コメディ・ライト小説(新)
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- 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる
- 日時: 2019/06/06 07:39
- 名前: Rey (ID: SsbgW4eU)
初めまして、Reyという者です。
初心者ながらに、そして自分が出来る全てのギャグ力を持って
このお話を書いていきます。
どうか、誤字があっても、文法的に間違っていても
生暖かい目で見てやってください。
目次
序章プロローグ 『これが日常』 全章 >>1-22
一章 『リンドウ学園の生徒会長』 >>1-7
一話 [生徒会長こと俺] >>1
二話 [生徒会長と愉快な(?)お友達]>>3
三話 [生徒会長、部活(戦闘)開始]>>4
四話 [生徒会長の部活風景] >>5
五話 [生徒会長は部活でも] >>6
六話 [生徒会長、友との帰宅路にて]>>7
二章 『お人好しな生徒会長こと玲夜君』>>8-13
一話 [生徒会長は甘いもので釣れる] >>8
二話 [生徒会長は料理上手]>>9
三話 [生徒会長とお遊戯]>>10
四話 [生徒会長と委員会]>>11
五話 [生徒会長と予想外の事態 前編]>>12
六話 [生徒会長と予想外の事態 後編] >>13
三章 『リンドウ学園の学園風景』>>14-19
一話 [生徒会長と噂話]>>14
二話 [生徒会長と魔導授業]>>15
三話 [生徒会長と学園祭]>>16
四話 [生徒会長とリンドウ祭 中学編]>>17
五話 [生徒会長とリンドウ祭 高等編] >>18
六話 [生徒会長とリンドウ祭 大学編] >>19
四章 『関わりが少なかったはずの大学部』>>20-22
一話 [生徒会長と先輩]>>20
二話 [生徒会長はシリアスが嫌い]>>21
三話 [生徒会長とスピリット・パーソナリティ]>>22
序章
ここは凛影"魔導"学園、通称リンドウ学園。
グラウンドを囲むようにしてある赤レンガで造られた構内はとても綺麗で、誰もが羨むエリート校の一校。
偏差値はすこぶる高く倍率もハードルが高すぎて頭が届かない程。
そんな学園の設備は勿論充実しており、数少ない"大型魔導研究所"を完備、教師は勿論の事だが成績優秀な生徒は研究所の出入りを許可されている。
そんなリンドウ学園は中高大一貫であり中学の頃からリンドウだった者も、高校、大学からの編入した者だったりと、見知らぬ顔が毎年増えるのはここの普通だ。
制服の色は紺色で統一されているがネクタイの色で中学か高校か、大学かわかるようになっているので、初対面で先輩か後輩か、それとも同じかはわかるから、まぁ不便ではないが。
けれども、名札に付いている"バッジ"で学年と"クラス"もわかってしまい見下されることもしばしば…。
ーーーと、ここまで学園の説明をしたが、勿論この学園にも体育館はある。
そして、その体育館の裏は人目に付かずサボりには持ってこいの場所だが………。
ーーーサァ………と清々しい風が吹き、体育館裏にいる"二人"の男子生徒の髪を揺らした。
一人は漆黒の髪に海のような濃い青色の瞳で、もう一人の男子生徒を静かに見つめ。
そしてその瞳に見つめられている男子生徒は冷静な相手と対照的に頬を赤く染めて。
「お、俺…入学式の時から、先輩の事…す、好きでした…!俺、と…付き合ってくださいっ!」
ばっと90°上半身を折りたたんで、綺麗なお辞儀を。
ーーーーー"生徒会長こと皇玲夜"に、熱烈な告白をしていた…。
そう、つまりはこれが。
リンドウ学園の常識の一つであり、玲夜の日常。
………今日も今日とて、玲夜こと俺は男子生徒にモテるらしい。
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.13 )
- 日時: 2019/03/22 09:00
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
六話 生徒会長と予想外の事態 後編
下校時に見つけてしまった果たし状に、どうしていいか分からず、けれども一応校舎裏に行かなければ差出人はずっと放置されたままだろう、という事で。
ーーーー陸と相合傘をしながら、"屋根のない"校舎裏へと向かっています。
正直、震えるほど怖いです。
いやだって、果たし状だよ?俺なんもしてない善良な一般市民のうちの一人よ??
ワンオブリンドウ学園生徒よ???
なんで果たし状が下駄箱に入ってるの!?と
誰にぶつけていいかもわからない、悲痛の叫びを噛み殺して、レイはただ無言に、パチャパチャと水たまりに足を踏み入れる毎になるその音を聞きながら、重々しくため息をついた。
ーーーーこの角を曲がれば、校舎裏である。
隣で傘を持つ陸の手も、少し強張った。
果たし状と書かれた紙はレイのポケットにある。
普通に考えて、果たし状といえばヤクザあたりが突きつけてくる宣戦布告の意思表示だ。
と、いうことは。
もしかしたら、この果たし状と書かれた紙の差出人は、陸の後輩である中学部のリンチ事件(命名、陸)の犯人かもしれない。
そう思って、陸は傘の取っ手を握り潰すように、硬く、強く握って、気持ちを落ち着かせた。
ーーーー傘が喋れるとしたら"なんでや俺関係ないやろ"とでも言いそうだ。
そんなこんなで、覚悟を決め、校舎裏へと続く角を曲がると………。
ーーーーーそこには、傘もささずに仁王立ちで背を向ける、学ラン姿の男五人。
真ん中に佇む、やけに大柄な男は金色に髪を染めており、周りにいる四人は、なんとなく舎弟のようなオーラを醸し出していた。
ーーーーーつまりは、完璧ヤンキーな五人組だった。
ふらりと倒れそうになるレイを支え、陸は静かに。
「………よォ。テメェらが果たし状の差出人かァ?」
けれども、隠された殺意で威圧的に放たれた言葉を。
………傘に当たる雨音だけが、耳に響く中。
数秒の沈黙をもって、リーダーらしき男が、静かに振り返った。
「……………貴様は……玲夜さんの、なんなのだ……?」
ーーー切れ長の瞳には、怒りが隠され、レイは無意識のうちに一歩後ずさり…肩が、雨に濡れた。
「あァ?………簡単に幼馴染かァ?」
「幼馴染…………相合傘、する程の仲が、幼馴染………?」
「は?相合傘する程って……別にィ、俺とレイは恋人でもなんでもなーーーーー」
「恋人だとォッ!?」
プルプルと震えていた男が、一際声を荒げたのは、"恋人"というワードらしい。
めんどくせェと顔に書いてある陸の横顔を見れば、こんな奴らにアイツはやられたのか、と悔しさに歯を噛んでいた。
「貴様ァ!玲夜さんと恋人などと抜かしおってェ!!」
だが、その表情を相手は"嘲笑い"とでも見えたのか、怒りに顔を赤く染めて、拳を握りながらこちらへと駆けてきた。
それにいち早く反応した陸は。
「はァ!?ッチィ!レイ傘持ってろッ!!」
「は?え、え!?」
カバンを投げ捨て、傘を強引にレイに手渡して、同じく拳を握り、反撃の体勢をとった。
陸よりも一回り大きな体を持つ男の拳が陸に振りかざされ。
「陸ッッ!!」
思わず叫んだ、その時。
「…おッせェんだよデカブツがァッ!!!」
「ガ、はァ…ッ!?」
残像さえ見えそうな瞬発力と回避術により拳を躱した陸のカウンターが、男のみぞおちにクリーンヒット。
肺の空気が押し出され、咳き込み隙だらけになった瞬間に。
「…おい、テメェよくそんな腕で俺に勝とうなんて思えたなァ?」
ガッと染められた金髪を掴み、お?と凄んで見せた。
それを、悔しそうに見上げる男の姿。
ーーーーあれ?
「…あ〜……俺が言うのもなんなんだけどさ……そこの四人、助けなくていいの…?」
いかにも、リーダーがやられてます、という状況にも関わらず、舎弟(と決めつけている)四人は微動だにしない。
………ずっと、背を向けたままなのだが。
すると、四人のうち一人がくるりと振り返り。
「………すいませんね…兄貴が突っ走って…」
ペコリとお辞儀をした。
唖然とする中、他の三人も振り返って。
「「「すいませんでした………」」」
ーーーー口々に謝罪の言葉と、謝罪のお辞儀をし始めた。
「え、と……?」
まさかの展開に心が置いてけぼりにされたレイは、ただ混乱するばかりで。
「…何、こいつら何しに来たんだァ…?」
男の髪を掴んだままお辞儀している四人を一瞥する陸の言葉に、反応したのは、ずっと髪を掴まれて強制的に上を向かせられているリーダー格の声だった。
「……俺ぁ…ただ、自分の無念を"果たしたかっただけ"なんだよ……」
「あァ?」
土砂降りの雨の中、確かに聞こえたその言葉に、陸は男と同じ目線までしゃがんで。
「なんだァ?言いたいことあったら言ってみろやァ……場合によっちゃ相手になんぜェ?」
暴力沙汰になるのであれば、正々堂々勝負しよう。
売られた喧嘩は買う主義だ、と強調する陸。
ーーーーだが。
「違うんス……兄貴は、ただ玲夜さんに言いたいことがあって来ただけなんスよ…」
顔を上げた舎弟組の一人が、そう言った。
「え、俺に?」
「はいっス………兄貴はーーーー」
思わぬ話題の振り方に素っ頓狂な声を上げたレイ。
そして続いた舎弟君の言葉は…。
ーーーprrrrーーーprrrrーーーと。
何処からか鳴り出したコールの音によって途切れた。
「…あー…悪ィ、俺のだわ。とりあえず、レイに何かしようとしたら正当防衛でぶん殴るからァ、そこんとこよろしくなァ」
胸ポケットから取り出した携帯を見ながら、陸はそう言って数歩下がった。
ようやく頭が動かせるようになったリーダー格の男は、ヨロヨロと立ち上がり。
「……玲夜、さん………」
切れ長の瞳を、雨のせいではないだろう潤み方で向けた。
ーーーーーあっれぇ…なんかいやぁな予感するぞ〜?
