コメディ・ライト小説(新)

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男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる
日時: 2019/06/06 07:39
名前: Rey (ID: SsbgW4eU)

初めまして、Reyという者です。
初心者ながらに、そして自分が出来る全てのギャグ力を持って
このお話を書いていきます。
どうか、誤字があっても、文法的に間違っていても
生暖かい目で見てやってください。






目次

序章プロローグ 『これが日常』 全章 >>1-22

一章 『リンドウ学園の生徒会長』 >>1-7
一話 [生徒会長こと俺] >>1
二話 [生徒会長と愉快な(?)お友達]>>3
三話 [生徒会長、部活(戦闘)開始]>>4
四話 [生徒会長の部活風景] >>5
五話 [生徒会長は部活でも] >>6
六話 [生徒会長、友との帰宅路にて]>>7

二章 『お人好しな生徒会長こと玲夜君』>>8-13
一話 [生徒会長は甘いもので釣れる] >>8
二話 [生徒会長は料理上手]>>9
三話 [生徒会長とお遊戯]>>10
四話 [生徒会長と委員会]>>11
五話 [生徒会長と予想外の事態 前編]>>12
六話 [生徒会長と予想外の事態 後編] >>13

三章 『リンドウ学園の学園風景』>>14-19
一話 [生徒会長と噂話]>>14
二話 [生徒会長と魔導授業]>>15
三話 [生徒会長と学園祭]>>16
四話 [生徒会長とリンドウ祭 中学編]>>17
五話 [生徒会長とリンドウ祭 高等編] >>18
六話 [生徒会長とリンドウ祭 大学編] >>19

四章 『関わりが少なかったはずの大学部』>>20-22
一話 [生徒会長と先輩]>>20
二話 [生徒会長はシリアスが嫌い]>>21
三話 [生徒会長とスピリット・パーソナリティ]>>22




序章




ここは凛影りんえい"魔導まどう"学園がくえん、通称リンドウ学園。
グラウンドを囲むようにしてある赤レンガで造られた構内はとても綺麗で、誰もが羨むエリート校の一校。
偏差値はすこぶる高く倍率もハードルが高すぎて頭が届かない程。
そんな学園の設備は勿論充実しており、数少ない"大型魔導研究所"を完備、教師は勿論の事だが成績優秀な生徒は研究所の出入りを許可されている。
そんなリンドウ学園は中高大一貫であり中学の頃からリンドウだった者も、高校、大学からの編入した者だったりと、見知らぬ顔が毎年増えるのはここの普通だ。
制服の色は紺色で統一されているがネクタイの色で中学か高校か、大学かわかるようになっているので、初対面で先輩か後輩か、それとも同じかはわかるから、まぁ不便ではないが。
けれども、名札に付いている"バッジ"で学年と"クラス"もわかってしまい見下されることもしばしば…。

ーーーと、ここまで学園の説明をしたが、勿論この学園にも体育館はある。
そして、その体育館の裏は人目に付かずサボりには持ってこいの場所だが………。
ーーーサァ………と清々しい風が吹き、体育館裏にいる"二人"の男子生徒の髪を揺らした。
一人は漆黒の髪に海のような濃い青色の瞳で、もう一人の男子生徒を静かに見つめ。
そしてその瞳に見つめられている男子生徒は冷静な相手と対照的に頬を赤く染めて。


「お、俺…入学式の時から、先輩の事…す、好きでした…!俺、と…付き合ってくださいっ!」
ばっと90°上半身を折りたたんで、綺麗なお辞儀を。


ーーーーー"生徒会長ことすめらぎ玲夜れいや"に、熱烈な告白プロポーズをしていた…。

そう、つまりはこれが。
リンドウ学園の常識の一つであり、玲夜の日常。
………今日も今日とて、玲夜こと俺は男子生徒にモテるらしい。

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.18 )
日時: 2019/05/01 08:32
名前: Rey (ID: 5VHpYoUr)

五話 生徒会長とリンドウ祭 高等部編



「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「二人でーす」
「ではこちらの席へどうぞ!」
リンドウ祭、二日目。
この学園で行われる一大イベントの文化祭で、高等部が仕切るこの二日目は。
初日よりも、来賓者が多くなっている気がするのは気のせいではない。
ーーーー皆、リンドウの"花"を見に来るのだ。
「…………らっしゃーせー………」
ポップに飾られた店内から聞こえた、そのやる気のない声は、この"グリム童話喫茶"に訪れた人の目を釘付けにした。
林檎のように赤いフード付きのマントを纏い、膝丈のスカートから覗く華奢な足。
そしてフードから垣間見える金色の髪は黄金の生糸のように煌めき、その隙間からは静かな海色の瞳が覗いていた。
この男子校という縛りを諸共せず、全員が息を飲む"美少女"に変貌してみせた、その赤ずきんは………。
「ふ…似合ってるよ生徒会長……っ」
「るっせぇコンクリで固めて日本海に捨てるぞ」
「温厚な生徒会長の口が悪い!こんな赤ずきんは嫌だ!」
言わずもがな、リンドウ学園高等部の生徒会長こと、皇玲夜である。
元の顔が良すぎるのと、こう言ったブロンドヘアーのキャラクターには似合い過ぎてしまう蒼の目だったこともあり、シンデレラではドレスが面倒だから、という理由も相まって赤ずきんに決まった。
ウィッグ、衣装等は全て玲夜の母……皇晴香が監修した為、出来栄えは本物の美少女だ。
………………流石に、身長までは誤魔化せないが。
「俺身長178だぞ……女装にも限度あるだろ…」
「んー…でもまぁ、遠目から見たら普通に女の子だし、お世辞なしでめちゃくちゃ可愛いしノーカンで」
178cmという、四捨五入すれば180とも表記される身長の美少女がジト目で見下ろせばどんな男子もコロッとその顔を赤く染める。
中にはその身長故に短くなったスカートからスマホでお宝画像を撮ろうとした不届き者もいたが、それはレイが踏みつけたのでノープロブレム。
「あ、玲夜ー、後で写真撮らせてー!」
「料金取るけど」
「…おいくらですか」
「一枚1000円で」
「…せめて100で」
「間とって800円な」
「う…………しょうがないっ!」
「ごめん俺が悪かったから財布しまってくれ」
そんなヤンチャ(?)な赤ずきんを写真として残そうと奮闘する生徒は、自身のお小遣いをはたいてカメラを構えようとするのだから、冗談半分で言ったレイは慌ててそのカメラのレンズ部分を掴んだ。
「おーい赤ずきんやーい。そろそろ接客に回ってくれやしないかーい」
「あ、あかずきん………あっはははッ!!」
「う〜〜…っもうどうにでもなれ…!い、いらっしゃいませっ!」
もはやどうこうしたところで変わる現実でもない、と諦めたレイは羞恥心を押し殺して貼り付けた笑みで客を迎える。
赤いフードに隠されたその顔には、早く終われと死んだ深海の瞳が覗いていた。
「…………………陸っ!?」
と、思えば直ぐにハイライトが灯る。
満面の笑みだったのが、瞳に"海賊の衣装"に身を包んだ陸を写すが否や、その顔を一気に驚愕と羞恥で歪ませた。
「……いやァ………まさかここまで化けるとはなァ…………え、お前マジでレイか?」
「失礼だなれっきとした玲夜だよ!ってかお前…海賊………いいなぁ……」
俺も男装したかった、と。
いやまず男が男装ってなんだ、と。
……………とりあえず女装以外やりたかった、と。
目の前の海賊は目を丸くしながら、腰に刺したレイピアに手のひらを乗せながら。
「とりま店入れさせろやァ。俺、なんか甘いモン食いてェ」
「……はいはい、海賊一名ごあんなーいしまーす」
「「「いらっしゃいませ、陸船長!!」」」
接客していた者、テーブルに回っていた者、そして厨房(調理室)にいた者全てが表に出て、声を重ならせた。
これも全て、高等部二年【ツヴァイ】が"海賊率いる出張店"という題材の元、レイが必ず陸がここに来ることを予測して用意していたサプライズだ。
……………まさか、こんな早く来るとは思わなかったが。
「…アインスってノリいい奴らばっかりだなァ………っし。オラァ!船長のご帰還だァ道を開けろォ!!」
唖然とした後、呆れ笑いを含んだ声に乗せられた空気に、陸は腰のレイピアを華麗に抜き去り、その切っ先を天に掲げ、高々と叫んだ。
そしてーーーー。
「「「イエッサーッ!!」」」
我が船長リーダーのご帰還、という設定のもと店員(アインス生徒)は軍の敬礼のようにビシッと手を挙げた。
………………………あれ、ここってグリム童話喫茶だよね?
「さァ船長に出すスイーツは高級じゃねェとなァ?赤ずきん?」
「…………………キャー狼がここにいる〜」
「スイーツ=お前じゃねェよ!!変な誤解されっからやめろォ!!しかもそれお前しか被害ねェじゃねェか!!」
「うん、まぁちょっとムカつくくらいにイケメンだったから」
「理由になってなくネ!?」
ドカッと椅子に座り優雅に足を組んだ海賊………陸は、控えめに言ってイケメンだった。
服は言わずもがなの海賊服…だが、ベルトやチェーンが多用されており、一歩動くだけでチャラリと鳴る。
頭にはチェーンやキラキラと輝く宝石のようなものが散りばめられており、喫茶の明かりに反射してプリズムのように煌めいていた。
陸の染められた赤茶色の髪は後ろに結われ、前髪には宝石がはめ込まれたチェーンが絡まり、赤メッシュと合わさりとてもカラフルだ。
そして、なによりもこのイケメン、何もせずともイケメンな癖して"黒い眼帯"をつけてやがっていた。
元より顔面偏差値がカンストしているイケメンが?更にイケメンになるアイテムを着けるとどうなるか、もうわかるだろう。
「…俺、陸さんのファンクラブ入ろっかな…」
「お前も?あの衣装ズルイよな、八神君の良さがひき立たされ過ぎてもうなんか怖いもん」
「…わかりみがつょぃ」
客として入っていた生徒、そしてアインスまでもが陸のファンクラブ入会希望を口にし始めたのだ。
「陸……お前のファンクラブ会員増えるってよ」
「いらねェ………ってか、店内全員リンドウの生徒だよなこれェ……一般はァ?」
「あと30分後くらいかな。ほら、一般客でいっぱいになると、在校生が入れないから」
「あー、成る程なァ」
はい、と出されたお冷やを煽りながら、陸は窓からリンドウの学園祭を見下ろした。
グラウンドには出店が並び、その一つ一つに列が出来ていて、どれも繁盛しているのは確かだった。
…………そういえば。
「なぁ陸。飛鳥ってなんの出し物やるんだ?」
「ん?……あー、なんだったかなァ……………あ、思い出したァ」
素朴に思った疑問を口に出せば、答えを知る陸が答えたその言葉に。




