コメディ・ライト小説(新)
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- 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる
- 日時: 2019/06/06 07:39
- 名前: Rey (ID: SsbgW4eU)
初めまして、Reyという者です。
初心者ながらに、そして自分が出来る全てのギャグ力を持って
このお話を書いていきます。
どうか、誤字があっても、文法的に間違っていても
生暖かい目で見てやってください。
目次
序章プロローグ 『これが日常』 全章 >>1-22
一章 『リンドウ学園の生徒会長』 >>1-7
一話 [生徒会長こと俺] >>1
二話 [生徒会長と愉快な(?)お友達]>>3
三話 [生徒会長、部活(戦闘)開始]>>4
四話 [生徒会長の部活風景] >>5
五話 [生徒会長は部活でも] >>6
六話 [生徒会長、友との帰宅路にて]>>7
二章 『お人好しな生徒会長こと玲夜君』>>8-13
一話 [生徒会長は甘いもので釣れる] >>8
二話 [生徒会長は料理上手]>>9
三話 [生徒会長とお遊戯]>>10
四話 [生徒会長と委員会]>>11
五話 [生徒会長と予想外の事態 前編]>>12
六話 [生徒会長と予想外の事態 後編] >>13
三章 『リンドウ学園の学園風景』>>14-19
一話 [生徒会長と噂話]>>14
二話 [生徒会長と魔導授業]>>15
三話 [生徒会長と学園祭]>>16
四話 [生徒会長とリンドウ祭 中学編]>>17
五話 [生徒会長とリンドウ祭 高等編] >>18
六話 [生徒会長とリンドウ祭 大学編] >>19
四章 『関わりが少なかったはずの大学部』>>20-22
一話 [生徒会長と先輩]>>20
二話 [生徒会長はシリアスが嫌い]>>21
三話 [生徒会長とスピリット・パーソナリティ]>>22
序章
ここは凛影"魔導"学園、通称リンドウ学園。
グラウンドを囲むようにしてある赤レンガで造られた構内はとても綺麗で、誰もが羨むエリート校の一校。
偏差値はすこぶる高く倍率もハードルが高すぎて頭が届かない程。
そんな学園の設備は勿論充実しており、数少ない"大型魔導研究所"を完備、教師は勿論の事だが成績優秀な生徒は研究所の出入りを許可されている。
そんなリンドウ学園は中高大一貫であり中学の頃からリンドウだった者も、高校、大学からの編入した者だったりと、見知らぬ顔が毎年増えるのはここの普通だ。
制服の色は紺色で統一されているがネクタイの色で中学か高校か、大学かわかるようになっているので、初対面で先輩か後輩か、それとも同じかはわかるから、まぁ不便ではないが。
けれども、名札に付いている"バッジ"で学年と"クラス"もわかってしまい見下されることもしばしば…。
ーーーと、ここまで学園の説明をしたが、勿論この学園にも体育館はある。
そして、その体育館の裏は人目に付かずサボりには持ってこいの場所だが………。
ーーーサァ………と清々しい風が吹き、体育館裏にいる"二人"の男子生徒の髪を揺らした。
一人は漆黒の髪に海のような濃い青色の瞳で、もう一人の男子生徒を静かに見つめ。
そしてその瞳に見つめられている男子生徒は冷静な相手と対照的に頬を赤く染めて。
「お、俺…入学式の時から、先輩の事…す、好きでした…!俺、と…付き合ってくださいっ!」
ばっと90°上半身を折りたたんで、綺麗なお辞儀を。
ーーーーー"生徒会長こと皇玲夜"に、熱烈な告白をしていた…。
そう、つまりはこれが。
リンドウ学園の常識の一つであり、玲夜の日常。
………今日も今日とて、玲夜こと俺は男子生徒にモテるらしい。
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.3 )
- 日時: 2019/03/18 23:42
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
二話 生徒会長と愉快な(?)お友達
生徒が教室を後にして、数分後。
この教室に、救世主が現れた。
「…うっわ…こりゃまた………」
如何にも染めています、という明るい茶髪に、赤色のメッシュを入れ。
耳に金色のピアスをつけているところから見れば、まさに理想の通り(?)のヤンキーである。
金髪じゃないだけマシだが。