「え、それマジでェ…?」
『うん。"立花魔導高等学校"っていう偏差値は下の中くらいの高校の三年。ごめんね、連絡入れるの遅かった?』
「あー……あァ、ちょいと遅かったなァ…」
携帯の画面に表示された名前は"飛鳥"
珍しい、と思い電話に出れば、少し聞き捨てならない言葉を聞いた。
ーーー『兄さんたちが帰って来る前に組んでたサブキャラのパーティで、レイに明日…つまり今日告白するって男子生徒がいてね。話からリンドウじゃなさそうで、少し気になったから"ハッキング"して調べたんだけど。それがどうやら純不良らしくてねぇ……少し危なそうな気がしたんだけど、今朝言いそびれちゃって』
「いやその前に堂々と犯罪犯したって言われた兄ちゃんの気持ちになってくれるとありがてェなァって」ーーー
全く、頭が良すぎるのも困るもんだ。
ハッキングだなんて、そんな物騒な事を平然とするそのメンタル強さを、陸は現実逃避として過大評価し、なんとか乗り切った。
そして聞き捨てならなかった言葉二つ目。
レイに告白しようとしている男子が純不良。
ーーーーまさしくアイツらじゃねェか。
朝バタバタしていなければこの情報を今朝知れたのに、とド忘れしていた自身の海馬を呪った。
冒頭の会話から察するに、少し落ちこぼれな生徒がレイに一目惚れして、告白するぞ、となったらしい。
あの熊のような身体して脳内乙女か、と突っ込みを入れたかったがーーー。
ーーー「俺、玲夜さんの事が好きだ!付き合ってくれッ!!」
まさしく、予想していた言葉が彼の口から飛び出して、その突っ込みは保留になった。
『……僕まで聞こえちゃったよ……兄さん、なんとかレイを家に送り届けてね』
「おー……頑張るわァ…」
飛び火で聞こえてしまったらしい電話越しの飛鳥の声は少し上擦っていて。
生の告白だなんてそうあるもんじゃねェしなァと、レイのお陰で慣れたその言葉に恥じらう弟に、少しだけ愛着が湧いたのは内緒にしておいて。
告白され、そしてその次にレイが取る行動はただ一つ、というのも承知の上。
「…ごめん、それは出来ない」
タンッと電話を切る赤いマークをタップしたと同時に聞こえた、無機質な声。
見れば、俯いてその顔は見えない…けれど、相当の罪悪感を滲ませているであろう、その顔が、陸には見えた。
「……そう、か……そうだよな……玲夜さんが、俺なんかーーー」
「でも」
フラれた事に悲観し始め、雨に隠れて泣きそうになった、立花魔導高等学校三年の実質の先輩(飛鳥ペディアより抜粋)に。
レイは、静かに持っていた傘を傾けて。
「………告白する勇気を持っている貴方は、きっと他の人を助ける為の力を持っているって信じてるから。だから、今こんなところで風邪ひかないで、誰かのために生きてみよう?」
ふわりと、花が咲いたように微笑んだレイの姿に。
リーダー格の先輩を始め、舎弟組の中でも"なんて…なんて心が綺麗な人なんだ…"や"俺…俺ぁこんな潔白な人と今まで会ったことねぇよぉ…"などといった声が上がり始めた。
ーーーーあー…出たよ、レイの無意識人間タラシ癖…。
小学の頃からあったその癖に翻弄される同級生、後輩、先輩…そして教師の方々を特等席(レイの隣)で見続けてきた陸こそわかる、その魔性。
傷心した心を癒すべく語りかける暴力的な優しさを持つ言葉をかけて、その心を魅了する、レイの無意識行動の一つだ。
リーダー格の先輩はフラれた事に対して傷心、舎弟組はそんな兄貴を見て傷心……後にレイのホスト魂によって陥落した模様。
だが特に傷ついてもない第三者(陸)からしてみれば。
ーーーー告る勇気あんだったら他の事に活かそうぜ?そんなヤクザしてて人生楽しいか?
……………これを、ホストのように優し〜い言葉に変換すれば、ああなる、と。
陸だけは本心の心を見破って、あいも変わらずその"腹黒さ"は変わらないようで、と肩をすぼめた。
「…そういえば、なんで果たし状?」
思い切り傘をさしてあげながら聞いたレイの素朴な疑問。
告白するためなら、何も果たし状と書かなくてもいいだろう?と。
「あ、いや………さっきも言ったが、俺のこの願いを果たす為の手紙で……」
ーーーーーーーはい?
「え、じゃ何……結局決闘とか、そういう暴力的なものじゃないわけ?」
「あ、俺らが言うのもなんでスけど……兄貴、こう見えても喧嘩弱えんっス」
「………え?」
「あー、だよなァ。あの振りかぶり、完全にど素人の動きだったからよォ」
「……え??」
予想外の言葉だらけに、またハテナマークが頭脳を占領し始めたレイ。
くるくると目を回しそうになりながらも、とりあえず果たし状は"彼にとっての"果たし状だった、という事で解決。
ーーー後は。
「…コホンッ……最後に…ここ、凛影の漢字は英語の"英"じゃなくて、"影"だからな」
ずっと気になっていた、漢字のミスを直して終わりだ、と。
ーーーーしかし。
「そうだったのか!……あ、なんだっけ……え、エンドウ学園?」
「リンドウ学園!!それ美味しい豆!!リンドウは"えやみぐさ"とも言われる紫の花だ!!」
「「「「「「リンドウって花の名前なのかァ!?」」」」 」」
「知らなかったの!?っておい陸いたのバレてるぞ!!お前なんでリンドウ学園の生徒なのに知らなかった!?」
ーーーー思わぬ未知の発見により、仲良くハモった五人プラス一人に。
レイは生徒会長というのも忘れてただただ叫んだ。
"お前らちゃんと勉強しろ"と………。
「たっだいま………疲れたぁ………」
あの後、俺らはもう十分濡れてるんで、傘は二人で使ってくれ、と走り去っていった五人組を見届けて、無事に(?)家へと帰ってきたレイ。
一日ぶりの我が家に、ヘナヘナと座り込んでしまいそうになるのをこらえ、リビングへの扉を開けた。
「…あら?おかえりなさい!一日ぶり………ってぇ!貴方肩濡れてるじゃないの!?何やってるのよ風邪でもひいたらどうするつもり!?」
愛嬌のある笑顔を貼り付けながらクネクネとこちらへ躍り出た、その女性は。
レイの肩が濡れているのを発見した途端、人が変わったかのように形相が変わり、喚き始めた。
「うるさ……大袈裟だな"母さん"……たかが肩濡れたくらいで…」
「何が肩くらいよ!?って、まさか貴方風邪ひきたいの…!?」
「は?……ぁ……んなわけーーーー」
思い違いでなんと言い出すかわからない"実の母"の言葉を止めようと静止しようとした言葉は。
「ダ〜リンに看病されてもらいたくて、その後はにゃんにゃん展開を御所望なのっ!?」
疲れ果てたレイの心を、更に削らせる"貴腐人"の発言によって、もうどうでもいいや、と静かに口を閉じた。
そう…レイの母親は……腐っている。
世間一般でいうところの腐女子…だが。
年齢が年齢なので、今は貴腐人である。
本人が言うには腐ってから35年は経つそうで。
さらに、憎いことに母は顔がとても整っている。
変に若作りをしないせいでナチュラルメイクでも相当若く見えるその美貌と、明るい性格ゆえに落としてきた男は数知れず…だが。
ーーーーー腐っていたため、誰も彼女を理解できなかったため、長くは続かなかったそうだ。
けれどもこうしてレイはこの世界に産み落とされ、更に母の美貌を受け継ぎ男子生徒から告白され続ける日常を送っている。
だから、結果的には結婚しているのだ。
ーーーー結果的に、は………。
「…おい、煩いぞ"晴香"。テレビが聞こえないだろ」
「あ〜んごめんなさいダ〜リンッ。今すぐ玲夜をお風呂に連れて行かせるわ〜ん!」
「え、ちょ、なんで父さん帰って…いだだッ!引っ張るなよ母さんっ!」
嵐のように身を翻し、風呂場へと連行されるレイが見た、その男は。
母に負けず劣らずのルックスを持ち合わせた、いわば中年のイケオヤジ。
メガネをクイッと上げる仕草だけで、一体何人の女性を手玉にとったのか…。
そんな男を"父さん"と呼んだレイ…まぁ、つまりは、そういうことである。
現在進行形でレイの腕を引っ張る、"皇 晴香"…レイの母親と。
"皇 蓮弥"…レイの父親。
真反対のような性格の二人だが、この二人は他の異性など目に入らないような、そんな共鳴力を感じ、今に至る。
ーーーー大体察するだろうが。
父…蓮弥が見ていた、テレビこそ…。
『ちょ、おい…誰か来たらどうす…ッ!』
『へェきへェき…それより、早く続き…な?』
『馬鹿野郎!って、おい脱がすなぁ!!』
ゴリゴリの、BLアニメ…それも少しハードなもの。
つまり………腐男子であった。
しかも、このアニメは確か母、晴香が漫画で持っていたもののオンエア版だったはず。
ーーーー以前、オンエアされる前の話だが。
陸を家に招き遊んでいた時に、晴香が部屋を強引に開けて。
「玲夜〜?陸君〜?ちょおっと"これ"、音読してくれなぁい?」
ニヤニヤと笑いが溢れていた、母の手には。
………それはもう、明らかなBL本で。
更に言えば、表紙でなんとな〜く察した、登場人物とその立場的なものが。
"黒髪優等生が受けで、茶髪ヤンキーが攻め"という。
ーーーーーこの母親、息子と幼馴染でBL妄想してんのか
その時は髪を染めていなかったが、ウィッグで茶髪としていた陸だったため、その本とほとんど同じ立場な現状が出来上がっていて。
そして、その日は休日だったために。
「…玲夜、陸君。もしやってくれたら好きなゲーム一つ買ってあげよう」
ーーーーこの、腐男子までいやがったのだ。
「ゲーム!?マジでェ!?」
「おい陸よせ、俺らのプライバシーに関わーーー」
「決定ねぇん!それじゃあ、カメラ用意するから待っててぇん!ダ〜リンカメラカメラぁ!」
ゲームを買ってあげる。
その誘惑にあっさりと負けた当時中三の陸と、巻き添えを食らったレイ…そして意気揚々とカメラを取りに行く実の両親……。
今思えば、ゲームを買ってあげるという誘惑に負けたのは、新しいゲームを飛鳥にあげたかったから、なのかもしれないなぁ、と思いつつある。
ってか絶対そうだと思う。
ーーーと、まぁ俺の両親は全くもって普通じゃない。
自分の息子を妄想のネタにする親は、少なくとも多数いるわけじゃないと、そう思いたい……。
そう、濡れた制服をなすがままに脱がされ、デュフフ、と気持ち悪く笑う母を見ながら、レイは早く寝たい…と現実から目を背けた。
ーーーーああ、父さんが今日早いのって、リアルタイムであのアニメ見たかったからか………とーーー
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.14 )
- 日時: 2019/03/24 09:08
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
三章 リンドウ学園の学園風景
一話 生徒会長と噂話
昨日、ヤンキー達に絡まれ、果たし状という紛らわしいラブレターの末、いつも通り告白されてフッて。
ようやく帰ってきた我が家には息子で妄想を捗らせる実の両親に捕まって……。
正直、寝れた気がしない、と寝起きのレイはいつも以上に声のトーン低く"おはよ"とリビングへと降り立った。