「アイツ、確か"コスプレゲーム大会"っていう"個人的に立ち上げた店"やってるぜェ?」



ーーーーーーはぁ?と
ただただ、アインス生徒が持ってきたスイーツに目をキラキラさせる海賊を訝しげに見ることしか出来なかった。








ーーーー高等部一年【ドライ】クラスにて。
カーテンを閉め切ったそのクラスは、控えめに言って暗かった。
遮光カーテンだったっけ?と首をかしげる生徒もチラホラいたが、カーテンの端に小さく"八神飛鳥"と書いていたため、"……持参!?"と驚きのリアクションを取る生徒もチラホラ………。
そんな薄暗い部屋の中心、爛々と光るディスプレイは、双方の顔をユラユラと照らしだしていた。
「くっそぉ………強すぎんだろぉ……!」
「うっそだろ…あいつが負けるなんて…」
「………え、これって現実?」
互いに向かい合う形で座っていた男二人…そのうち、一人は悔しげに呻き、机に突っ伏し、その様子を傍観していた友人らしき男性数人は、この現実を受け入れずに困惑した。
…………"あのゲーマーが負けた"なんて、と。
「す、スッゲェ!飛鳥!お前ナニモンだよ!?」
静かに息を吐いた、向かい側の男性……いや、ただしくは青年は暗闇の中、赤色の双眸を騒がしく吠えるクラスメートに向け。
「…別に、ただゲームが好きなだけなのだけれど」
耳を覆っていたトレードマークのような黒と赤のヘッドフォンを首にかけ、さも当たり前とキョトン顔。
「いやいや!?好きなだけでここまでやれるか!?お前実は天才ちゃんだろ!?いや天才くんか!?」
だがしかし、そんなキョトン顔をスルーするかのようにヒートアップ。
「…とりあえず煩いから黙って、霧島君」
「……うぃっす」
…赤色の瞳の筈が、その色は氷のように凍てついていた。
高等部一年【ドライ】クラスにて行われているゲーム大会という名の独壇場。
ネット業界において敗北を知らずに天才ゲーマーと噂される紅白アルビノ・アウルその人が相手する、この出し物は。
言わずもがな、挑んできたゲーマー達を生徒、成人男性、そして女性に関わらず全員伏して見せた。
そんなドライクラス代表、八神飛鳥は正式な紅白の梟ではなく、また非公式のサブアカウント……つまり、ネット上には晒しておらずオフラインで淡々と育てあげたキャラクターを使用し、交戦していた。
その名を【闇夜オンブル・白鳩レイヨン
公式アバターを紅白と明るく、けれど梟という闇のイメージを持たせる夜行性の鳥を使った紅白アルビノ・アウルと真逆の名前ハンドルネーム
それは、先の見えないような闇夜オンブルを跳ぶ白鳩レイヨン、飛鳥にとっての陸と玲夜。
そのため、アバターの見た目は目が赤く髪色は漆黒というルックスに、前髪に赤色のメッシュを入れたイケメンキャラクターだ。
服装に限っては、一週間ほど前に陸からどんな服が好きか、と聞いた時に。
ーーーー「好きな服ゥ?……………あー、ローブとかかっこいいよなァ。ところどころ破れてて、武器は短剣二丁とかァ?」ーーーー
薄汚れボロボロのローブに、相手を必ず死に追いやる短剣二丁……そして漆黒の髪から覗く血の赤は、まさしく暗殺者アサシンと呼べる。
……そんなアバターの服装、及び髪や目の色等々、全て完全再現したのが現状、コアなゲーマーを負かした飛鳥のビジュアルである。
忘れることなかれ、ここは"コスプレゲーム大会"である。
ちゃんと、飛鳥もコスプレしているのだ…服やウィッグは玲夜の母、皇晴香にry
「…まぁ、いい。これで俺もまだまだって事がわかったしな……対戦、ありがとう白鳩("レイ"ヨン)」
「いえ、こちらこそ……またえる事を祈ってるよ獅子リオン
悔しげに笑った、獅子リオンと呼ばれたその男性は、カタンッと立ち上がり後ろで傍観していた友人を連れて、教室から姿を消した。
ーーーーー静まり返った、この空間。
ただPCから聞こえるBGMだけが空気を揺らし、静寂を破っているだけの、この時間に。
ーーーーガラリと音を立てて、暗闇を差す光に二つの影が浮かんだ。
一人は赤色のマントを纏い、そのフードは取られブロンドの髪が綺麗に流されて、その奥に見える海のような瞳は少量の光を反射してキラキラと輝いていた。
そして、その隣は現代において映画でしか見たことのないような海賊服を着て、その腰にはキラリと白銀のレイピアが輝く。
三角の焦げ茶色の帽子からは赤茶色の髪が覗き、前髪に絡んだ宝石が輝くチェーンや、服にもつけられているチェーンは彼が動くとチャラリと鳴って、その音はとても心地いい。
黒い眼帯で左目を隠した海賊と赤ずきんという不思議な二人が、扉を開けて佇んでいた。
「…………暗っ!?」
「やっぱドライってここだったなァ……開けようか迷ったぜェ……」
「…あれ、兄さん。………と……レイ…?」
紛れもなく、それは八神(実の)陸(兄)と幼馴染の生徒(皇)会長(玲夜)の筈なのに、飛鳥は思わず声を出した。
その様子が面白かったのか、陸は吹き出して。
「あっははッ!レイィ、お前ホンットよく言われるなァ!!」
「るっせ!何、俺って黒髪じゃないと俺って認識されねぇの!?」
「…わ……本当化けたね………一瞬誰かと」
「え?え?え??待って…せ、生徒会長…なのか!?あの赤ずきん!?」
「あ、霧島君だ。君もコスプレしてるのか……ゲームでチラッと見た気がする…受付のキャラクター?」
「あ、そ、そうっす!あの…昨日はすいませんでした……俺、会長に気付かず…」
「はははッ!!あ、あの赤ずきん……ふはッ!」
「…………兄さん笑い過ぎ」
………温度差が凄い。
八神兄弟とレイ、霧島きりしま一東かずとの会話は別々で。
笑い転げている陸はもはやスルー、飛鳥は死んだ目で実兄を睨むも笑い声は止まることを知らず。
というか、ここに来るまでに何度言われたことか、とレイは慣れつつあった。
「…それで、ここはゲーム大会っていうのをやってるんだよね………なんか、カ◯プロみたい」
「え!生徒会長カゲ◯ロ知ってるんですか!?俺も大好きなんですよ!特に電磁少女のエーーーー」
「それは置いといて。兄さんが使い物にならないし、そろそろジョダコンの準備時間だろう?早く行かないと、メイク担当が怒るかも」
ーーーーーーーわっつ?
「え、準備時間…………それって、まだ時間あるんじゃ」
「うん?ジョダコン出場者は開始時間より一時間前に集合だろう?特に、高等部(僕達)は気合入れられるみたいだし、二時間前くらいが丁度いいよ」
「ああ、そういう事…」
てっきり時間を間違えて遅れたのかと思った…。
そう青ざめた顔を元に戻してレイはため息混じりに呟いた。
そんな生徒会長は未だに赤ずきんの格好ゆえ、ドライのクラスを少し覗きに来た生徒が騒めくのを背に感じる。
こうもざわめかれるのはきっと、誰かが皇玲夜が赤ずきんのコスプレをしている、というのを拡散されたのかも知れない。
これは、確かに控え室に行かなければ人集りもあるし遅刻する可能性も出てきた。
「それじゃそろそろ行くかぁ。おい、陸早く行くぞ」
「ひーィ……あー笑った笑ったァ……んでもう行くのかァ?」
「兄さん全く話聞いてなかったよね。…まぁいいけど。早く控え室行くよ」
涙を浮かべる程笑い転げていたのか、話を聞く素振りを見せてなかったのもあり、全くもって理解していない様子。
そんな兄に呆れを通り越して笑いが出てしまう飛鳥。
そんなこんなで廊下にはゲーム内のアバターのイケメン、受付のキャラクター、赤ずきんに海賊という、世にも奇妙な四人組が現れ皆携帯にしっかりと記録させたとかなんとか……………。





ーーーー青龍館にて。
「んー、やっぱパツキンにした方が可愛いなぁ」
「青色の目だとどうしても金髪になるよなぁ。赤ずきんと被るがウェディングドレスだろ?メリーな感じ出すなら白似合う色だし」
「あ、腰くらいまでのウィッグにする?それで編み込んだら綺麗になるんじゃない?」
「「「それだ」」」
ファンデ、チーク、下地、アイライナーにアイシャドウ………コンシーラーまでも武装したアインス生徒数名。
手先の器用な代表を集めたメイク担当に囲まれて、玲夜はただ座るだけの簡単なお仕事を全うしていた。
頭上から聞こえるその声に、俺は一体どうなるんだ、と冷や汗をかきそうになるが気合で引っ込める。
「なーんか足りないな………………胸詰める?」
「いや、ドレスがどんなのかで決まるだろ」
「逆にドレスに仕込むか?」
「え、でもドレスって借りもんだろ?」
背後で布の擦れる音を聞いて、それが本物のウェディングドレスだと嫌でも思い込まされる。
まさか、この歳で、さらに言えば男だというのに真っ白なウェディングドレスを着る事になるとは思わなかった。
だがそれはきっと陸(向こう)も同じ事だろう。
…………さらに言えば飛鳥もだが。
ここまで無言を貫き通し、俯き続けた玲夜の上と後ろでは、色々な会議ミーティングがされており、自分が次にどうお人形にされるのかが聞こえてくる。
次はドレスを仮で着させて出来栄えを見ようだとか、髪は下ろすか括るかだとか、胸は詰めるか否やだとか。
正直最後の案に限ってはやってほしくないのだが。
けれどもそんな事を言ったところで素直に「はいやめます」と引き下がるメイク担当でもないだろう。
「……はぁ………」
「ちょっと玲夜くーん?ため息つくと幸せ逃げるんだぞー」
「今から結婚式ジョダコンなのになぁ?」
「うるせぇ…何が悲しくて花嫁やらなきゃならねぇんだよ……本当ジョダコン考えたやつ殺したい」
「………荒ぶってんなぁ」
真顔で淡々と愚痴を垂らし続ける生徒会長に、ここまで病むとは思わなかったとメイク担当。
御機嫌取りのスイーツも、きっと今は機嫌を現状維持にしか出来ないだろうと。
もはや、こんなに死んだ魚の目になるとは思わなかったのだから、これでジョダコンに出られても………………。
ーーーーーーいや、それはそれでいいかもな。

「あり、そういえば花婿(隣人)は?」


ピタ、と全ての動きが止まった。
さながら、某スタンド使いの無駄無駄言っている、ディー様のワールドのように。
それはもう、素晴らしいほどに静止した。
静かに控え室となったアインス専用館、青龍館を見渡し。
そして備え付けられた時計にも視線を送り。
ポツリ、呟いた。

「…………あと、30分きってるぞ」


ーーーーーーーへぇ………。
玲夜一人のメイクに一時間半もかかってたんだ〜それはびっくりだ〜。
その甲斐あってかとんでも美少女になってるよ生徒会長これは優勝狙えますわ〜。




……………じゃ、花婿のメイク時間いくらかかる????



「おいぃぃ!!!これもう花婿のメイク出来なくねぇ!?ってか花婿役いねぇじゃん!?」
「待て待て待て待てッ!!これはマジでシャレにならんぞ!?」
あの静寂が嘘のように騒がしくなった青龍館で、鏡と向き合っている玲夜は内心ガッツポーズ。
「(っしゃ……ッ!これはもしかしなくともトラブルからの中止イベントパターン…………ジョダコン出なくて済むかも…!)」
キラリとハイライトの灯った明るい目で、鏡の中にいる"美少女"を射止める。
客観的に見てこの"美少女"は綺麗だ。
いや、綺麗という言葉で片付けていいものなのかとも思う。
可憐、美しい、可愛い……女性の褒め言葉の全てが当てはまるような、いわば二次元から飛び出してきたような、そんな少女だった。
そんな美少女を作り上げたメイク担当、花婿(男装)役(枠)の隣人もとんでもイケメンになるに違いないだろうが………。


ーーーーーガチャ……


「……おーい……せーとかいちょー…そろそろ体育館にいけよー…………」


青龍館の扉が開き、ヒョッコリと顔を出したのは、青白い肌にクッキリと目立つ隈のアインス担任…斎藤さいとう和葉かずはだった。
カチャリと眼鏡をクイッした斎藤和葉担任に、メイク担当は。
「………やるか」
「嗚呼、これはもう運命さだめだ」
「抗うことの出来ぬ、世のことわり………担任だろうが容赦はせん、覚悟せよ先生(斎藤和葉)」
「………………んー?……なんかすごい不穏な空気を察知した和葉せんせーがここにいるぞー………?」
「…………………まさか」
片手にアイシャドウ、アイライナー、チーク、筆……それを両手に携えたメイク担当数人がジリジリと和葉に近付く。
元が青白い彼の肌は、この先の最悪極まり無い未來を見据え更に青ざめた。
……………同じく、玲夜も嘘だろ…と呟きガツンと即席テーブルに額を打ち付け、慌ててメイク担当の一人がスイーツを買いに走ったのを最後に、お人形第2号と化した和葉は為すがままに椅子に座らされ。
「はーいではまずスーツを脱がしまーすネクタイ取りますよー先生案外イケメンなんだからワックスで前髪あげますねー」
「短髪だが括れない事もないってことでゴムプリーズメイクの邪魔だ」
「華奢な体を補うために肩パッド入れるか。んじゃ顔メイク担当よろしく頼むぜ」
「よしきた任せろ。とんでもイケメンにしてやらぁ」
教え子達に髪をあげられ追い剥ぎに遭われ、呆然とメイクが施されイケメンになっていく様を見つめた…………。





「さぁ始まってまいりましたリンドウ学園高等部による女男装コンテストッ!各クラスと代表二人は一体どんな美男美女になってしまうのでしょうかッ!?」
ーーーーオォーーーーーーッッ!!!
体育館を揺らすかのごとく発せられた群衆の歓声に、司会者の声が遮られる。
マイク越しとはいえかなりの声量の筈だがそれすらをも超える程の大歓声。
このリンドウ祭、三日間あるうちの一番の大盛り上がりである。
「今回のテーマはズバリ『結婚式』!!女装はウェディングドレスに男装はタキシードッ!本物のドレスを使用しておりその姿はまさに絶世の美女でありますッ!!!」
「「「ォオオォーーーーーーッッッ!!!」」」
轟く雷鳴、形容するに値するその言葉がふと頭に思い浮かんだ高等部二年アインス代表女装枠こと皇玲夜は、持たされた白薔薇のブーケを手に転がしていた。
ジョダコンのステージに立つ順番は一ヶ月前に決められているので、今はヒマな時間である。
勿論、玲夜は一番最後の番号を引き当てた。
何者かの陰謀を漂わせるその場の雰囲気に、玲夜は抗議しようと口を開きかけたが、皆の"お前は絶対に最後だから"という目に心がポキっと折れたので、唇を引き結ぶしか無かった。
そのお陰で、今こうしてウェディングドレスを着せられ、がっつりメイクを施され、白薔薇のブーケを持たされているわけなのだが。
今更どうこう言ってもこの現実は変わらない。
それをわかって悪あがきをしないのが懸命だというのなら、きっとアイツは馬鹿なんだろう。
……………いや、実際馬鹿か。
「いーやーだー!俺ァ絶対ェ出ねェからなァ!!」
「諦めろ八神。あの時お前が休んだのが悪い。あとクソ似合ってるな結婚してくーーーー」
「誰がするかボケェ!!俺は八神陸!男なんだよアンダースタンしとけェゴルァ!!」
「いやアンダースタンしてる。理解して言ってる。今夜は月が綺麗だな」
「今日曇りですけどォ!?お前透視でも出来んのかクソ野朗ォッ!!」
「こらこら花嫁がクソなんて言ったらダメだろう。お仕置きだな、結婚だな」
「お前脳味噌詰まってるかァ!?」
ギャーギャー騒ぐ騒音の元凶、純白のドレスに身を包んだ高身長の美女……否、美男の八神陸。
相方だろうが、髪をオールバックにキメたその生徒も、負けず劣らずのイケメンで、誰がどう見てもお似合いの新郎夫婦である。
ぶっちゃけ、あの海賊とこの花嫁が同一人物だとか考えたくないのだが。
染められた赤茶色の髪は降ろされていてその頭にはキラキラと輝くダイヤのティアラ。
ヴェールに隠されたその顔を除けば、ルビーのように煌めく瞳。
………喋らなければ本当に美しい女性なのになぁ。
この裏方にいる全ての生徒がハモった瞬間だった。
「ぁさて!次は皆様お待ちかねッ!いつもは陸上短距離で汗水垂らすイケメンの我らが風紀委員長………その花嫁姿をその目に焼き付けなぁッ!!!」
「「「プリンセス八神陸ゥ!!!!」」」
「あ゛ァ!?誰がプリンセスだボケェ!」
怒りマークをティアラを覆い隠さんとつけた陸が飛び出そうとするのを必死に抑え込む相方。
その後ろでは、"プリンセス八神陸"でツボった玲夜の姿。
「くっふふ……ぷ、ぷりんせす……ぷりんせすて……ッ」
隠そうともせずに笑っている幼馴染に怒りの矛先は向けられ。
「ぅオイィ!!テメェだってプリンセス呼ばわりされっかもしんねェんだぞォ!?もしそうだったら腹抱えて笑ってやっからな覚悟しろよォッ!!」
ビシッと指(矛先)を向けられた玲夜は、未だ笑ったまま、了承の意を込めて手をヒラヒラと振った。