そんなザ・フリョウな男子生徒…クラス【ツヴァイ】のバッジをつけた、その生徒は。
迷わず机に突っ伏し微動だにしない玲夜の席へと…そして。
「おい、"レイ"。この俺が慰めてやっから、早く顔上げろ」
とても優しい声で生徒会長の愛称を呼び、サラリと艶やかな黒の髪を撫でた。
ピクリ、と反応を見せ、おそるおそる顔を上げた、玲夜に、ツヴァイの生徒は………。
「………毎度毎度、興味もない男から告られて、お疲れ様っしたァ♪」
ーーーーとてもいい笑顔で、中指を立てた。
……………………ビキッ………と。
玲夜の中で、何かがひび割れて壊れ。
「…お前なぁ…ッ!人がどんな気持ちでやってると思ってんだ!」
塞ぎ込み溜めていた哀愁全てがこの言葉により怒りに変換され、生徒会長という立場を忘れて玲夜は吠える。
…が。
「んなのシラネ。だって俺生徒会長サマみてぇに男にモテねぇしィ?」
「あ゛ぁ!?」
そんなの痛くも痒くもない、とでも言いたげな顔で、プギャーという効果音さえつきそうな程煽る、その生徒に。
…あの温厚で優しい会長のドスの効いた声が聞こえたのは、きっと気のせいだろう、とクラスメートは聞かなかったことにした。
「だいったいお前はいつも俺をからかうけどな、誰が勉強教えてやってると思ってんだ!少しは労いの言葉や感謝の意をだな!?」
「お返しはちゃ〜んとしてんじゃねェか。ほれ、悲しみが怒りになった〜。これでレイはストレスでハゲる事は無いな!」
「うっせぇ!テメェもストレスの一部ってこと忘れんなよ"陸"!」
と、"幼馴染"の名を叫んで、玲夜…愛称、レイは陸と呼ばれる生徒の胸ぐらを掴まんと立ち上がった。
陸…八神 陸は、リンドウ学園高等部二年の、【ツヴァイ】クラスであり、この学園に名を馳せている者の一人である。
そんな陸が毎度アインスの生徒から呼び出しをくらうのは、ツヴァイのクラスメートからしても日常風景であり。
そして、またそれが"フった生徒会長、傷心した心を癒して"という要件という事も、認識済み。
この会長の豆腐メンタルに心が折れそうになりながらも、それでも長年の付き合いなのだから、大体どうすれば心が立ち直るのかも熟知している。
ーーーので。
「うわ〜親友をストレスとか言っちゃう生徒会長マジありえねぇわァ…」
陸は、誠心誠意レイの心の支えになろうと頑張るのである。
それが、たとえ周りから誤解を招きそうなレッテルを貼られることになろうとも。
…陸は、自分がここに呼ばれる意味を、真っ当する(悲しみを怒りで隠す)のである。
………………いや、まぁ、ちょっとかっこよく言っているが、要約すると。
ーーーーーただ煽ってキレさせてる。
ただ、それだけである。
つまるところ、陸が呼ばれる理由はただたんにレイをキレさせるために呼ばれるだけであり、またそれのおかげで絶交するのでは、と考えた事も無くはない、ととある生徒は思ったが、案外この二人の仲は深いようで。
伊達に幼馴染を名乗っていない、とアインスのクラスメートは思った。
"…玲夜も案外陸さんに甘いよなぁ……"とも。
「くっそ……はいはいもう俺はメソメソしませんよ〜っだ……さっさとツヴァイに戻れ…」
「へいへ〜い…………お前、あんま気にすんなよ、それでお前が塞ぎこんだら誰が高等部を仕切んだっての」
…………………。
一瞬の沈黙の末、先に口を開いたのは、生徒会長で。
「…るっせ……急に真面目モード入んな馬鹿」
「はっ。もう乙女モード入んじゃねぇぞ、生真面目」
日に当たればキラキラと眩しく輝く人口茶色の髪を揺らしながら血のように赤い瞳を細め挑発的に笑ったツヴァイきっての"馬鹿"と。
真っ暗闇に溶けそうな漆黒の前髪を耳にかけながら海色の瞳をジト目として見やる"生真面目"。
…成績が常にトップを独走する生徒会長の友人は、高等部二年、クラス【ツヴァイ】の成績一番下のチャライケメン。
もはや、この二人が付き合えば生徒会長があんな落ち込む事は無いんじゃないか、的な事をボヤいていたクラスメートもいたが。
…正直言って、この二人の関係は"家族"のようなものだから、多分現実になる事はないだろう、と。
つまりは、こんな二人を見るのが大学になっても続くだろう…後5年間は、この光景を誰かが見ることになる、と。
………まぁ、この二人は良い意味でうるさいからいいか。
そろそろ"昼休み"が終わるチャイムが鳴る頃だ、と各々が机に授業の用意をし始めた……。
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.4 )