ちなみに、この家は八神家と同じように二階建てであり、一階はリビングと両親の部屋…つまりは生活スペースが主であり、二階はベランダとレイの部屋、という構造である。
が、両親の部屋の真上がレイの部屋なため、二人の会話が聞こえることもしばしば……。
それら全て、レイと陸…更には飛鳥も交えた妄想話だった時は毎回悪夢を見る。
「あぁ、おはよう」
「…んぁれ……なんれ父さんいるんだ…」
「おはよう玲夜!ダ〜リン、今日有給とったんですって!だからぁ、今日は一日中家にいるわよぉ!」
「………同性愛についてとやかく言わないけどさ………俺らで変な事考えんのやめよ…?」
意識が半分夢に浸っていたレイだが、父…蓮弥が携帯から顔を上げて軽く微笑んだ、その姿に。
ハテナ?と首を傾げるも、答えたのはキッチンに立つ母、晴香の声で。
…いや、この二人が一日中いたらどうなるのか考えたくもない、と。
どうせ、昨日オンエアされていたアニメを繰り返し見たりだとか、また新しいタイトルのコミックを漁ったりするのだろう。
………出来れば、その集中力を他の事に活かして欲しいが。
「変な事?お前を愛している証拠だ……ろ」
だが、BLを変なこと、と反応した父が口走った言葉に…だんだんと顔が赤くなっていくのを母が携帯で連写しながら。
「あら!?ダ〜リンッデレモード!?」
「忘れろ晴香、俺は何も言ってない漫画の朗読をしただけだ」
「嘘よだってダ〜リンが読む本はそんな少女漫画要素の薄い本って知ってるもの!あ、私今上手いこと言ったかしら!?」
全ての家事を放棄して癒しデータを量産する母親に、くいっと服の袖を引っ張ったレイは。
「…………俺お腹空いたんだけど…」
上目遣いで、ムスッと頬を膨らませ、そう言った。
「……………………」パシャ
「ちょ、何写真撮ーーーー」
「晴香、焼き増しラミネート加工だセブ◯イレブンへ走れ」
「もちのろんよ待ってて財布の有り金全て投資してくるわ」
「え、ちょ、財布持ってどこ行く……朝ごはんはッ!?」
ーーーーこの後、知らんぷりを決め込んだ父を殺意のこもった目で見つめながら、レイは渋々家を出た。
流石に朝抜きというわけにも行かないので、途中みんな大好きマ◯クに寄ってハンバーガーを頬張っていたのはリンドウ学園の生徒が目にしてその日のうちに拡散されたのは言うまでもない。
ーーーー突然だが、このリンドウ学園の生活風景を観察したいと思う。
ここ、【アインス】では今日も机の中にラブレターが仕込んであって朝っぱらから項垂れている生徒会長はとりま置いといて、と。
リンドウ学園は珍しく、担任がほとんどの教科を担当する、いわば小学校と同じ体制をとっている。
…まぁお金がかかるからとかいう大人な事情が絡んでいることは伏せて。
そんな、今日も今日とてホームルームが始まったアインスでは。
……そう、今日も、今日とて……。
「…ぐっどもーにんぐ、しょくん……おれはぐっどじゃないがな…ははっ……」
(((毎度思うが先生は何に追い詰められてんだよ)))
この、無駄に顔がいい癖にクマが取れない、完璧不健康の代名詞である担任の、げっそりとした声で学園生活が始まった…。
思い切りやる気削がれるとか、そんな事はもう今更だ。
学年が上がって二ヶ月経った今…つまり"六月"なわけだが。
…昨日の土砂降りも梅雨だったから、傘を持っていくのを忘れた自分の頭の悪さに反吐が出たが、それはもういい。
過去は過去、今は今だ、と割り切って……ラブレター貰って返事どうしよ………。
と、割り切ろうとしたが割り切れない事情にガンッと頭を打ち付けた生徒会長はおいといて。
「おいそこのせーとかいちょー………眠気を抑えるのであればコーヒー飲めコーヒー……俺はエスプレッソ3杯飲んだぞ〜……」
「いや先生多分玲夜は寝不足じゃないかと」
「ってかエスプレッソ3杯って下手すりゃ死ぬんですが…?」
「まず胃が荒れてヤバいだろ…ってもう慣れて大丈夫か、先生なら」
ビシィ…と指を指されたレイだが、全く顔を上げるそぶりを見せず石像のように動かないレイに、もう慣れたわ、と皆黒板を向く。
唯一隣が"おい、早く起きろよ"とツンツンしているだけで、もう他は授業モードに突入だ。
「…はいこれで授業を終わる……起立、礼…」
「「「ありがとうございました」」」
ーーーキーンコーンカーンコーン……。
チャイムが鳴り一限目が終わると同時に、レイは着席するの事なく教室を出るのを、担任は虚ろな目で。
「…まぁた告白かぁせーとかいちょー」
皮肉か、それとも嫌味なのか。
呂律の回っていない口調で、担任……斎藤和葉は言った。
中性的な名前だが、れっきとした男性教師である。
「先生、頼みますから正気保ってください。どっちが教師なのかわからないですよ………って、なんですかその目。そ〜ですよ、別に今に始まった事じゃないでしょう」
「知ってる。………お前、大変だなぁ。俺ら教師の中でも人気っていう情報…いるかぁ?」
「もうあげてるじゃないですか……え、俺そんなに…って時間やば…それじゃ先生、次の授業もよろしくで〜す」
けれども、これも慣れだ、塩対応塩対応と目すら合わせずに淡々と喋るレイ。
授業は真面目に受けるので眠気は吹き飛んでいるようだ。
パッチリ開かれた海の目は寝不足でハイライトが死んでいるこげ茶色の目を射抜き、ため息混じりにヒラヒラと手を振った。
ガラガラ、と教室の扉を開けて、ラブレターの書いてあった【ドライ】までわざわざ出向く。
普通ラブレター書いた方が行くんじゃねぇの?と思うが、この差出人は意外と賢い。
まさにその通り、だから【ドライ】の生徒を"わざわざ"レイが呼びに行く……となると、周りの目からはレイ"が"ドライの生徒に何かあるのでは?と思うわけで。
ーーーーいやまぁ、この作戦も何回かあったからみんな察して目を合わせてくれないけど
そんなわけで、ドライの扉を開ければ騒めきが一瞬にしてシーン…とお亡くなりなったようで。
ただ一人だけソワソワと顔を赤く染めている男生徒がいたが、きっとあの子だろう。
「…えっと。とりあえず、この手紙の差出人は………」
まあ確認は大事だ、何事も…というかこういう事の確認は大事だろう少なくとも。
そう思ってポケットに忍ばせていた手紙を取り出すと、真っ先に反応した…その差出人。
「僕だよー玲夜くーん(笑)」
ヒラヒラとおちゃらけた風に笑う"ドライの担任"に。
「………はぇ?」
思わぬところから声が上がったため、「はい?」と言おうとしたのだが「え?」と混ざり変な返事になった。
え、待って待ってなんでドライの担任…あ、和葉先生が言ってた事ってこれ…?
「…あの、別に俺じゃなくても良くないですか、これ」
「あはは、これ僕一人じゃどーにも出来なくてさー!いやー助かった助かった(笑)」
「…(笑)ってわざわざ言うのやめません?」
「えー(笑)」
上半身を覆い隠すほどの段ボールを担がされて、生徒会長こと俺はドライの担任兼ラブレター(?)の差出人と、廊下を歩いています。
ーーーー正直、ぶん殴りたくなりましたけど、なんとか持ちこたえてます。
ジト目で隣を歩く高身長眼鏡イケメン(教師)に、レイは重くため息を吐くが、それすらも相手の笑いのツボに入るらしい。
なんともやりづらい相手…レイが苦手とするタイプの一人だ。
「ってか授業始まるんですけど…どうするんですか」
「んー、僕に連れ出されたって言っといてー(笑)」
「だから(笑)って言わないでください。…貴方クラスの担任って立場理解してます?」
「あはは、玲夜くんは厳しいなー(汗)」
「…………もう、ツッコミませんからね」
ようやく見えてきた職員室にホッと息をつくも、束の間の休息。
ガラガラと扉をスライドすれば、ほとんど教師のいないデスクがズラリと目に入る。
そこらへんに置いといてー、と彼も持っていた段ボールを無造作に置き、肩をグルグルと回している。
「…それじゃ、俺もう戻りますからね」
適当に置け、と言われても仮にも職員室なので、彼のデスクに近いところ、かつ邪魔にならないところを探して、中のものが壊れないように(というか中身見てないから何が入ってるのかわからない。でも重かった)そっと降ろして、そう言うレイに。
「………まーもう遅刻は確定だしちょっと付き合ってよー」
「は?………ッ、先生…っ?」
……だが、デスクへと追いやられて両脇を腕で挟まれ、いわゆる机ドン…いや、デスクドンをされた。
ーーーーは…?
「僕ねー、ノンケな筈なのに、玲夜くんだけはなーんかイける気がするんだよねー」
「…ふざけないでくださいよ。俺は誰とも付き合う気はないですし、まず貴方教師でしょう」
「あは、本当マジメだよねー………今日、八神が"休み"だから絶好の機会って思ったんだけどー」
「……………え、あいつ休みだったんですか」
「あれれー?知らなかったのー?」
先生の顔が少し真上にあって、ドアップなこの状況だが、まさか陸が休んでいるとは…。
一限目の休み時間なうだったので気づかなかった。
いや、でも普通に考えたら風邪ひくな…。
忘れていたが、昨日ヤンキーから庇った(?)陸が傘をレイに預け、土砂降りの中突っ立っていたのを思い出した。
あれだけびしょ濡れならば風邪もひくだろう。
ナントカは風邪をひかないとも言うが……それが本当なら、陸はナントカではなさそうだ。
と、現実逃避がてらに考えるも、はっと我に帰る。
ーーーーとりあえず、退いてもらわねば…。
「…先生、俺は先生をそういう目で見た事は無いです。ってか男相手に親愛以外何も持ちません」
「んー…俺もそうだったんだけどねー。実際僕は君にメロメロメロンなわけでー」
「…からかってます?授業始まるんですけど…!」
キッと睨むが、相手にとっては逆効果だったらしく、ドロリと黒い何かが溶けた先生の深緑の瞳が細められる。
ーーーーーこれは、マズイ。
冷や汗が頬を伝い、思考がブレる。
正直、教師まで俺のことを想ってるとは思わなかった。
だが、生徒同士ならば百万歩譲ってオーケーだとしても、教師は駄目だろう教師は。
…いや、生徒でも勿論嫌だが。
ーーーーキーンコーンカーンコーン…。
…………二限目の始め…そのチャイムが鳴った。
「ちょ…!授業サボってるみたいじゃないですか!早く退いてください!」
本格的に焦ってレイが胸元を押すも、ビクともしない。
逆に、触れた時に感じた筋肉にサッと汗をかく。
正直、この先生は見た目が細く華奢なイメージだったので、そこまで力があるわけでもないだろうと思っていたが……。
「あは、僕こー見えても筋肉ついてんだよねー(笑)」
「いや(笑)じゃないですよ!?貴方自分のクラスの授業サボってどうするんですか!」
「あ、二限目は音楽だから僕担当じゃないのー(爆笑)」
「爆笑しないでください俺は社会なんですけど!?」
…教師としての立場が危うい事を盾に逃げようとしたが、よりにもよって"担任が担当する教科外"の音楽…。
あのラブレターに書いてあった、"一限目の休み時間に高二【ドライ】にて待ってます"という言葉にひっかかったが、わざわざ一限目の休み時間と限定したのはこのため………ッ!?