白薔薇や百合で囲まれたステージは、純白のウエディングドレスと同色、けれども花嫁の存在感を消さず、見事にその存在を調和させていた。
スポットライトが当たりキラキラと光るティアラに、白いヴェールが素顔を隠す。
赤茶色の髪は綺麗に結われており、薔薇のコサージュで留められていた。
隣を歩く花婿も花嫁に負けず劣らずの美貌。
誰もが息を呑む、完璧なる美男美女の結婚式がそこにはあった。
ーーーーーだが、一方裏方で。
「………あれ、兄さんって女の人だっけ」
「言うな飛鳥。俺は認めない。舞台上がったらあんな美人になるとは思ってなかった。俺は絶対に認めない」
ステージに立つ花嫁が実兄というのを現実逃避して顔を背けた飛鳥と、腕を組んで裏方から見る玲夜。
その顔には、まさしく"これは夢に違いない"と書いていた。
「お、おーい飛鳥…もうすぐ俺らの番だぞ…?」
「霧島君………うん、そっか。僕も行くんだよね……はぁ……」
「何のためのドレスアップだよ………」
「飛鳥、頑張れお前なら帰ってこれる」
「露骨な死亡フラグやめてよレイ……」
ハイライトの消えた赤い目は、くるりとこちらを振り返った実兄を写し、完璧にその色を濁らせた。
…それほど嫌なのか?ああ嫌だとも。
なにが悲しくて女装しなければならないのだ、第1こっちは不登校者だぞ。
やりたくない役を押し付け知らん顔をしているクラスメートに嫌気がさしながらも、こうなっては仕方がない。
逆に考えて、こうも似合ってしまったウェディングドレスなど、誰も予想していないだろう。
だから、完璧な花嫁になった飛鳥を見てあんぐり口を開けるかもしれない、いや確実にそうなる。
………まぁ、それもそれで面白いかもね。
いわば、逆ドッキリ。
飛鳥はこの現実を少しでも面白くしようと独自の解釈を加え、このジョダコンの趣向を一人だけ履き違えて理解した。





思った通り、皆驚いて声も出ないらしい。
八神陸という二年のエースの弟というだけで美少年だというのは暗黙の了解。
多くの人は陸と同じようにヤンチャなムードメーカーを思っただろうが………。
今、この舞台に立つ陸の弟は、どうだ。
ムードメーカーの「ム」の字もない、その青年は。
純白ではなく、パステルカラー、薄い水色のドレスを纏い、対照的に燃える赤の瞳は、淡いヴェールに隠れて幻想的に光っていた。
腕を組む霧島きりしま一東かずとは紅潮した頬を隠そうとせず、堂々と"飛鳥は俺の嫁"感をオール。
羨望の眼差しをビシバシと感じながらも、それを嫌だと思わないのが恋のチカラである。
「…………霧島君」
「……へ?え、あ、何?」
惚けていた霧島に、鶴の一声。
一瞬にして現実に引き戻された霧島に、絡まった腕が少し震えているのに気付く。
「ごめん………人前に出るの、あまり好きじゃなくて………」
はっきりと顔が見れるほど至近距離だからヴェール越しの青い顔が見て取れた。
確かに不登校だというのにこの仕打ちはないだろう。
だが、正直に言おう、飛鳥にとって不謹慎だろうが、自分に素直になってみる。



ーーーー震えて腕にしがみついてる飛鳥がドチャクソ可愛い………ッッッ!!!!



なんなんだこの可愛い生き物プルプル震えて天使か!?ドレス着てる所為でもはや女神なんだがいやこれは女神という言葉で収めていいのか!?ああなんかもう羽が見えてきry
「…霧島君……?」
「いいいやなんでもななな………なッ?」
「…うん?」
ーーーーーギギギ、と音がつきそうなくらい、ゆっくりと飛鳥の顔を見たこの瞳は。
不安げにこちらを見上げる、天使の表情があって。
………身長差があまりなかったが故厚底の靴を履いてこちらが僅差で背が高くなっているためか必然的に上目遣いになっているし。
さらに言えば、コテン、と首を傾げてるし。
これはもう、言葉が出ないほどの天使ですわ。
ーーーーーバタンッ
「え…………え?ちょ、霧島君!?霧島君ッ!?」
吐血した幻が見え、霧島はキャパオーバーした脳内故に、体が機能停止。
…最後に、グッと親指を空に立てて、霧島は意識を失った………。


「…えぇ………これ、次(最後)俺だろ……?この空気の中やれって…!?」
ズルズルと引き摺られていく霧島を裏方で見ながら、玲夜は顔を青く染めていた。
このシーンとした、冷たい空気の中を優雅に歩く、という至難の業。
なんでも出来る生徒会長ならいけるだろ、という無言の圧がヒシヒシと後ろから伝わってくる。
「…………せーとかいちょー……もう腹くくるしかなさそーだぞー…………」
「いや腹くくるって結構厳しく無いですかね」
「俺だってこのくーきのなかやりたくないよ…………でもお前の相方いなくなるし………せーとかいちょー、なんかやった?」
「なんかってなんです!?俺は何もやってませんが!?」
「あー!ほらほら!もう時間だよお二人さん!早くステージ出て!!」




「キャワーーィィ!!あ〜ん見てダ〜リンッ!私達の子があんなにも可愛いわぁ〜ん!!」
「全くだ、その隣にいる……あれは担任の和葉先生か?………………和玲か」
「…………あら?玲和に決まってるわよねダ〜リン?それ以外は認めないわよ?」
「……ほう。晴香、お前とはマズイ酒になりそうだ」
「こっちの台詞よダ〜リン」
……………ステージに上がったら上がったでとんでも夫婦が目に飛び込んできた。
このウェディングドレスを貸し出し、メイクやウィッグ等も援助した、皇夫妻である。
サングラスを外し、視界制限を突破したすめらぎ晴香はるかは、ナチュラルメイクにも関わらずにとてもいい意味で目立っている。
その隣に腕を組んでいるイケオヤジことすめらぎ蓮弥れんや
事情の知らない第三者からしてみれば、ただの美男美女夫婦なのだが。
………中身が残念なのである。
「…………せーとかいちょー…お前の親御さん、個性強いなー…………」
「…いや、先生に言われたく無いんですけど」
無理やり組まされた腕を今すぐに離したい衝動を抑え込んで、玲夜は唸る。
この状況、先程の飛鳥、霧島ペアの空気を一変させ、今や玲夜ファンが熱狂、或いは涙を浮かべて信仰する女性も見えた。
一般人でさえ魅了する玲夜(男)は、いつにもなく魔性のオーラをダダ漏れだったらしい。
ヒラヒラの純白ドレスが足に絡まり、とてもじゃないが歩けないが、さりげなくエスコートしてくれる担任がいるあたり、アインスで良かったとちょっと思ったり。
いつもボサボサの黒髪を教え子達にオールバックにされ、クマをコンシーラー等で隠されたアインス担任は、間近で見てもいつものやつれた面影が無い。
………これまた、化けたなぁ先生。
この体育館を埋めつくさんと蠢くジョダコンの審査員こと客席からは悲鳴やらなんやらが飛び続け。
ようやく終わった頃には、参加者全員やつれきっていた。




……………こうして、ようやくリンドウ祭二日目が終わった。
ーーーーちなみに、優勝者は皇玲夜と斎藤和葉ペアだった。

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.19 )
日時: 2019/05/06 07:37
名前: Rey (ID: jFPmKbnp)

六話 生徒会長とリンドウ祭 大学部


リンドウ祭、最終日。
地獄とも言えるこの文化祭の最後の日。
ようやく終わりが見えたこの祭に、玲夜は死んだ目で訪れていた。
と、いうのも。
「あ!皇先輩!昨日のジョダコン見ましたよ!優勝おめでとうございます!」
「よぉプリンセス。昨日は可愛かったぜ?」
「生徒会長、ジョダコンお疲れ様でした」
「………………ぅん、ありがと………ございます………」
二日目にして行われた高等部の女男装コンテスト、略してジョダコン。
結婚式というテーマで行われたそのコンテストで、玲夜は実の母、すめらぎ晴香はるかの力もあり、純白のウェディングドレスを着て見事優勝。
そのお祝いの言葉と、中には花束を抱えてやってくる生徒、そしてたんに玲夜のファンである一般市民の方々。
あっという間に両手が華やかになり、前が見えなくなるほどの極彩色である。
「あ、あの!生徒会長、これ僕から…受け取ってください!」
「ん…?」
ガーベラと胡蝶蘭の間から見えた紅潮した顔の手には、また新しく玲夜の手(仲間)に加わろうとしている白薔薇。
……………………これ以上花などを贈られても困るだけなのだが。
かといって、彼の気持ちを無下にすることも出来ない。
「…あぁ、ありがとうね。悪いけどその薔薇、俺の胸ポケットに入れてくれるかな」
「へ!?」
「いや、もうこの通り手が使えないし、更に花が増えると本当に持てないから……」
「あ、成る程…?……………それじゃ、お言葉に甘えて………」
純粋無垢な目で見つめる、その白薔薇が。
そっと、リンドウ学園の校章バッジが刺繍されている胸ポケットへと刺さった。
ふわりと香る薔薇の香りに、自然と頬が緩み。
「…ん、ありがとう」
頭を撫でられないのが悔やまれるが、その代わり海のような青い瞳を細め、優しく微笑んだ。
「〜〜〜〜っ!い、いえ!そ、そそれじゃぼくもういきますねっ!!」
ズッキュンと心を撃ち抜かれたであろう男子生徒は、ユデダコのように顔を赤く染め、その場を立ち去った。
その様子に、玲夜は一人。
「…………告白される回数増えそうだなぁ」
胸に飾られた白薔薇、花言葉は【尊敬】などと言われるもの。
また、両手から零れ落ちそうな程抱えられた花束の中には紫色の綺麗なキキョウや紅色で花弁が何重にも重なっているラナンキュラスといった花が。
そのどれもが全て[愛を伝える花言葉]を持つ花々である事は、見て見ぬ振りをしたかったーーーーーー。





「…うっわァ…………ナニ?お前将来の夢、花屋さんだったかァ?」
「うるせぇ陸。ちょっと手伝え」
仕方なくフラフラ彷徨っていたら、"りんご飴"を片手に持った陸と遭遇エンカウント
飛鳥は?と聞けばシラネと返された。
そんな能天気にこの花束を分け合いっこしようと提案したのが運の尽きだったのかも知れない。
「えェ………ったく、しゃーなし手伝ってやらァ。ほれ、その白薔薇寄越せ」
「お前手伝うの意味知ってる?」
スポンッと綺麗に胸ポケットから白薔薇を抜き取り口に咥えた陸を殴りたくとも殴れないこの衝動(怒り)が脳に走る。
手が出せなかった(物理的に)ので、静かに、己の体幹を信じて陸のスネを思い切り蹴り上げた。
「ッてェ…!? 」
「自業自得だ、馬鹿」
痛みに顔を歪める陸、けれど手に持った白薔薇とりんご飴だけは死守している。
「…ててェ…………ったく……わーァったよ…………けど俺見たトーリ両手塞がってんだわァ」
「白薔薇返せ。あとりんご飴を秒で食え」
「…………………レイ、お前ドSってレッテル貼られてねェ?」
「は?……………え、そんなレッテル貼られてんの?」
「いや……………俺が背中に貼っとくわァ」
「やめろ」
こいつなら本当にやりそうだ、と後ずさった玲夜に、陸はジョーダンと笑う。
長年の付き合いだが、陸のジョークは洒落に聞こえないものだから。
毎回毎回警戒させられるこちらの身になってほしいものだ。
そう、ジト目で"反省しろ"と訴えたのだが、それをスルーした陸は渋々胸ポケットに白薔薇を戻し花束の半分を抱えこんだ。
「……結構キツイなァ……………よく持てたわこれェ…」
「そんなお前はプレゼントとか貰ってねぇのな」
「おー………………貰ったけどよォ……………実のところ、飛鳥の方が多いんだよなァ………」
「え、飛鳥が?」
「何でも、あいつのファンクラブを俺の弟ってだけでも密かに俺のファンクラブ派生らが作ってたらしいんだけどよォ、昨日のジョダコンの所為で公式に発表したんだとよォ」
「……………遂に飛鳥のファンクラブ出来たか…」
「噂だと会員ナンバーワンは霧島らしいぞォ」
「流石だな霧島君…………」
顔が引きつっているのがわかる。
この文化祭で、飛鳥のファンクラブが出来た………普段不登校者のファンクラブ………考えただけでも、ゲッソリだ。
兄である陸を尾行して突き止められた家に飛鳥へのプレゼントがしこたま送られてくる未来しか見えない。


ーーーーあれ、そういえば。



「なァレイ。……………お前、確か魔弓科の見世物、今日じゃねェ?」
「そうだけど、なんか俺は出なくていいよって言われたんだよな」
「…………テレビ局の奴らがうるせェからか」
「らしいな………ま、確かに俺はあんまり目立ちたくないし、有難いんだが…」
チラリと見えたチラシにあった"魔弓科より"と書かれたプログラム。
高等部、魔弓科エースは大丈夫なのか、と聞いたら全くもって問題なし、と返された。
忘れがちだが、この皇玲夜という陸の幼馴染は全国優勝者だ。
数々の大会を制覇し、世界中にファンが渦巻くツァオベライ・アローの世界では大スターだ。
そんな玲夜が文化祭で彼の魔弓………エーテル・タキオンを担いだらどうなるか、安易に未来を想像出来るだろう。
テレビ局のカメラマン、レポーターが押し寄せリンドウ学園に人がごった返すだろうと。
「…………………そいや、大学部はジョダコンとはまた別にダンスの発表…?みたいなのやるんだっけ」
「おー。パイセンがどんなダンスすんのか見ものだわァ…」
花が落ちそうになって慌てて抱え直しながら、玲夜はポツリと呟いた。
どうやら、そのダンス発表は各クラスの代表者数名でやるものらしい。
…………再来年、俺たちもやるのかと思ったら少し気分が落ち込むなぁと思ったのは言わないでおこう。
そんな陸は思いっきり嫌な笑みでプログラム表を睨んでいる。
きっと、あの遅れた生徒会会議の時、大学部の生徒会長に批判された事を未だ根に持っているのだろう。
代表者、というだけあってきっと居るはずだから、と。
恥をかく事を望んでいる赤い目に、玲夜は知らねーと両手に抱えている花束へと顔を埋めた。







