを感じなくなっていた。

 回転寿司屋は意外と混んでなく、順番待ちをせずにテーブル席に座れた。
「何食べる? というか店員さん来るか」
 僕は寿司屋特有の粉茶を作っていたが、母は熱いお茶が嫌いみたいで、向こうのウォーターディスペンサーまで行く。すぐ戻ってきたと思ったら、水を置くだけ置いてトイレに向かった。
 僕は一人で、ふう、とお茶を飲みながら、右側でいくつも流れている寿司を見てみる。……イカしか回ってこない。ここはイカゾーンなのか。
 注文でもするか、と思って寿司レーンの上のほうにあるタッチパネルを触ってみる。座ったままじゃパネルに手が届かず立ってしまっても低すぎるので、中腰というまあまあキツい姿勢でやらないといけないのが地味に嫌だ。

Re: Banka ( No.32 )
日時: 2019/08/23 12:25
名前: をうさま ◆qEUaErayeY (ID: t5qrQfWq)

「いらっしゃいませ。お客様、当店の注文方法などはご存知ですか?」
「あ、はい。今そのタッチパネルで注文したばかりです」
 タッチパネルで適当に注文したタイミングで後ろから声がした。ん? と僕はなんとなく違和感を覚えつつ、それに返事しながら椅子に座り直す。店員の人がテーブルの前まで来て、その店のシステムを説明するというありがちな光景なのだが、何故かその女性店員の声が引っかかった。というより、いかんせんこの声に聞き覚えがありすぎたので、顔を見る。
「茅野じゃん」
「せ、先輩……」
 それは茅野都美だった。制服姿だったので気づくのに一瞬の時間を要した。バイトとかしてたのか。しかも、よりによって勤務中に出くわすとは。
 彼女はみるみるうちに顔が赤くなっていき、持っていたメモのようなもので顔を隠す。まあ確かに予想はしていなかっただろうが、そこまで恥ずかしがるか、普通。
「どうして先輩が来てるんですか……」
「どうって、寿司食べたかったからだよ。親と一緒に来てる」
 というかなんだその質問、と笑ってみる。すると彼女はさらに恥ずかしがったみたいで、メモで顔を隠したまま、ときどき変な声を漏らしながら足早に去っていった。突き当たりを曲がる寸前ちらりとこちらを振り返り、目が合った瞬間、僕を睨みつけるなりすぐに角に消えていった。不審者にしか見えないが、大丈夫だろうか。
「どした?」
「あ、いや……」
 親が戻ってくる。彼女が去っていった方向と逆方向から来たので何も知らない様子だった。わざわざ言う必要はないだろうし、なんとなく母に茅野のことを話したくなかったので、黙っていた。
 少しして、ポケットのスマホが鳴る。見てみると「もう少しでバイト終わるので、それまで待っててくれませんか?」という彼女からのLINEだった。

「お待たせしました」
「……おー、いいよ」
 回転寿司屋の裏口のような所で待っていると、彼女が出てくる。無駄にだだっ広い裏口だが、ほとんど何もない。
 母には適当に理由をつけて歩いて帰ると言っておいたので、既にここには僕しかいない。ここから家までは歩くと結構かかるが、それより茅野のほうが大事だった。
「その髪型も似合ってるね」
「へ?! ……ありがとうございます」
 彼女は取り乱した後、普通に礼を言ってくる。実際彼女は綺麗だった。それは勤務中からそうで、制服であの変な色と形の帽子を被っていた段階でも誰よりも輝いていたので、脱げばもっと可愛いくなるのは当然ではある。
 今日の彼女は髪を下ろしていた。学校ではいつも髪を後ろでくくっていたので、こうして髪を結んでいない彼女は初めて見たかもしれない……というか、どうやらいつの間にか髪を切っていたみたいだった。今までより少し短めで、ボブぐらいの長さだった。どうやらこれが飲食店でも髪を結ばなくていいギリギリのラインらしい。
 髪型は変わったが、華奢で可憐な雰囲気は何一つ変わっていない。僕としては前の髪型も好きだったが、これはこれでお洒落でありだと思った。
「というか、その指、すみません……。私のせいで怪我しちゃって」
「いいって」
 あれから、会う度に彼女はこの指のことを謝るようになっていた。本当に大丈夫だから、もう止めてほしいのだが。


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