そして、【アインス】では社会…つまり、担任が担当する教科であるからにして。
この目の前にいるドライの担任………レイに二重罠を仕掛けてきやがった、と…。
「あはは………まぁ、もうサボっちゃったから戻っても戻らなくても同じだよねー。…保健室行く?」
「行くわけないでしょう!?……正当防衛で殴りますよ…ッ?」
「わーこわーい(棒)」
「くっそそれチョームカつくんですけど」
ヘラヘラと笑いながらも目は笑っておらず。
心なしか、左右に置かれた手が握りしめるデスクの角はミシミシと音を立てている気がする。
…………マジで股間蹴ろうかな
そう、はんば本気に思った、その時。
「………"中崎"せんせー?俺の生徒になにしてるんですかね…?」
一限目に聞き慣れた、やる気のない死んだ暗いトーンが、この場の空気を粉砕した。
「か、ずは先生……?」
「あっれ、和葉さんじゃないですかー……授業サボるなんてイケナイ人ですねー(笑)」
「いや…中崎せんせーに言われたくないんですけど………俺はただ、生徒会長の戻りが遅くて連れ戻しにきただけですよ………」
はぁ、とわざとらしくため息をつくアインス担任…和葉先生はいつもよりもハッキリとした口調で。
「さっさと離してくれませんかね………生徒会長、困ってるでしょ………それと、授業中断させてるから、残りの生徒を待たすわけにもいかないので………」
珍しく、ハイライトの入ったこげ茶色の瞳をギラつかせて、ドライの担任……中崎大和を一瞥した。
ーーーーはぁ、と。
「わかりましたよー………周りにバラされても困るので引き下がりまーす………でも、諦めるとは言ってないからねー(笑)玲夜くんも、よろしくー」
ようやくデスクドンから解放され、レイは絶対に背だけは見せない、と猫のように警戒しながら後ずさり。
それを見て、中崎大和先生はくすり、と。
「それじゃーねー玲夜くん(笑)和葉さんも、迷惑かけましたー(笑)」
ヒラヒラと手を振って、職員室に備えられているコーヒーメーカーへと足を運んだ。
「…助かりました、和葉先生」
どっと疲れが押し寄せて肩の力を抜く生徒会長を横目に、和葉はただ。
「………いや、止めなかった俺も悪い。教師の中でも、中崎せんせーは群を抜いててな………」
「でしょうね…目が怖かったですもん」
授業が始まり誰もいない廊下、授業を中断してまでも来てくれた担任に、心から敬意を払うレイを置いて、和葉はそっと胸ポケットから携帯を取り出した。
「…先生?」
急に立ち止まり視界の端から消えた和葉を、数歩先から無垢な目で見つめる生徒会長。
「…いや、先に言っててくれ。言い訳を考えているんだ………」
そう言って、またハイライトを消すこげ茶色の瞳で訴えられては、レイは何も言えず【アインス】へと戻る他無かった。
「………今日も、モデルの優等生は告白される…しかもそれはイケメン教師で禁断の関係………でも優等生はフりました、と………」
『ヨモギティーチャー』という名前で呟かれたその言葉は、ネットを通じて全世界へと発信される。
和葉は、自身の呟きがドンドンリツイートされていくのをさも興味なさそうに見た後、プツッと携帯の電源を消した。
ーーーー 一方その頃、皇家の自宅では。
「…あら?………あら!?ちょ、ダ〜リンッ!"ヨモギ先生"が新しく呟いてるわよ!?」
「………教師との禁断の関係…これは新しいネタとして"描かれる"かもしれないな…」
三年も前から愛読してきた"BL本の著者"の呟きにて、騒ぐ男女がいた。
女性……漆喰のような黒髪をストレートロングにしている、皇 晴香と。
男性…ソファにゆったりと腰掛けるイケオヤジ、皇 蓮弥だ。
「それにしても、教師にも告白されちゃうなんて、とんだ罪深い子だこと……一体誰が"ゼロ"のモデルなのかしら………気になるわねぇ」
そう、テレビの中で赤面し、恥じらいながらも小さく喘ぐ"推しキャラ"の名を呼んで、晴香はホゥ…と息をつく。
ゼロ、と呼ばれる男子生徒は画面の中で茶髪のヤンキーと共に……というシーンで。
「だがヨモギ先生は教師なんだろう?だとしたら、"ソラ"のモデルも同じ学校なんだろうな」
その茶髪ヤンキー…ソラがドアップに映る時に、蓮弥はそう言った。
ーーーーいや、まさかねぇ…?
皇夫婦は、まさかリンドウ学園に通っている我が息子と幼馴染がモデルなのではないか、という仮説が頭をよぎったが。
…………とりあえず、アニメ見て萌えよう、と。
テレビの音量を無言で大きくし、そのまさかの仮説を胸がキュンとする声によって洗い流した………。
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.15 )
- 日時: 2019/03/29 18:41
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
二話 生徒会長と魔導授業
逃げるようにアインスに滑り込んだ優等生(笑)を、一同目を丸くして見やる。
だいたい察した者もいるようだが、ただ首をかしげる生徒も多数。
だが、説明する程の事でもないだろう、というか説明したくない、と無言を貫き、レイは自分の机に向かった。
「…おい、大丈夫か?」
唯一隣に座る心優しきクラスメートに心配の声をかけられるも。
「……うん、多分」
「多分…!?ほんと大丈夫か…!?」
更に心配の色を濃くしてしまった。
いや、そんな顔をするな隣人よ、俺の方がそういう顔したいんだ………中崎とかいう教師の頭を心配したいわ…、と。
珍しく授業中に不貞寝を決め込もうと決意したレイなどいざ知らず。
呑気にガラガラ〜と入ってきたアインスの担任、斎藤和葉に皆が一斉に集中スイッチを入れた。
「……悪かったなぁそこのせーとかいちょーが"変なやつ"に絡まれてて助けに行ってたらこんなに時間おしてるとは俺も思わなかったんだぁ…」
トン、と出席簿を肩に乗せてため息をつく担任に、ヒソヒソとどこからか生徒の声。
「…この学年に変なやついたっけ?」
「いや、【ツヴァイ】は八神がいるけど、【ドライ】は一般的じゃね…?先生はおちゃらけてるけど」
「あれそういえば中崎先生の事前"変なやつ"って和葉ティーチャー言って無かったっけ」
「「「「………………え?」」」」
バッと元凶の元を見るクラスメート全員の目は。
けれどーーーーー。
「……スゥ………」
スヤスヤと静かに、気持ちよさそうに寝息を立てる生徒会長の顔を写すこととなり、またバッと目を背けた。
「(…生徒会長、可愛すぎかよ……!!)」
「ちょ…と…………なんで寝てんのせーとかいちょー……俺の授業始まるぞ…15分押してるけど」
だがものともしない担任こと和葉は気だるげに。
15分押しているという社会の授業を再開しようと声をかけるも。
「えー…もういいじゃないですか和葉ティーチャー。珍しく寝てる玲夜を鑑賞しましょーよ!」
という、生徒(ファンクラブの一人)が声を上げて。
「写メ撮ってもいいかな。盗撮じゃないよね面前なら」
「僕も撮りま〜す」
ドンドンその声が強化されていくのを、和葉は静かに見届けて、一つ呟く。
「……………これ、俺止めた方がいいのかな….……いいや、この授業はせーとかいちょーの写真会になりましたぁ……俺も撮るからなぁ止めるなよぉ………」
ーーーーお前ら共犯な、と。
キラリと光った目に同意するように頷くアインス全生徒(レイを除く)が静かにスマホを掲げ、カメラを起動した………。
二時限目の休み時間……。
「…お〜い起きろせーとかいちょー」
「んぁ……かずはせんせ………」
コツ、と頭を叩かれ、なんだと顔を上げればクマの濃い黒眼鏡のイケメンフェイス。
アインスの担任、斎藤和葉先生が、こちらを呆れ顔で見下ろしていた。
「…授業、終わったんですか……あ〜眠い……」
机にのっぺりとうつ伏せていた体を起こして、目をこすりながらそう問えば。
「あぁ、終わったよ……」
少し、目をそらしながら答えられた。
それに、違和感を感じながらも"授業が終わった"事に、それなりの睡眠が取れたはずだが…と。
何故か、とても休んだ気がしない。
逆に、なんか疲れた気がする…と。
レイは少しボサついた髪を直しながら、三限目の用意を始めた。
「…せーとかいちょーはさ、なんで男無理な訳?」
「………はい?」
ピタ…と聞き逃せない言葉が聞こえた気がして、思わず聞き返してしまった。
"男が無理な理由"
そんなものを問われても………レイは何故そんな事を聞かれたのかわからなかったが、ただ担任は"そういう意味"で言ったわけではない事だけはわかった。
だからこそ、何故…と思うわけだが。
「…強いて言えば、反抗するためですよ」
「はんこう…?」
コテン、とあざとく首をかしげる和葉先生に、絶対わざとだ、と内心確信しながらも、苦笑を貼り付けて。
「俺の両親、俗に言う貴腐人と腐男子で。俺と男子がイチャイチャするのを見るのが好きなんですよ。それが気にくわない、だから誰とも付き合わない……これがもっともな理由ですかね〜」
ただただ、"気のいいようにさせてたまるか"という、意地だけの事だと。
そしてそれが唯一できて初めての"反抗期"故だと。
少し、呆れを含む笑いで、こちらを見下ろすこげ茶色の、ハイライトのない目を見上げた。
「…それじゃ、俺はもう行きますね。流石に、『魔導学』はサボれませんからね〜」
動きを再開して、手早く"魔導書"と"生徒手帳"を手に抱えて、立ち上がったレイ。
ヘラヘラと笑いながら、三限目と四限目にある魔導学園特有の"魔法の授業"を受けるため。
リンドウ学園における四つの講堂……アインス専門の講堂、青龍館と呼ばれる東に位置する建物へと向かう。
つまり、魔導学園を選ぶ理由の大きな理由…普通の学園では受けられない"特別授業"のために、専用講堂へとレイは足を運ぶのだった。
凛影魔導学園、青龍館にて行われるアインス専門の魔導学にて………。