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「………………これ何………」
「知りませんよ、ボクだって知りたいです。ってか貴方…衣装似合い過ぎじゃありません?一瞬誰かわからなかったんですけど」
「…………………そ……アンタも似合ってる…………」
「え!?本当です!?やったー!」
「…………………うるさ………」
「ちょっ!?ツンデレも大概にしてくださいよ、ボク泣きますよ!?」
「…………………面倒くさい……」
「そんな心底うざいみたいな顔しないでくださいよ……っ!?」
「……………………行くぞ…そろそろ、時間……」
「……もぉいいですよ、後で綿あめ奢ってくださいね!」
「……………………わかった……」




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「…んー………レイィ、お前どこ行こうとしてるんだァ…?」
「え、体育館」
「……だよなァ………あんさァ一つ言うぜェ?」
「…?……おう?」
「………………体育館、反対方向なんだけどよォ」
「…………………あれ?」
電話して母、すめらぎ晴香はるかに花束全てを押し付け、フラフラと彷徨っていたら、在校生にも関わらず迷った。
人混みのせいだと主張する玲夜に、呆れて笑いすら出てこない陸。
後ろを振り返ればリンドウ祭を満喫している生徒や一般客の波。
………とてもじゃないが、体育館に行ける気がしない。
「陸、これどうすればいいと思う?」
「………お前、これ俺がどうこうしてなる問題じゃねェってわかってんだろォ…………とりあえず、校舎経由で行くかァ?」
「りょーかい……なんかごめん」
「いや、俺も悪かったわァ……お前、地理苦手だったなァ……スマホの地図アプリ見ても迷うもんなァ………………」
「う………………」
ちょうど目の前に高等部の校舎があったのが不幸中の幸いだろう。
上履き制じゃないのが功を制し、見慣れた校舎へと足を踏み入れた。


「………あれって兄さんとレイかな……なんでここに…」
「飛鳥ー?どうしたー?」
「あ、いや………って、霧島君また買ってきたのかい?……………よく食べるね」
そんな迷子(玲夜が元凶)の二人の背を見た八神やがみ飛鳥あすか
焦げ茶のウィッグを被った彼の隣には、トタトタ走ってきた霧島きりしま一東かずと
その手にはりんご飴とぶどう飴があった。
「いや、りんご飴はお前用なんだけど…」
「え、僕に?」
「昨日さ、コソッと陸さんが"飛鳥は甘い物結構好きだぞ"って………」
「…………あんの馬鹿兄……」
肌が白い飛鳥の頬がわかりやすく赤に染まる。
口では愚痴をこぼしていても、満更でもなさそうで。
「………まぁ、君の好意として貰うよ、ありがとう」
躊躇いなく差し出された右手に、満面の笑みでりんご飴を手渡す霧島。
そういえば、兄さんもりんご飴を持っていたな………。
変なところで似ているのが兄弟というものである。
兄である陸は体育会系の勉強がからっきしのバーサーカータイプなのに対して。
弟である飛鳥は優等生系の運動がからっきしのサポータータイプ。
運動と勉強という点に着目してみると、対の関係だ。
だというのに、根本的な面……………意外と甘党だったり、あと少し流行に流されたりだとか。
陸が世間一般の流行に敏感でよく服を買いに行ったり、飛鳥はゲーム内のイベント衣装やアップデートで追加された武器などをいち早くゲットしたり。
…………こういう、少し着眼点が違うけれども根は同じなところが兄弟だな、と思わされる事なのだが。
「………………あ、そうだ。霧島君、体育館でやるダンス見るかい?」
「え?…あ〜、大学部全員集合してるあれか」
「うん。僕は行こうと思ってるのだけれど、良かったらーーーーーー」
「今すぐ行こうぜッ!!俺も見てーって思ってたから!」
「え、あ、うん?ありがとう…?」
ぶどう飴をなめていた霧島は飛鳥最優先スイッチをオンにして、雪の様に白い手を掴んで駆け出した。
………きっと、レイと兄さんの二人で一番ダンスを楽しみしてるのは兄さんの方なんだろうなぁ。
そんな事を考えながら、飛鳥は大人しく手を引かれた。






リンドウ学園、体育館。
重い幕が垂れ下がってステージを隠している、この中で。
ゼェゼェと息を乱す者がいた。
「はァ……はァー……ッ………ま、にあったァ……」
「…はぁ……疲れた……」
「元はと、言えば……お前が迷うからっだろォ………ッ!」
「ごめんって………ふぅ……あと五分か…本当ギリギリだったなぁ……」
言わずもがな、ほとんど反対にいた陸、玲夜ペア(なお、死にかけてるのは陸のみ)だ。
短距離で持久力が壊滅的に無い彼にとって、この長距離ダッシュは応えたのか、パイプ椅子の背もたれに背中を押し付け、酸欠の頭に酸素を取り込む作業に没頭していた。
薄暗い中で、隣に座る玲夜も隣からの熱気に当てられ、少しだけ乱れた呼吸を整える。
パタパタと手で仰いでいたら、ツンツンと陸とは反対側の席から突かれ。
なんだ、と顔だけ振り向けば、そこには悪戯に目を細めるプロゲーマーの顔。


「飛鳥…?」
「大丈夫かい?兄さんもだけど、よく高等部校舎から来れたね」
大丈夫か、と聞かれてるはずなのに、何故だろう。
大丈夫じゃない、と知って言われているようで………小馬鹿にされた気がする。
「……なんでそれ知ってんの」
「たまたま見かけたんだよ。まぁ僕は霧島君の後をついていっただけなんだけれど」
不機嫌なのを感じたのか、玲夜から視線を外してカタリと背もたれに体を預けた飛鳥。
………見えた奥の席、ハッと目を逸らされたが、見覚えのある顔に。
「………霧島君?」
「ひぃ!」
「…えっと………なんで俺怯えられてんの…?」
声をかけたら小さく悲鳴を上げられ、飛鳥の後ろ(ほぼ見えてるが)に隠れた。
「それが僕にもよく分からないんだよね。………あ、そろそろ時間じゃない?」
「お、もうか。………陸、息大丈夫か?」
「はァー………まァなんとかなァ………って、なんで飛鳥がここにいんだァ?」
「今気づいたんだね兄さん。二人が来る前からいたんだけれど」
「おー…?……………ん?お前霧島かァ?」
ようやく呼吸が落ち着いたところで、陸の赤い目に移ったのは極限まで背中を反らしている霧島の姿。
そんな海老反り君は、陸の声に異様なほどビクついて、こちらを見ようともしない。
「………陸、お前なんかやったか?」
「は?別になんもしてねェけど…………マジで身に覚えねェんだけど」
「霧島君、兄さんが珍しく困惑してるから、もうちょっと海老反りで無視してて貰ってもいい?」
「オイ飛鳥テメェ何吹き込んでやがんだァ?」
「別に、何でもないけれど」
「あァ?」
「ちょっと俺挟んで喧嘩すんのだけはやめてくれないかなメンタル豆腐からするとだいぶ心に来るんだけど」
喧嘩っ早い兄弟の板挟みだけはやめてくれ、と若干涙声になった玲夜の声に、きゅっと口を閉じた左右。
………だが依然として睨み合いは続いている。


と、ここでようやく時計の針がピッタリ10時30分になり、会場のざわめきがピタッと止んだ。
つられて八神兄弟もステージを見て、その幕がだんだんと上がっていくのを見つめている。


「………………おぉ………っ!」
「スゲ……これ手作りかァ……!?」
「わぁ……凄い時間かかってそうだね………でも、綺麗だ」
「…………こ、これが大学部の力………」
思わず声が出てしまうほどのクオリティ。
そこは、リンドウ学園の体育館のステージなはずなのに………いつも見慣れている木目のフローリングなはずなのに。



ーーーーーそこは、完璧なる砂漠だった。
サァ…と何処からか風が吹けば、チリチリと黄金の砂が舞い、照りつける太陽の光はスポットライトの筈なのに、外の太陽と同じような熱量を感じる。
まるで、ステージと客席の境にあった幕が二つを完璧に遮断した別世界のようで、玲夜は無意識に息を呑んだ。
ふと、左に座る飛鳥が静かになってこの砂漠を凝視する。
彼の目はスポットライトの光に反射し、林檎のように赤く染まっていた。
「………何重にも張られた魔法陣……砂漠化及び幻惑魔法もかなりの名手………アインス生徒かな……」
ボソボソと独り言を呟く飛鳥、その言葉を聞いた玲夜は、あぁ…と納得する。
アルビノ特有、全形質の魔力の帯を見ることのできる飛鳥は、この砂漠を展開する全ての魔法陣が見えているようだ。
文化祭…リンドウ祭において、魔法の使用は禁止されていない。
ジョダコンのステージも、出店の飾りもそのほとんどが魔法によって造られたものだ。
だが、この規模の魔法となると相当の魔力が失われている筈だった。
にも関わらず、こうして維持されて、暴走もないのだから、流石は大学部、と言ったところか。
「…代表者数名って………他の生徒は舞台ステージを構築するための稼働者って事か……」
「これなら代表者として踊ったほうが楽かもねぇ………まぁ、僕はまっぴらごめんだけれど」
「お前らさっきっから日本語喋ってっかァ…?」
「「日本語しか喋ってないけど」」
右隣から呆れたような声で言われるも、左隣と声をハモらせて答える。
だが、忘れそうだがこれはダンス発表会だ。
ステージに砂漠を選んだ時点で、だいたい想像はつくが、この砂の上では踊りにくいだろうし、何より砂がこのスポットライトで熱せられてとてもじゃないが暑さで倒れそうになるだろう。



ーーーーータンッ



ーーーーーー突如、この人工的に作られた狭い砂漠に、紫のヴェールを纏った青年が黄金の上を駆けた。
ヒラヒラと動くたびに靡くそのヴェールの中には、新緑のような緑の双眸。
華奢な体に巻きつくそれらの布は、黄色の世界とのコントラストでとても目立つ。
皆、呆気にとられその青年を見つめる。
…………ふと、この体育館に音楽が鳴り響いた。
それは、誰もが瞬間理解するであろう音で、完全なる"アラビアン"な曲。
ヴェールを翻しながら舞うその青年の黒のような茶髪がライトに照らされ光る。
衣装に散りばめられた宝石の煌めきは、薄暗くなっている体育館の天井、床に色とりどりのハナを咲かせた。
腰をくねらせ、腕を振り上げ、ヴェールが舞う。
たった一人の踊り子と、砂漠の世界がこの体育館全ての時を変えた。


ーーーーー不意に曲調が変わった。
ヴェールを纏った青年は最後、右手を上げ…降ろす、礼の仕草を一つして、裏へと回ってしまった。
けれども反対側から見えたその新しき青年に、皆の目が釘付けになった。
グレーの髪に赤色のターバンを巻き、上半身は露出の高い黄色の羽織。
少しダボついているくすんだ白のズボンを履いた、その青年の瞳は。
淡白な黄色と、真っ白のオッドアイであった。
誰もが息を呑むアラビアンナイトの王子の登場に、会場は大盛り上がり。
傲慢な態度を取るその王子の周りを、様々なパステルカラーのヴェールを纏った青年が舞う。
いつのまにか、背景は砂漠ではなく王宮になっており、赤い絨毯の上を跳ねる踊り子の姿に皆同じく心が踊っていた。


ーーーー最後、王子と紫ヴェールの踊り子が出会い、共に舞うシーン。
踊り子の身長が低く、そして王子の身長が高い故、遠目から見れば踊り子が女性に思えるほどだったが、それはそれで良いと。
クライマックスの音楽に合わせて足を踏み、体を捻り、ターンして。
時を忘れさせる、その踊りを終える頃には、ダンサーは汗だくになっていた。
けれども、晴れ晴れした笑顔に、観客席……玲夜達も含めた全員がスタンディングオベーション。
ダンスの中にストーリー性を織り込み、背景を魔法で展開させた、この演技は。
あの陸でさえも、感嘆と賞賛の声を漏らすほどだった。
……………ふと、誰かが言った。



「なぁ………あの踊り子と王子ってさ。【しろ百合ゆり】と【紫陽花あじさい】だよな?」


Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.20 )
日時: 2019/05/08 17:44
名前: Rey (ID: so77plvG)

一話 生徒会長と先輩


地獄のリンドウ祭が終わりを告げ、夏らしく半袖がメジャーになり始めた、ここ凛影りんえい魔導まどう学園がくえん、通称リンドウ学園。
漆黒の髪が太陽の熱でこんがりと熱くなっているのを感じながら歩く一人の生徒会長がここにいた。
「……あっつ………」
海のような深い青の瞳を持つイケメン生徒会長こと、すめらぎ玲夜れいや
[ツァオベライ・アロー]という競技において屈指の人気を誇る彼は、全国優勝者という肩書きを持っており、またその容姿と相まって業界では【魔貴公子】と呼ばれているとかいないとか。
そんな玲夜は、リンドウ学園の紺色のブレザーを脱ぎ、カッターシャツでの登校……つまりは夏服での登校だった。
それもこれも、この太陽のせいである。
まだ七月だというのに、気温28度越え。
熱中症が怖いため水分を多めに持たされいつもより重い水筒。
軽装備なシャツのくせに荷物が重装備でプラマイゼロどころかマイナスである。
さらに言えば玲夜の気分もマイナスである。
意識が刈り取られそうなほど熱せられたアスファルトを永遠と歩き続けた玲夜の視界にようやくリンドウ学園の門が見えた。
「おはようございます……」
汗を流して仁王立ちしている警備員さんに会釈して、グラウンドの土を踏みしめる。
…………警備員さん、倒れなきゃいいけどなぁ。
この暑さで水分補給はするだろうが日陰というものがない中、ずっと仁王立ちする警備員に、同情と心配の色が玲夜の顔に浮かんだ。
と、そんな玲夜を嘲笑うかの如く周りの生徒は意気揚々と校舎へと入っていく。
汗を垂らしながらも笑顔で登校する様に、信じられんとボヤきながら、直射日光がない分少しだけ涼しくなった廊下を歩いた。