- 日時: 2019/03/18 23:44
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
三話 生徒会長、部活(戦闘)開始
キーンコーンカーンコーン………。
終学活というなの寝落ちタイムが終わった今、玲夜……いや、レイは寝起きの頭をフル回転させて、なんとか教材をバックに入れている真っ最中。
終学活に眠すぎて"ガコッ!"という鈍い音と共に机とキスする羽目になり、周りからクスクスと笑いが漏れ出たのは言うまでもない。
いくら生徒会長と言えど、それは推薦で気付けば生徒会長となっていた、要はハリボテの肩書きなので、担任の話を遮って意識を飛ばすことも珍しくはない。
授業はちゃんと受けているので成績は上位に入っているが、ホームルームを合わせて朝と放課後になると毎度猫のように眠りこけるのがここの生徒会長である。
正直、そんなものでいいのか、と物申したいが、それは置いといて。
この学園、"魔導"学園という事をお忘れになられているだろう。
ここまで魔法要素ゼロだったのだから無理もないが。
ちなみに、何故髪は黒や茶髪なのに目が現実離れしているのか、と思っただろうか。
…魔導学園というものがある時点で現実離れしているのは置いておいて。
この世界、人口の半分に潜在能力として"魔力"を宿している。
そして、その魔力は何種類も"属性"に分けられ。
【炎属性】【水属性】【風属性】【土属性】etc………。
細かく分ければ数十にも及ぶ魔力の性質。
そして、その性質の見分け方は"瞳"に反映される。
簡単に、【炎属性】であるならば瞳は赤色になるから陸は赤色だったし、【水属性】であるからレイは瞳が青い。
魔力の量も然り。
量が多ければ瞳の色は濃くなるし、少なければ薄くなる、と。
…魔法要素が少ないからねじ込んだこの世界のセオリー。
だが、レイの"部活"では、この魔法という概念がとても重要になる。
ーーーーリンドウ学園、体育館に隣接して造られている木造の建物。
入口の扉の上に【雪月花】と彫られた板が飾られた、"弓道部の部室"に、生徒会長は気怠けに、"魔弓"を担ぎながらその小屋へと足を運んだ。
ーーーー弓道部 魔弓科
このスポーツの名は【ツァオベライ・アロー】
魔術の矢、という名のこのスポーツ。
弓矢に魔力を込めて矢を放ち、どれだけ的を鮮やかに、華やかに、そして多く破壊するかを競うそのスポーツは。
多くの大会を開催させるほど、メジャーなスポーツとなっていた。
そんなメジャースポーツを部活とする魔弓科は、毎日の練習に励み、ここ【雪月花】に今日も元気な掛け声を響かせている。
「………はぁ……」
ーーーー唯一聞こえたため息の出所は、【雪月花】の隅…フローリングに魔弓を足に抱え込んで座っている、漆黒の髪…生徒会長ことレイからだった。
携える魔弓は中学から愛用する白銀の弓。
ところどころに散らばっている宝石のようなモノは、通称【魔導結晶】と呼ばれる鉱石である。
読んで字のごとく、魔力を宿すその鉱石は、自分の持つ魔力とは違う性質の魔法を使うために用いられる【魔導道具】の代表的なモノ。
このツァオベライ・アローにおいて、複数の魔法を使い華やかさを演出する為には必要不可欠な存在であり、また魔力を増幅させる意味でも重宝されている。
そんな魔導結晶をふんだんに使っているこの弓は、レイが初めてこの世界に踏み込んだ際に手に取った、いわば相棒のようなもの。
少なくとも魔導結晶はポンポン取れる鉱石では無いため、それなりに値は張るが、一生使う、という名目で奮発したものが、これだ。
ーーー【光波をも超える可能性】
レイが名付けた、この弓は。
質と量が"上"と診断されたレイの魔力を増幅させ、人の想像を、世界の常識をも変える奇跡を、という願いを込められた、この弓は。
ーーーー世界で一つしかない、レイだけの魔弓である。
「お?どーした高等部の生徒会長さんよ。ご機嫌ナナメかい?」
突如として視界が暗くなったと思いきや頭上から野太い声が聞こえる。
聴覚で伝えるその信号は…。
「…あ〜…先輩ですか……ま、そ〜ですね……また告白されまして」
この魔弓科の大学部に所属する、レイ直属の先輩の声だ。
「ガッハッハ!お前は本当に男にモテるなぁ!…っと、クヨクヨしてねぇでさっさと表に出ろい。お前さんのファンがウヨウヨだぜぃ?」
朗らかに笑うその先輩は、嫌味か皮肉か、それとも天然なのか。
レイの気分を更に悪くするファンというNGワードを吐き、疲れた〜と言いながら裏へと戻っていった。