この世界の人口の半分が持っている潜在能力…魔力の有無にて決まる学園生活。
その中で、魔力を秘めし人材の特権である『魔導学』…魔導学園を選ぶ事で教わる事ができる、魔力の使い方。
読んで字のごとく、魔法を使うための基礎、知識を養うための授業…魔導学は一度休めば置いておかれる事がしばしば。
そんな事を頭の隅で思いながら、レイは講堂の黒板を背に、魔導書を手に熱弁するリンドウ学園アインス担任を見ていた。
魔導学………言わずもがな、魔法を使うための授業である。
リンドウ学園では、アインス、ツヴァイ、ドライと三つに分けられ、各講堂にて魔法の授業を受ける。
ここ、青龍館はアインス専門館。
魔導学だけでなく、他の授業でも使われるこの建物は、アインス専門というだけあり、他のツヴァイ、ドライと比べて施設が充実している。
例えば、わかりやすいものだが生徒席がキチンとした椅子であったり、単純に綺麗だ。
そして、勿論授業内容も違う。
ドライは魔法の基礎知識を重点に、土台を作る授業。
ツヴァイは応用の知識と実技が主な授業。
そして、アインスは更に深く追求した応用の知識実技を教わる、ハイレベルな授業。
流石アインス…高レベルなクラス、と誰もが思うこの授業……。
更に言えば、この魔導学は一つの科目で終わるわけではない。
大きく分ければ三つ。
『攻撃魔法』『身体強化魔法』『召喚魔法』
レイ、そして陸は攻撃魔法科なのだが、飛鳥は名目上は身体強化魔法科である。
「…さて、今回やる攻撃魔法…いや、これは攻撃系ではないが。みな、これを見た事があるかね?」
ふと、講堂の最前線にて手を挙げた講師の手には誰もが見たことのある魔法を使うときに用いる結晶…。
つまり、魔導結晶である。
それも、黒…に近い紫色。
「…"闇"属性の魔導結晶……しかも上位クラスの…」
魔導書から顔を上げて皆講師の手に視線を集める。
魔力量の考え方で色が濃ければ量が多い、これは魔法を扱うこの授業からしたら常識である。
ポツリと呟いたレイの呟きを聞いたかのように話を続ける講師。
「そう、これは闇属性の魔導結晶。今日はこれを使い"幻惑魔法"を教える」
「幻惑魔法…………珍しいな」
アインスの授業にしては珍しく需要性が薄い魔法の授業に怪訝な表情を浮かべるアインス一同に、講師はニヤリと怪しく笑って。
「この魔導結晶に秘められている魔力量は勿論の事、属性も幻惑魔法を使いやすい闇。……そこで、君らには最近の頑張りを評し、少し遊ぼうと思う!」
ギラリと妖艶に光った魔導結晶の如くキラキラとした目でそう言った講師に、レイは。
「………幻惑魔法で遊ぶって大丈夫なのかこれ」
もはや授業と呼べるものなのか、という疑問を持ちつつも、こういうサプライズ的なのもあるからこの魔導学は休めない、と。
特にアインスの授業ならばいくら幻惑魔法といえどその完成度は計り知れない。
これは面白くなりそうだ、と頬を緩ませて妖しく光る闇の魔導結晶をその海のような瞳に写した。
……………結果から先に言おうーーーー。
「うぉあッ!?これなんだ!?イソギンチャクゥ!?」
「ちょぉ!?俺こんな気持ち悪いのや…こっち来んな誰だお前ぇ!?」
「お前虎…ホワイトタイガーじゃねぇか羨ましいなコンチクショッ!」
「ガルルゥッ!?(人間に戻りたいッ!)」
ーーーーー混沌だった。
流石アインス…授業内容がとてもハイなレベルだった。
幻惑魔法、いざとなれば使う事の少ないこの魔法だが、使った魔導結晶がとても有能だったためかその威力は絶大だった。
ある者は体がイソギンチャクのような触手となり。
またある者は世にも珍しいホワイトタイガーになったり。
そしてまたある者は……。
「…あれ、おかしいな…………俺が二人いるッ!?」
「すっげ!俺マジで"玲夜"になってんぞ!?」
「お前…クラスの隣人君じゃねぇか!!なんで俺になってんだややこしい!!」
……高等部生徒会長、皇 玲夜になっていた。
それはもう、ドッペルゲンガーのように。
声、身長そして言わずもがな見た目全て、玲夜その人な別人…レイからしてみれば自分が目の前にいるのだ、正直気持ち悪い。
わちゃわちゃと各自授業のため強制的に幻惑魔法を使って自身を別のものに見せたため、もはや誰が誰だがわからない者も多数。
その内の玲夜(偽物)はキラキラと携帯で自撮りしていたが………。
ふと、何も玲夜(本物)に変化が無いことに気づき、自撮りしていた携帯を降ろした。
無言でレイを見る玲夜……そして、はっと。
まさか…と。
「…お前………生徒会長じゃないな!?」
「正真正銘の玲夜(生徒会長)さんだよッ!?」
同じ思考回路の別人…!?と
同志の気配を察知したのかはわ、と口を抑える玲夜(偽物)に。
堪らず声を張り上げた玲夜(本物)が、バッと頭を抑えながら立ち上がった。
「大体!この魔法自体なりたいものになれる魔法じゃないだろ!だって幻惑魔法なんて初だもんね!?なのになんでお前俺になってんの!?」
「知らねぇよ!気付いたらお前になってたんだよ!?」
「…眼福だ……会長が二人いる……本物は頭抱えてるからわかるな」
側から見れば玲夜が二人いて(本物は何故か頭を抱えている)言い争いしている構図。
ファンクラブ会員ならばそれはもう目に毒だろう。
………………………それは置いといて。
「……本物の生徒会長はさ、なんで頭抱えてんの?頭、痛いの?」
心配した誰か…イソギンチャクは何故、どうやって喋ってるのか心底謎だが、本物の生徒会長を養うようにウヨウヨと触手を伸ばしながらそう言った。
「え、あ…いや痛くはないんだけど……隠してる、的な?」
「ガルルゥ…?(何を?)」
「…この虎なんて言ったんだろ。まぁいいや。生徒会長〜何隠してんの〜?」
「…いや、その………」
「………イソギンチャク!皇に"触手で拘束"だッ!」
「え?あ、お、おうッ!」
「ちょッ!?」
何そのポケ◯ンシステム。
一瞬、誰に言われたのかわからなかったであろうイソギンチャク君は、ワンテンポ遅れてその膨大な量の触手を操り、逃げ遅れたレイの腕を絡め取る。
なす術なく両腕を広げられ、レイが隠していた"何か"が……。
ピョコン、と。
「「「「…………………"耳"?」」」」
黒髪の中から、フサフサとした、それはもう素晴らしい"猫耳"が。
レイの頭から、見事なまでにピコピコと動いていた。
「うぅ……なんで俺だけ猫耳生えんの……?」
腕を拘束されたままのレイはただ人間の耳の方を赤く染め、俯きながら唸った。
周りは全身変わってんじゃん、なんで俺だけオプションなんだよ、と。
この幻惑魔法…ぜっっったい役に立たない。
そう確信した瞬間だった。
「ガルル!ガルルゥッ!!(やった!仲間がいた!ネコ科仲間!!)」
「ちょっと?なんでこの虎興奮してんの?ムッツリなの???」
「いやネコ科仲間って…俺猫耳生えただけだぞ…これ成功してんのか…?」
「….……あれ?これ生徒会長とホワイトタイガー君会話出来てね?」
「ガルッ!?(本当だ!)」
「…………猫耳ってすげぇな…色んな意味で」
ホワイトタイガー君が感動で震える中、爆笑している講師を置いて、中高大アインス一同は皆揃って携帯を構え。
ーーーパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャーーーー
最近の携帯って連射機能がついてるから便利だな〜と誰かが呟き、それにうんうん、と頷くほぼ全員。
笑い転げ死にそうになっている講師なぞ無視、むしろ死んでもいいよ的な姿勢でただ猫耳という可愛さ百倍増しにする癒しデータを量産すべく携帯の容量を殺していくアインス生徒に。
ただただ写真を撮られるだけの玲夜は、何故か二限目の疲れと同じ倦怠感を感じて…。
いや、それ以前の問題だ、と一番の問題を口にしたーーーー。
……これ、いつ戻んの……?とーーーー
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.16 )
- 日時: 2019/04/03 10:21
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
三話 生徒会長と学園祭
三限目、四限目と続いた魔導学によってメンタルがボロボロになった玲夜(モノホン)は、ようやく幻惑魔法が解除されて元の姿に戻った隣人をシメながら、昼休み…屋上へと来ていた。
ーーーーそれはもう、言わずもがなのシチュエーションである。
「……なんで俺まで来てんの?要らないよね?」
「いや、告白された後のメンタルケアを頼もうかなぁと」
「メンタルケア…!?………あ、そっか。八神いないから?」
「そ…にしても、屋上の呼び出しは久し振りだなぁ。…少しトラウマが蘇るケド」
屋上には人っ子一人おらず、呼び出し人はあと数分後に来る予定だった。
それも、集合時間よりも早くきてしまうレイの癖である。
そんなレイの隣人君はげっそりとやつれており、スタンバイオーケーと言わんばかりに屋上の屋根に登っている。
側たら見ればヤンキーが授業をサボって寝てるようにしか見えないのは内緒にしておこう。
…ここで、呼び出し人が来るまで高等部一年の頃あった屋上告白のトラウマを掘り返そうと思う。
ーーーーーそう、あの日もこうした天気のいい晴れた日で、今月…六月の、梅雨特有のジメジメ感が少し残った日であった。
勿論の事、呼び出された玲夜は大人しーく待っていたのだが。
……いや、来なかったわけじゃない。
ちゃんと来たのだ、ご本人登場なさったのだが。
その時の告白フレーズが……
「俺、皇さんと付き合わなければここから飛び降ります」
…現に屋上の柵を乗り越えて、フェンスを片手に掴んで、そう言われたのだ。
数秒思考がフリーズして、ようやく事態を把握した………………つまり。
ーーーーー君、それ告白じゃない…………
……………脅迫だーーーーーッ!!!!