「…………陸お前何やらかした」
「なァんも?………俺もセンコウに行けって言われただけだしィ、用も聞いてねェわァ」
「それはそれでどうかと思うぞ?…………いやツヴァイの担任、ホワホワしていい先生だけども」
「あー……ドライの担任に襲われかけたんだったかァ?俺がチョード休んでる時になァにやってんだかァ」
「……………うっせ」
隣を歩く幼馴染、八神やがみりくにゲッソリしながら目的の"大学校舎"へと向かう二人。
何でも、合わせたい人らがいるとかなんとか。
それを誰か、と限定して聞けなかったのがモヤモヤしているが、担任からのご指名であり、尚且つ陸も同伴ならばいつしかのドライ担任、中崎なかざき大和やまとのようにならないだろう。
そう、予測を立てて臨んでいる未知への遭遇。
正直、大学部にも玲夜のファンはいるわけで、さらに言えば大学部は陸のファンの方が多かったりする。
よくわからないが、アインス生徒であれば合同の【魔導学】で何度も顔を合わせているからわかるのだが。
同じくツヴァイであれば陸がわかる筈………なのだが。
恐らく、陸は授業を真面目に聞いていないから顔は見たことあるけど名前知らねェがオチだろう。
それか、魔導学にも選択があるため、別のコースを行ったか。
「ま、お説教ってわけじゃァねェだろォ。気楽に行こうやァ」
「お前は楽観的過ぎるんだよ…………………ん、来ちゃったよ大学部……」
なんやかんやで着いてしまった大学専用校舎。
中高と比べて比較的大きなレンガ作りのは、いつ見ても壮観である。
周りからは"何故ここに高等生徒会長と八神陸が?"という目がビシビシ刺さってきて正直なところ心が折れそうだ。
この中を歩け、という地獄のような現実に、玲夜は成すすべなく陸に手を引かれ、悪夢のような廊下を歩むことになる…………。




リンドウ学園、大学部一年【ツヴァイ】クラス。
気づけば案内されていたそのクラスに、担任が言っていた"合わせたい人"とやらがいた。
正式に言えば"二人に会いたがっている人"らしいが。
「…………ん?あれェ、"明日斗パイセン"と"彗パイセン"じゃないっすかァ。どうしたんすかァ?」
「……ん?」
ツヴァイに入って数秒。
教卓の前で仁王立ちしている一人の大学一年のツヴァイ生徒と、教卓に座っているツヴァイ生徒二人の名を、陸は口にした。
あの陸が名前を覚えている…?ではなく。
なんか凄いイケメンだぞこの二人……でもなく。
ーーーーーあれ、なんか見たことあるぞこの二人、である。
「ようこそ大学一年【ツヴァイ】へ!ボクは柴崎しばさきけい!今年で18アダルト解禁年!陸クンとは言わずもがな先輩後輩でありお友達なのですよ!」
「あ、はぁ………?」
「そしてそして!こちらは長月ながつき明日斗あすと!ボクの大大大親友なのです!」
「…………………………よろしく………」
「あ、はい………御存知かと思いますが、高等部生徒会長、皇玲夜です…こちらこそよろしくお願い致しま……す………?」
「あ〜もぉ!敬語なんて堅っ苦しいですよぅ!あ!ボクの事は気軽に"彗"でいいですからね!」
「………………………彗……皇が困ってる……そこまでだ……」
「アダッ……!?」
「あっはは!!あいも変わらず仲良いっすねェパイセン方ァ…!」
ーーーーーーマシンガントーク過ぎない???
怒涛の勢いで自己紹介されて、玲夜は相槌を打つ暇もなく流れに沿って自己紹介したが。
いやでもそれはちょっと待ってほしい、と。
キラキラとした"オッドアイ"でこちらを覗き込まれ………178ある玲夜でさえも見下ろせてしまう高身長。
切れ長の目には確かに左右で色の違う虹彩……いわゆるオッドアイ、希少な逸材だろうが。
グレーの髪がピョコピョコ飛んでいて、見ようによっては犬の耳に見えなくもない。
そんな高身長(後で聞いたら188cmだった、解せぬ)のオッドアイイケメン………柴崎しばさきけい
彼から流れるように紹介された親友とやら、長月ながつき明日斗あすとは、教卓から降りて、いつのまにか陸の隣に立っている。
暗いところでは問答無用で黒髪に見えそうな髪だが、光が当たればキチンと茶色が混じっているのがわかる。
肩まで伸びたその髪の中、緑の燐光りんこうが玲夜の目を射抜いた。
「……………………なんだ……?」
「あ、いえ…………その……」
「明日斗パイセン。多分、身長低いなこの先輩とか思ってますぜェ?」
「陸?」
「…………ワリィ」
怒ると怖い、それを重々に承知している陸はすぐさまバツの悪そうな顔で謝罪を述べる。
が、言ってしまったことの撤回が少し遅かったのか。
「……………………彗がデカイだけだ………」
少し、ムスッとした表情でそっぽを向いた明日斗に。
「あ、いえ…俺は別にそんなこと思ってなーーーー」
慌てて弁解しようと紡いだ言葉は…だが。
「あっはは!明日斗もついに後輩にまでチビ呼ばわりですか!いやぁ18にもなって165cmは低いですよね!分かりますよ玲夜……ったぁいッ!?」
思い切り爆笑して被せられた彗によって遮られ、カチンときたのかスネを思い切り蹴り上げた。
笑顔から一変、苦痛に顔を歪ませる彗をゴミを見るような目で見下ろしたあと、ポツリ。
「…………………こいつは、すぐにいらないことを言う…………頭にきたら蹴るなり殴るなり好きにしていいぞ…………」
彗の上に立ち、腕を組んでこちらを見る明日斗に、どうしていいかわからずに、とりあえず頷く。
いや、助けたいのは山々なのだが。
あいにく、命を無下に扱うのだけは許せない性分なので、と。
救助活動をしたら、真っ先にこちらの生命活動を停止させられるような気がして、玲夜は無意識に伸ばしていた手を引っ込めた。
そして、ようやく聞きたいことを聞ける、と。
「…文化祭で踊ってたのって、彗先輩と明日斗先輩ですよね?」
「はいそうですよ!あ、もしかしてもしかしなくとも惚れちゃいました!?いやぁ困っちゃいますねあの玲夜がボクに惚れちゃうなんて!」
「あ、いや惚れたとかそういうんじゃなくて」
「…………………俺は、正真正銘の男だ……あれは衣装が悪い………」
「いや明日斗先輩が女に見えたわけでもなくて…………」
キラキラした目で見てくる彗を落ち着かせ、心なしか周りの空気が重くなった気がする明日斗を宥め。
この二人、性格といい真逆すぎない?と思いながらも、玲夜は。
「………お二人の演技、とても素晴らしかったので。それが言いたかっただけですよ」
あのステージで踊りを披露していた、王子と踊り子の賞賛の言葉を笑顔で言った。
ーーーーーーが。
「おー。しょーじき、俺も一瞬誰かわからなかったですモン。明日斗パイセンとかマジで女に見えたしィ」
「…陸、お前はトリ頭か?」
パァ…と明るくなった彗はいいとして、この陸の言葉で明日斗は上げて落とすを体感した。
……………一度、上げてから落とすほど地下深くに埋まるものはない。
比べるに値しないほど、ドス黒い空気がここツヴァイに広がり始めた、その時に。
「あぁもぉ!明日斗!そんな不機嫌にならないでくださいよ!陸だって悪気があったわけじゃないんですから!」
ヒシッ!と。
勢いをつけすぎて、明日斗が後ろに倒れそうになるほどのタックルをかました彗。
ガルルル………と声が聞こえそうな程、ジト目でこちらを見る明日斗を宥めようと抱きつきながら頭を撫でる、その様子は。
……………何故だろう。
凄く、兄弟感が強かった。
身長差のせいか、彗がとても大人びて見え、明日斗が幼く見えるのだが。
いやでも待てよ、と。
冷静に考えれば、内面…つまり精神年齢的にはきっと………。


ーーー明日斗の方が年上だろうな………。


切れ目で目つきの悪い彗の中身がホワホワして誰にでも尻尾を振る犬系男子なのに対して。
眠そうに半目な明日斗は見かけによらずクールビューティ。
まるで対なる存在だ。
「…って、すっかり本題忘れてましたね。すいません、つい盛り上がっちゃって……」
ようやく機嫌が直りかけたのか明日斗がポンポンと彗の頭を撫で、振り返ったオッドアイの瞳が陸と玲夜を写す。
あ、そういえば、と。
ここ、ツヴァイに来たのは二人が陸と玲夜に用があるから、という名目だったのをすっかり忘れていた。
「別にいいっすよォ。んで、パイセンら、どうしたんすかァ?」
ヘラヘラと頭の後ろで手を組んだ陸が問う。
それに答えたのは、明日斗の声。
「………………実はーーーーーーー」
だが、続きは聞こえることがなかった。



ーーーーキーンコーンカーンコーン………。



話そうとしていた明日斗の口が、静かに閉じられる。
それを機に、ツヴァイの生徒は誰一人として喋らず、物音すら立てずにクラスは静寂に包まれた。
ーーーガララ………
「はーい皆おはよー(笑)…ってあれ?なんでここに玲夜くん……と八神がいるんだー?(爆笑)」
…タイミング悪く、このツヴァイに入ってきたのは、いつしか玲夜を襲いかけた中崎なかざき大和やまとだった。
「…………おいこら"中崎"センコー、なんで俺だけ呼び捨てなんだよォ」
怒りマークを額につけた陸が凄むも、中崎は全く動じず。
「もう授業始まってるよー(笑)これ、二人とも遅刻確定だねー(爆笑)」
逆に、嘲笑うかのように口を三日月にした、中崎に。
ぐっと拳を握り睨む陸の手を引いて、玲夜は静かに。
「…とりあえず、話は今日の放課後にしましょう。中崎先生、授業中、失礼しました」
「はーい(笑)寂しくなったらいつでもドライに来てねー(笑)」
だァれが行くかよこのヘンタイ教師ィ」
対照的に、ヘラヘラ笑い続ける中崎に、扉を閉める直前陸が中指を立てて煽ったのを、玲夜は見逃さなかった…………。




もはや遅刻は確定。
そう、クラスへ戻ってもしょうがないと結論付けた陸は、玲夜の手を取り屋上へと連れ出した。
そんな中、アインス担任である斎藤さいとう和葉かずはは、そんな遅刻者である"生徒会長"と"風紀委員長"をチラリと廊下で見かけ。
「(…………大学一年のツヴァイは中崎せんせー持ってたよな…捕まったから遅刻したのか……ごしゅーしょーさまだな、せーとかいちょー……とふうきいいんちょー………あー寝不足、カフェイン足りないコーヒー飲みたい……)」
大学は、高校と中学の教師が共に教える、という謎過ぎるシステムゆえに、こうして鉢合わせしたのだろうが、と。
次の授業で使うプリントを片手に、スッと空いてる手で携帯を立ち上げ。
"モデルのヤンキーと優等生、授業サボって屋上なうw正直美味しいネタ提供過ぎて草止まらんwwそして妄想も止まらんwwwww"
と、某青い鳥サイトで呟いた。
ドンドン"いいね"とリツイートが増えていくなか、PCと睨めっこしていた目が悲鳴を上げてきたので、携帯の電源を落とす。
ため息を一つついた後、静かに屋上へ続く階段から背を向け、眠すぎてあまり働かない頭を動かし、職員室までの道のりを辿り始めた…………。




「んで、授業サボってまで言いたいことってなんだよ陸」
ヒューと風が心地よく吹くここはリンドウ学園の屋上。
二メートル程の鉄柵に囲まれたこの屋上では、自殺者なども出ることもなく、至って普通の屋上である。
だがなんと言ってもリンドウの花こと皇玲夜は、告白の際に何度もお世話になっているため。
少し、屋上についてはトラウマものの記憶がチラホラとあったり。
……例えば、告白を承諾しなかったら飛び降りるとか脅迫されたあの男子生徒だったりとか。
まあそれは過ぎた話だ、今じゃ笑って話せるネタに過ぎない。
その過去を今は忘れ、隣に座る幼馴染へと問いかけたのだが。
「…いやァ、明日斗パイセンと彗パイセンさ。なんか今日様子おかしかったんだよなァ」
「…いや、そんな事俺に言われても」
「彗パイセンは俺の直属の先輩だ。陸上の長距離エースの白百合だぜェ」
「…………え?白百合って彗先輩の事だったのか!?」
「でェ、"魔研"の紫陽花こと明日斗パイセン」
「……………異名しか知らなかった…」
急なカミングアウトについていけず、玲夜は目がクルクルと回り始めた。
彗が陸の直属の先輩だったとは…。
そんな事より、"異名"持ちの二人とつい先程まで駄弁っていたとは、信じ難い事である。
ーーーーここ、リンドウ学園において、有名なのは生徒会長である皇玲夜の他、短距離エースの八神陸。
そして、異名持ちの"白百合"、"紫陽花"の四人だ。
異名の命名者は不明、けれどもその花の名に恥じない行いと佇まいからして、誰もが納得する異名だろう。
白百合の花言葉は【尊敬】【純潔】といったものから、【威厳】という意味まである。
噂によると、彗は普段は敬語でとても礼儀正しいが、キレると手がつけられないほどの狂犬となるらしい。
また、大学一年だというのに、真剣場になるとどこか頭一つ抜いた緊張感とカリスマを醸し出すことから名付けられたそうだ。
紫陽花こと長月ながつき明日斗あすと
紫陽花の花言葉に【あなたは美しいが冷淡だ】【無情】という、普段のクールビューティな彼からしたらピッタリの花言葉。
けれど、【辛抱強い愛情】という意味すら持ち合わせている。
いつも周りを尻尾振って歩く彗を鬱陶しそうに眺め、時には暴力を振るったりする明日斗だが。
けれども縁を切らないその思いやりと優しさから名付けられた異名。
どちらも、異名しか知らねば意味が理解できない事だろうが、会ってみてようやくわかった気がする。
ちなみに、魔研とは【魔導研究部】の略称であり、明日斗は魔研の"召喚科"の部長をしていると聞いた事がある。
何故こうもイケメンは事ごとのトップに立つのだろう、不思議なものである。
だが、そんな"凄い人"である先輩二人の様子がおかしい、とは確かに気になることだ。
「………彗パイセンがさ、少しだけ声のトーン低くすんのって、大事な事ある時なんだよなァ………」
「それって陸が部活サボってたからとかじゃなく?」
「ちげェよッ!…いや、あれは多分マジだぜ」
「……………放課後、一気に待ち遠しくなったなぁ…」
そう、神妙な顔で青空を仰ぐ陸の顔にはいつもの笑顔は無く。
…心なしか、だんだんと嫌な予感がしてきた、と。
玲夜も、心の淵に出来始めた不安が心を蝕み始めたのを、見て見ぬ振りをした。