…あぁ、打ち終わったのか。
先輩が終わり、そして自分が呼ばれた。
ーーーーつまるところ、自分の番が来たのだ、と。
レイは相棒に寄りかかりながら立ち上がり、ヨロヨロと力なく重い足を動かした。
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.5 )
- 日時: 2019/03/19 10:06
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
四話 生徒会長の部活風景
魔弓科といえど、【雪月花】は弓道部全体で使っている木造の格技室。
魔法を使うか使わないかの違いだけなので、わざわざ新しく建築しなくても、合同で使えるからいいだろう、という上(教師)の元、今日も今日とて…。
「うおぉ!!道着姿の会長かっけぇ!!」
「ヤバイ…尊すぎて死にそ…」
「生きろ!見ろ、イケメン過ぎる会長を!神のような魔法で魅せてくれる、我らがリーダーをッ!!」
「会長最高っすッ!!俺会長の矢に当たって死にたいっすぅッ!!」
「「「会長マジパネェェェエエエッッッ!!!」」」
ーーーーつんざくようなファンコールの中、集中の「し」の字もないような、この騒音だらけの中、レイは部活動をしなければならないのだった。
ああ、もう慣れたさ。これが俺の部活だ、今更何も言うまい。
騒がしすぎて文化部の代表達がなんとかしてくれ、と苦情が来るほどの熱狂なんぞ、リンドウ学園からしてみれば、もう慣れっこなのだ。
…だが、今日は何となく"嫌な予感"がする、とレイは内心げんなりしていた。
先輩が戻った後にレイは表に立ったが、何せ数十人いる部活なのでスペースが空くまで時間がある。
なのでレイが矢を構えるのはまだ後少し先の事なのだが…。
どうも、この熱烈なファンからの"早く会長を出せ"という圧力からか、レイの前の後輩はそそくさと全ての矢を射ってしまい、一礼するのを周りの部員は"うん、俺(僕)もそうする"と言いたげな目で同情した。
レイからしてみれば、すまないという思いでしかないが、ファンにあーだこーだ言ったところで。
"会長になじられた"と盛り上がること間違いなしなので、タチが悪いったらありゃしない。
ーーーーふと気づけば、レイの前には先程いた後輩がいなくなっていた。
視界に広がる青い芝生の上に浮かんでいる数多くの赤い的。
全て"魔法"で浮かんでいるそれは、空を覆い隠さんと散らばっている。
「………あ〜…ま、やるか…」
テンションダダ下がりなレイはというと、自分の番という事で道着の帯をキュッと締めて、ピン留めで前髪を横に流し留めながら、ポイントに立つ。
肩にぶら下がるようにして担いでいるエーテル・タキオンは、開放的な【演技場】の太陽光によってキラキラと光り輝き。
ファン達からの目線からだと、まるでレイの肩から"羽"が生えているように見えた。
「ヤベぇよぉ……会長が天使に見えるよぉ…」
「わかりみがつえぇ……神々し過ぎるじぇ…」
「なんか某最期のファンタジー英雄みたいでテンション上がっている俺がいるぜ」
「よう俺」
「お前もか」
…お陰で対照的にこちらはテンション常にアゲアゲである。
見物客がいるおかげでこちらのモチベーションがあがる、なんて事もまぁ無いことも無いが。
………騒がしいから集中出来ない、と言いたいのだけれど。
「おいお前ら!そろそろ会長が矢を放たれるぞ!」
「マジ!?やべ静かにしねぇと!」
「静粛に!静粛にぃッ!!」
ーーーーーシンッ…………。
清々しい程に、単純で一途なファン達のお陰で、びっくりするくらいやりやすい状況が作られるのだ。
これには毎年入ってくる新入生もびっくり。
"え…………え?"とハモるのを在校生はニンマリと見つめる。
と、ようやく場が整ったところで、レイは静かに息を吸って、吐き出す。
集中力を高めようと深呼吸し、音なくエーテル・タキオンを構える。
ーーーーーシュインッ
弓の弦に手をかければ、矢をつがえ発射する部分に"魔法陣"が現れ。
クルクルと廻りながら、それは矢の形を形成する。
数秒後には、エーテル・タキオンに煌々と輝く光の矢がつがえられ。
「………ふぅ…………」
軽く息を吐き、そして止めながらゆっくりと弦を引き絞る。
キリキリ……という独特の音を耳元で感じながら、レイが見据えるのはただ一点。
無数の的の中にある、その内の一つ。
………そして、弦が限界まで引き絞られた、その時。
ーーーーーーヴォンッ!