サッと青ざめ、飛び降りを阻止しようと伸ばした手は…だが。
「………そう簡単に死なすかよォッ!!!」
"本当に授業をサボっていた陸"が柵に飛び移りその手を引っ張り、鮮やかな救出劇を目の前に繰り広げられていて。
はっと我に帰れば、陸がめんどくさそうな顔で"レイィ……お前あと少しで人殺しだったぞォ…?"と。
もはや何が何だかわからなかったが、とりあえずその殺人罪は免れたらしい、と。
全く手を加えてもないし、言葉も発していないがとりあえず助かったらしい、と。
……飛び降りようとしていた御本人も、何が起こったのかわからず硬直状態だったのは、本当に同情する。
……とまぁ、陸がいなければ本当にスクープになっていたこんなトラウマがフラッシュバックして。
そのメンタルケアと、あわよくば運動神経が良い隣人君に、あの日と同じようにヤンキーのように屋根に登らせて、柵に飛び移れるようにしていたのだが。
「…ぼ、僕…生徒会長の事が好きです!つ、付き合って、とかは言いません…でも、友達…になってください…ませんか…?」
ただただ時間通りに来て、ただただ可愛らしく髪をいじりながら、ただただ、普通に告白された。
むしろ、こんな普通の告白が最近無かった気がして、少しホッとした。
「うん、恋愛的な目では見れないけど、友人としてなら、ウェルカムだよ。改めて、皇玲夜、高等部生徒会長だけど…出来れば玲夜って呼んでほしいかな」
「っ!はいっ!玲夜先輩!僕は柊冬馬です!高等部一年【アインス】です!」
「あ、やっぱり?どうりで見たことあるなぁって………君、"ホワイトタイガー"君でしょ?」
「はわっ……わかっちゃいました…?」
…三限、四限目の授業を思い出して、苦い思いで対応するが、目の前の…冬馬は、まんざらでもないようで。
「僕、あの時の先輩…友達から写メ送ってもらったんです。ほら、待ち受けに!」
「出来れば消して欲しかったなぁなんて」
「するわけないじゃないですか!これ僕の家宝ですよ!」
「………そっか(ツッコミ放棄)」
それはもう素晴らしい笑みで携帯の待ち受け画面を見させられても…と。
しかもその画像は猫耳の生えたレイの写真である。
俯きがちに、けれど黒い髪の中から見える人間の耳は赤く染まっていて、完璧に照れてるのが丸わかりだった。
第三者として、改めて見ると明らかなる照れで、こちらまで赤くなりそうだ。
…まぁ自分だし。
今更だが、魔導学は高等部全生徒の授業であり、アインスだけで一年から三年までのアインスが合同で行う。
「…あ、もう降りてきていいよ、隣人君」
「へーい……よっと」
軽く忘れていたが、視界の端でヒラヒラと手を振られ、屋根に登っていた隣人君に降りて、と呼びかける。
すると、やはりいるとは思わなかったであろう、冬馬。
「あれ!?な、へ!?ヤンキー!?」
携帯を素早く胸ポケットに入れ、重心を低くし臨時体制を…だが。
「じゃない。俺は生徒会長のメンタルケア係(代理)だ」
食い気味に否定してみせた隣人君……その顔をよく見て、冬馬は''あ、玲夜先輩になってた人?"と訝しげに目を細めた。
「よし、とりあえず昼休みも終わる頃だし、教室に戻ろっか。隣人君も、巻き込んでごめんね」
「いんや、別にいいよ。魔導学の借りって事で」
トン、と屋根から飛び降りた隣人君は、軽やかに着地して、クルクルと屋上の鍵を回し。
「次…五、六限目ってあれだろ?……文化祭の、出し物決めるあれだろ?」
………………ヒュ〜〜〜…………
屋上だからか、少し強い風によって前髪がパサパサとはためき、レイはすぅ……と。
「…そ、だった………遂に、きたのか……地獄の、『リンドウ祭』が………っ」
口から魂がフヨフヨ〜と飛び出したように天を仰いだ。
はぁ、と隣人君がため息を、え?と首を傾げた、冬馬君と。
「あ〜…柊よ、お前編入生か。でもリンドウ祭は知ってんだろ?」
「あ、はい。リンドウ学園の"文化祭"ですよね。…でもなんで玲夜先輩あんな死にそうなんです?」
「…ん〜……なんて言えばいいかなぁ。とりあえず、生徒会長からしたら本当に地獄なんだわ」
「……はぁ……?」
まだピンときていないようだが、これ以上文化祭…『リンドウ祭』の事を掘り下げると、地獄耳を持つレイの魂が本当に天に召される気がしたのでやめておく。
寒くなってきたし、戻ろうぜ、と抜け殻になっていたレイの背を押して、モヤモヤしたままの冬馬を隣に、ひとまず告白は終了した。
「……はい………まぁた、来てしまったな…リンドウ祭が………」
「本当、リンドウ祭なんて無かったらいいのに」
「ちょっと生徒会長もネガティブモードになってんだけど。和葉先生と混ぜたら危険でしょこれ」
死んだ魚の目のアインス担任、斎藤和葉と、同じく死んだ魚の目の生徒会長。
誰かが混ぜたら危険とか、そんな危険な薬物のような扱いをした気がするが、そんな事スルーするようで。
「…いちおー、候補聞くぞ〜………はい、なんかやりたいモノありますかぁ……」
チョークを片手に背後に問うた声に、はい!と元気よく手を挙げた一人が、
「女装喫茶ッ!」
「はい却下」
「生徒会長ぉ!?」
案の一つを提案するも、バッサリ切り捨てたレイによって涙声に変わったが、担任は全く気にせずにチョークを削って。
「……………喫茶店、と」
黒板に白く、"喫茶店"と書いた。
「あ、ならお化け屋敷とか?」
「それは他がやんだろ………俺らしか出来ねーことやろーぜ?」
「となると…周りと違う要素って言えば玲夜しかいないよね。…でも」
一斉にレイの方へと向けられる視線は、けれどムッス〜とふくれっ面によって四散した。
絶対にリンドウ祭に参加したくない、という意思表示だが、担任、和葉は問答無用、と。
「………どうせ、高等部門の『女男装コンテスト』に出るんだろせーとかいちょー……メイド喫茶でも変わらないだろー……」
「変わりますよ?ってかまたアレ出るんですか!?嫌ですよ絶対出たくないからな!?」
「いや皇出なかったら誰出るんだよ………女装枠は皇でいいとして、男装枠だが……」
「話進めんなぁ!!」
もはや出し物の話からも脱線している。
まとめ係のレイがボケに回っているようなもので、現状、ツッコミ役は誰一人としていないらしい。
嫌だ、だのふざけんな、だの喚いている生徒会長(笑)をスルーして、ひとまずこのリンドウ学園における文化祭…すなわち、リンドウ祭の詳細を。
リンドウ祭は他の学園における文化祭とは違い、規模が大きく、なおかつ三日続けて行われる一大イベントの一つ。
初日に中学部が文化祭の出し物を出し、構内一色中学部になって高等部と大学部はお客さん係(強制)だ。
ちなみに、二日目ならば高等部、最終日は大学部となる。
勿論、保護者や地域の方々の来訪もあるため、このリンドウ学園には人がてんやわんや。
そんな中、各学年の日程に必ずあるもの…それが、アインス担任の斎藤和葉も言っていた『女男装コンテスト』
略して、ジョダコン。
大体察するが、この学園は一貫して男子校…共学校とは違い、花が無いと思われがちだが、それは男子校の意地で。
"無いのなら作ればいいだろ華やかさ"と。
信長、秀吉、家康も呆れ笑いするであろう五七五を詠いあげた……つまりは。
男装でイケメン感をアップさせ!更に元々顔が良い人を女装させればぁあら不思議ッ!
側から見ればラブラブカップル(テーマによる)が出来上がりぃ!!
…それが、ジョダコンである。
レイが嫌々と首を振るわけも大体わかるだろう。
………つまりは、まぁ……そういうことだ。
しかも、毎年変わるお題は生徒会が決めたり…。
ネタバレになるから嫌だby陸
そんな意見もあったりしたが、レイが
「いや、お前まだ生徒会入ってねぇだろ」
ポツリと言ったこの言葉により、あ、そっかと当時の陸(高一)は引き下がったが今回はそうもいかない。
………と、思ったが今日陸休みだった。
「…え〜……それじゃ、もうこれでいいよな……せんせーもう疲れたよ…………」
「異議ナーシ!」
「おっしゃ!なら六限目から作業開始だ!」
ほとんど意識が上の空だったレイだが…どうやら、決まったらしい。
なんとか、マトモな出し物であって欲しいがーーーーーー。
「…………んじゃ、この"グリム童話喫茶"で…けってーい……」
「ちょちょちょちょ待て待て待て待て」
「……せーとかいちょー…もう待ては使えないぞー…………」
考える前に声が口から溢れていた。
いや、結局喫茶店かよ、いやそうじゃない。なんだグリム童話喫茶て。それ、女装と何が変わらないの?と。
原点回帰していた出し物の案に物申す生徒会長をジト目で見る担任。
それは、周りからも似た目だった。
「玲夜……もう、諦めろ。な?」
「決まったことだし…ねぇ?」
「生徒会長の女装………うぇへ、へへへ、えへへへへぇ………」
「おいコラ最後!携帯の容量開けるために保存してた写真とか消すんじゃねぇよ!!あと笑い方!!」
諦めと悟った色、妖しくキラリと光った色、そして絶対良からぬことを考えている色、と。
まさに十人十色……いや、せめて反対の意見をだな…?