ーーーー始めて会った有名な先輩方と会ってシリアス展開とか、シャレにならん……と。

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.21 )
日時: 2019/05/19 13:07
名前: Rey (ID: ZFLyzH3q)

二話 生徒会長はシリアスが嫌い



静かにスライド式のドアを開けた、二人は。
文字通り、目を疑った。
青く海のような瞳は見開かれ、赤い林檎のような瞳は静かに伏せられた。


ーーーーー何故、こうなってしまったのだろう。
後悔なんて言葉じゃ言い表せない、この感情が、頭と胸を行ったり来たり。
カチ割れそうな痛みの中、瞬きすら忘れ見入る目の前の"彼"を。
痛々しく包帯が巻かれ、痣が見え隠れする腕からは点滴の管が通され。
…………彼、五十嵐いがらし隣人りんとは、あのリンドウ祭二日目に、"ある事件"に巻き込まれ、こうして意識を失っていたーーーー




ーーーー1時間前ーーーーー


「あァー……ようやく放課後だァ…………」
「えっと…確か西門前だったよな…」
「ってこたァあっちだなァ。…レイ、反対な…」
「……………あれ?」
思い切り反対方向を行っていた幼馴染(方向音痴)にため息ひとつ零した陸は、ガシガシと赤茶色に染められ、赤メッシュの入った髪を掻いた。
悪気無くこちらを振り返る玲夜の手を引き、西門へと歩みを進める。
………去り際にボソリと呟かれた明日斗の言葉。
"放課後、西門に来い"
何故と問うまでもなく玲夜によって連れ出されたので詳細は不明だが、それでも"何か"があるのは確か。
それが、玲夜の告白と言うことでは無いことを祈るが………。



ふと気がつけば、西門にもたれかかっているグレーのくせ毛と、八割黒の茶髪が見えた。
「…あ!ようやく来ましたか!…もぉ、僕達だいぶ待ちましたよ!?」
「……………………まだ三分しか経ってないが………」
「いいや三分"も"待ちました!僕達の方が先輩なので言うことは絶対です!」
「…………………陸、玲夜。お前達に来てもらった、その理由だが……………」
「ちょぉ!?無視しないでくださいよぉ!?」
キャンキャン吠える大学一年【ツヴァイ】の柴崎彗。
ガクガクと冷静に話を進める長月明日斗の肩を揺さぶるも、全く動じていない。
流石に止めた方がいいのか?と隣にいる陸に目配せしたが。
"ほっとけ"と返されたので、黙っていることにした。
「…はっ!あ、えーとそれでですね………あれ、どこまで話しましたっけ?」
「……………………話がある、というところまで、だな………」
「全く話進んでないじゃないですか!もぉ明日斗なんで進行係サボってんです!?」
「………………………コブラ、ツイスト…っ」
「あだだだだだだッッ!?ぎ、ギブギブです明日斗これ解いてくださいぃ!!!あああぁぁぁあぁッッ!!!!」


…………………黙って見てて良いのだろうか。


「………あー、これがあの二人の普通なんだわァ。あんま気にしない方がいいと思うぜェ」
「…慣れてんな、お前」
高等部二年、アインスとツヴァイきってのイケメン二人は、どちらも同じくハイライトの消えた死んだ目をして目の前で繰り広げられているお手本のようなコブラツイストを見届けた。
ゴギバギと鳴っちゃいけないような音が彗のいたるところから聞こえたが、結局、明日斗から解放されたのは初めに固められた時から三分経った後だった。
「はぁ…はぁーー………ッ。もぉ…死ぬかと思いましたよぉ………」
「…………………自業自得だ……さて、話を進めるが…」
未だに蹲っている彗を足蹴に、明日斗はケロリと抑揚のない声で続ける。
新緑の双眼は、静かに玲夜と陸を射抜いていた。
「……………単刀直入に、言う。………玲夜、お前のクラスの五十嵐いがらし隣人りんと………そいつが、今入院している………」
淡々と、けれど少し言いにくそうに顔を歪めながら言い放った言葉に、思考が止まった。
五十嵐、隣人………まさしく、高等部二年、アインスの生徒であり、玲夜の隣席の男子だ。
「な、なんで隣人君が……」
「いってて………か、簡単に言うと、不良に絡まれたらしく全身打撲と脳震盪のうしんとうらしいんです………僕の兄が見つけたんです」
ヨロヨロと立ち上がった彗が、ピョンピョン跳ねた髪を抑えながら言う。
…全身打撲………のう、しんとう……?
うわ言のように口から出るその言葉に、どうしても現実感を覚えられない。
何故、どうして隣人が。
グルグルと頭の中を駆け巡るそんな子供のような疑問に、けれど。
………それを言ったところで、誰が答えると言うのか。
「……なァ彗パイセン。それって…………」
ふと、陸が恐ろしいほど静かに問うた声。
少し、違和感を感じて顔を上げると、見えたその顔はーーーー。
「……はい、恐らくは。犯行手順、そして犯行現場等々………間違い無いと思いますよ。極め付け、辺りに漂っていた魔力の帯はジャストビンゴだったので」
「…………………………そォかよ……」
目の奥に何の意思を宿していない、ドス黒い赤の目。
……ヒュ、と喉がなった気がした。
玲夜は、この目を幾度も見たことがある。
飛鳥がアルビノだと何処かで情報が漏れ、捉えようとした大人達を睨んだ目。
玲夜が複数人の覆面に拉致られそうになった時、何人かを殴り飛ばしていた、その目。
………数ヶ月前、彼の後輩が他校の生徒によりリンチに合い、大会に出場出来なくなってしまった時。
病室で、静かに後輩の痛々しい体を見たときの、その目。
…………………八神陸が、怒りを通り越して"無"となった時の、その目だった。
「やられたのはリンドウ祭二日目のジョダコン前らしいんです」
「……………………リンドウ祭は一般公開されていた。……おそらく、五十嵐隣人という生徒を呼び出してリンチにしたのに、理由はない………」
「強いて言うなら、気を引くためでしょうね。………奴らの目的が、少しだけわかった気がします」
只ならぬ陸の気配を感じたのか、共鳴するように抑揚のない、冷たい声で言い放つ大学部一年の異名持ち二人。
…………白百合と、紫陽花。


ーーーー今の二人は、黒百合と青紫陽花だろうが。


キレて無感情になった陸、そして彗と明日斗。
一般人であれば卒倒する程の威圧感が占めるこの空気…だが。
「………彗、先輩……隣人君が運ばれた病院……どこか、わかりますか……」
四人のうち、三人が怒りと殺気で思考が停止したが、玲夜は悲しみと悔しみで思考がショートした。
唯一、怒りよりも悲しみが勝った玲夜は、光が差さない深海のような暗い目をして、ボソリと呟くように言った。





中央病院、1026号室。
個室で、尚且つ普通の病室よりも一回り大きいその部屋に、五十嵐隣人は横たわっていた。
数日前までは、元気に笑っていた口は、酸素マスクに覆われ。
目尻が垂れ、子犬のようにくしゃりと笑う目は、硬く閉ざされていた。
部屋に入るまで、もしかしたら嘘なんじゃあないか、そんな夢を妄想していた玲夜も、言葉が出ることはなく。
………ただ、これが現実だと目から入る情報を脳が拒否しているのを、抑え込むしか無かった。
「……見たとおり、意識不明の重体です。たまたま僕の兄が校外で見つけたこと……それが不幸中の幸いでした」
「………………………こいつの兄は、見つけて直ぐ応急処置を施したらしい………そのお陰か、命に別状は無い………」
淡白のオッドアイが、悲しみに暮れた玲夜と無表情の陸を移す。
少し夕日が空を赤く染め始めたこの時間で、純白の病室はオレンジ色に光り始めた。
五十嵐隣人に背を向け、こちらと面と向き合って話す彗と明日斗、二人の顔は逆光で見えないが、見ずともわかる。
………そして、玲夜は五十嵐隣人をこの目で見て、ようやく陸と彗が言っていた事を理解した。
…犯行手順、場所、無差別なリンチ……そして、それによる"大会ジョダコン不出場"。
ーーーーーーまさ、か。
「……間違いねェ。これは、俺の後輩ボコった奴等の仕業だァ………ッ」
そう、聴く者の心を恐怖でふるわす、地響きのような声で、陸は握り込んだ拳の中、爪が皮膚を切り裂きタラリと流れ出す血を物ともせずに、ダンッ!と力強く……八つ当たりのように、壁を叩いたーーーー。




「…………………いいのか、伝えなくて……」
二人が去った、五十嵐隣人の病室。
残った彗と明日斗の二人は、静かに備え付けの椅子へと腰をかけた。
何も写っていないような、無情の新緑に、だが彗は何の変化なく。
「ええ、いいんです。……"アレ"は、言うなってお兄ちゃんに言われちゃってますから」
…けれど、少しだけ哀愁を含んだ声色で、言った。
少なからず、彗はこんな事態になってしまったことに対して焦燥を感じぜずにはいられなかった。
兄が見つけ、応急処置をしたとはいえ意識不明の重体。
…それが、"ただ見つけただけ"だったならどれだけ良かったか。
「…今回は五十嵐隣人だけだったのが良かったです。ジョダコンも和葉先生が代理で出ましたし」
「……………………彗」
「それでも、あの時五十嵐隣人を止める人が居たとしたらこんな事にはならなかったかもしれないです」
「…………彗」
「でも……でも…っ!…そないな事考えとっても五十嵐隣人が目ぇ覚まして怪我完治なおるなんーーーーー」
「彗ッ!」
………明るいはずの彗が、自問自答して、"お国言葉"になる、それが何を意味するのか、明日斗はよく知っていた。
普段クールビューティで無口な彼が、病室いっぱいに響く声を出したのは、紛れも無い"親友"のため。
「…………お前が、何をどう思おうが勝手、好きにすればいい…………だが、それを俺にぶつけるな…」
「………すいま、へん……」
「……………………お前が、そんな感情的になるのは、"これが初めてだからじゃ無い"からだ………だが、だからこそ、落ち着け。お前はそんな"馬鹿"じゃないだろう」
「………はい」
苦しそうに話す、明日斗の表情に、彗は冷水を被ったように思考がクリーンになっていく。
…………あぁ、またやってしまった。
感情に任せて、他人を怖がらせないようにと繕っていた"敬語"が外れた。
明日斗だったから良かったものの、これが玲夜や陸だとしたら、どうなっていたか。
「………………彗、どうするつもりだ……あの二人、意地でも奴等を見つけるつもりだぞ………」
ふう、とため息をついた明日斗が静かに項垂れる彗の頭を撫でながら、聞いた。
髪を梳かれる感覚に、心が落ち着いていくのを感じながら、彗は。
「…なら、こちらはできる限りのサポート、です。お兄ちゃんには、もう連絡入れてますし………」
「…………………そう、か…………なら、俺らも出よう……帰り、少し寄りたいところがある…」
「……もぉ…わかりましたよぅ、付き合います!」
"いつもの笑顔"を貼り付け、"いつもの口調"で空気を和ませた。
それが、今彼が出来る最大の"ポジティブ"だった。
ーーーーブー…ブー……。
制服のポケットに入れた携帯のバイブレーション。
それに気がついて画面を明るくし、メールに"未読"の文字。
送り主、"お兄ちゃん"と表示されたその文面はーーーーー。



"了解"




もうすっかり空に青色が無くなった帰り道。
似たように、携帯のバイブレーションから気がついた陸宛のメール。
派手なスマホケースから現れた単調な文面に、隣から、歩きスマホやめろと言われるも、生返事で返す。
宛先は兄、そして送り主は飛鳥。
メールボックスの未読に指を這わせ、飛び込んできた文章に、陸は玲夜の手を掴んで走り出した。
「は!?ちょ、おい陸!?」
「黙ってついてこいレイ!…飛鳥が"掴んだ"ぞォ…ッ!!」
「え、いやだから何がぁ!?」
全く予想外の事態にワーワー喚きながらも短距離エースの足に必死に食らいつく。
掴んでるのは俺の腕だろうが、そんな事を端で考えながらも、何を言っても聞かない今の陸には意味がないだろう。
数分も走り続け、持久力が乏しい彼にしてはやけに長持ちするな、と心の端で思いながらも、その足は一向に緩める気配が無かった。
中央病院から陸の家まで、三分の二ほど走ってついた家に、陸はバダンッと大きな音を立てて、転がり込んだ。
バタバタと煩く家を駆ける陸に、辺りはスクールバッグが放られ、暑いと投げ出されたブレザーが散乱し、悲惨なことになっている。
そんな廊下を見届けた玲夜は、二階から陸の声が聞こえてきて、慌てて階段を上がる。
説明すらなんもされていない身からすれば、何があったのかなど想像もつかないが。
………まさか、飛鳥が次のターゲットになってんじゃ…………。
そう、最悪の未来が頭をよぎり、ゾッと青ざめる。
二階、飛鳥の部屋の扉が開けっぱなしになっており、さらに冷や汗が背中を伝う。
「飛鳥ッ!」
同じく邪魔だとスクールバッグを突き当たりの廊下へと放り出して転がり込んだ飛鳥の部屋。
………だが。
「…あれ?どうしたんだい、そんなに汗だくになって」
「……………………ぁえ?」
キョトンと、こちらを見つめるアルビノ特有の赤い目。
目立った外傷も無く、至って普通の八神やがみ飛鳥あすか
………え???
「飛鳥ァ!早く"防犯カメラの映像ォ"!」
「もう、兄さんって本当せっかちだよねぇ…待って、今流すから」
「おう!ほらレイ、早くこっち来いよォ!」
「え、え、え」
「はい、頼まれた映像…確かに、バッチリ映ってるよ。兄さんにしては頭切れるじゃない」
「兄さんにしてはって余計だろォが飛鳥ァ!」
「え、隣人君!?待ってこれなんの映像…って防犯カメラ!?マジで言ってんのか!?」
シリアス展開から一変、ウェルカムシリアルと声を荒げて飛鳥の肩に手を置き、爛々と光るディスプレイの光に目を細める。
そのディスプレイには、飛鳥と陸が言うには防犯カメラの映像らしいが…。
「僕がハッキングしたんだよ。いくら防犯カメラって言ってもリンドウが持ってるカメラだったら、セキュリティ硬くて疲れたよ…」
「はぁ!?ハッキングぅ!?そんなのバレたら退学どころじゃ…いやまずどうやった!?」
「はァ?何お前誰の弟だと思ってんノ?俺様の弟だぞォ?だいたい、こいつネトゲのキャラの個人情報ハッキングで盗み見るようなやつだぜェ?」
「ちょ待てそれ初耳だぞ!?」
驚きの連続とはこのことだ。
数珠繋ぎに驚きが連なって、もはや隣人が入院していたあの苦しい空気と顔は無かった。
ハッキング?キャラ本人の個人情報を盗み見た??