エーテル・タキオンに埋め込まれた数々の魔導結晶が煌き、数多くの色(魔法陣)を展開させた。
その数、おおよそ……………十以上。
エーテル・タキオン付近に現れた水色の陣を始め、矢の羽の部分にも赤い陣が廻り。
そして、的が浮かぶ空にも複数の陣が廻っていた。
思わず感嘆の声を漏らすファンや後方の先輩、後輩の声を遠くの方で聴きながら。
「…【四大元素の加護】」
その"魔法"を口にしてーーーー手を離した。
人が目視できるスピードを遥かに超えながら飛翔するその矢は、炎に包まれて。
エーテル・タキオン付近にあった水色の陣…まさしく、【水属性】の陣を潜り、炎は勢いを消し…だが。
"蒸発した水"が天へと登り、そこにあった"緑色の陣"へと触れる。
それは【風属性】の陣…触れた水蒸気は錐揉みされながら大気の変化を陣の中で起こし、人工的に"雲"を作った。
皆が上を凝視するなか、ここで視覚だけでなく"聴覚''もこのパフォーマンスに取り入れられている事を知る。
ーーーーーゴロゴロ……!
一斉に、皆が息を呑む気配を感じた。
ーーーそう、この三種の陣の狙いはーーー
ーーーードカァッッ!!!!
視界を真っ白に変え、鼓膜が破れそうなほどの轟音を持って"落ちたそれ"は。
ーーーまごう事なき、人工的に作られた"雷"である。
そも、雷とは何か。
それは、雲の中で起きる静電気である。
水蒸気、あるいは氷などの粒がぶつかり合い、摩擦を起こして発生するそれは。
限度を超え、大地が雲と逆の"極"になったことで起きる"災害"となる。
ーーーお陰で、雷鳴が轟き終わる頃には、的はほとんど消し炭になっていた。
だが、これでは四大元素では無いだろう。
四大元素、とはこの世界を構成する四つの物質を表す言葉であり。
【炎】【水】【風】【土】が全てを構成する土台になった、という考え方である。
今レイが生成した魔法陣で機能したのは、【炎】【水】そして【風】の三種。
ーーーでは、土は何処へ?