さまざまな色がある中で、唯一反対の色を宿している目は、レイの海色だけだったのが予想通り、と。
「…はぁいけってーい……なら、後はジョダコンのしゅつじょーしゃだなー………」
断固拒否するというレイをあっさり切り捨てて、書類に書き込んでいく担任。
…それは、ジョダコンの出場者、女装枠に"皇 玲夜"とも書いていた。
「一人(女装枠)は会長で、男装枠は誰やんの?」
「ねぇなんで俺の意見ガン無視するの?」
「顔がいいなら"隣人"でいいんじゃね?」
「これ新手のいじめ?なぁ俺いじめられてんの?」
「え、俺やるの?男装…って要はコスプレだろ?俺に似合わないと思うけど…」
「…ダメだこいつら全然俺の話聞かねぇ」
「女装もコスプレだろ…明日テーマ決まんだったら男装枠は明日決めてもいいかもなぁ」
「…………もういい。俺はもう寝る」
「あ、玲夜が不貞寝し始めた。また写真会出来るねこれ」
「あーあー何も聞こえな………………おい待て写真会ってなんーーーー」
「よっしゃこれでジョダコンも終わり!って事でグリム童話喫茶のメニュー考えようぜ!」
…流れるようにスルーされまくったレイの末路は。
ただ、自分が不利な状況下に置かれると何が何でも話を聞いてはくれず。
そして、授業中に寝れば、その寝顔が皆の携帯に保存されていた、という…謎の倦怠感の原因を知った事と…。
そして、レイの隣の席にいる生徒こと隣人がジョダコンの男装枠として出るらしい、という…つまりは女装枠確定(絶望)という………まさに、現実逃避ものの現実だった。
…………………陸のお休み連絡届けないとなぁ(白目
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.17 )
- 日時: 2019/04/17 23:03
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
四話 生徒会長とリンドウ祭 中学編
俺、皇玲夜は朝からテンションだだ下がりであった。
生徒会にて、各ジョダコンのテーマを決めるにあたり出場者の意見等も聞くはずなのだが、何故か、な ぜ か!レイの意見はガン無視された。
全く持って理不尽である。
だがしかし、もはや女装枠で出ろと決定されているので悪あがきにしかならないのだが。
そうして決まった高等部門のテーマ……。
『結婚式』
正直、正気の沙汰無し、そう感じたのは許してほしい。
何が悲しくてんな事しなきゃならないのだ、俺に女装癖は無いぞ。
だが、そんな声が届くはずもなく無事に終わってしまった会議。
その翌日から、授業は午前だけ、午後からは準備の時間となる…のだが。
「……なァ……なんで俺が女装枠やんだよォ」
「知るか。ツヴァイに適役がいなかったのとやりたくない奴しかいなかったんだろ、お前以外」
「ッざけんなァ!俺だってやりたくねェよォ!?」
「俺に言うなってか俺だってやりたくねぇわ!」
……このやり取りは、もう何回になるのだろうか。
耳にタコなぐらいに繰り返した会話だが、全く持って意味はないだろう。
ここでとやかく言っても、決まった事は覆らないのだ、まさに焼け石に水である。
ーーーーー時は進み、梅雨明けの今日この時…。
そう、来て欲しくなかった地獄のリンドウ祭(レイ命名)の初日である。
あの女装枠のやりとりは会議の終わった翌日から今日までずっと行われていたやりとりであり、それこそ飛鳥にすら愚痴ったらしい。
メールで、[兄さんがウザい]とこちらに画像付きで送られてきたのだ。
……枕に顔を埋めて足をバタバタさせている陸(寝巻き)の画像が。
…………まぁ、それは置いといて。
リンドウ祭初日は中学部がメインとなる日であり、前日に配られた日時等が記載されているプリントには、ジョダコンのテーマは『ハロウィン』と書いてあった。
………まだ、そっちの方が良かった。
何故、高等部門だけピンポイントでこう……こう、くるのだろうか。
いや、原因はわかりきっているが。
更に嫌なことに、リンドウ祭とは強制全員参加である。
……"強制全員参加"、大事なことなので、二回言った。
ーーーーーーすなわち。
「もう諦めなよ兄さん。僕だって何故か女装枠でやるんだから」
「お前俺ら以外顔知られてねェだろォ…なんで女装枠でエントリーされてんだよォ…」
陸よりも黒い茶髪のウィッグを被り、前髪で赤い目を片方だけ隠した飛鳥が、抑揚の無い声でそう言った。
まぁ飛鳥の問いにあえて答えるのであれば、八神陸の弟だから、というのが妥当であろう。
それはそれとして、全生徒強制参加、それは引きこもっていても、風邪をひいていたとしても必ず参加させられる。
リンドウ学園の力を発揮する数少ない行事である学園祭では、言わずもがな、クラスの不登校男子と初対面する事がしばしばある。
そのため、誰も女装をやりたがらない場合休んでいる生徒になすりつけ、初めて顔を見たとき………。
「…お、おい………お前、八神飛鳥…か?」
「うん?……まぁ、そうだけど」
「うわマジか…………ヤベェ」
背後から話しかけられ振り返ればポカンと口を開けた、高等部一年【ドライ】のバッジ。
心なしか赤面しているように見えるが……嫌な予感が、的中したらしい。
「あ、あのさ!俺、霧島一東って言うんだけど……せっかくだからさ、文化祭一緒に回んね?同じクラスだし!」
握手をねだり差し出された手を赤い目が射抜く。
…………なぁるほど、ふむふむ。…ご愁傷様、飛鳥。俺の気持ちがわかったろ、これでお前もナカーマ。
ぎゅっと目をつぶり、小刻みに震えるドライの霧島君に、飛鳥は、ふう…と静かに息を吐いて。
「…兄さん、少し行ってくるね。改めて、八神飛鳥、よろしくね霧島君」
「っ!おう!よろしくな八神!」
「…あ、出来れば飛鳥って呼んで。八神だと兄さんと区別がつかないから」
「え、あ、おう…あ、飛鳥…」
「うん、なんだい?」
「いや…よ、呼んだだけだ!ほら、行こうぜ!」
…なんだこのカップルみたいな会話。
耳まで赤くなっている霧島君と対照的にキョトンといつものように調子を崩さない飛鳥に、陸とレイはどうしようもない、複雑な心情を抱えた。
…これが、よくあるのである。
顔を見たことのない不登校生、だがその顔、声、スタイルはどストライク。
それで、この文化祭を通して仲良くなり、不登校も治り……からの〜という、この一連の流れ。
これが毎年あるから、陸はこのリンドウ祭があまり好きではなかった。
ジョダコンは男装枠を意地でも勝ち取っていたため、女装枠は今回が初めてだが………まさか飛鳥まで女装枠とは、思いもよらぬ展開である。
正直、明日のジョダコンであの霧島君のハートはウェディングドレスを着るであろう飛鳥によって滅多刺しだろうな…。
まぁ飛鳥とて同性愛者というわけでも無さそうなので、大丈夫だとは思うが。
「…ま、俺らも回るか。陸、なんか行きたいところある?」
「おー………あ、出し物のたこ焼き食いてェ」
「もう食べ物か…お昼前だぞ、一応」
「昼は昼で食う。だいたい目星はつけてっからよォ、とりあえず適当に回って美味そうなのあったら食おうぜェ」
「ちょ、置いてくなよ!」
切り替えのオンオフがキッチリしているのはいいことだが、はっきりし過ぎて置いていかれるところだった、と。
レイはフラ〜と歩き始めた陸の背を慌ててついていった。
………途中、チラリと小さくなった飛鳥と霧島君を見つめながら。
「………で、何これ」
「シラネェ。俺だってビックリだわ」
体力が少ない陸のため、ところどころ休憩をとりながら回っていたのだが。
キャッチセールスがやけに上手い生徒に捕まり、今に至る。
それは、簡単に言えば喫茶店だった。
小洒落た内装に、テーブルや椅子までも綺麗に飾られて、教卓の上には薔薇が咲いている、"一見お洒落な普通の喫茶店"なのだ。
……だが、メニューがおかしい。
「"カップル専用"メニュー表………いや、普通のは!?」
「…ラブラブジュースに愛のオムライス〜ハートを添えて〜……これさァ…言ったもん勝ちだろォ………」
「要はストロー二つあるソフトドリンクとケチャップでハート書いたオムライスだよねこれ!?」
普通なら男女の熱すぎて熱中症にでもなりそうなカップルが妥当であろう、そのメニュー。
だが記載されている写真を見ても、これはただのオムライスだ。
強いて言えば、メイド喫茶によくある"メイドが目の前でケチャップで絵を描いてくれる"あのオムライス。
味はきっと美味しいだろうが…なんだろう。
……………すんごく、頼みづらい
「…まァ、入っちまったもんはしゃーねェ。飲み物頼んで出ようぜェ」
「の、飲み物って言ったって………………ソフトドリンクでもストロー二本付いてくるよこれ」
「別にいいんじゃねェ?何も一つの飲み物を二人で飲まなくたっていいだろォ」
だが覚悟などが一丁前の陸、さらっとメニューのコンセプトを否定してソフトドリンクメニューを開く。
まぁ、確かに二本ストローあっても一本だけ使えばいい、それは正論だ。
…だが、それを無視したらこのメニューの意味が………
と、良心が痛むがそもそもの話。
ーーーーーー陸とレイは付き合ってもいないのだからカップルではない。
ならば、こんなメニュー否定しても何も問題なかろう?
「あ、それもそっか。んじゃ陸は何飲む?」
思い切りその考えを肯定し、レイはメニューに書いてあるソフトドリンクーーどれも見慣れた飲み物だが値段がやけに安いーーを頼む。
「…あー、どうしよっかなァ。俺、別に喉乾いてねェし……」
メニューを見ながら呟く陸に、レイ。
「あ、それならスイーツは?」
「え、スイーツって………お前頼まなくていいのかァ?」
いつもだったらヨダレをダバダバと垂らして真っ先に頼むであろう、彼の大好物だが…。
「いや………なんか、これ見たら頼む気失せてさ………」
「ん?」
メニューをパラパラとめくり、書いてあったスイーツの文字。
デカデカと書かれたその文字の下に、数々のスイーツの名前があったのだが。
「…なんだ、これ」
いつもの小文字で伸ばす癖すら無くなるほど、陸はそのメニューに呆気にとられた。
一面スイーツなそのメニューの下、小さくだが、こう書いてあった。
"カップル専用メニュースイーツは、お互いにアーンしましょう。しなかったら倍のお金を払ってもらいます"
………………Oh
「絶対ェスイーツは頼まねェ。っし、んじゃ俺もソフトドリンク頼もォ」
………陸は、その文字を見て何故か急に喉の渇きを自覚して、店員にソフトドリンクを注文した。
ドリンクの値段安いの、このペナルティで稼いでるからか….…………。
「………………あの、さ。霧島君?」
「な、なんだ………あ、すか」
「いや、その………そんなくっつかなくても…たかが文化祭の"お化け屋敷"だよ?」
「うううるせぇ!」
一方その頃、飛鳥、霧島ペアは中学部アインスによって作られた精巧なるお化け屋敷へと出向いていた。
…実のところ、飛鳥は霧島に引っ張られただけだが。
数々のゲームをこなしてきた飛鳥にとってお化け屋敷は一種のホラゲーとして認知しているため、怖がったりはしないのだが。
霧島はホラーが苦手なのか、あるいはただ飛鳥にくっつきたいだけなのか。
飛鳥の左腕にひっしりと絡みつき離れようとはしなかった。
「おおおれはなぁ!お前に!リンドウ学園がすんばらしいところだってのをな!!教えようとだなぁ!!!!」
「…いや、僕が不登校なのは別の理由があるわけで」
「んな事どうでもい……おわぁッ!!!」
「ちょっ…くるし……っ!」
見事なまでのリアクションで霧島は飛鳥に飛びつく。
ビビり過ぎて声量がマックスになっていたのも、声が震えていたのもバレバレだったが、あからさまに飛鳥の首を絞めるように抱きつく霧島に、飛鳥はため息を一つ。
鈍感なわけでもないので、飛鳥にははっきりとわかっている。