ーーーーいや、それ犯罪だろ!?


「まぁ、それは置いといて」
いや、何を置いとくんですか飛鳥さん。
何故か言葉が出てこなくて脳内でグルグルと息巻いただけの文字になってしまった一言。
だがそんな玲夜をスルーして、飛鳥はドンドン話を進めていく。
「まず、この映像はリンドウの東門の警備室から撮られたものなんだけれど。この時間帯、ちょうど警備員が席を外していてね」
「……………ザル過ぎない???」
「警備員も人間だからねぇ…席を外すことは許しても良いんじゃないかい?」
「いやでもいなかったから隣人君は…」
苦虫を噛み潰したような顔でディスプレイの中、明るくリンドウ祭を楽しんでいる一般客の波を、無人の警備室越しに見た。
そんな玲夜を見上げて、キーボードをタンッと叩く飛鳥。
キュルキュルと映像が早送りにされ、人が忙しなく動いていく。
……………そこで、違和感が芽生えた。
「…?…飛鳥、これどのくらい早送りにした?」
「…………約一時間だよ」
「一時間!?待ってくれ………もうこの時間じゃジョダコンは始まってるぞ!?」
画面の端、日時を示す白い数字を指差してみると、そこには確かに6/26 13:14:26と表示されている。
ジョダコン開始時刻は13時から。
となると、やはり今流れている映像はジョダコン最中の映像である。
「彗パイセンらは、ジョダコン開始前につってたがァ………どういう事だァ……?」
呟くように言われたその言葉は、飛鳥によって拾われた。
「……ジョダコン開始前?そう、言っていたのかい?」
「あ?お、おう」
「………………………ちょっと、待ってね」
一瞬、考え込むそぶりを見せた飛鳥に、ハテナマークが頭に浮かぶ陸。
また、カチリとキーボードを叩いて映像を早送りにする。
タン、と停止のキーを押した飛鳥が口を開き、声に出したのは…。
「…………僕が東門の防犯カメラを見せてる理由なんだけれど…」
そこで一度切って、俯く。
両隣にいる二人の視線が、ディスプレイに呆然と釘付になっているのを感じ、飛鳥は重々しく言葉を紡いだ。




「………ジョダコン"最中"……誰もいない東門から、五十嵐隣人が校外へ連れ出されるその瞬間が写っていたから、なんだよ……」




そこには、確かに所々制服のブレザーが擦り切れ、口を切っているのか、口元に血が付着し、見るからに怪我を負っている五十嵐隣人の姿があった。
慌てて画面の端を見ると、確かにそれはジョダコン真っ最中の時間。
…そして、思えばこの時間帯は陸と飛鳥、そして玲夜が連続してステージに上がった、いわば高等部のジョダコン、一番の見せ場である。
殆どの人が体育館に集まったからか、周り誰もいないのをいいことに、五十嵐隣人は"他校の生徒"によって校外へと連れ出されていた。
「……なんで…パイセンは嘘ついたんだ……?」
震える声で、そう問うた陸に。
「……まず、なんでそれを信じたのか聞いていいかい?」
「は…?」
即答で、問いを問いで返された。
怪訝そうに兄を見上げる弟、それを横から見て、玲夜は、はっと顔を上げ。
「そうだ……確かに、そうだ。なんで俺気づかなかったんだろ…!」
「は?…何が…ァ?」
「はぁ………一瞬でも頭が切れたなんて思った僕が馬鹿だったよ…いや、馬鹿は兄さんか…」
「はァ!?」
うわ言のように自問自答を繰り返し始めた玲夜をほって置いて、飛鳥はわざとらしくため息をつく。
流石の陸もカチンときたのか、飛鳥の座る椅子の背もたれが陸の手によってギシギシと唸り始めた。
「……あのね?馬鹿な兄さんに一つずつ、丁寧に教えてあげるから、ちゃんと聞いとくんだよ?」
「んッだよ早く言えってのォ!」
「陸、これはマジで聞いたほうがいい。…正直、俺は信じたくないが…」
軽蔑、懇願、その違う目に魅入られた陸は、言いたげな口を閉ざし、静かになった。
「………まず、その彗パイセンとやら、だいぶ嘘をつくのが得意なようで。ジョダコン開始前って、どうしてわかったんだい?」
何も気にしてなどいなかった、その言葉に、陸は言葉を詰まらす。
「はァ?……それ、は……」
「その彗パイセンとやらが現場を目撃したか、それとも見た人が居て教えてくれたか、その二択だろうけれど…」
「でも、隣人君が見つかったのは校外。それも彗先輩の兄が見つけた。となると、俺が言うのもなんだけど、先輩の兄がリンドウ祭から出るか、入るかで見つけたんだろうが…………そんな時間帯じゃないだろ、これ」
「仮にそうだとしても、五十嵐隣人が暴行を受けたのはジョダコン前とも限らないよね。最中だったかも知れないし」
ツラツラと並んで行く不可思議な点。
違和感を感じていたとしても、全く見当もつかなかったのが、飛鳥がハッキングした映像と、ズバ抜けた彼の頭によってスルスルと解けていく。
「わざわざ校外に連れて行ったのが少し気になるけれど…………人の目につくのは校内よりも校外だろうし…」
顎に手を当て考え込む飛鳥の左隣。
海の目を細めて、意を決したように口を開いたその言葉に。
「……………あのさ、先輩の兄が見つけたのが校外で、この時間に外に連れ出されたんなら…」
………………陸は、静かに目を見開いた。






「校外で隣人君を見つけたのはジョダコン後で………この映像を見る限りまだ軽傷みたいだし、校外でまたリンチにされて………その最中に、お兄さんが見つけたんじゃ………」

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.22 )
日時: 2019/06/06 07:38
名前: Rey (ID: SsbgW4eU)

三話 生徒会長とスピリット・パーソナリティ



五十嵐隣人、高等部一年【アインス】の生徒。
中央病院で入院している彼は、飛鳥がハッキングして手に入れた防犯カメラの映像により、どこの生徒にやられたのか、検討がついた。
翌日、落ち込む気持ちに鞭を打ち、学校へと赴いた玲夜は、隣の空席をじっと見つめていた。
ーーーーキーンコーンカーンコーン……
チャイムと同時、アインス担任、斎藤さいとう和葉かずはが入り、だがその顔はいつにも増して酷いものだった。
「…リンドウ祭から、ずっと休みが続いていた我らがリンジンこと五十嵐隣人だが………病院で、入院している、という事を最初に伝える……」
その言葉に、クラス全体が騒めき始める。
その中、玲夜だけはじっと沈黙を貫いていた。
青く綺麗な瞳は、何の光を写さずまるで深海のように。
俯いた顔からは、悔しみと悲しみが入り混じり下唇を噛んでいる。
あたりでなんで、どうして、と言った声が上がる中、静かに斎藤は。
「……がくえんちょーセンセーが、俺のクラスだけ言っていいってな………何でも、他校生徒の暴力のターゲットになったらしい」
いつもより濃いクマの顔を歪ませながらそう答えた。
その答えに納得のいかない生徒数名がガタリと机を揺らしながら立ち上がって…。
「…やめろ」
だが、ずっと黙っていた玲夜の声によって静止した。
「隣人君の事は、俺らじゃどうしようも出来ない。先生に問い続けても、はっきりとした答えは出ないぞ」
「でもよ生徒会長!」
「でももだっても無い。………俺らに出来るのは、隣人君の見舞いくらいだ」
俯いた顔は上げられず、玲夜がどんな顔をしているのかはわからない。
だが、どんな顔をしていようなど、それを問うのは愚問だろう。
漆黒の髪はしなやかに垂れ、彼の表情を隠し、その感情を表に出さない。
だが、人一倍悲しみ、悔しんでいるのは確かだった。
「……….…そーだな…せーとかいちょーの言う通り、俺らは放課後、行きたい奴らだけ連れて、中央病院に行くことになった…って事で」
少しだけ下にずれた眼鏡をクイッと上げた斎藤に、皆も黙る。
心の中では何故、どうしての疑問が渦巻いているだろう、だが。
それを口にしたところで、現状が変わる事はない。
「………それじゃー、一限目……急遽予定変更で、道徳の授業ー………五十嵐隣人のお見舞いに行く奴、んで見舞いの品考えるぞー……」
けれど、口にして変わる事実もあると。
斎藤は、少しでも五十嵐隣人と、その家族の気持ちを軽くしよう、と。
他の生徒を巻き込み、彼の見舞いを豪華にしよう、と疲れ切った顔でニヤァ…と笑った。
その意図に気がついたアインス生徒。
言葉はいらず、同じようにニヤァ……。
「……ん?え、待って何なんでこっち見てんの…?」
と、玲夜を見つめた。
わけもわからず、ただキョロキョロと周りを見渡すしかない生徒会長に、斎藤は。
「…え、だってせーとかいちょーは行くの確定だろー……?だからまー………ほら、その地位使って"予算パクってー"…な?」
「な?じゃないですよ何考えてんですか!?」
「いいだろ皇!減るもんじゃねぇんだし!」
「減るだろ色々と!俺の人権やらパクられた予算やらが!!」
「「「まぁまぁ」」」
「まぁまぁ!?」
一体どこが良いのだと抗議の色濃く声を荒げる玲夜をスルーして、何を持っていく?やっぱ王道はフルーツか、と真剣な表情で会議を始めた我らが同胞アインスに。
「……常識は、一体何処へ……!?」
もはやこちらがおかしいのか、と洗脳され沈んだ青い瞳に映るはやつれ、けれどとてもいい笑顔の担任、斎藤さいとう和葉かずはで。
「……ここは、常識やろーが非常識やろーだ……覚えとけ、せーとかいちょー……」
背後で繰り広げられる、バレたら即退学級の話が花を咲かせている花園(話し合い)に暖かな目を向けて。
ーーーー成る程、俺は非常識人だったのか…と。
もはや弁解する気力なく、ただただ自分が悪いと思い込んで、こんなアインスが高等部の特待生クラスなんだなぁ……不思議だなぁ…と。
ーーーーなんで俺、ここにいるんだろうな……。
生徒会長という立場でありながらきっての頭脳持ち、簡単に天才と呼べる玲夜は、その頭脳を生かして、何度目かわからない現実逃避に意識をくらませた。





「………柴崎彗…長月明日斗………大学部一年【ツヴァイ】クラスで仲の良い、いたって普通の優等生、ねぇ………異名持ちがあの二人とは驚いたけれど………そこまで騒ぐほど凄いとも思えないんだよねぇ……」
無機質なブルーライトに照らされる白銀の髪は、赤い髪ゴムで緩く束ねられサラリと肩に靡いている。
八神家の二階、中々に広い部屋だったはずのルームは、ディスプレイやゲームの資料などでかさばり、なんともお世辞にも広いとは言えなくなっていた。
そんな"飛鳥の部屋"は、文字通り、八神飛鳥の部屋である。
今日も今日とて、不登校を貫き、携帯のバイブレーションが文化祭以降、霧島きりしま一東かずととかいうクラスメートからのメールが絶えずきているのを無視して。
というか、そのせいでバッテリーが減ってしまう、と充電ケーブルに繋いだままの携帯を睨む始末なのだが。
まぁそれはそれ、これはこれと。
玲夜にまで発覚してしまったハッキング能力を活かして盗み見ているリンドウ学園の個人情報。
ここまで来たらもうハッキングで食っていける気がするが、犯罪に変わりないしそんな事を陸がオーケーするわけもなく。
この現状はゲームの賞金でも食べていけてるので、これは予備知識、と。
デスクの端に置いていたペットボトルを掴んで、水を口に含みながらデスクトップの画面に映し出されているその画像と資料を睨む。
にこやかに写真に写っているグレーの髪と、珍しい瞳、オッドアイの柴崎しばさきけい
対して、九割黒の茶髪、緑の双眼で冷徹な目でカメラを睨み殺してしまいそうな顔の長月ながつき明日斗あすと
「……………なんというか、個性が強い、というか……あ、僕らも大概か……」
備考欄で、箇条書きとして書かれている文に目を通しての感想。
"個性強い"
いやお前もな、という声が聞こえた気がして、思わず声に出してしまった"僕らも"。
「………ん…?」
ふと目に留まった彗の備考欄、その内の兄がいるという言葉の下。
………気になる大学の名前が書いてあり、横に並び光っているデスクトップの画面に視線を滑らせる。
ペットボトルを置いて、右手でキーボードを叩き、情報を深く確かなものへ変える。
一番大きなディスプレイに資料を写しながら横に出る資料の多くの情報を照らし合わせて、やはり…と頷いた。
「………柴崎彗の兄って…………成る程ねぇ…そりゃ連なる恨みも多いわけだ」
"柴崎薫"
そう書かれた名前に、飛鳥は一人でに呟く。
これは、この事件は。
やはり、思っていたようになるべくして起こったものだったらしい、と。





「…………お前さァ…」
「何も言うなよ陸。俺だって猛反対したさ…でも俺は非常識らしいからな…」
「おい誰だレイを洗脳した奴出て来いやァ」
「…………やべー……俺ガメオベラするかもー……」
「その時はみんなで嘲笑わらってあげますよ先生」
「…………せーとかいちょー…?」
結局、ここ中央病院に見舞いに来たのはアインス担任、斎藤さいとう和葉かずはと生徒会長、すめらぎ玲夜れいや、そして風紀委員長の八神やがみりくの三人だけになった。
理由としては、そう大人数で押しかけても病院側からしてみれば迷惑きわまりない事。
そして、事実を知っている、という事を知っている和葉が決めたこと。
…じゃなんであんな会議したんだろね、俺わからないや。
常識人だと思っていたのが、周りから非常識人だと言われたことが案外傷になっているらしく。
ポケ〜と歩いてきた玲夜の隣に寄り添う陸は、深くため息をついた。
「だいたいよォ、俺ァ言ったんだぜェ?犠牲者増やす前に手ェ打てってよォ………あんの生徒会長ォ…!」
「………………ぅん」
「あ゛。いや、違うって大学の生徒会長のこと言って……レイィ!戻ってこォい!!」
"生徒会長"という言葉ワードに反応したらしい玲夜のあからさまなテンションダウン。
慌てて弁解の言葉を紡ぐも、玲夜のテンション右肩下がりのグラフさながら、上がることは無かった。
そんな仲良しこよし(第三者目線)の二人を一歩後ろで見届ける和葉。
すっと音もなく携帯を手に持ち、高速でメモアプリに文字を記入していく。
忘れるなかれ、この教師。