「…!」
「な、おい…嘘だろ……!?」
「え?え?なに?なにが?」
意図に気づいたであろう生徒…おそらく先輩方だろうが、驚愕に喘ぐ。
理解出来ていない後輩が、先輩方の驚きに少し不安の色を見せながら、それでも目だけはフィールドへと向けられていた。
「…雷ってのは、地面に落ちるだけじゃなく、周りにも被害をもたらす災害だ。高いところに落ちるってのもあってるが、必ずしもそうじゃない」
ーーーー答えを口にしたのは、こちらに背を向け、エーテル・タキオンを下げる生徒会長の声だった。
「だから、"土の加護だけはなくちゃいけない"。百パーセント、地面に吸収されるように、お前らに被害が出ないように」
ーーーー今度こそ、この場にいる全員が言葉を失った。
【四大元素の加護】
それは、自然の力でおきる災害と、その恐ろしさを具現化したような魔法である。
…たった、三種の魔法陣でここら一帯を焼き尽くす光と音の嵐が生成できるのだ。
だからこそ、被害を最小まで止める"土の加護"が必須。
衝撃を全て受け止められるように強化、そして全ての電気が地面に流れるように"誘導"する。
ーーーこれが、四大元素の加護
生徒会長が"自ら考案"した、ツァオベライ・アローの為だけの魔法である。
………だがこれで最後ではない。
「…ぁ……先輩方!あれを!」
一人の部員がそう声を上げて、そちらを見やれば何やら空を指差して。
キラキラと目を輝かせながら、空を見ていた。
釣られるように空を見れば……。
ーーーーそこには、美しい虹がかかっていた。
十を超える魔法陣の内の一つ。
虹とは水蒸気が太陽の光に当てられ屈折、反射しておこるプリズム現象。
まだ太陽が明るく照らしているこの時間に、もう一つの魔法陣で形成した水飛沫等を生成して、人工的に虹を作り出す。
ーーーーー的が壊れて出てきた虹は、この場にいた全員の記憶に残るものとなったのは、いうまでもない。
つまり、これがレイの魔法。
ーーー"全国大会優勝者"の、実力である。
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.6 )
- 日時: 2019/03/19 12:12
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
五話 生徒会長は部活でも
盛大な拍手と共に冷やかしの声までも聞こえる【雪月花】。
レイはいつも一発で全てを決める、という一撃必殺のようなスタンスを取っている為、一つのパフォーマンスを終えたら裏へと回る。
今回も、一礼してフィールドを後にしようとした、その時だった。
「れ、玲夜!」
ガッと肩を掴まれ、何が起きたか、ぽかんと口を開けて目の前の人物を見つめるレイに。
「頼む、俺のパフォーマンス…見てくれないか」
確か、高等部三年の先輩、クラスツヴァイの生徒だった筈だが、その先輩が"やけに熱のこもった目"でこちらを伺っていた。
ーーー俺の悪い予感、当たったんじゃね?
もはや展開が読めたので帰りたい、と切実に思うが、ここで拒否ればブーイングが飛びそうなので。
「はぁ…わかりました、見ますよ、先輩の演技」
渋々、彼の誘いに乗った。
パァッと花が咲いたように笑う先輩に、"ああ、またか"と疑念が確信に変わる。
意気込んでポイントに立つ、道着姿の先輩の背を見ながら、レイは思う。
きっと、先輩は俺がはいと言うのをわかっててパフォーマンスを見てほしいと言っている。
ーーーそれが、告白とは何の関係性もない事を願うが…………。
先輩の青い弓が光を放ち、再生された的を撃ち抜く。
レイ程ではないが、数々の魔法陣を展開して、この空気が重くなるような、独特の雰囲気を肌で感じる。
ーーーーーバンッ!
突如、一際大きな音を立てて的を撃ち抜いた矢が破裂し、光を伴う。
それに魔法陣が反応、そして風や水…光を纏い、矢の爆風を躍らせた。
レイのパフォーマンスを見た後ではなんともやり辛いだろうが、それでもレイとは違うパフォーマンスの仕方で、部員は勿論ファンの皆様も魅入った。
ーーーーが。
「ぬぁんだとぅ!?アヤツ!やりおるぞ!?」
「ぶ、部活を利用して…いや違う!俺らが見ている中でのパフォーマンスこそ狙いかッ!?」
「成る程その手があったか…」
ファンの中で、賞賛、嫉妬、そして怒りに塗れた声が次々と上がった。
………かく言うレイすら、思わずため息が零れたのだが。