霧島が自分に好意を寄せている事くらい、初見で見抜くだろう。
だが、生憎男に興味はない。
「…ねぇ、霧島君」
「ななな…?」
「言葉になってないよ……君はなんで僕と一緒にいるんだい?」
自分で言って意地が悪いというのは自覚している。
だが、彼を突き放す事も出来ない意気地なしというのも、自覚していると。
「え……そりゃ、同じクラスメートだろ…?」
「本当に?………"僕(本当)の事"を知っても、本当にそんな事言えるのかい?」
「な、何言ってんだよ飛鳥……」
…けれど、霧島が自分に向ける、無垢な目に。
「……………いや、忘れてくれ。…お化けさん、後はよろしくね」
「え」
無表情な自分が写っていたのを見て、胸がチクリと痛んだ気がした。
………ああ、ほら。
僕はこうして、彼の腕を振り払って他人事のように置いていくことしか出来ない、どうしようもない人間だ。
…人任せに、彼の意識をそらす事しか、それすら自分は出来ないらしい。
背後でお化けに驚かされ、彼の悲鳴を背に受けながら、飛鳥は一人で黄昏た。
「…本当、陸って大食いだよな」
「へ?ほうかァ?(え?そうかァ?)」
「食ってから喋れ、行儀悪いなぁ………」
弟がシリアスしてるとはいざ知らず、兄は幼馴染と共に喫茶店から転げ出て出し物の食品を食していた。
焼きそば、たこ焼き、そしてフライドポテトエトセトラエトセトラ………。
校庭に設置された屋外テーブルを覆い尽くすフードの面々にレイは置く場所なくクレープを手に持ちながら目の前の化け物胃袋を見やった。
喫茶店で飲み物しか頼まなかったせいと、時間帯的な問題で腹の虫が鳴ったと途端に買いに走った短距離エースは、今では肉食動物が如く頬張っていて、周りの視線を釘付けにしている。
そんな視線をとばっちりで受けているレイは正直いうとメンタルが着実に減っているのだが。
「…ん゛んっ。まァ腹減ってはナントやらって言うだろォ?ジョダコンは午後からなんだし、中学部の意地を見届けるためにもォ腹ごしらえは大事ってなァ!」
「だからって食い過ぎだろ………あ、このクレープ美味い」
「マジ?後で買おっかなァ」
「お前…予算平気か?」
「ヘーキヘーキ」
食べるては止めず、今はただ食うと視線をまた手元に移した陸。
彼はああ見えてもバイトを掛け持ちしてる。
部活に出向く事も多い中、休日はほとんどバイト漬けの日々なのだが、学生が稼げる額なんてたかがしれている。
だからこそ心配したのだが。
………察したくはないが、飛鳥がゲーム大会で賞金を貰ってる可能性。
それも少なからずある気がするのだが。
「………ん?なぁ陸。あれって飛鳥じゃ…」
人集りの中、チラリと見えた焦げ茶色の髪の毛は見覚えのあるもので。
前髪に隠れて尚こちらを見つけて合った赤の瞳は、間違いなく飛鳥のものだった。
「マジで?…あれ、アイツ連れはァ……とォ…」
「霧島ね陸」
「そォ霧島!…一人だしなんか暗くねェ?」
「……………なんかあったのかな」
お互いに居場所がわかっているはずなのに、飛鳥はこちらに来るのを躊躇っているようだった。
…それに、心なしか俯きがちだ。
「おー………ちょっと行ってくらァ」
「あ、うん……いってらっしゃい」
ガタン、と席を立ちたこ焼きを口に咥えたまま歩き出した陸を置いて、目線だけ追う。
荷物のこともあるし、兄弟ぐるみでの事もあるだろう。
クレープを頬張りながら特にする事もないので、改めて周りを見渡す。
リンドウ祭……有名なエリート校の文化祭ともなれば、大勢の者がここに訪れ、リンドウ学園が大々的に新聞に取り上げられる程有名なものだ。
そのうち、皇玲夜というツァオベライ・アローの全国大会優勝者も居るし、八神陸という短距離エースだっている。
そんな有名人を一目見ようと訪れる人も多々おり、レイは正直言ってリンドウ祭が大嫌いだった。
………もっともジョダコンやグリム童話喫茶というコスプレもしなくてはならないから、という理由も大部分占めてはいるが。
「………はぁ…」
クレープが無くなると、レイは半端無意識にため息を吐いた。
今日の午後…後もう少しで、中学部のジョダコンが始める。
お手並み拝見、と見れればよいのだが………。
なにぶん、今までレイに告白した男子生徒の中でも中学部は多くいたため、ジョダコンで女装していたりしたら何とも気まずいのである。
…………いや明日のジョダコンの方が気まずいけれども。
「……なぁ、あれってあの皇玲夜じゃ…」
「うわ、マジだ………生だとカッケェ…」
「ありゃ惚れるわ……いいな〜俺もリンドウ学園入りたかった〜」
「お前じゃ無理だろ。……ってか本当イケメンだな……噂じゃ八神陸と幼馴染らしいな」
「ん?八神陸ってあの短距離エースだろ?さっき茶髪の男子と居たぜ?」
後ろの方でチラチラと聞こえるその声に聞き耳を立て、その賞賛の言葉に紛れた陸との関係性のワードに反応した。
ーーーー茶髪の子と居たぜ?
…いや、別に陸が誰といようと勝手じゃねぇ?と。
ただの幼馴染、ただの親友以外の何者でもないのだから、誰と連もうが個人の自由のはずなのだが?
付き合ってもないからそんな浮気みたいな言い方しないでくださる???と
他校の生徒らしい、真っ黒の制服を着こなした男子数名をチラリと見て、目で訴えるも。
「お、おい!こっち見てんぞ…!」
「ヤッベ………イケメン過ぎて倒れそ……」
まっっっったく届くはずもなく、乙女らしく顔を赤らめて足早に立ち去ってしまった。
…いや、結果オーライか
「あ、あのぉ…」
「………はい?」
一難去ってまた一難……成る程、こういう事を言うんだな。
ようやく一人静かにマップを広げて次のスイーツの目星をつけようとしていたというのに、数人の女性がこちらに駆け寄ってきた。
「よければ、私達と文化祭回りませんかぁ?」
「皇玲夜君だよね?私大ファンなの!」
「お願いします!サイン…いえ握手だけでも…っ!」
「スイーツ好きって聞いたからクレープとか、シュークリームとか売ってる場所見つけたから、行きませんかぁ?」
「え、と………俺、人待ってるんだよね……そいつ帰ってきてからでいい?」
男子校ゆえ、女性に言い寄られる事が少ないリンドウ学園生徒だが、文化祭などの行事に限っては女性も来るからまぁ機会があるっちゃあるのだが。
全国大会優勝者(玲夜)としてはそれこそ今更、だと狼狽えもしないが、陸の了承………というか飛鳥の方の了承を取った方がいいだろう、そう思って回答を渋ったのだが。
「いいじゃないですかぁ、その人に連絡入れればぁ」
…….…全くもってその通りである。
「あ〜………まぁ、そうなんだけど………」
「それじゃ行きましょ、玲夜さん!」
「ちょ、ちょちょちょ……!」
無理矢理に腕を引っ張られ、食べ終わったクレープの包み紙が地面に落ちた。
思い切り引かれたせいで態勢が崩れ、重心が前に、足が後ろで動かずに、目線がガクンと落ちる。
あ、と思った時にはもう遅く、手をつける場所も存在せず、重力のままに体が地面に吸い込まれーーーーー。
「っととォ………あっぶねェ…間に合ったなァ」
グイ、と腹部に圧迫感を感じたと思えば、迫っていた地面には自分の足がつき、背には少し息を切らしている陸の声。
一瞬で何が起こったかわからなかったが、視線を落として自身の腹に回されている陸の腕を見て、なんとなく理解した。
倒れこむ寸前に、陸が駆け寄り体を支えてくれたらしい。
「…でェ、テメェらレイのなんだァ?逆ナンなら他所当たれやァ……………なァ?」
「ひ…っ!」
「は、早く行こっ」
ドスの聞いた低音ボイスで凄まれてしまった女性達は顔を青く染めながら走り去る。
陸の顔は見えなかったが、伊達に幼馴染やっているわけではないので、大体わかる。
瞳孔が開き顔は笑っているが目が笑っていない、あの笑みを浮かべたのだろう。
「陸ぅ……お前あんま威嚇すんなよ、人いなくなるだろ」
「シラネ。ってかお前も少しは拒否しろよォ?俺がいるからいいけどよォ」
「拒否したっての…って、飛鳥は?」
「………あー……飲み物買いに行ったァ」
回された腕を外して向かい合えば、汗を伝せた陸の顔が目の前に来て、少し仰け反った。
「陸…?」
「………………んー……やっぱ、お前イケメンだよなァ」
「は?」
真面目な顔して何言ってんだ。
そう、一つ物申すと細く細められた海の瞳は、陸の後ろからぬっと現れた"ペットボトル"が写り。
ーーーーーーピトッ
「ひゃゥッ!?」
「…………ふ、ははっ!に、さん……変な声…あははっ!」
「テッメェッ飛鳥ァ!!!」
見事なまでの不意打ちに上擦った声で悲鳴をあげた陸の背後、滅多に声に出して笑わない飛鳥が腹を抱え笑っていた。
怒りマークを頭に5個程つけた陸が怒鳴るも飛鳥は笑い続け、いつしかその目にはうっすらと水の膜が張りキラキラと輝いている。
こんな風に笑っているのを見るのはいつぶりだろうか。
アルビノという"他と違う事"をコンプレックスとしている飛鳥が、外で、大笑いしている。
それが、どんな理由であれ、レイは昔を見ているようで懐かしいような、嬉しいような……。
……………いや、またシリアスになるからやめよう。
ようやく良い空気に戻ったというのに、これでまたシリアスさんが出動する事になるのは避けたい。
「あっはは……もう、兄さん面白過ぎ…!」
「そォかよ俺はテメェをぶん殴りたい過ぎだコノヤロォ」
「陸、日本語おかしい。それと飛鳥は笑い過ぎ、そろそろ笑うのをやめてくれないとこっちに移る」
「ふ、は……ごめんね……こんなに笑ったのいつぶりだろう…?ふふっ」
「俺の覚えてる限りでは数年前だな」
「………レイが曖昧な答え出すって相当だろォ…俺ですらはっきりと思い出せ……いや、まァいいかァ」
流石の陸も察したのか、未だにクスクスと笑っている飛鳥を見て言葉を濁した。
冷やされたペッドボトルに当てられた首筋には、汗とは違い結露した水滴がポツポツと乗っていて、それがツゥ……と肌を撫でる。
それに気づいたレイが胸ポケットに入れていたハンカチを取り出して。
「制服濡れる〜……あ、じっとしてろよ陸」
「は?」
訳もわからず、言われた通りにじっとしていたらハンカチを首に当てられ、なおもハテナマークが飛び交っている目の前の幼馴染を置いて、レイは。
「…………あれ、そいや今何時?」
ふと、ジョダコンが始まる時間がいつだったかを思い出して、ポロリと口に出したその問いに、いち早く反応したのはようやく笑いが収まった飛鳥で。
「…えっと….……あ、これ結構マズイかも」
「あ?マジでェ?」
「ジョダコン開始まで………あと五分しかない」
「………………………ごふん?」
ーーーーーーーーそれ、だいぶヤバくなぁい?
「…あッ!!見つけたぞ飛鳥!!お前俺を置いていきやがってこんにゃろ〜!!」
「あ、ごめん霧島君。今それどころじゃないんだよね。今から走るよ」
「…………ぱーどぅん?」
ひょっこり現れたのは忘れかけていた霧島一東氏。
鬼の形相で飛鳥の肩を掴み揺さぶっていたが、そんな飛鳥の一言にカチンと固まった。
今から走る?どゆこと?と
「陸、わかってるな」
「おー。こっからだと全力で2分ってとこだなァ…あー、人が邪魔だから3分半くれェかなァ」
「どっちでもいいよ兄さん。ここからだと北北西に460m、そこから南東590mが最短かな」
「りょーかい。んじゃ霧島君、君も巻き込むけど我慢してね、とりま一緒に逃げよう」
「…はい?え、ちょっと待って?なんで生徒会長……あれ???」
「時間ねェからもう行くぜェ!?」
唖然とする霧島は話の輪の外。
話がついた時には、もう陸が駆け出していてあとの三人は慌ててその背を追うことになった。
ーーーージョダコンが始まると、何故かゲストとして皇玲夜と八神陸ペアが毎年衣装を着せられて舞台に立たされるため、こうして逃げている訳だ。