ーーーー"BL漫画家"あることを。


某青い鳥で呟いたその文章に[いいね!]がドンドンついていくのを見届けた和葉は、また音もなく携帯の電源を切り。
「……あんま喧嘩すんなよー………びょーいんに迷惑かけたら怒られるの俺なんだからなー………」
「「…はーい」」
呆れて言葉も出ない、という雰囲気を纏わせながら腰に手をつき一言、迷惑かけんな。
それで大人しく声をハモらせてオーケーと承諾する教え子とその友人。


ーーーー嗚呼、妄想が捗る…ありがとーなー…


もはや隠す気がない脳内妄想。
自身が描き続けている漫画のモデルが目の前でイチャイチャしてるのは正直目の保養以外の何者でもないのだが。
自分の立場的な意味で考えると、移動や暇を持たされればこの光景を二度と見ることが出来なくなる。
と、すればする事はただ一つ。
「……きっと我らがリンジンもお前らが来たら喜ぶだろーなー………」
"表向き"は良い教師を演じ、そしてそれなりに教師としての鑑を全うする。
生徒の反感を買う事なく、円滑に事を進めれば学年が変わっても同じ学園の教師ならば会う事は可能。
そう、和葉は内心ニヤリと笑って目の前、一歩先を歩く"推しカプ"二人(見舞い用のフルーツ等を持っている)を微笑ましく見守った。
「………なぁ、陸」
「あ?どしたァ?」
「いや………和葉先生さ、なんで俺らの後ろにいるんだ?」
「さァ?後ろは俺に任せろ的なヤツじゃねェ?」
「それどこのアクション漫画だよ………なんか、視線が俺の両親のと似てる気がしてさ…………」
「おー…………よくわかんねェわァ」
そんなアインス担任を横目に、明らかに怪しんでいる陸と玲夜の二人。
さっき迷惑をかけるなという言葉の通り、コソコソと極力小さな声で会話をするため、必然的に顔が寄るのだが。
「(………さーびすしょっとー………これは、使える……このままキスとか……いやでも…なー……)」
和葉ビジョンには、全く怪しんでいる様子は写っていない様子。
それどころか、ネタにまでされそうな勢いだ(というか多分なっている)
滅多に表情が顔に出ない和葉だからこその芸(?)
やましい事を考えていても、それが全く顔に出ないため、周りからはただやつれている先生としか思わないだろうが。
実際は、こんなことやあんなことを考えたりしているので、玲夜の父…すめらぎ蓮弥れんやとなんら変わりはない。
この病院内の患者、および見舞客や看護師までも不思議なものを見た、という目でこちらを凝視する中。
ようやくたどり着いた、五十嵐いがらし隣人りんとの病室。
意識が回復した、という知らせが届いていないから、きっとまだ眠っているだろうが。
なるべく痛まないようなフルーツを持ってきたため、大丈夫だろう。
ーーーーガラ……
スライド式の白いドアを開け、潔白なイメージである白の部屋が視界に入り、ベットを囲う白いカーテンが揺れた。


ーーーーーぁ……ぇ……!


………ほんの小さく、声が聞こえた。
それに気づいた陸が足早にベットに近づき、白いカーテンをシャッと開ける。
「…わッ!?び、ビックリした〜……」
「………………………………俺も………」
「あ、明日斗パイセン…!?なんでここにーーーー」
「隣人君!意識戻ってたのか!?一体いつ!?」
「……あれー…?……連絡きてないぞー…?」
「あ!フルーツめっちゃあんじゃん!やったー!サンキュー玲夜!あと八神とセンセも☆!」
「……………俺、ついでなのか……これでもちょー頑張ったんだぞー……?」
「オイコラ、俺をオマケみてェに言うなよ五十嵐隣人ォ」
…………話が、ややこしくなる^^
誰が誰なのか、イマイチわからなくなりそうな会話の連続。
キッパリとわかるのは、明日斗がここにいる事、そして隣人の意識が戻ったこと、そして見舞いは玲夜だけで良かったのか、という事だ。
隣人が意識を戻したという連絡が来ていなかったらしい和葉はただ首を傾げていたが、その横の玲夜(フルーツ持ち)をみた隣人は目をキラキラとさせて。
子犬みたいだなぁ、と現実逃避し始めた玲夜を置いて明日斗と陸は互いに顔を見合わせ。
「……………………なんで、お前らがここに……?」
「いや最初に言ったっすよね俺ェ!?」
指すら指されて問われた問いにずっこけそうになりながら陸はなんとか言葉を返す。
長月明日斗………彼特有の、マイペースに巻き込まれないよう、至って必死の回答である。
「…ま、まぁ……とりあえず、隣人君が目を覚まして良かったよ……怪我の調子は?」
コントのような会話を繰り広げている二人を置いて、玲夜はベットに上半身だけ起こした五十嵐隣人へと話しかける。
フルーツを腕に抱え、綻んだ顔を見れば大事なさそうに見えるが………


「ん?あ〜っとね。医者からは足骨折、背骨ヒビ入って打撲多数だと☆!マジビビるわ〜!」



…………….………………ぅん?



あれれ〜おっかしいぞ〜?↑
何やらとんでもない言葉が聞こえた気がするな〜?と。
目を開き貼り付けたままの笑顔で固まった玲夜に、追い討ちをかけるかのごとく、隣人。
「いや〜まいったね〜☆!今こうして痛み止め打ってもらってるけど、切れたらマジヤバたにえんって感じ〜☆!?」
……………………きの、せいだろうか
隣人……性格キャラ変わってね!?
「ちょっと待てェ!!おい五十嵐隣人!テメェそんなキャラじゃなかったろォ!?」
「え!?マジ寄りのマジ?俺元々こんなキャラだぜ〜☆!?」
「うっそだろお前………うっそだろお前ェ!?」
明日斗との会話に勤しんでいた陸も、流石に気がついたのか。
慌ててベットに駆け寄り隣人の肩を掴むが否や、ガクンガクン揺さぶる勢いで問いただした…が。
やはり、かえってきたのは"いつもの俺じゃん何言ってんの"である。
このキャラの変わりようは古代ローマ、暴君とも呼ばれた賢帝三代目、カリグラさんもビックリ。
というか、まさしくカリグラのそれ過ぎて玲夜は軽く目眩を覚えた。
(追記:カリグラという三代目ローマ皇帝は、賢帝だったのにも関わらず、高熱で倒れ生死を彷徨った挙句、奇跡的に復帰したのち性格が激変。それから暴君へとなってしまったキャラ変わり過ぎて草生える系皇帝である)
頭を抱えて唸り始めた玲夜の後ろ。
静かにその惨事を見守っていたアインス担任こと斎藤和葉。
五十嵐隣人が目を覚ましたという連絡が来ず、一体何があったと困惑していたら何かと話が進んでいて少し混乱状態。
はっと意識を現実へと引き戻した彼は、まぁ落ち着けヨモギティーチャー、お前はそんな慌てるキャラじゃないさ、と。
ふう、とため息一つ、そこからキリッと目筋を正し(?)、一言発した。
「………とりあえず、おちつけー……」と…。





いつまでそうしていたか。
五十嵐隣人にはよくわからなかったが、最後の記憶が名も知らず顔すらもわからない男の声だったのは確かだった。
身体中が悲鳴をあげ、身じろぎすら出来ないあの状況下で。
「……こら、マズイかもしれへんな…早う病院に連れていかな…」
ボソリと呟かれたその言葉に重い瞼を持ち上げて、"彼"の顔を見る。
ボンヤリと見えた顔は、どんよりと曇る雲のような灰色の髪と、赤と青のオッドアイ。
声を発し、手を伸ばし、彼に今先ほどの出来事を伝えようと奮闘したが、ただ身体がミリ単位で動いただけになってしまう。
そんな隣人を見て、彼は見えずとも苦々しく顔を歪めたのか。
「…………いける。次に目ぇ覚ましたら病院やさかい。あんたの友人も見舞いに来てるやろう」
少しだけトーンの下がった声で、けれども優しい声と一緒に身体がフワリと浮き上がる感覚。
背中と膝に差し込まれた長くたくましい腕は、こんな傷だらけ、血だらけの身体を気にする様子もなくしっかりと隣人を抱きとめる。
一歩を踏み出すたびに揺れ、軋む痛みに顔を歪めるも、"彼"はなるべくそっと歩いているつもりだろう。
必要以上の揺れが起きず、隣人は痛みとそれ以上の安堵感を覚えて、自然と瞼が下がる。
………本当に、なんでこうなったんだか……
未だに、自分が大怪我しているという現実を受け入れられず、夢だったらいいのにと。
こうして目を閉じ、次に目を開ければ暖かな我が家で。いつものベッドから飛び起きて、ヤバイ遅刻だと。
そんな、いつもの日常が来ればいいのに。
叶うことのない事だと知りながらも、隣人は名前も知らない"彼"の言葉を聞き、今度こそ眠りの世界へと旅立った。
「………ほんに、すいまへんなぁ……」





「って事があったんだよ☆!も〜滅茶滅茶かっこよくね〜☆!?俺マジ惚れたわ〜☆!」
「…コイツ本当に怪我人かァ…?」
「……おちつけーっていう俺の言葉聞こえてたー………?」
「あ、林檎剥く?果物ナイフあるから食べれるよ、隣人君」
「マジ☆!?あざ〜っす☆!」
「……………………………ちゃらい……」
キラキラとした目で語ってくる人格が変わった五十嵐隣人。
ジト目で本当にそんな重傷か?と疑う八神陸。
はぁ、とため息をついて眼鏡をくいっとあげる斎藤和葉。
そんな彼らをスルーして林檎と果物ナイフを手に皇玲夜、そして心底嫌そうな顔をしている、長月明日斗。
全くカオスな病室である。
骨折やらヒビが入ったやらで重傷アピールしている隣人の回想話に、陸は。
「………コイツ、頭も重傷じゃねェ…?」
と、まさしくその通りな言葉が出てきたときは、アインス担任である和葉でさえも頷いてしまった。
そんな担任に、ひどくねー☆!?っとギャンギャン吠える隣人。
………笑えないレベルで、心配なんだが、と。
玲夜はクルクルと林檎を回し、器用に赤い皮を剥いていきながら思った。
もしも、このまま彼の人格が戻らなければ、アインスのクラスメートは勿論のこと。
彼の家族や友人にだって迷惑と心配をかける事になる。
リンドウ学園の不祥事とはいえ、やはりそれだけは避けたいところだ。
サクサクと気持ちの良い音を奏でながら淡い暖色の果実を切る。
一応、と持ってきていた紙皿に切った林檎を並べて、ベッドに備え付けられた即席のテーブルに置く。
「うまそ〜!いったっきま〜っす☆!!」
途端に飛びついてきた隣人を生暖かな目で見つめながら、玲夜。
「…………さて、とりあえず隣人君が目を覚ましたのは良いことだ、そうに違いない。…………だから次は彼をこんな目に合わせた奴等をどうするか、決めよう」
一変して、冷たく光る深海の瞳に、陸は無言で頷いた。
…シャクシャクと林檎を食べながら。
「らいはい、こんはいのじけんは、あふかがじょうほぉもっへるし、なんとかなるだろォ」
「食ってから喋れ、行儀悪いな…」
本人達は至って真剣なのだから、咎める人などいるわけもなし。
和葉でさえも、口を出さずにただじっと沈黙していた。
「ん、んんっ。んでェ?生徒会長サマはどう考えてんだよォ」
大人しく林檎を飲み込んだ陸が問うたのは、このメンツでもっとも頭が切れるであろう玲夜の案。
「……正直、俺らがどうこうしてなるような問題じゃないから、最終的には警察任せかな」
「……まー、それが安全だしなー……しょーじき、俺はあんまり関わりたくなーい……」
「おいアンタ教師だろォ…」
「…命に関わる問題なら誰でもパスするにきまってんじゃーん……ねー、せーとかいちょー…?」
「あ、先生は前線で頑張ってくださいね」
「………………………んー…?」
ぱーどぅん?と。
キョトン顔でこちらを見つめる担任(和葉)に、玲夜は無慈悲に。
「このメンツで唯一の大人なんですから、頑張ってくださいね、先生」
ニッコリスマイル。
まさしく死の宣告とも言える死神の笑顔である。
これはシャレにならんぞ、と和葉は冷や汗がタラリと背中に伝うのを感じ、鳥肌が立った。
一教師として生徒を守るのは当たり前であるが、命が関わったら話は別だろう…?
そんな淡い期待も虚しく、これは本当に逃してはくれない様子。
「…….….……….…なぁ……」
ふと、聞こえたハスキーボイス。
冷淡な口調で言葉を発したのは、今まで黙っていた明日斗だった。
「…………………アンタら、犯人わかってる…のか………?」
ーーーーーーん?
「おー。目星はついてるっちゃついてるよなァ?」
「…まぁ、今回は飛鳥に感謝かなぁ…いやでも"アレ"はダメな気が…」
「いやいや、レイよォ、利用できるモンは全部利用しちまおうぜェ?」
「…………まって…せんせー何言ってるか理解できてなーい……どゆことー…?」
「…………………斎藤先生に、同じ……」
「そして俺もノットアンダースターン☆!え、何玲夜、犯人わかっちゃってるカンジ〜!?マジやばたにえんなんですけど〜っ☆!!」
口調から察したであろう明日斗。
陸と玲夜の二人の会話は、あたかも犯人がわかっているような話だった。
ともすれば、後から続々と知りたい知りたいと野次が飛んでくるのは承知。
そこで、二人は。
「犯人の目星はたってるから、対策も出来るはず。だから先生は前線(職員会議)で頑張ってくださいね♪」
「ソユコト。頑張れェセンコォ♪」
びっくりするくらいいい笑顔で"先生、貴方だけは逃さん"と。
警察と大人任せな作戦だという事を話し…。
ーーーー和葉は、黙って気絶した。


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