ーーー成る程、確かにこれは予想外だった。
まさか…。
「…演技の最中に…クライマックスで告られるとは……」
光を反射してプリズムに光るその文字は。
ーーー玲夜、好きです、と見えた。
それも、大きな字で。
【雪月花】の上空まで見える、そのパフォーマンス(告白)は、きっと文化部は勿論、他の部活の生徒も見えているだろう。
太陽光が入る入射角と反射角を全て計算し尽くした、その文字は。
ユラユラと揺らめきながら、静かに消えていった。
ーーー弓を静かに下げて、先輩は振り向き。
「……これが、俺の最大のパフォーマンスだ。玲夜、付き合ってくれなんて言わない。ただ、これが言いたかっただけだ」
少しだけ、悲しそうに笑った。
けれど、その表情はとてもスッキリしていて、レイにはそれがハッキリとわかった。
「………先輩」
これで俺のパフォーマンスは終了だ、と裏方へと消えようとした、先輩の手を取って。
レイは、静かに言った。
「先輩、俺に好きとは"言ってない"ですけど」
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.7 )
- 日時: 2019/03/19 15:02
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
六話 生徒会長、友との帰宅路にて
「レイィ…ふふっ…おま、あんな告白のされ方…ははッ!!」
「笑うなよ陸!ってかあれどんな範囲で…」
「規模デカかったぜ!なんせ、グラウンドからハッキリクッキリ見えたからなぁ…は、ふっ…」
「陸ぅ……お前の頭に矢ぶち込むぞ…」
今日1日で二回告白されたレイは、もはやメンタルと呼べるものがないに等しい程まで削られていた。
部活がようやく終わり、ファンの花道を潜り抜けた先にいた幼馴染の姿に思い切り顔をしかめた、レイ。
それも、今もこうして笑い続けている陸のせいだった。
コヤツは人の不幸を笑う最低人間なのかと叫びたいものだ。
「わ、わりぃ…ふふっ……んぁ、そうだ。なぁ、ちと"付き合ってくれね"?」
ーーーーーーー前言撤回。
「お前は人の不幸を笑う最低人間"だな"」
思いっきり悪意しかない顔でそう言った陸に、レイは真顔で手刀をお見舞いした。
「あでッ……いや、違うって…」
「ど〜せ買い物だろ?わかってるって、さっさと行こう」
「…さすレイ」
「略すな」
勿論、それが恋愛的な意味ではないことは了承済み。
それに、こうして誘いに来られるのは今に始まった事じゃないのだが、問題は…。
「お前、誤解を招く言い方やめろよな、俺のファンに殺されるぞ」
「レイのファン、案外過激だからなァ…怖ぇわ」
校舎を出てなお、後ろをゾロゾロとついてくる気配を感じさせる、ファン(ストーカー)達である。
正直、このままスーパーに行けばなんという噂が流れるか、なんとな〜く予想がつくので。
「…っし、撒くかァ」
「それはいいんだけどさ、ちょっと手加減してね、俺お前のスピードについてけないから」
「おー…それはわかってる。ま、ここら辺曲がり角多いしいけるだろ。走るぞォ」
「りょーかい」
陸はカバンを肩にかけ直し、レイはエーテル・タキオンを担ぎ直して。
……二人は、勢いよく角を曲がった。
後方で"曲がったぞ!?" "今すぐ追いかけろ!" "会長を無事に送り届けるのだァ!"と言った声が聞こえ、レイと陸は視線を絡ませて。
ーーーコクン、と小さく頷いた。
角を曲がった直後、また少し進んだところにも曲がり角があり、そこはT字路になっていて、撒くにはもってこいの場所。
そこで二人はスピードをつけてT字路を"右折"した後にリンドウ学園へ"戻った"。
これで、完璧にファンを撒き、更に何事も無かったかの様にスーパーに行くのである。
ーーーが。
「はァ……は、ァ…ッ」
「お前相変わらず持久力無いよなぁ…」
「う、せ……俺ァ、短距離…なんだよ……ォ」
少し息が乱れているだけのレイとは別に、陸は激しく息が乱れていた。
ーーーー八神 陸
このリンドウ学園の陸上部に所属しており、彼は短距離走のエースとして有名で。
単に百メートル走で対決しても陸が圧勝するであろう、彼の足は。
けれども、持久力が乏しいためマラソン大会などでは堂々の下位に名前が乗る。
……そんな彼も顔がとてもいいしチャラいけれども優しくてこんなギャップ持ちである。
ファンクラブがないわけでは無いが、彼が"他の奴らに迷惑かけんだったら俺が潰すぞォ?"と威圧的に嗤った為に彼のファンは比較的おとなしい。
ただまぁ一応構内で会ったりしたらとびっきりの笑顔で挨拶はしたりするが、それくらいレイからしてみれば優しすぎて羨ましいくらいだ。
「ほら、スーパー行くんだろ?」
目の前にへたり込んで息を乱す陸に手を差し伸べて、レイは。
「さっさと行かないと………」
「セールの卵、売り切れるぞ?」
心底マズイ、という顔で、焦燥の言葉を口にした。
「………やべ」
顔を引攣らせてその手を取った陸は、確かにマズイ、と。
なんのために"少し早く部活を終わらせた"のか、その意味が無くなってしまう、と。
「走れレイィ!!」
「いわれなくてもぉッ!!」
慌ててスーパーへの道を走り抜けた。
途中、近所のお母様方に"あらあら、仲が良いわねぇ"と暖かな目で見られたり、子供達から"ヤンキーだー!ヤンキーが走ってるー!"などと言われたり散々だったが、背に腹はかえられぬ、と。
ようやく見えたスーパーの看板に、二人は安堵のため息を息も絶え絶えながらに吐いた。
「あっぶねェ…なんとか間に合ったァ…」
「良かったな、とりあえずこれで卵4パックゲットか」
「一人二個までだったからなァ、持つべきものは心通える友だ、マジ助かった」
…茶髪赤メッシュ(ピアス有り)ヤンキーが、スーパーの籠をカラカラと押し、セール品の卵を手に安堵している。
それが、とても奇妙な光景だったのか、周りの客はこちらを二度見しては口をアングリ開けていた。
まぁ、リンドウ学園はエリート校なだけあってこの二人はかなりこの地域では有名人なわけだが、実際ヤンキーと会長が二人揃って卵を抱えていたら誰でも二度見するだろう。
………二人とも無駄に顔が良いことも、きっと理由の一つだろうが。
「にしても、卵の他に林檎も安くて良かったな。陸って見かけによらず手先器用だし、ウサギ作れば?」
「おー……あー、でもフォーク添えねェと"アイツ"食わねェんだよなァ……」
「……コントローラー汚れるからか」
「ピンポーン、さすレイ」
「だから略すな」
緑色のスーパーの籠には卵の他に肉やら魚やら、野菜ももちろんのこと林檎も安かったためコロコロと転がりながら入っている。
正直、こんな如何にもヤンキーな見た目な陸がスーパーに入ろうものなら定員全員警戒しそうなものだが。
「…あら陸ちゃん!セールの卵間に合ったの?ってあら!?生徒会長さんじゃないの!」
「あ、どうも。お久しぶりです」
「よォ!ま、なんとか間に合ったって感じだなァ…全力疾走したから疲れたぜ…」
レジの店員さん、及び全ての店員は陸は常連、というイメージが定着している。
毎度毎度学校が終わった後にこのスーパーへとおもむき、食材を買って帰るので、しかも見た目以上にヤンキーな事をしているわけでもないので皆暖かく見守っているのである。
逆に、セールなどで人が集った時に揉め事があったりすると真っ先に解決の仲介役を引き受けるので、スーパー側からしてみれば…。
「んもう!陸ちゃんってば!そんな陸ちゃんにおばさんからのサービス!これ生徒会長さんと食べて!」
と、モンブランやショートケーキの詰め合わせをレジに通して、ニッコリスマイル。
勿論お代はいらないから、と親指を立てたレジ打ちのおばさんに。
「マジ!?よっしゃァ!」
「スイーツ…!陸、今日お前ん家寄ってく、ってか寄らせろ!」
ガッツポーズを取った陸と、"スイーツに目がない"レイがダバダバとヨダレを垂らして、脅迫のように宣言。
こんな微笑ましい光景を目の前で見ていたレジの店員さんは、もう眼福としか言いようがないだろう。
「はい!それじゃ会計ね〜!」
そんなこんなで代金を払い、一人じゃ持てないだろう、とレイが半分を受け持って、ようやくこのスーパーから背を向けるのである。
この二人がスーパーに行く、と言うことはファンの間には知られておらず、この事を知るのはスーパーの店員と、その場にいた主婦の方々のみである。
空が黄色く染まる頃、ガサガサとビニール袋が擦れる音を立てながら帰宅路に着いた陸は、静かにこう言った。
「"アイツ"最近ロクに寝てねェんだ。お前から一発言ってくれ」
普段チャラチャラと人を煽る陸とは思えないほど、静かに言ったその言葉に。
「……あ〜…はいはい。りょーかい」
もはや呆れるしかない、と。
彼がいう"アイツ"とやらの、そのロクに寝もしない有様が脳内にありありと想像出来て。
レイは、ははっ……と乾いた笑みをこぼした。